試乗インプレッション

悪天候で分かるディーゼルの力強さ。三菱自動車「エクリプス クロス」ディーゼルエンジン搭載モデルに試乗

上質感が加わり、ロングドライブをゆったり走るにはうってつけのモデル

大雨&濃霧の試乗会で、まさにSUV日和!?

 果たして会場となっている朝霧高原までたどり着けるのだろうか、と危ぶまれるほど激しい雨に見舞われた、三菱自動車工業「エクリプス クロス」の新型クリーンディーゼルモデル試乗会。残念なことにオフロードコースでの試乗は中止となり、オンロードのみとなってしまったが、よく考えてみればこの悪天候は、SUVの真価を問うには絶好のコンディションとも言える。雨風でアスファルトの路面には小枝や小石が散乱し、泥水が小川のように横切り、草地には大きな水溜りができつつある。そんな中で、エクリプス クロスはどんなパフォーマンスを見せてくれるのか。新たに登場したクリーンディーゼルモデルは、既存のガソリンモデルとどう違うのかを確認してみた。

 エクリプス クロスは2017年10月の東京モーターショーで、企業ロゴも新たになった三菱自動車の新世代モデル第1弾として華々しくベールを脱ぎ、2018年3月に発売されたコンパクトSUVだ。「アウトランダー」と「RVR」の間を埋めるようなサイズ感だが、これまでになくスタイリッシュで先進的なデザインと、1.5リッターガソリンターボ+CVTによる軽快感あふれる走りでオンロード重視のユーザーを惹きつける一方、4WDモデルには「S-AWC」を採用し、高い走破性を手にして往年の三菱自動車ファンの期待をも裏切らない、絶妙なSUVとなっている。日本のみならず、世界の100を超える国と地域で販売されており、カタール、ナイジェリア、ロシアといった、日本とは大きく道路環境の異なる国でカー・オブ・ザ・イヤーなどの賞を獲得しているのが興味深い。

三菱自動車工業「エクリプス クロス」(写真はG Plus Package)のボディサイズは4405×1805×1685mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2670mm。ディーゼルエンジン搭載モデルの駆動方式は4WDのみとなる

 そんなエクリプス クロスに新たに設定されたクリーンディーゼルモデルは、2.2リッター直4ターボのコモンレール式DI-D(ダイレクト・インジェクション・ディーゼル)エンジン+8速スポーツモードATを搭載。これはすでにビッグマイナーチェンジを果たした「デリカD:5」に搭載されたパワートレーンで、排出ガスの浄化には尿素SCRシステムを採用している。エクリプス クロスでは開発時からこのシステムでのクリーンディーゼルエンジン搭載が想定されていたようで、AdBlueのタンクなどもしっかり荷室床下に収まっており、見たところガソリンモデルと使い勝手の差はないように感じた。

エクリプス クロスに搭載される最高出力107kW(145PS)/3500rpm、最大トルク380Nm(38.7kgfm)/2000rpmを発生する直列4気筒DOHC 2.2リッターディーゼル直噴ターボ「4N14」型エンジンは、実はほぼ新型エンジンと言ってもいいほどの改良が加えられている。トランスミッションはスポーツモード付きの8速AT。JC08モード燃費は15.2km/L、WLTCモード燃費は14.2km/L

 外観デザインはリアに小さく「DI-D」のエンブレムが加わるものの、ほかにガソリンモデルとの違いはなく、室内に入ってみてもこれといって変わった様子はない。エクリプス クロスのデザインが好評なので、ヘタに手を加えたくはなかったのだろうと想像するが、価格がベースグレードでもガソリン4WDモデルより30万円のアップとなるだけに、ユーザー心理としては見た目でも何かしらの差別化をして欲しいのではないかという気もした。

三菱自動車のフロントデザインコンセプト「ダイナミックシールド」を用いたフロントマスクやクーペライクなボディライン、彫りの深いキャラクターラインといったエクリプス クロスの特徴とも言えるエクステリアデザインを継承
225/55R18サイズのトーヨータイヤ製「プロクセス R44」+18インチアルミホイール(切削光輝仕上げ)を装着
給油口横にはAdBlueの給水口を備える
外観で異なる点はリアハッチの「DI-D」エンブレムのみ
左がガソリンエンジン搭載モデル、右がディーゼルエンジン搭載モデルの特別仕様車「BLACK Edition」

