日下部保雄の悠悠閑閑

JEEPとBFグッドリッチ

ジープ「ラングラー」でオフロード試乗をしてきた

「JEEP」といえば「ウィリス ジープ」を連想するのは年代のせいだろうか。第二次世界大戦でドイツ軍の素早い進撃に目を見張った米国陸軍は、各メーカーに小型の4輪駆動車の開発提示をした。戦時中で開発期間が極端に短く、スペックも無理難題だったため、GMとフォードは応札できず、小規模の2社のみが参加した。それがウィリスとバンタムだった。

 当初、バンタムの設計は頑丈で軽便、機能的で評価されたが、弱小メーカーだったため生産能力に不安を持たれ、その後バンタムのプロトタイプをベースとして競作となった。その結果、ウィリスのジープが最終的な勝者となった。ウィリス ジープの始まりである。フォードも量産を担当して、大量のジープが世界各地に送られた。

 余談だが、ランドローバーは戦後大量に放出されたジープにヒントを受け、自分たちで作ろうとしたのが始まりだ。その時のローバーの主任設計者だったモーリスは、米軍払い下げのジープを駆ってリゾート地の野山を走りまわっていた。ある時ボロボロになったモーリスのジープを見た兄のスペンサーが「壊れたらどうするんだい?」と何気なく聞いた。頑丈、シンプルで大量にあったジープだが、さすがに外国製だけに部品の調達がままならなかったからだ。また買えばいいと言ったものの、2人はひらめいた。「そうだ! イギリスの農民のために自分たちで作ればいいんだ!」ということを。

 こうしてランドローバーの原型はジープから引き継がれた車体を使って完成した。ところが量産にあたってローバーには枯渇していたスチールの割り当てがなかった。しかし、航空機用のアルミはゴロゴロあったので、それを利用して外板を作った。というのは現代のランドローバーにつながるおまけの話だ。

 さて、話題が逸れてしまった。そのジープの末裔は現在もしっかり根付いており、特にタフでシンプル、強力な走破性を継承した「ラングラー」はジープの伝統を継承するモデルとして、今もディープユーザーに愛されている。

 スマートなSUVが好まれる中、ラングラーが愛され続けているのは悪路走破性をシンプルに追及しているからだろう。日本ではその走破性を発揮できる場面はほとんどないが、都会でもよく見られるのはそのバックボーンを連想させるタフなデザインに惹かれるからだと思う。

 そのラングラーをオフロードで走らせる機会があった。タイヤはBFグッドリッチのマッドテレーンタイヤ。

ラングラーに装着されていた、BFグッドリッチのマッドテレーンタイヤ

 また話が逸れてしまう。BFグッドリッチは北米の名門タイヤメーカーだが、1988年にタイヤ部門はミシュランに売却され、その後の開発生産はミシュランの手によって行なわれている。余談だが個人的には以前、BFグッドリッチのビデオ撮影を手伝ったことがあり、懐かしい思い出だ。真っ白い雪原に赤いSUVと青い空のコントラストが、今でも心に焼き付いている。

 で、そのBFグッドリッチだが、オフロードの専用タイヤとしてミシュランの大切な1ブランドとなっている。オフロードタイヤは進化を続け、名声は受け継がれた。久しぶりのBFグッドリッチとの再会も楽しみだった。

 3.6リッターの自然吸気エンジンを搭載したラングラーはルビコンスペック。ルビコンとは、ジープ社内の特に厳しいオフロード試験コースに名付けられたネーミング。ここをクリアするのはかなりタフなスペックが要求される。彼らのプライドにかけて、お手盛りのテストではないと思う。

 ラングラーの実力は確かに“クロカン”の名にふさわしい。とても無理だろうと思われるガレ場もズシズシと登っていく。ましてBFグッドリッチのマッドテレーンタイヤを履いたラングラー ルビコンは、雨に濡れて滑りやすくなった急坂やガレ場もホイールスピンすることなく、悪路のライントレース性も優れてハンドル修正も少ない。その代わり、舗装道路ではブロックの1つひとつが路面に接地する感触が伝わってくる。もともとラダーフレームはオンロードでは多かれ少なかれフラフラするが、マッドテレーンタイヤではさらにブロックの分だけ動く。それでもひと昔前のオフロードタイヤよりもまっすぐ走るし、路面とのアタリも柔らかい感触だ。コンパウンド技術の進化が大きいと感じた。

 ラダーフレームに取り付けられた4輪リジッドのサスペンションはまさにオフローダーのためのもので、頑丈そのもの。

 そして、その気になれば簡単な工具のみでボディもストリップダウンできて、フルオープンにすることができるのもワイルドだ。アメリカでは実際にフロントウィンドウを外して野山を豪快に走っている人もいるようだ。

 その伝統的なデザインと裏腹に駆動システムはぐんと現代的で、タッチパネルで操作可能。唯一頑張っているのは、ATのシフトレバー横に生える副変速機のレバー。昔の名残ではないが、入れるのに結構な力が必要だ。通常はFRの2輪駆動だが4輪駆動のHi-Loがあり、よほどのことがない限り4Loに入れることはない。

 しかし、この副変速機こそはジープの象徴とも言えるもので頼もしい。

ATシフトノブ(手前)の横からにょっきり生えている副変速機(奥)

 ラングラー サハラの2.0リッターターボは、3.6リッターほど腹の底から湧き出る力強さはないが、軽快な走りでオンロードではこちらの方が使いやすそうだ。

コチラは「チェロキー」

 ほかのジープ、例えば「チェロキー」や「グランドチェロキー」、そしてかわいい「レネゲード」はこの厳しいコースでどんなものだろうと首を傾げたら、意外や意外、ジープの名前は伊達じゃなかった。タイヤはBFグッドリッチのオールテレーンタイヤを履いていたのでこんな路面ではかなり有利だが、それにしてもモーグル路面でフロアを打たないし顎もつかない。ジープのプライドが、ヤワなSUVを作らせなかったのだろう。

チェロキーにはBFグッドリッチのオールテレーンタイヤが装着されていた

 専用タイヤの威力も合わせて感じさせてくれたオフロード試乗でした。

ラングラー以外のモデルにオフローダーの証として付けられていたエンブレム

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/16~17年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。