試乗レポート
三菱自動車の新型「エクリプス クロス」、新たに追加されたPHEVの魅力とは?
アウトランダーPHEVとの走りの違いはどこにあるのか
2021年1月1日 11:20
既出モデルとの違いは?
PHEV(プラグインハイブリッド車)の追加やフェイスリフトに加えて、全長が140mmも変わるというのは、かなり大がかりな変更といえる。少し前にお届けした雨の富士スピードウェイでのレポートに次いで、今回はいよいよ公道へ。新旧やガソリン車とPHEVの違い、「アウトランダーPHEV」との違いなど、いろいろ気になるところだ。
前後が大きく変わったスタイリングは、2020年に出たクルマらしい新鮮味がある。ガソリン車とPHEVではホイール以外の見た目がほぼ同じで、PHEVのみ設定のある写真の最上級グレード「P」はボディパネルの大部分を同色とした専用の外観となる。白さが際立つ新色の「ホワイトダイヤモンド」もなかなか印象的だ。インテリアでは新採用のコンビシートとライトグレーの本革シートのいずれも見栄えも着座感もよくて気に入った。
ラゲッジスペースはガソリン車のほうがフロアが低く、積載可能なゴルフバッグが4個で、PHEVでは3個とカタログに表記されているが、十分な広さが確保されていて不満はない。一方で、アウトランダーPHEVにはある電動テールゲートの設定がないのは少々惜しい。
車内の広さを重視したアウトランダーPHEVに比べるとそれなりに違いはあるが、クーペフォルムながら居住性に優れるのもエクリプス クロスの美点の1つで、身長172cmの筆者が座っても頭上にコブシが横に入り、膝前も十分に広く、窓側の閉塞感もない。ただし、スペース的な制約で遮音吸音材に違いがあるのか、あるいはクルマの性格による割り切りか、後席の静粛性は微妙にアウトランダーPHEVのほうが上のような気もした。
ガソリン車との違いは?
PHEVを主体にガソリン車やアウトランダーPHEVとも乗り比べると、それぞれの違いが興味深い。まずガソリン車に乗ると、改良前よりもステアリングの初期応答が向上し、路面の起伏を越えた際のバタつきが軽減されるなど微妙に走りがよくなっているように感じた。エクリプス クロスは当初から車体をしっかり作り込んだので剛性が高いと開発関係者が述べているのに加えて、今回の全長の拡大に合わせてさらに車体に手当てされたことも効いているようだ。
そしてPHEVではガソリン車との小さくない違いをいろいろな点で感じる。撮影車両の車検証によると車両重量は1980kgと、ガソリン車の1560kgから比べると400kgあまり重いが、ステアリングはより中立の据わりがよく、中立からの動きの一体感が増してピタッと動くとともに、しっとりした上質なフィーリングになっている。ロールの仕方も穏やかだ。前後重量配分はPHEVが約54:46と、ガソリン車の約60:40よりも均等に近づいており、重心高はガソリン車比で30mm、アウトランダーPHEV比で10mm低いらしく、それらも効いているに違いない。
開発関係者によると、PHEVの舵の利きがよいのは、ツインモーターの前後バランスのよさも大きく、さらにはツインモーターを駆使して常時4輪に少しでも駆動力を与えておいたほうが入力がマイルドになり、動きも締まった感じになって、安定性も乗り心地もよくなる傾向なのだという。直感した上質な乗り味には、ツインモーターであること自体が少なからず寄与しているようだ。
動力性能は予想どおり。ダウンサイジングターボのガソリン車は小排気量の宿命で低速の上り勾配では線の細さを感じるところを効率を高めたCVTが巧くカバーしようとしているのも分かるのだが、やはりPHEVは段違い。リニアなレスポンスと豊かなトルクでキツい上り坂でも軽々と駆け上がっていけるのは、モーター駆動の絶対的な強みである。
アウトランダーPHEVとの違いは?
同じシステムを搭載するアウトランダーPHEVに対してどうかというのも大いに気になるところだが、車両重量は基本同じなのにこちらのほうが全体的に走りが軽やかに感じられた。
加速フィールからしてアウトランダーPHEVと比べて心なしか伸びやかな印象を受けた。聞いたところでは、電池残量が少なくなるとエンジンをかけて、低車速ではシリーズモードを、高速ではパラレルモードを選択するのだが、クルマの性格にあわせてハーフスロットル以上の強い加速を要求したときもモータードライブ感が継続できるように、アウトランダーPHEVよりもシリーズモードを維持するよう制御を変更しているそうだ。
ハンドリングは、安定感を重視したアウトランダーPHEVに対し、エクリプス クロスは持ち前のスポーティさをそのまま受け継いでいて、従来よりクイックにされた最新版のアウトランダーPHEVからさらにステアリングギヤ比を少しだけ変えたのかと思うほど俊敏に感じたのだが、そこには手は加えられていない。ではPHEVシステムをそのようにチューニングしたのかと思いきや、むしろアウトランダーPHEVよりも抑える方向で最適化したという。
延長されたとはいえ、全長はアウトランダーPHEVより短いのでヨー慣性モーメントが小さいことを活かし、S-AWCはあまり積極的に曲げるようには制御しておらず、AYCもアウトランダーPHEVよりも入れ方が控えめ。最新版のアウトランダーPHEVではリアの駆動力を若干早く出すよう制御しているが、エクリプス クロスはそうしなくても曲がってくれるので、ツインモーターの前後配分の最適化だけで曲がりやすさを出せるのだという。いわば素のよさを活かしたチューニングをしているわけだ。
ガソリン車もよくなっていたのはお伝えしたとおりで、それぞれ選ぶべき価値があるが、PHEVの販売比率は件のアウトランダーでも全体の7~8割に達しており、エクリプス クロスも約70%を見込んでいるとのことで、実際にもPHEVの追加を心待ちにしていた人は少なくないはず。価格差は小さくないものの、PHEVにはそれを補ってあまりある魅力を個人的にも感じた次第である。より多くの人にこのクルマのよさが伝わるよう期待しつつ、今後の動向を見守りたい。