試乗インプレッション

ジープ「ラングラー」の最強モデル「アンリミテッド・ルビコン」にオン/オフロードで乗った

「アンリミテッド・スポーツ」との違いもレポート

 2018年10月、2007年から11年ぶりに4代目となる新型「ジープ・ラングラー」が発表され、2019年4月には今回紹介する「アンリミテッド・ルビコン」がカタログモデルとして加わった。今回は山梨県南都留郡にあるオフロード専用コースと、周辺公道(オンロード)での試乗ができたので、そのロードインプレッションを行ないたい。また、3月に同じくカタログモデルとなった「アンリミテッド・スポーツ」についても、オフロード専用コースを1周のみだが試乗することができた。

 日本市場におけるジープの成り立ちについては、試乗車の装着タイヤである「BFグッドリッチ」の歴史を含め、先輩である日下部保雄氏が詳細にレポートしているのでぜひお読みいただきたい。本稿ではV型6気筒3.6リッターを搭載したアンリミテッド・ルビコンと、その比較として直列4気筒2.0リッターターボを搭載したアンリミテッド・スポーツに的を絞りレポートする。

今回の試乗会では「ラングラー アンリミテッド・ルビコン」「ラングラー アンリミテッド・スポーツ」をはじめ、「グランドチェロキー・トレイルホーク」「レネゲード・トレイルホーク」など、ジープブランドのさまざまなモデルが用意された

 試乗したジープ・ラングラーは、すべてのモデルにジープの独自規格である「Trail Rated」の称号が与えられている。Trail Ratedとはジープのラインアップ中、悪路での走破性能が高められたモデルのことで、①トラクション(駆動力)、②渡河性能、③機動性、④アーティキュレーション(接地性)、⑤地上高の5つの項目でジープの定めた性能テストに合格することが称号獲得の条件。

 ①~⑤の性能テストは、アメリカの「ルビコントレイル」と呼ばれる難所(ネバダ州からカリフォルニア州へ続く悪路)で、季節を問わず現在も行なわれている。言わばルビコントレイルでの走行は険しい自然環境での適合性能テストであり、そこでの評価→開発→製品化のプロセスはユーザー評価を大きく左右するわけだ。ちなみにTrail Ratedの称号は、前述のジープ・ラングラー全モデルのほか、ボディサイズの下から「レネゲード」「コンパス」「チェロキー」「グランドチェロキー」のジープ各車にもラインアップする(日本未導入モデルあり)。

まずはオンロードでアンリミテッド・ルビコンに試乗

 さて、注目のアンリミテッド・ルビコンに、まずはオンロードから試乗する。ジープの伝統に則り4代目(JL型)もスクエアなボディデザインを踏襲する。全高が1850mmと車幅1895mmに近いこともあって、見た目には数値以上に大きく感じる。乗り込む際にも国内外のSUVとは異なり、軽くよじ登るイメージ。ここは乗降性よりも悪路での走破性能を優先させたジープ・ラングラーならではの部分だ。

 身長170cmの筆者が適正なドライビングポジションをとった際の視界は想像以上によい。スクエアなボディだから前後に加えて左右の見切りがよいし、なにより高めの着座位置に起因して視界が広い。もっとも死角はそれなりにある。とくに左側方から後方にかけて目視には車内のピラー部分が太く大きいため、上半身をしっかり左にひねる必要があるものの、ボディサイズからすればやや小ぶりなドアミラーの設置場所と映し出す位置関係がよいため安全確認はしやすい。

 搭載エンジンはV型6気筒3.6リッター。エンジン型式こそ先代から踏襲しているものの、4代目となり各部に改良(例:状況に応じて吸気バルブのリフト量を2段階に変化させ、燃費と走行性能を向上させる)が加えられ、さらにトランスミッションが5速から8速へと多段化が図られた。カタログ上の燃費数値は23%向上し、JC08モード値では9.0km/Lと、前面投影面積が大きく2050kgと車両重量のかさむボディからすれば納得がいく。

