試乗レポート

三菱自動車の新型「エクリプス クロス」(プロトタイプ)、新設定のPHEVをサーキットで試す!

アウトランダーPHEVとのキャラクターの違いは?

伸びやかなフォルムに一新

 SUVの基本性能とスタイリッシュクーペの世界観の融合を図るとともに、三菱自動車らしいメカメカしさも併せ持った「エクリプス クロス」は、個人的にもお気に入りの1台だ。間もなく予定されているビッグマイナーチェンジに際し、当初よりウワサのあった待望のPHEV(プラグインハイブリッド車)が追加されることを、まずは大いに歓迎したい。

 そのプロトタイプを富士スピードウェイのショートサーキットでひと足早く試すことができた。台風の接近により雨足の強い中で走ることとなったわけだが、クルマのよいところもよろしくないところもよりあらわになるヘビーウェット路面でのテストドライブは、それはそれで有意義だ。

 新型の実車を見るのは初めて。エクステリアデザインもかなり変わり、より流麗なデザインを追求するとともに、PHEV絡みのシステムを収める事情もあって前後オーバーハングが合計140mmも拡大されるのが特徴だ。これまでの凝縮感のあるフォルムもよかったが、新型は逆に伸びやかな雰囲気になり、前後のデザインも新鮮味があって好印象。ひとたび新型を目にしたとたんに従来型が古く見えてしまうから不思議なものだ。

 ダブルウィンドウが印象的だったリアは、流麗なスタイルを表現するのに好都合との判断からシングルウィンドウとされた。あのユニークなテールランプではなくなったのはちょっと寂しい気もするが、腰高感が払拭されてよりクーペっぽくなるのは見てのとおりだ。

今回試乗したのは12月の発売を予定するビッグマイチェン版の新型「エクリプス クロス」(PHEVプロトタイプ)。PHEVモデル、ガソリンともに10月15日から予約受付を開始し、価格はPHEVが約385万円~約450万円、ガソリンモデルが約255万円~約335万円とのこと
写真左が従来型、右が新型
今回のビッグマイチェンにより外観デザインは大幅な変更を受け、フロントまわりでは各種ランプレイアウトの変更とともに、バンパー下部にアンダーガード風ガーニッシュを採用。リアまわりでは、従来モデルで採用していたダブルガラスから流れるようなシルエットとなるシングルガラスに変更された

 シングルウィンドウ化によりルームミラーに映る景色もずいぶん変わっていた。インテリアではスマートフォン連携ナビゲーション(SDA)のサイズが大きくなるほか、PHEVについてはメーターやシフトレバー、エアコンパネルが新しくなる。ライトグレーを組み合わせた新しいコーディネートの内装色が設定されたのも歓迎だ。

インテリアではブラックを基調色とし、エンボス加工のスエード調素材と合成皮革のコンビネーションシートを上級グレードに採用。メーカーオプションの本革シートは従来のブラックに加えてライトグレーを設定したのが新しい。また、スマートフォン連携ナビゲーション(SDA)の画面は8インチに変更されている
ラゲッジスペースにはAC100V電源(最大1500W)を用意し、電力供給が可能になっている

より操る楽しさを味わえる

 シートに収まり、スタートボタンを押しても、当たり前ながらエンジンはかからない。PHEVのシステム自体は「アウトランダーPHEV」と基本的に共通なものの、クルマのキャラクターに合わせてスポーティな方向性で適合を図ったとの開発関係者の言葉どおり、より操る楽しさが与えられていることがコースインしてほどなく伝わってきた。

 モーターならではのリニアなアクセルレスポンスと力強いトルクによる加速感は、たとえ天候がわるかろうとやはり気持ちがよい。それだけでもPHEVを選ぶ価値は十分にあるとあらためてつくづく思う。その上でエクリプス クロス PHEVは、より動きがキビキビとしていて軽やかに感じられたので、車両重量も約1900kgのアウトランダーPHEVよりもだいぶ軽いんだろうと思いきや、実際にはほぼ同じ。むしろ装備の関係で、カタログ記載値はわずかに重くなるらしい。てっきり軽いものと思い込んでいたところ、どうやら違うようだ。その重量増に合わせて、すでに高く評価されているアウトランダーPHEVの最新版にも採用されたものと同様のサスペンションチューニングを施すなど、足まわりも手当てされている。

エクリプス クロス PHEVのパワーユニット

 ドライブモードにアウトランダーPHEVにあったロックモードとスポーツモードはなく、かわってターマックモードとグラベルモードが設定されているのだが、それぞれ選択することで走り味が分かりやすく変わるのも楽しい。

旋回性重視のハンドリング

 前後の駆動力配分を独立して理想的に制御できるツインモーターAWDの強みを活かしたS-AWCによるハンドリングも楽しい。OEMにエコタイヤを履くのでウェットグリップは高くはないものの、その中でもとくにターマックモードでは回頭性が増して小さな舵角でも俊敏によく曲がり、アクセルオンでそのままグイグイと旋回しながら前に進み、コントロール性も高まる。かなりリア寄りの駆動力配分になっているようだ。そのあたりにはトラクション重視のアウトランダーPHEVとのキャラクターの違いも感じられた。

 一方のグラベルモードもコントロール幅が大きく、これまた雨の中でも楽しく走れたのだが、グラベルモードとスノーモードは、どちらも滑りやすい路面で安定して走れる中でも、グラベルモードの方がドライバーがコントロールして安定を保つのに対し、スノーモードはクルマの方で自動的に安定させてくれるという感じのニュアンスの違いがある。

 これについて開発関係者に確認したところ、グラベルモードでは旋回しながらアクセルオンにしたときに、ちょっと滑ることを前提としてセッティングしているのに対し、スノーは滑りやすい路面でも極力滑らないようにしたとのことで納得した。

 アウトランダーPHEVもかなりのものだと感じていたが、満を持して送り出されるエクリプス クロス PHEVは、さらに上のドライビングプレジャーを味わわせてくれること請け合いだ。

 マイナーチェンジおよびPHEVの発売は12月が予定されている。アウトランダーではPHEVの販売比率が全体の実に7~8割にも達しているらしく、エクリプス クロスもPHEVを待っている人は少なくないはず。よいクルマなのにこれまでやや芳しくなかった販売の動向も、このPHEVの追加で勢いづくかもしれない。実車の仕上がりも、ひとまず第一印象は上々であった。PHEVの発売を心待ちにしている方々には大いに期待して大丈夫と言い切っておきたい。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:堤晋一