試乗インプレッション

新型「MAZDA3」のSKYACTIV-X仕様に試乗。市街地&アウトバーンで実力を試した

最高出力は180PS/6000rpm、最大トルクは224Nm/3000rpm

 ロータリーエンジン以来とも言えるほどに世界初の画期的エンジンが走った。「MAZDA3」に搭載される「SKYACTIV-X(スカイアクティブ エックス)」だ。今回、ドイツ・フランクフルトにて世界で初めてSKYACTIV-Xが搭載されたMAZDA3に試乗してきたので、その模様をレポートする。

最高出力132kW(180PS)、最大トルク224Nmの「SKYACTIV-X」

欧州仕様のMAZDA3(ハッチバック)に搭載されるSKYACTIV-Xエンジンを試した!

 ではSKYACTIV-Xがどのようなエンジンなのか説明しよう。まず、ガソリンエンジンをディーゼルエンジンのように圧縮着火させることがメインテーマだ。それによってどのようなメリットがあるのかと言うと、燃費がよくなり低回転からトルクがあり、高回転までパワフルにまわるエンジンになるのだ。

 ちなみに国内仕様の現行2.0リッターの「SKYACTIV-G 2.0」と比較すると、SKYACTIV-G 2.0が最高出力115kW(156PS)/6000rpm、最大トルク199Nm/4000rpmなのに対し、SKYACTIV-Xは最高出力132kW(180PS)/6000rpm、最大トルクは224Nm/3000rpmと、SKYACTIV-Xの方がパワフルだ。

マイルドハイブリッド仕様の2.0リッター「SKYACTIV-X」エンジンは、最高出力132kW(180PS)/6000rpm、最大トルク224Nm/3000rpmを発生。圧縮比は16.3で、CO2排出量(WLTP)はAT仕様が142g/km、MT仕様が131g/km。燃料タンク容量は51L。WLTPモード燃費はAT仕様が6.3L/100km、MT仕様が5.8L/100kmとなっている

 このSKYACTIV-G 2.0は現行仕様だが、今回の試乗ではSKYACTIV-G 2.0の24Vマイルドハイブリッド仕様の「CX-30」にも試乗した。こちらのエンジンは最高出力90kW/6000rpm、最大トルク213Nm/4000rpmとなり、SKYACTIV-Xのパワフルさは際立っている。とはいえ、一般的にSKYACTIV-Xのパワーは2.0リッターエンジンとしては平均的なレベルだ。

 ではもう1度、SKYACTIV-Xはどこが凄いのか? 燃費をよくするにはガソリンを少なくして爆発燃焼させればよい。そのため、SKYACTIV-Xでは現行SKYACTIV-G 2.0の2倍の空気をシリンダー内に圧縮注入している。これにはルーツ式のスーパーチャージャーを採用。これによってガソリンの理論空燃比14.7:1から30以上:1というリーンバーン燃焼を行なうのだ。

 しかし、燃焼ガスがここまで薄くなると火炎伝播ができなくなるので、点火プラグによる火花点火では燃えなくなる。そこでディーゼルエンジンのように圧縮着火を行なう必要に迫られるのだ。そう、燃焼ガスそのものが一気に燃えなくてはならないのだ。ところがこのガソリンエンジンでの圧縮着火は非常にハードルが高く、世界中のどの自動車メーカーの技術者も達成していない技術。これを成し遂げたのだからマツダはスゴイ! あのロータリーエンジンを市販化したときを彷彿とさせるのだ。

 もうちょっとだけこのエンジンの技術を解説しよう。圧縮比は16.3。SKYACTIV-G 2.0が13.0だから、いかに高圧縮比であるかがうかがえる。ちなみに何もせずただ高圧縮比化して圧縮着火をしたのではない。「膨張火炎球」といって、圧縮着火に誘導するいわば火種のようなものをプラグ点火によって作り、その膨張率とともに圧縮着火に導いている。これによって全体が均質に燃焼する安定した圧縮着火を実現しているのだ。

 ただし、この膨張火炎球から圧縮着火に導くには各回転数や負荷に対して、膨張火炎球を作るタイミングのコントロールが緻密に行なわれないといけない。熟成には相当な試行錯誤が行なわれたという。

 このSKYACTIV-Xエンジンが発表されたのは2017年。もともとサーキットだったマツダの美祢自動車試験場で試乗会が開催された。MAZDA3と思われる車両にSKYACTIV-Xエンジンが搭載され、圧縮着火が行なわれているかを目視できるモニターを付けての試乗。この時のボクの印象は、確かに目視では行なわれているがそれほど頻繁ではなく、本当に大丈夫? という疑心暗議なものだった。さらにエンジンと補器類(スーパーチャージャー)の音が雑音でしかなかった。

