試乗インプレッション

テスラ「モデル 3」のシングルモーターとデュアルモーターを乗り比べ

0-100km/h加速3.4秒!!「この価格でこれほど速いクルマはほかに心当たりがない」

スーパーチャージャーステーションがオープンした徳島で岡本幸一郎がテスラ モデル 3に試乗

鳴門にスーパーチャージャーステーションが開設

 7月4日、徳島県鳴門市の神戸淡路鳴門自動車道 鳴門北インターチェンジからクルマで3分ほどの場所にあるリゾートホテル モアナコースト内に、テスラ独自規格の急速充電施設であるスーパーチャージャーステーションがオープンした。北は盛岡から南は福岡まであるスーパーチャージャーステーションは、これにて全国で21番目となり、これによりテスラ車での四国へのアクセスが飛躍的に便利になる。

 テスラの場合、スーパーチャージャー以外にもテスラ専用のデスティネーションチャージングがあり、もちろんCHAdeMO(チャデモ)や普通充電器も使うことができるわけだが、件のスーパーチャージャーは圧倒的に充電スピードが速いのがポイントだ。その能力は実に30分で270km分。出力が大きいので短時間の充電で長距離の走行が可能である上、テスラ専用なので充電するための特別な機器は必要ない。

 充電するにはワンタップでポートを開いてコネクターを接続するだけという手軽さ。実際に使ってみても、チャデモに比べてコネクターがはるかに小さく軽いので、煩わしい思いをすることなく充電できるのもありがたい。実にスグレモノだとつくづく思う。さらに全国7500基以上あるチャデモ充電器や、全国1万4900基以上ある普通充電器でも充電できるように変換アダプターも準備されているので、状況に応じて使えば、もはやテスラで長距離の旅行をするにも不自由を感じることはほぼないだろう。

徳島県鳴門市鳴門町にあるリゾートホテル モアナコーストにテスラスーパーチャージャー8基が設置された
ノズルもコンパクトで取りまわしやすい充電ケーブル
テスラ「モデル 3」は左後ろに充電口がある
変換アダプターを使うことでチャデモや普通充電器からも充電可能になる
30分で最大270km分の充電ができる世界最速のテスラスーパーチャージャーは、全国21か所に設けられる。さらにスーパーチャージャー以外でも、アダプターを使えばチャデモや普通充電ステーションでも充電可能

 そして、鳴門スーパーチャージャーステーションのオープン前日、同地を拠点に、現在受注受付中の「モデル 3」を試乗することができた。これまで「モデル S」や「モデル X」にはたびたび触れる機会があったが、モデル 3に乗るのは筆者も初めてだ。

驚くほどシンプルなインテリア

 いざ実車と対面すると、実際はそれほど小さくないのだが、モデル Sやモデル Xを見慣れた筆者にとっては、モデル 3はかなりコンパクトに見えた。また、テスラというと高価なイメージがあるところ、モデル 3の車両価格は511万円からと、日産自動車「リーフ」やBMW「i3」と比べても大差はない。そうと思うと一気に現実味をおびて感じられる人も大勢いることだろう。

テスラ 3「パフォーマンス」のオプションパッケージ装着車。今回の試乗車は日本仕様とは異なる。北米仕様のスペックではボディサイズは4694×1849×1443mm(全長×全幅×全高)
ホイールはオプションの20インチパフォーマンスホイール。前後ともに装着する赤いパフォーマンスブレーキもオプション
前後バンパーにはセンサーが埋め込まれる
カメラはフロントウィンドウ部、フロントフェンダーのウインカー部、Bピラー、リアにに付く
ワイパーはウォッシャーノズル一体型
自動防眩機能とヒーター付電動サイドミラー
フラットなドアハンドル
言われなければ気がつかないような充電ポート
カーボンファイバースポイラーもオプション
リアにはデュアルモーターであることを示すエンブレム

 クルマに乗り込めば、シンプルさを極めたインテリアにも驚かされる。メーター類やスイッチ類も何もなく、あるのは中央に設置された横長の15インチタッチスクリーンのみ。ここに走行に必要な情報などすべてが表示される。さらにタッチパネルになっていて、空調やシート、ドアミラーなどの調整もこちらで行ない、必要に応じてステアリングホイールのスポークに配された丸い回転式のスイッチも使う。ハザードランプは頭上にスイッチがある。

 ところで、既存モデルではレバー類などにメルセデス・ベンツの部品が使われていたが、モデル 3はそうではなくなったことに気づいた。加えて、既存モデルはインテリアトリム類に高級な素材が用いられていたものの、立て付けやチリの合わせがよろしくない部分も見受けられたところ、量産体制が確立されてかその印象も払拭された。

大型のディスプレイを除けばとてもシンプルなインパネ回り
ステアリングには左右に2つの操作スイッチが付く
15インチタッチスクリーン ディスプレイ。運転以外のほとんどの操作はこのディスプレイで行なう
ワイパーやウォッシャー、ウインカー、ライトの操作はステアリングコラム左側のレバーで行なう
ステアリングコラム右側のレバーはシフトレバーになる
オプションのアルミ製パフォーマンスペダル
運転席ドアグリップ部。下の4つがパワーウィンドウの集中コントロールで、グリップの上にあるボタンがドアオープナー
センターコンソールにはドリンクホルダーと収納ポケット、前の収納部には奥にUSBポートがある
グローブボックス
グローブボックスを開けるのもディスプレイで操作を行なう
紫外線と赤外線を防ぐティンテッド ガラスルーフ