 走り出しはとてもスムーズ。8速化でレシオカバレッジがワイドになったことから想像よりも軽快にスッと動き出し、50km/hあたりまでは乗用車ベースでラダーフレーム構造を持たないSUVなどと同じように淡々と車速を伸ばす。駆動方式には4代目となりラングラー初の電子制御による前後駆動配分「セレクトラックフルタイム4×4システム」をベースにした「ロックトラックフルタイム4×4システム」を採用。通常は副変速機のレバーを「4H AUTO」に入れておけば、舗装路から悪路、そして天候変化による路面の状態を問わず、走行状況に応じて最適な前後駆動力を配分してくれる。

 さらに、ロックトラックフルタイム4×4システムでは副変速機に専用の変速比が与えられた。「4L」などLowレンジの変速比は通常各モデルのギヤ比である2.717から4.000にまでレンジがローギヤ側に設定され、最終減速比も3.454から4.100へと変更される。

5月に発売されたジープブランドの最強グレード「ラングラー アンリミテッド・ルビコン」(588万6000円)。ボディサイズは4870×1895×1850mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは3010mm。車両重量は2050kg
試乗車のアンリミテッド・ルビコンではルビコン専用の17インチアルミホイールにBFGoodrichブランドのオフロード用4×4ラジアルタイヤ「Mud-Terrain T/A KM2」(LT255/75R17)を装着。エクステリアでは標準仕様のサイドステップを車体のダメージを緩和するロックレールへと変更したほか、ダークグレーのアクセント入りフロントグリルや、ブラック仕様のハードトップおよびフェンダーフレア、フロントフェンダーのRubiconデカールなどが特徴になっている
アンリミテッド・ルビコンが搭載するV型6気筒DOHC 3.6リッターエンジンは、最高出力209kW(284PS)/6400rpm、最大トルク347Nm(35.4kgfm)/4100rpmを発生
アンリミテッド・ルビコンのインテリアでは専用のレザーシートをはじめ、レッドカラーのインストルメントパネル(ボディ色がパンプキンメタリックの場合はシルバーカラー)、サブバッグなどが取り付け可能なフロントシートバックアタッチメントなどを装備

 乗り味は前後コイル式リジッドサスペンションであることなどから「上質な~」というわけにはいかないが、それでもラダーフレームとマッド&テレーンタイヤ(BFGoodrich「Mud-Terrain T/A KM2」)の組み合わせにより、不快なピッチングはずいぶんと抑えられている。また、不得意と思われがちなカーブでの走行も、適正な速度とゆったりとしたステアリング操作を行なうことで確実なライントレース性を発揮。よって、この手のモデルに抱きやすいふらつきやカーブの外側へふくらんでしまうかのような不安はない。

 加速フィールはほぼイメージ通り。エンジンパワーは284PS/35.4kgfmと数値上はパワフルな部類だが、2050kgの車両重量の前にはワイドレシオな8速ATを組み合わせても速さを実感するほどではない。ただ、4000rpm以上ではエンジン音が勇ましくなってパワーも一気に上向きになるので、たとえば高速道路の本線合流時でも流れを十分リードすることは可能。またこのご時世、レギュラーガソリン指定(タンク容量は81L)であることもうれしい限りだ。

ルビコンとスポーツを悪路で比較

 オフロード専用コースではTrail Ratedのなかでも最強モデルであるアンリミテッド・ルビコンが本領を発揮する。連日の梅雨空でコースは部分的に泥濘が見受けられ、岩場の登坂路は雨で濡れていて滑りやすい。分かりやすく路面状況は最悪なのだが、走破性能を試すには絶好の機会だ。

 副変速機を「4L」にシフト。これでロックトラックフルタイム4×4システムによるクロールレシオは79.2:1に設定される。この数値は比率が大きくなるほど悪路でのトラクション性能に優れることを意味していて、例えば「レネゲード・トレイルホーク」では20.4:1、「グランドチェロキー・トレイルホーク」では44.2:1、「チェロキー・トレイルホーク」では51.2:1と、いずれもアンリミテッド・ルビコンよりも比率は小さい。