欧州仕様のMAZDA3(ハッチバック)のボディサイズは4460×1795×1435mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2725mm。テールゲートに「SKYACTIV X」のバッヂが貼られるほか、足下は18インチホイール(タイヤサイズ:215/45R18)を装着
MAZDA3のインテリア

市街地、郊外、アウトバーンでSKYACTIV-Xの走りをチェック

 さて、お待たせしました。走り出そう。MAZDA3には米ロサンゼルス、北海道剣持テストコースなど、これまで3回乗っている。改めてそのデザイン性とドラポジのよさを感じながらコクピットに納まり、センターモニターに燃焼状態が表示されるようセット。SPCCI(Spark Controlled Compression Ignition:火花点火制御圧縮着火)のロゴが点灯している間は目標の圧縮着火が行なわれているということだ。

 まずはAT仕様から試乗する。エンジンを始動してDレンジに入れ、そして踏み込んで発進。すぐにSPCCIが点灯して圧縮着火している。試乗の発着点となっているホテルを抜けると、高低差のあるちょっとした市街地に入る。STOP&GOを繰り返すが、ほぼ全域でSPCCIが点灯していることに驚く。しかもこのエンジンには24Vのマイルドハイブリッドが採用されているので、アイドリングストップを含めて頻繁にエンジンが停止する。アクセルを離した時などはSPCCIが消灯していると思ったら、エンジンそのものが停止していたということが多い。そしてなんと、ほとんどの走行でSPCCIを行なっているのだ。停止状態からの加速ではマイルドハイブリッドもあるからとてもスムーズで力強く、一般的なディーゼルエンジンのようなオーバーシュートしたトルク感はない。とても上品で気持ちよく発進する。

センターモニターは燃焼状態の表示が可能。SPCCIのロゴが点灯している間は、目標の圧縮着火が行なわれていることを示す

 ドイツにおける道路の法定速度は街中が50km/h、郊外が100km/h、そしてアウトバーンはご存知のように無制限区間がある。それぞれの法定速度枠の中で、学校近辺などは30km/h、森の中などは80km/hなどと個別の規制が敷かれている。

 郊外に出て100km/hの狭い田舎道を走る。ドイツの実用レベルでの加速感はなかなかスムーズ。低回転から高回転域まで十分なトルク感があるので、どこにパワーのピークがあるのか分からない。それほど6000rpmあたりの高回転域まで満遍なくフラットなトルク感で、非常にできがよいエンジンに感じる。美祢自動車試験場で感じた例のエンジン系メカニカルノイズもほとんど気にならない。スーパーチャージャーが装備されていることも分からないくらいだ。これはMAZDA3の室内における静粛性にもひと役買っている。

 そしてアウトバーンに入り全開走行だ。6500rpmあたりでオートシフトアップ。郊外路の走行から感じていたことだが、4000rpmを越えたあたりからなかなか心地よいエンジンノイズ。微振動をステアリングに感じるが、嫌味はない。ノイズもスポーツエンジンのそれだが、高周波な高音質ではなく、ひたすらガソリンエンジンの爆発音。しかも圧縮比が高そうな歯切れのよいモノだ。アウトバーンでは160km/hでの高速走行を試したが、さすがにそれ以上の加速には時間がかかりそう。しかし、MAZDA3の直進安定性は自然なフィーリングで非常によく、また風切り音も含めた室内静粛性の高さに感心する。

 で、MT仕様も同じルートで試乗したのだが、こちらは各シーンでとてもレスポンスがよく、ATよりパワフルに感じた。マイルドハイブリッドのヘルプも身に感じるレベルまでメリハリがあり、ドライブするのがとても楽しい。なるほどマツダらしいな、と感じた。ディーゼルエンジンのような唐突感のあるトルク特性はないが、高回転域まで万遍ない力感。しかも高回転域に至っても低振動でスムーズだ。

 ちなみにフランクフルトの同じルートで今回のSKYACTIV-G 2.0 マイルドハイブリッド仕様と燃費比較したところ、SKYACTIV-G 2.0 マイルドハイブリッドが16.4km/Lだったところ、SKYACTIV-Xは19.2km/Lだったとのこと。約17.0%アップという結果だった。

 電動化の波が押し寄せる中、希薄燃焼技術を追求するマツダ技術陣の心意気と信念をたっぷりと感じさせられる試乗会だった。

松田秀士

高知県出身・大阪育ち。INDY500やニュル24時間など海外レースの経験が豊富で、SUPER GTでは100戦以上の出場経験者に与えられるグレーテッドドライバー。現在64歳で現役プロレーサー最高齢。自身が提唱する「スローエイジング」によってドライビングとメカニズムへの分析能力は進化し続けている。この経験を生かしスポーツカーからEVまで幅広い知識を元に、ドライビングに至るまで分かりやすい文章表現を目指している。日本カーオブザイヤー/ワールドカーオブザイヤー選考委員。レースカードライバー。僧侶

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