試乗インプレッション

BMWの新型「1シリーズ」(第3世代)に試乗。FF化したメリットとは?

「118d」「M135i xDrive」に一般道とアウトバーンでテストドライブ

1シリーズがついにFF化

 日本における輸入車の販売比率に目を向けると、2018年は新車登録台数全体の約14%が輸入車にあたり、そのうちドイツ車が全体の約5割を占めている(JAIAブランド別輸入車新規登録台数の推移 参照)。ドイツ勢がシェアを伸ばしている理由の1つには、メルセデス・ベンツのAクラスやBクラス、BMWの1シリーズや2シリーズ、つまりフォルクスワーゲン ゴルフのライバルにあたるCセグメントのコンパクトモデルの拡充が挙げられるだろう。街乗りのしやすさと大人が十分に座れる後席、荷室の広さがバランスされたカテゴリーと言えるが、そうした中で、2004年にデビューしたBMW 1シリーズはBMWの“駆け抜ける歓び”が表現されたストイックな存在に映った。

 同クラスのライバルたちがフロントエンジンで前輪駆動のFFレイアウトを取っているのに対し、1シリーズは後輪駆動のFRレイアウト。しかも、室内の広さが犠牲になることを恐れず、エンジンを縦置きに搭載することで前後重量配分50:50を実現。クルマを操る醍醐味を大切に考え、他のBMWモデルの設計思想を前面に押し出したプロダクトを提供してきた。2011年~2019年に発売した第2世代の1シリーズは、全世界で138万台に販売を伸ばした。女性オーナーの比率は4割で、販売台数については1位からドイツ、イギリス、イタリア、フランス。日本はそれに続くシェアを誇る市場になった。

 今回の1シリーズで最も大きなトピックは、ついにFF化したことだろう。BMWがコダワリ続けてきたFRをアッサリと捨ててしまったあたりは、コダワリ層からすれば驚きの展開だが、FFの採用についてはスペース効率が重視された2シリーズのアクティブツアラー、グランツアラーなどがすでに先取りしている。FFのパッケージ技術については、BMWは1994年にローバーをグループ傘下に収めて以来、MINIでFFにまつわる研究開発をひたすら続けてきていた。1シリーズがMINIと共用できるアーキテクチャーであることを踏まえれば、節約できた時間や予算を新世代のクルマとしての価値創造に充てることもできるというワケだ。

ドイツ ミュンヘンで行なわれた第3世代の新型1シリーズ国際試乗会では、「118d」「M135i xDrive」の2台に試乗。第3世代からはプラットフォームが一新され、従来のFR(後輪駆動)からFF(前輪駆動)をベースとしたパッケージングへと変更したのが大きなトピックとなる
118dのボディサイズは4319×1799×1434mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2670mm
118dが搭載する直列4気筒2.0リッター直噴ディーゼルターボエンジンは最高出力110kW(150HP)/2500-4000rpm、最大トルクは350Nm/1750-4000rpm
118dのインテリア。FFパッケージの採用でキャビンスペースが広がり、後席のニースペースは33mm拡大。ラゲッジスペース容量は先代比で20Lアップの380Lとなり、後席を格納することで最大1200Lまで拡大可能。そのほか1シリーズとして初めて電動テールゲートを採用した

 第3世代となる新型1シリーズに初対面することになったのは、2019年秋の日本導入を控え、ひと足早くドイツのミュンヘンで行なわれた国際試乗会だった。第一印象としては、これまでの1シリーズの中で最もモダンでスタイリッシュなモデルに変貌したと感じた。ボディサイズは欧州仕様の数値を先代と比較してみると、全長が5mm短く、全幅は34mm広がり、全高は13mmアップ。ホイールベースは20mm短くなっている。

 エンジンの横置き化によってボンネットは短く、すでに販売している3シリーズ同様にキドニーグリルは中央部が連結して一体化された新世代のデザインに変更。面積が大きくなったグリルは、ボリュームが増したボンネット、傾斜したヘッドライトとうまい具合に調和がとられており、モダンなイメージを作り上げている。

 さらに、水平基調のリアコンビネーションランプが荷室容量が大幅に増したラゲッジを野暮ったく見せず、ワイドでシャープな後ろ姿をうまい具合に表現してみせている。中でも、フロントバンパーをワイドに見せるスポーティな仕様は新世代の1シリーズのフォルムとスポーツ性を絶妙にバランスさせている。日本に導入されるか不明だが、灰色がかったブルーのソリッド系のボディカラーも設定されていて、モダンでカジュアルに乗りこなせそうな雰囲気に心を奪われた。

こちらはM135i xDrive
M135i xDriveは「BMWグループでラインアップする4気筒エンジンで最もパワフル」と評される直列4気筒2.0リッターターボエンジンを搭載。最高出力は225kW(306HP)/4500-6250rpm、最大トルクは450Nm/1750-5000pmを発生する
M135i xDriveのインテリア