 15インチディスプレイに映し出せる情報は多岐にわたる。エネルギーに関する諸々はもちろん、カメラが捉えた後方の状況を大きく映し出したり、車両周辺の交通状況や、80cm以下であれば障害物までの距離を正確に表したりと、さまざまなことができる。画質も非常にきれいだ。

 エアコンの送風口がないと思ったら、ダッシュボードを横一文字に配された薄い溝がそれだというから驚いた。風をどこからどんなふうに出したいかなどもディスプレイ上で細かく調整できる。これも画期的だ。

ナビ画面
バックカメラの画像も大きく映る
加速や操縦、回生ブレーキなど運転モードの切替画面
今回は試せなかったがオートパイロットの設定画面
バッテリー残量と航続可能距離の表示。充電ポートを開いたり、充電予約をしたりもできる
バッテリーの消費量や走行データなどが表示できる
画面上のアイコンをタッチすると少し変わった機能が楽しめる
ゲーム選択画面。15インチディスプレイを使ってゲームが楽しめる
手書きで書き込めるメモ画面
エアコン設定画面
エアコン吹き出しの方向もタッチ操作で調整できる
暖炉の映像。映像に合わせてエアコンから暖かい風が出る
シートヒーター設定画面
自車のイラストをサンタクロースに変えることも。このときウインカーの音も鈴の音に変わる
車内にペットなどを置いて行く場合にエアコンをONにしたままにでき、画面にはそのことを伝える表示が

 モデル Sと相似の印象を受けるが、モデル Sのようにハッチバックではなく独立したトランクを持つのもモデル 3の特徴だ。シートの座り心地も申し分なく、このフォルムから想像するよりも室内空間が広いことにも驚いた。センタートンネルの張り出しがないので、前後席とも足下が広々としている。ただし、今回の試乗車の真っ白なシートは日本には入ってこないらしいのがちょっと残念ではある……。

 座面が低めなリアシートは成人にとってはヒール段差が足りない気もするが、そのぶん頭上は筆者が座っても空間が確保されている上、独特のピラーの位置と広大なサンルーフにより、他車でかつて体験したことのないような未知なる開放感を味わうことができることにも注目だ。

前後シート。試乗車は左ハンドル仕様で、この白革内装は日本には導入されないとのこと
フロントフードを開けるとエンジンの代わりに収納スペースが現われる
モデル 3には独立したトランクがある
リアトランクは6:4分割でトランクスルーも可能

デュアルモーターは0-100km/h加速3.4秒の実力

 日本に導入されるのは、デュアルモーター4WDの「パフォーマンス」(655万2000円)とシングルモーター2WDの「スタンダードレンジ プラス」(511万円)という2モデルとなるが、今回の試乗会ではスタンダードレンジ プラスの用意がなく、代わりに同じ2WDの「ロングレンジ」に試乗した。なお、今回の試乗車はいずれも正式な日本導入モデルとは一部仕様が異なることをご了承いただきたい。

日本市場には「スタンダードレンジ プラス」と「パフォーマンス」が用意される

 限られた時間で一般道のみドライブしたためオートパイロットを試すことはできなかったのだが、走りの実力のほどをうかがうには十分なインパクトがあった。航続距離が長いうえにデュアルモーターで動力性能の高いパフォーマンスの加速はやはり刺激的だ。0-100km/h加速3.4秒はハンパではない。標準モードでも十分なところ、SPORTモードを選ぶとより瞬発力が増して、圧倒的な加速感を味わわせてくれる。思えば、この価格でこれほど速いクルマというのも、ほかに心当たりがない。

このカードがキーになるが、さらに登録すればスマホもキー代わりになる
タッチパネルとステアリングのスイッチを使ってドアミラーやステアリングコラムを設定する

 それに比べると、シングルモーターのロングレンジの加速はいくぶん穏やかで、クルマのキャラクターに合わせてSPORTモードも設定されていない。それでもEV(電気自動車)らしいレスポンスに優れ、トルクフルな走りは十分に持ち合わせているので、テスラに乗る醍醐味は十分に味わうことができる。

 そして、いつもながらテスラ車にはハンドリングのよさも感心しきりなのだが、モデル 3も期待どおり。重心が低くマスが中央に集中している上、クルマが小さくて軽い分モデル Sと比べても反応感度が高い。安定性も高く、操舵に対する応答遅れもなく、前述の加速性能と合わせて本当に気持ちよく俊敏に走れる。

デュアルモーターのパフォーマンス。その加速がかなり刺激的だ!
低重心で高剛性。ハンドリングのよさもかなりのもの

 フロントにもモーターを搭載した4WDのパフォーマンスでも十分機敏だが、リアモーターのみの2WD ロングレンジは走り出した瞬間からフロントの軽さを直感する。ワインディングをちょっと攻めてみても、操縦安定性に優れる4WDに対して、2WDのほうが回頭性は鋭く、走りのスポーティさでは上まわる。絶対的な速さはモーター次第だが、よりドライバーにとってエキサイティングな走りを楽ませてくれる素質があるのは2WDと言えそうだ。

シングルモーターのロングレンジはトルクではデュアルモーターに譲るものの、ノーズが軽くスポーティさでは負けていない

 そんなわけで今回はチョイ乗りだったが、第一印象は上々だった。すでに充電網も十分に整って、臆することなく遠乗りできるようになったことだし、モデル 3とはいずれあらためてじっくり向き合ってみたいと強く思った次第である。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:堤晋一