試乗レポート

スバル、新型「レヴォーグ STIスポーツEX」をサーキット試乗

新型「レヴォーグ」プロトタイプ STIスポーツEX

 10月15日に発表となる新型「レヴォーグ」だが、すでに受注予約を8月20日より開始。実は個人的に予約開始2日目にオーダーを済ませている思い入れたっぷりの1台だ。注文したのはSTIスポーツEX。8月初旬に行なわれた試乗会でアイサイトXの仕上がりを確認して驚愕し、さらにパイロンスラロームをちょっと走っただけで伝わってきた質感の高さに舌を巻いたことで即決してしまった。ちなみに納車は11月末の予定だという。

 こうしてレヴォーグで頭が一杯だということを周囲に話していたら、親友一家も洗脳してしまったようで、親友一家は10月10日に成約。同じディーラーで購入ということでそれに付き合ってきたのだが、ディーラーマン曰く、予約はすでに7000台をオーバーしたという。正式発表が行なわれ、その数字がどこまで伸びてくるのかが楽しみになってきた。

 そんな新型レヴォーグのプロトタイプを9月初旬に袖ケ浦フォレストレースウェイで試乗する機会があった。ここでもアイサイトXならではの60km/hからの確実なフル制動や、死角にいる歩行者検知などがインパクト大だったが、やはり気になっていたのはちょっと走っただけで感じられた走りの質感が本物なのかということだ。

 実のところレヴォーグでサーキットをガンガンに走ろうなんて気は毛頭ない。だが、86/BRZレースで7年もサーキット通いを続けていた走りバカからすれば、どれほどの仕上がりかは最大の関心事。果たしてその仕上がりは!?

袖ケ浦フォレストレースウェイで運動性能を確認

 購入したのと同じボディカラーを持つWRブルーのSTIスポーツEXに乗り込みサーキットへとコースインして行く。腰を包み込みきちんとホールドしてくれるシート、広がる視界、そして何より路面状況を手に取るように感じられるステアリングの仕上がりがまずは好感触。そうだ、この少し動かしただけで身体になじむ心地よさにやられたのだ。

 アクセルを少し踏んだだけでリニアに応答するエンジンとトランスミッションの仕上がりも満足だ。決して全開で走らず、1コーナーを交差点を曲がる感覚でクリアしただけで笑顔になれたのだ。そこにはダブルピニオンのステアリング、剛性や力の伝達速度にまで拘ったボディ作り、そして全く改められたエンジンなどの理由もあるのだろうが、いずれにしても全てがリンクして1台のクルマが動いている感覚に溢れている。

 まずはコンフォートモードでペースを上げて行くが、うねりが連続し始めた袖ケ浦の路面を見事に吸収していくことに驚いた。路面の追従性に優れ、特にリアサスペンションの伸び方向が豊かに動くようになったことが進化のポイントのように感じる。後に旧型と比較したが、そこに明らかな進化が見られた。コンフォートモードではパワーステアリングの制御もかなり軽めになっているが、それでもフィーリングは軽いばかりではなく、切る方向も戻す方向もリニアにステアリングをアシストしているように感じる。

 その後、サーキットという試乗条件に合わせるつもりでスポーツ+モードに移行してみると、エンジンは一気に元気になり、リニアなだけでなくパワフルさを展開していく。レヴォーグで速く走ろうという考えはなかったのだが、これならその気になれそうだ。

 もちろん、旧型2.0リッターターボのような極端な速さというわけではないが、1.8リッターターボでも十分な速さを展開しているように感じる。おそらく低中速域であってもアクセルに対してリニアにトルクが立ち上がるからだろう。応答がわるくてコーナーの脱出でストレスが溜まるようなことはない。それでいて高回転へ向けたトルクの持続もあるため爽快感も存在するのだ。

 パワーステアリングは重厚な感覚へと改められ、スポーティな感覚がより一層生まれてくる。可変ダンパーは明らかに引き締められたこともそれを後押ししているのだろう。それほどロールせずに、4輪を使ってきれいにコーナーリングしていく姿勢は操りやすく、かなりニュートラルな特性だと感じる。前後左右の減衰力をG(加速度)や入力に応じて最適化しながら動かしているクルマならではの芸当といっていい。

 けれども、フラットにしすぎず、適度なピッチング&ロールをドライバーに伝え、荷重を操りながら動かす楽しみも残されているところが絶妙だ。この手の電子制御ダンパーはそれを駆使しすぎると面白みのない動きになってしまうパターンもあるが、レヴォーグはそこまでハードには動かしていない感覚だ。

 また、ノーズの軽快感もなかなかで、エンジンがコンパクトになったこと、さらに水平対向ならではの低重心が見事に感じられる仕上がりだ。そして何より感心したのは応答遅れなくリアが即座に追従し、一体感のある走りがあったことだ。剛性的には不利で、イナーシャもかなりのものであると予測するが、製造過程まで見直してインナーフレーム構造としたことで、ブレーキやステアリングで求めたことが即座に展開されるのだ。

サーキット走行で気をつけたいこと

新型「レヴォーグ」プロトタイプ GT-H

 ただし、サーキット走行ではネガも見えてきた。それは特に右コーナー脱出時に感じたカチカチとした音だ。ノッキングしている?それとも……。走りに一切変化がなく、違和感はないものの、ちょっと心配になってしまう現象だったのだ。後に技術者にそれを伝えると、どうやらCVTオイルの偏りが起きて、オイルポンプが空打ちしているようだと言うのだ。

 試乗した当日はまだまだ夏日だったこと、そして連続して試乗が行なわれていたこともあって、クルマがかなりヒートしていたこともその要因だと推測していた。実はレヴォーグにはCVTオイルクーラーが備えられておらず、その環境下でオイルの粘度が下がってしまったのも要因の1つだと考えられていた。オイルクーラーを備えるか否かは議論になったらしいが、サーキットを想定しているようなクルマではないために見送られたというのが真相のようだ。ちなみにWRX S4にはそれが備えられている。サーキットを走ろう考えるコアな方々はオイルクーラーの装備をお忘れなく。僕は……、いらないかな(笑)。

 後に電子制御ダンパーを持たないGT-Hにも試乗したが、こうした一体感は何ら変わることがないと感じた。もちろん、ロールやピッチングは大きく出る傾向があるが、そこをドライバーはいくらでもコントロールできる余地が備えられている。路面に見事に追従していく感覚、そしてユッタリとした乗り心地があることなどがGT-Hならではの世界観。STIスポーツで言うところのコンフォートモードに近いような乗り味がGT-Hには存在する。

 タイムを計測すればもちろんスポーツカーには劣るのだろうが、感覚としてはかなりスポーツしている、それが新型レヴォーグのよさだと感じた。速さではなく操りやすさでその感覚を得られたことが嬉しかった。それでいて乗り心地も満足。これならいつでもどこでもクルマの動きを愉しめるに違いない。自分のクルマが届き、毎日この走りを味わえる日々が始まるのが楽しみになってきた。

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。走りのクルマからエコカー、そしてチューニングカーやタイヤまでを幅広くインプレッションしている。レースは速さを争うものからエコラン大会まで好成績を収める。また、ドライビングレッスンのインストラクターなども行っている。現在の愛車はトヨタ86 RacingとNAロードスター、メルセデス・ベンツ Vクラス。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。