 FF化による最大のメリットは、キャビンが広く、使い勝手が増したことだろう。特に家族や友人を乗せる時、後席は大人2名が座っても肩や肘まわりにかなりのゆとりが生まれているほか、膝まわりは先代比で33mm拡大。肘まわりは後席が13mm、前席に至っては42mmも広げられている。ルーフは高くなっているが、サンルーフを装着した仕様でもヘッドクリアランスが19mm以上広がっており、ひとクラス車格が上のクルマに乗っているようにくつろぐことができそうだ。

 BMWではエントリーモデルにあたる1シリーズだが、インテリアはデジタルネイティブの若年層や最新機能に敏感なターゲットの心を掴む装備が施されている。上級モデルから順次展開されている液晶メーターをはじめ、オーディオの音量などが手の動作で調整できるジェスチャーコントロールをこのクラスに惜しげもなく採用。インパネ中央に置かれた10.25インチのモニターには、乗員とクルマが対話形式で車両の機能の設定やドライブに必要な情報が得られるインフォテイメントシステム「BMWオペレーションシステム 7.0」が新採用されている。

 欧州仕様を見てみると、クルマの機能を教えてくれと質問を投げかけると、動画で分かりやすく解説してくれたりと、ドライバーが欲しい情報を柔軟に伝える工夫も見受けられた。対話形式のシステムは自分好みのカスタマイズが可能。使い手のパターンに合わせて学習し、使いやすく進化していくそうだ。

豊かなトルクがみなぎる「118d」

 今回の試乗会では、「118d」と「M135i xDrive」の2種類のモデルをお借りして、ミュンヘン近郊の一般道とアウトバーンを3名乗車で試乗した。

 最初に乗ったのは4気筒2.0リッターのディーゼルターボを搭載した「118d」。1シリーズのディーゼルは3つの仕様が存在するが、SCRなどの排出ガス浄化システムなどを用いて、さらに厳しくなるEURO 6dの環境規制に適合。118dの4気筒ディーゼルは繊細な燃料噴射技術に加え、走行状況に応じて燃焼室に正確な量の加圧された空気を送り込む2ステージのターボチャージャーを用いてCO2排出量の低減、燃費性能を高めながらパフォーマンスも向上させている。

 走り出しはアクセルペダルに軽く足を乗せるだけで豊かなトルクがみなぎり、それほど踏み込まなくても必要な車速にのせていける。エンジンの回転フィールはディーゼルなのに粗さを意識するようなところはなく、生まれた力を滑らかにタイヤに伝えていく印象だ。ドイツの道の法定速度は街中で30~50km/h、街を抜けたカントリー路は100km/hと速度の変化が著しい。車速のコントロール性については、ペダル操作後に車速が上下する時間にわずかな遅れがあり、ひと踏みでコントロールしづらいところもある。

 FRの場合、パワーを路面に伝えるのは後輪、操舵は前輪と役割分担ができるが、FFの場合はそれらをすべて前輪で担わなければならない。ハンドルを切り込む際はしっかりとした手応えを与えてくる印象だ。そのしっかり感を「ドイツ車らしい」と前向きに受け止めるドライバーもいるかもしれないが、男性よりも腕の力が弱い女性の目線で見てみると、もう少し素直に切り込みやすい方が受けるストレスが少ないのではないかと感じた。

 アウトバーンではアクセルを床まで踏み込んでみたが、118dの場合、4000rpmを超える領域では車速の伸びが頭打ちになる傾向も見受けられる。118dのトルクのピークは2000rpm前後、最高出力は4000rpmであることを考えれば、ディーゼル特有の低回転で豊かなトルクを発揮する性格を活かしながら、丁寧な運転操作でゆったり走るのにふさわしいパワーユニットだと思えた。

 驚かされたのは後部座席の居心地のよさ。試乗車のタイヤはピレリ「P ZERO」(225/45R17)が装着されていたが、ボディはかなりしっかりと作り込まれており、普通であればゴトつきそうな荒れた路面でも突き上げを感じることはなく、しなやかでハリのある乗り心地を提供してくれた。同乗者の体が不用意に揺すられないあたりはとても快適だった。

 走りの楽しさを追求するBMWだが、FF化しながらも車両の運動性能や操縦安定性を高めるさまざまな制御技術を積極的に活用することで、俊敏性の高い走りを叶えようと躍起になっている。なかでも注目のトピックはEV(電気自動車)の「i3」から譲り受けた「ARB(アクチュエーター近接ホイール・スリップ・リミテーション)」が内燃機関のクルマに初採用されたこと。