静粛性と良好な乗り心地でワンランク上のSUVのよう

 そんなわけで、やや「新モデルに試乗するトキメキ」には欠けた状態ながら、特別仕様車を除くとトップグレードとなる「G Plus Package」をまずはオンロードで走らせてみる。ガソリンモデルは軽快感が大きな魅力だが、車両重量にして130kg重くなるクリーンディーゼルはいったいどうなっているのだろう? そう思いながら右足に力を込めてみると、ひと転がり目のほんの一瞬だけ穏やかな顔を見せるものの、すぐに重さなどまったく感じさせない軽やかさにすり替わり、そのあとはグイグイと盛り上がるトルクで波に乗るような気持ちのいい加速フィールに驚かされた。速度アップと比例して伸びやかに吹け上がるかのようなリニアさは、とても3500rpmで最高出力145PSのピークを迎えるとは思えない。そして、ガソリンモデルの約1.6倍となる380Nmのトルクも、決してラフに引き出されるわけではなく、加速と減速を繰り返すような場面でのダイレクト感がちゃんとあり、これはスポーツモード付きの8速ATがいい仕事をしているのだと感じた。

 直進ではストンと収まりのいいステアリングフィールで、悠々とした印象がありつつ、カーブに差し掛かると適度な手応えが感じられ、とても上質なスポーツモデルを操っているようだ。鼻先の重さはまったく走りのネガティブ要素とはなっておらず、むしろ軽快感をキープしたままプレミアム感が増して、車格が上のSUVに乗っているような感覚でさえある。

 そしてこれには、室内の静粛性の高さや乗り心地のよさも大いに貢献している。デリカD:5では、従来モデルと比べれば静かになったかな、くらいにとどまっていたのだが、このエクリプス クロスのクリーンディーゼルモデルは、車外で聞いているとガソリンとの違いは明らかではあるものの、車内に入ってしまうと「どちらがディーゼルか?」と当てるにはよっぽど耳を澄ませてみる必要がありそうだ。エンジン始動直後から走行中の振動も前席ではほとんど感じられず、後席に座るとやや目立つ場面があるくらいだ。

G Plus Packageのインテリア。ステアリングホイールとシフトノブは本革巻。ハイコントラストメーター(常時照明点灯タイプ/照度調整機能付)、パドルシフト、S-AWCドライブモードセレクター(プッシュボタン)、運転席&助手席シートヒーターなどを標準装備する
メーカーオプションの7インチWVGA ディスプレイメモリーナビゲーション(MMCS)を選択すると、ステアリングスポーク部にマルチアラウンドモニター用カメラのスイッチが装着される
ファブリックシートはダイヤをモチーフとした加工が施される
ラゲッジルームも広々としていて、サブトランクもしっかりスペースを確保

 EV・パワートレイン技術開発本部の岩室さんに話を聞いたところ、デリカD:5よりもエンジン搭載位置がやや離れることや、音が漏れにくいボンネットであること、遮音性の高いガラスを採用していることなど、やはりエクリプス クロスの静粛性の高さは理にかなっているとのこと。また、走り出しの軽やかさや振動の少ない乗り心地など、多くの恩恵をもたらしているのが、ビッグマイナーチェンジ前のデリカD:5のものと比べて最大27%ものフリクション低減を果たしたエンジンだ。実はボルトなどの共用部品以外はほぼすべてを新しくして、新型インジェクターのみならず、ピストン、コンロッドといった動く部分はすべて改良して軽くなっているというから、もはや新型エンジンと言ってもいいくらいの進化である。ガソリンモデルの軽やかでアクティブな乗り味もいいが、大人っぽい落ち着きを手にしたクリーンディーゼルモデルは、ロングドライブに駆り出したいと思わせる、1歩上の快適性が感じられた。

