試乗インプレッション

これは“EV界のGT-R”! 日産「リーフ NISMO RC_02」にチョイ乗りした

リーフ NISMO RCも第2世代に

 すでに量販のEV(電気自動車)である「リーフ」を世界で36万台販売。そして、今シーズンよりフォーミュラEに参戦を開始した日産自動車は、EVに対して並々ならぬ情熱を燃やしている。モーターの出力やエネルギー回生といったマネージメントに対し、常に熱い視線を送り続け、いまもなお研究開発を続けている。

 フォーミュラEと共にEVの最前線をいくのが、ここにある「リーフ NISMO RC_02」だ。先代モデルをベースに開発が行なわれていた車両も存在したが、ここにあるのはご覧の通りの現行型ベースのマシンだ。とはいえ、全高も全幅もノーマル車両とは異なる、イチから制作されたレーシングモデル。日産のEVの可能性をダイナミックに表現している。

リーフ NISMO RCの試乗会には開発ドライバーを務める松田次生選手(右)、フォーミュラE 日産e.damsチームでリザーブドライバー兼テストドライバーを務める高星明誠選手(左)も来場

 特徴的なのは量産型リーフのモーターやインバータ、そしてバッテリーをそのまま搭載しているところだ。バッテリーは62kWhのものを搭載。だが、モーターは前後に搭載する4WDとしたところがポイントとなる。旧世代のRC_01はモーターをミッドシップに搭載する2WDだったから、まるで異なる仕立に進化したことは明らかだ。

 ただし、全幅1942mm、全高1212mmは先代と同等。けれども全長は4446mmから4546mmへと拡大し、ホイールベースを150mmプラスして2750mmとしている。これは4WD化をするだけでなく、安定性を引き出したかったから。以前RC_01にも試乗したことがあるが、かなりテールハッピーな仕立てで、一度オーバーステアが発生すると、それを収めるのはかなり難しい感覚があった。そこを抑えたいということらしい。

現行リーフとリーフ NISMO RC_02

 一方で、車重は920kgから1220kgへと増加。最大出力は100kWから240kW、最大トルクは280Nmから640Nmへと進化したが、重量増を補えているのかは疑問だ。ただし、4WD化を行なったことで前後駆動力配分の調整が可能。加速重視の50:50とコーナリング重視の45:55から選択が可能になっているという。

 ボディはカーボンモノコックとしたことは先代と同様。CFRP補強したロールケージも採用されている。4WDに対応するため、前側の形状が異なっているところがポイントだ。また、大きく変わったのはサブフレームだ。先代モデルはスチール製としていたが、CFRPフレームに変更し、約25%の軽量化を実現。重量は片側で26kg。前後共通したものが使われている。そこにモーターがセットされるわけだが、制御によって回転方向を逆転させることで対応したそうだ。パワーユニットのフレキシブルな対応が可能なところもEVならではといったところだろう。

 サスペンションはプッシュロッドのダブルウィッシュボーンで、前後のジオメトリーは変更されているが、ピボットの取り付け点は変わらない。ギヤボックスについては市販のレーシングギヤボックスを採用。平歯車のLSD付きとなる。結果としてかなりヒューンと鳴くレーシーな仕立てとなっている。

RC_02のボディサイズは4546×1942×1212mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2750mm。RC_01から全長が100mm、ホイールベースが150mm長くなった
エクステリアでは脱着可能なフロント・リアセクションをはじめ、LEDヘッドライト&テールランプ、調整可能なリアウィングを搭載。RC_02ではシャシーの両端に2つの電動モーターをレイアウトするとともに、新開発の4輪駆動システムを搭載。各120kWのモーターを2基搭載することで最高出力は240kW、最大トルクは640Nmとなり、RC_01の100kW/280Nmから大幅にパワーアップ
レーシーなRC_02のインテリア

“EV界のGT-R”といっても過言じゃない

 今回はそんなRC_02をちょっと味見させていただいた。試乗できた環境は大磯プリンスホテルの駐車場だったこともあり、出力を抑えた160kW仕様となる(ダイヤル1つで4段階で設定可能)。

リーフ NISMO RC_02の走行動画(2分13秒)

 ペラペラのドアを開け、体をくねらせるようにしてカーボンモノコックボディに乗り込めば、まさにレーシングマシンのコクピットが拡がっていた。さまざまなスイッチが付くステアリングを握り、そこにあるスイッチをDレンジに入れて、いよいよスタートだ。

 ほとんど遊びのないアクセルペダルをソーっと踏み込めば、即座にモーターが目覚めてくれる。とにかくトルクはダイレクト。全域で間髪入れずに反応するよくできたレーシングエンジンのようだ。そこからグッとアクセルを踏み込めば、かなり強烈なスタートをする。西湘バイパスを巡行するクルマに追いつけるかと、試しにスタンディングスタートを試みたが、こちらはゼロからのスタートにも関わらず、あっという間に追い抜いた。0-100km/h加速はフルパワー時で3.4秒。最高速は220km/hにも達する。今回はパワーを抑えたとはいえ、速さはかなりのもの。4WDで引っ張られる感覚もすごい!

 けれども、コーナリングもかなり素直だから安心して楽しめる。テールハッピーな感覚はなく、コーナリングスピードもかなり速い。チョイ乗りじゃすべてを引き出せそうにない。また、コーナー脱出時にも強烈なトラクションで駆け抜ける。これは“EV界のGT-R”といっても過言じゃないだろう。

 ちなみに袖ケ浦フォレストレースウェイでのラップタイムは1分10秒34を記録したという。これはGT-Rのチューニングモデルと同等の速さだというから興味深い。これからどんな世界が広がるのか? EVであってもスポーツの世界はまだまだ広がりそうだと、ワクワクできる仕上がりがそこには存在していた。

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。走りのクルマからエコカー、そしてチューニングカーやタイヤまでを幅広くインプレッションしている。レースは速さを争うものからエコラン大会まで好成績を収める。また、ドライビングレッスンのインストラクターなども行っている。現在の愛車はトヨタ86 RacingとNAロードスター、メルセデス・ベンツ Vクラス。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:高橋 学