 ARBは、滑りやすい路面を走行する際にスリップを抑えて、トラクションを確保する制御を行なうもの。高いスピードでカーブに進入した際に車体を横方向に揺さぶるヨー慣性モーメントを最適化する「BMWパフォーマンス・コントロール」や、横滑り防止装置である「DSC」と連携することで、挙動を乱しやすい状況をフォロー。ドライバーがイメージした走行ラインをたどりやすくしてくれる。ARBの一連の制御はエンジンのコントロールユニット内で行なえることから、情報は3分の1というわずかな時間で対処できる。「ドライバーの体感としてはスリップ・コントロールの制御動作が10倍のレスポンスのよさ」と例えられることから、FFや4WDで陥りがちなもたつきや不安感から解放してくれそうだ。

最高出力306HPの「M135i xDrive」

 さて、次に最もハイスペックな仕様となる「M135i xDrive」のハンドルを握ってみる。搭載されるのはBMWグループの4気筒で最もパワフルな2.0リッターのガソリンエンジンで、最高出力306HP、最大トルク450Nmを発生する(0-100km/h加速は4.8秒)。新開発の4気筒エンジンは、クランクシャフトを強化したほか圧縮比変更、コンロッドの改良、ターボチャージャーの大型化などによって、環境性能のレベルアップを図ると同時にパフォーマンスを飛躍的に向上。それに伴い、ラジエータやトランスミッションなどの冷却性能も強化された。

 最大トルクは1750rpmから4500rpmまで発生するエンジンとあって、ディーゼルから乗り換えても不足を感じない。6500rpmまできめ細かに吹け上がっていくガソリンエンジンは、実に爽快でパワフルなもの。車重は118dよりも100kg近く重たくなっているはずなのに、2.0リッターターボ×8速ATのユニットは車速をスムーズにコントロールしていける。

 ハイスペックなモデルにふさわしく、ボディや足まわりの取り付け剛性は強化されており、先ほどと同じ銘柄のタイヤで225/40R18にインチアップしながらも、常に路面と接地している感触を与えてくる。まるで2クラスくらい上の車格のクルマでクルージングしているかのように直進時安定性も高い。足まわりは引き締まっているはずなのに、後席は快適なままだ。車体の動きに無駄なブレも少ない。スポーツタイプのステアリングは太い径のものが採用されているが、自然な操舵感を与えてくれるので、想像していたのとは裏腹に118dよりもむしろこちらのモデルの方がリラックスした感覚で流せると感じた。ドライバーのイメージに対して、車体や足まわりがしっかりと仕事をこなしているせいか、運転操作に無駄が少ないことに気がつく。アウトバーンのジャンクションはキツい曲率のカーブが多いが、こうした場所でもとても素直にまわり込んでいってくれる。

 xDriveの4輪駆動の制御ロジックは、アクセルペダルの踏み込み具合や車速、舵角に応じて最適な駆動力配分を行なう。前後のトルク配分は最大で50:50まで変化させていくものだ。一連の制御はスムーズで、どの機能がどう働いているのか意識させるようなことはない。ドライバーはハンドリングに集中して、気持ちよくクルマを走らせるだけだ。

 FRのハッチバックモデルとして、ユニークな立ち位置を築いていた1シリーズがFF化するにあたり、社内でもさまざまな議論が交わされたという。しかし、今回登場した1シリーズをみると、現代のBMWはユーザーの声を拾い上げてクルマを作り上げていくという、とても柔軟な姿勢で取り組む会社に変化していることが分かる。コンパクトなFR車の2代目1シリーズは時間の経過とともに熟成が進み、ドライバーズカーとしては最高の走りを楽しませてくれる名車だった。

 一方で、第3世代の1シリーズはドライバーズシートだけが特等席ではない。同乗者の快適な移動を叶えると同時に、ネットワーク化による新しいクルマとの向き合い方を提供してくれるクルマに進化した。それに、広くなった荷室の幅を見れば1シリーズの在り方の違いは明確だ。壁面の張り出しが多かった先代と比べて、今回のモデルは荷室の最小幅が67mmも広がった。家族や友達とレジャーに繰り出すシーンでも活躍してくれることだろう。ドライバーの目線からライフスタイルに寄り添うハッチバックへ。女性ユーザー比率が高い1シリーズだが、日本市場に上陸した折には、これまで以上に幅広いユーザーを獲得するモデルに成長するのではないかと期待させた。

藤島知子

幼いころからクルマが好きで、24才で免許を取得後にRX-7を5年ローンで購入。以後、2002年より市販車のレーシングカーやミドルフォーミュラなど、さまざまなカテゴリーのワンメイクレースにシリーズ参戦した経験を持つ。走り好きの目線に女性視点を織り込んだレポートをWebメディア、自動車専門誌、女性誌を通じて執筆活動を行なう傍ら、テレビ神奈川の新車情報番組「クルマでいこう!」は出演12年目を迎える。日本自動車ジャーナリスト協会理事、2019-2020 日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。