SUVの本領発揮! 悪路でもモリモリ走る力強さ

 さて、オフロードコースでの試乗は中止となってしまったが、諦めのわるい私はほんの少しでもダート路面を走ることはできないものかと、念のためにコースを訪れてみた。そこで、奇跡的に雨が止んだ一瞬を突いて、低速でクルクルとダート上を走ることだけは許された。S-AWCの実力を試すにはほど遠かったが、ぬかるんだダート上でもステアリング操作は俊敏さを残しており、なかなかの好感触。ただ、右へ左へと忙しくステアリングを切るような場面では、鼻先に対してリアがほんの少し遅れてついてくるような、ガソリンモデルでは感じなかったフィーリングもあり、やはりそこは重量増かバランスの変化か、何かしらの違いがあると思われた。これはいずれまた、オフロード試乗で乗り比べる機会を楽しみにしたい。

念のために……と足を運んだオフロードコースで少しだけダート上を走ることができた!

 天候は相変わらず荒れており、オンロードでも路面状況はジャブジャブとした水を超えたり、時おり風に車体を揺すられたりといった悪条件だったが、エクリプス クロスはまったく不安を感じさせないどころか、晴天時にはどこかに隠されていた頼もしさが、ここぞとばかりにモリモリとあふれ出ているようだ。軽やかで自分の手足のように操る楽しさがあるガソリンモデルと、そこに余裕の力強さと上質感が加わったクリーンディーゼルモデル。普段はそれぞれの持ち味を楽しみつつ、こうした悪条件のもとでは遜色ない安心感で包んでくれるのが、エクリプス クロスの大きな魅力だ。1つ、両者の違いを予想するとすれば、オフロードを攻めて遊ぶならガソリンモデル、高速クルージングを含むロングドライブをゆったり走るならクリーンディーゼルモデルに分があるのではないかということだ。

頼もしさがモリモリとあふれ出てくるので、荒れた天候でも不安は感じない

 また、国産メーカーのコンパクトSUVでクリーンディーゼルモデルを有するのはマツダ「CX-3」と「CX-5」が筆頭に挙がるが、サイズ的にエクリプス クロスはちょうどその中間あたりに位置する。出力&トルクでは116PS/270NmのCX-3、190PS/450NmのCX-5なのでCX-5寄りになるが、マツダは6速ATなのに対してエクリプス クロスは8速AT。そして、オフロードや雪道を走る上で肝とも言える最低地上高はCX-3が160mmなのに対して、エクリプス クロスは175mmを確保している。ただ、エクリプス クロスは排出ガスの浄化に尿素SCRシステムを採用しており、16LタンクのAdBlueが1L/1000km程度で消費されるので、およそ走行1万6000kmごとに補充することになるが、マツダは尿素SCRシステムではないのでその手間はかからないという違いはある。

 単純比較はできないものの、CX-3だとちょっとタイトに思える後席や荷室にファミリーでも十分な広さを持ち、CX-5ではややオンロード重視となる走りに、余裕のパワーと高い走破性と安心感という多面性を備えるのがエクリプス クロス。上質感も高まったクリーンディーゼルモデルの登場によって、ただでさえ激戦区のコンパクトSUVクラスが、またさらに盛り上がりを見せる予感でいっぱいだ。

まるも亜希子

まるも亜希子/カーライフ・ジャーナリスト。 映画声優、自動車雑誌編集者を経て、2003年に独立。雑誌、ラジオ、TV、トークショーなどメディア出演のほか、モータースポーツ参戦や安全運転インストラクターなども務める。海外モーターショー、ドライブ取材も多数。2004年、2005年にはサハラ砂漠ラリーに参戦、完走。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。17~18年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。女性のパワーでクルマ社会を元気にする「ピンク・ホイール・プロジェクト(PWP)」代表。ジャーナリストで結成したレーシングチーム「TOKYO NEXT SPEED」代表として、耐久レースにも参戦している。過去に乗り継いだ愛車はVWビートル、フィアット・124スパイダー、三菱自動車ギャランVR4、フォード・マスタング、ポルシェ・968など。ブログ「運転席deナマトーク!」やFacebookでもカーライフ情報を発信中。

Photo:安田 剛