試乗インプレッション

輸出用カムリがベースのコンプリートカー「TOM'S C35」、その実力はいかに?

優雅な乗り味と滑らかで爽快な加速感は、ハイブリッドでは得られない世界観

日本には存在しない「カムリ」のV6モデル

 トヨタ系のレーシングチームとしてさまざまなカテゴリーで活躍しているトムスが、コンプリートカーを発売した。トムスではトヨタ系のクルマに対して数々のチューニングアイテムを発売しているが、クルマ1台をトータルプロデュースするのは久々のこと。今回は日本には存在しない「カムリ」のV6モデルが素材となる。

 アメリカから輸入された「カムリ XSE V6」をベースにした「TOM’S C35」と名付けられたそれは、当然ながら左ハンドル仕様。パワーユニットは日本で販売される2.5リッター+モーターのハイブリッドとは違い、3.5リッターの「2GR-FKS」型エンジンが奢られている。最高出力は301PS/6600rpm、最大トルクは362Nm/4700rpmという豊かなスペックを誇る。滑らかさもトルクフルな感覚も国内仕様とはまるで違う世界が期待できる。ただし、それだけでは面白くないとトムスはライトチューニングを施す。エアクリーナーやマフラー、そしてスロットルコントローラーも装備する。

TOM'S C35が搭載するV型6気筒DOHC 3.5リッター「2GR-FKS」型エンジンは最高出力301PS/6600rpm、最大トルク362Nm/4700rpmを発生

 一方で、エクステリアではSUPER GTマシンで培った最新の空力理論を盛り込む形状のエアロパーツを装着。フロントバンパースポイラーはフロントからフロア下に流入する空気の集束と、フロントのホイールアーチに流入する乱気流のボディからの剥離、そしてカナード形状によるダウンフォースを狙っている。サイドディフューザーやリアアンダーサイドフィンは、ボディサイドからフロア下に流入する空気を遮断することを考えていて、結果として安定感のあるスタイルを手にしている。オプションとなる19インチのオリジナルホイールとのマッチングもなかなかだ。

TOM'S C35(撮影車はオプション装着モデル)のボディサイズは4895×1840×1445mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2825mm
エクステリアではフロントディフューザー、サイドディフューザー、リアアンダーサイドフィンなど、SUPER GTで培った最新の空力理論をモチーフにしたトムスのスタイリングパーツを装着。そのほかドアを開けたときに地面にTOM'Sロゴが表示されるカーテシランプに加え、オプション設定の「コンフォートローダウンスプリング」(9万円。オプションの価格は全て税別)、19インチアルミホイール「TH01」(19万8200円)、ブレーキパッド「スポーツ」(3万6000円)などを装備
TOM’S C35 マフラーサウンド(37秒)

 インテリアにはカーボンが配されたオリジナルのステアリングをオプション装備。マイル表示とキロ表示が併記されるメーターを見れば、いかにもアメリカ仕様といった感覚が得られる。ゆったりとした室内空間は相変わらずだが、それが左ハンドルになっただけでも気分は高まってくる。果たして走りはどうか?

TOM'S C35は左ハンドル仕様。本革シート(シートヒーター付き)や運転席・助手席パワーシート、パナソニック製チルト機構付グラスルーフ、スライドムーンルーフを装備。オプションのスロットルコントローラー「L.T.S.III」(4万8000円)、トムスステアリング「カーボン」(8万2000円)も装着していた

日本には存在しないという希少性

 タウンスピードで走り始めると、その時点からトルクフルで豪快な感覚が見えてくる。余裕のあるその走りはなかなかで、上級サルーンとしての風格が際立っている。そこからアクセルを踏み込んでいけばヌケのよい甲高いサウンドがマフラーから耳へと伝わってくる。イヤミなく爽快なサウンドと、アクセルに対して即座にレスポンスしてくるところは、ハイブリッドでは得られない世界観。1620kgの車体をグイグイと加速させていく。

 このあたりは高速道路ではかなり心地よく、TNGA(Toyota New Global Architecture)のプラットフォームと相まってクルージングは快適そのものだ。思わずパドルを弾いてシフトダウンしたくなる、それほどにマルチシリンダー+マフラー交換の効果は上々なのだ。

 試乗車にはオプションのローダウンスプリングとブレーキパッドも装備されていたが、それらがもたらすスポーティな感覚も面白い。ブレーキは踏力が求めるだけ止まってくれるイメージ。高速道路ではエアロ効果との相乗効果で、無駄な動きをすることなくフラットに突き進む。荒れた路面に差しかかると、ややバンプラバーのタッチが早いところがあり、たまにガツンとやられるが、路面がわるくなければ一体感ある走りは納得。けれども、むやみに引き締められることなく、ユッタリとした乗り味を生み出すショックアブソーバーのセッティングは、さすがはアメリカ仕様といったところかもしれない。

 すなわち、このクルマには決して走りを際立たせようとか、タイムを追ったようなスポーティさは存在しない。けれども、優雅な乗り味と滑らかで爽快な加速感を味わえるこのTOM'S C35の走りは、余裕のあるオトナにピッタリかもしれない。そして、なんといっても日本には存在しないという希少性が魅力な1台。他とは違うクルマがほしいが、目立つのはイヤ。そんな人にオススメしたいコンプリートモデルだった。

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。走りのクルマからエコカー、そしてチューニングカーやタイヤまでを幅広くインプレッションしている。レースは速さを争うものからエコラン大会まで好成績を収める。また、ドライビングレッスンのインストラクターなども行っている。現在の愛車はトヨタ86 RacingとNAロードスター、メルセデス・ベンツ Vクラス。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:中野英幸