 これら駆動システムによるアンリミテッド・ルビコンの走破性能は絶大で、写真のような岩場(傾斜角度は車載モニターによると20度)をほぼアイドリング回転直上の1200rpm程度で上り切ってしまう。人が歩くような速度(実際、このような岩場を登るのは至難だが……)での駆動力は力強く、タイヤのひと転がりごとに確かなグリップを体全体で感じられる。また、先のクロールレシオとの関係から、意識をそちらに向けずとも丁寧なアクセル操作が自然に行なえる。

 コイル式リジッドサスペンションは写真のような左右車輪間で高さの違うモーグル路でも有効。山を乗り越えた反対側の車輪は、左右で直結されていることから地面に押しつけられるので駆動力を稼ぎやすい。そうした構造的利点を助けるのが前後アクスルで、アンリミテッド・ルビコンでは衝撃に強く高い走破性能を誇るDana製「Dana44」を装備する。また、フロントサスペンションにはスタビライザー機能を解除して路面の追従性能を高める「電子制御式フロントスウェイバーディスコネクトシステム」のほか、後輪、前/後輪それぞれのデファレンシャルギヤをロックする機構も装備し、それぞれ車内のフルロジック式スイッチ1つで操作可能だ。

 こうした頼もしい走破性能は、直列4気筒2.0リッターターボを搭載するアンリミテッド・スポーツではどうか? 結論からすると同じ岩場を難なく上り切ったのだが、Lowレンジの変速比と最終減速機の違い(1~8速、後退の各ギヤ比と副変速機のHギヤ比はどのモデルも共通)から、エンジン回転数が1500rpm程度と上昇し、その際のアクセルワークも小石が転がりグリップを失いかけるようなシーンでは気を遣った。また、装着タイヤの違い(BFGoodrich「All-Terrain T/A KO2」)もあり、こうした岩場の乗り味はアンリミテッド・ルビコンが滑らかだった。

ラングラー アンリミテッド・スポーツはBFGoodrichのクロスカントリー用SUVタイヤ「All-Terrain T/A KO2」(LT245/75R17)を装着
ラングラー アンリミテッド・スポーツが搭載する直列4気筒DOHC 2.0リッターターボエンジンは、最高出力200kW(272PS)/5250rpm、最大トルク400Nm(40.8kgfm)/3000rpmを発生

 短い時間ではあったが、ジープ・ラングラーの走行性能を久しぶりに堪能し、状況がわるくなればなるほど光る悪路での安定した走破性能には改めて頼もしさを感じた。それだけでなく、ACC(アダプティブクルーズコントロール)や、前面衝突警報(速度を落とす目的のブレーキ制御まで行なう)、左右後側方の車両を検知するブラインドスポットモニター(警報ブザーなどで報知)など、最新の先進運転支援装置も装備するなど現代的な進化も垣間見えた。

 気になる点とすれば、8速AT化にともないトランスミッションケースが運転席の足下スペースの左側へと張り出しているため、巡航中、左足を安定させて置くスペースがないことだ。足下スペースは広く、アクセルペダルやブレーキペダルの配置はほぼ適正なので運転操作に難はなく、さらに試乗時に筆者が履いていた靴底の厚いトレッキングシューズ(ダナー・フィールド)でも支障はなかった。このあたりは実際にディーラーで試乗して確認いただきたい。

西村直人:NAC

1972年東京生まれ。交通コメンテーター。得意分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつためWRカーやF1、さらには2輪界のF1であるMotoGPマシンの試乗をこなしつつ、4&2輪の草レースにも参戦。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も行うほか、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。国土交通省「スマートウェイ検討委員会」、警察庁「UTMS懇談会」に出席。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)理事、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。(財)全日本交通安全協会 東京二輪車安全運転推進委員会 指導員。著書に「2020年、人工知能は車を運転するのか 〜自動運転の現在・過去・未来〜」(インプレス)などがある。

Photo:堤晋一