試乗インプレッション

“世界でもっとも美しいクロスオーバー”を目指したマツダ「CX-30」、公道でのフィーリングは?

リアサスのトーションビーム化がもたらしたもの

内も外もスタイリッシュ

 位置付けとしては「CX-3」の後継に当たるはずだが、2ケタの数字の車名が与えられたのは、当面は併売されることと、車格としては微妙にCX-3より上のサイズ感ながら、すでに海外で「CX-4」が存在することが主な理由のようだ。内容としては、ひとあし先に発売された「MAZDA3」と共通性の高い新世代商品の第2弾となる。日本でももてあますことのないボディサイズであり、全高も1550mmを切るので機械式立体駐車場にも問題なく収まり、都市部で日常的に使うにも適している。

 キャラクターラインを入れず、余分な要素を削って曲面で美しさを表現したボディパネルは、景色の映り込み方も独特だ。近くで見ても離れて眺めても、見事な造形の作り込みには感心する。さすがは“世界でもっとも美しいクロスオーバー”を目指したというだけのことはある。前後の立体的なフロントマスクと3D形状のテールゲートも印象深い。やけに幅の広いクラッディングパネルは、ボディを薄く見せる効果を狙ってのものと聞いて納得した。

今回試乗したのは10月24日に発売されたクロスオーバーSUV「CX-30」。写真はポリメタルグレーメタリックカラーのガソリンモデル「20S PROACTIVE Touring Selection」(4WD/6速MT。297万円)で、ボディサイズは4395×1795×1540mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2655mm。魂動デザインの哲学のもと、ボディ上部にスリムで伸びやかなプロポーションを与えるとともに、下部の黒いガーニッシュ(クラッディングパネル)でSUVらしい力強さと安心感を表現したという。足下は18インチアルミホイールにTOYO TIRE「PROXES R56」(215/55R18)の組み合わせ
「20S PROACTIVE Touring Selection」が搭載する直列4気筒2.0リッター直噴ガソリンエンジン「SKYACTIV-G 2.0」は、最高出力115kW(156PS)/6000rpm、最大トルク199Nm(20.3kgfm)/4000rpmを発生。WLTCモード燃費は15.6km/L
インテリアは乗員を大きく包み込むようなデザインで居心地のよさを演出するとともに、縁部分の縫製や末端部をかしめたような金属加飾を用いることで室内全体の上質感を高めた。写真はネイビーブルー内装で黒のファブリックシートを組み合わせる
ラゲッジスペースは、大型ベビーカーや旅行用バッグなどを同時に積載できる430Lの荷室容量を確保。また、組み立て家具などが収まる1020mmの開口幅とともに、荷物の積み降ろしがしやすいよう開口部下端の高さを地上から731mmに設定。電動でリアゲートの開閉ができる「パワーリフトゲート」を「20S」を除く全モデルに標準装備する

 インテリアも、この価格帯でこれほどのクオリティ感を実現したのは大したもので、クーペ的なフォルムながら室内空間の広さは十分に確保されている。ウィンドウとルーフの形状の工夫により、スポーティに見えながらも成人男性の平均的な体格の筆者が後席に座っても頭上にこぶしが縦に1つ分以上の余裕がありながら、高めのヒップポイントによりヒール段差が十分にあり、乗り降りする際もちょうどよい。

 荷室や開口部の形状と下端の高さも使いやすさによく配慮されていて、このクラスながらパワーリフトゲートが大半のグレードに装備されているのもうれしい。スタイリングとパッケージングとユーティリティを巧みに両立させている。

こちらはマシーングレープレミアムメタリックカラーのディーゼルモデル「XD PROACTIVE Touring Selection」(4WD/6速AT。330万円)。タイヤ&ホイールの仕様は「20S PROACTIVE Touring Selection」と同様
直列4気筒1.8リッター直噴クリーンディーゼルターボエンジン「SKYACTIV-D 1.8」は最高出力85kW(116PS)/4000rpm、最大トルク270Nm(27.5kgfm)/1600-2600rpmを発生。WLTCモード燃費は18.4km/L
撮影車はネイビーブルー内装にグレージュのファブリックシートの組み合わせ。CX-30では8.8インチのセンターディスプレイを備え、オプションで360度ビューモニターも用意

最新のSKYACTIVはいかに?

 プラットフォームやパワートレーンはMAZDA3との共通性が高く、鳴り物入りのSKYACTIV-Xの登場は年明けとなる。今回は直列4気筒2.0リッター直噴ガソリンエンジン「SKYACTIV-G 2.0」、直列4気筒1.8リッター直噴クリーンディーゼルターボエンジン「SKYACTIV-D 1.8」搭載車(ともに4WD)に試乗した。車検証によると、試乗車両では前軸重はSKYACTIV-DのATがMTのSKYACTIV-Gよりも70kg重い。

 SKYACTIV-Gは、あまり印象に残るものこそないものの、レスポンスがよくフラットな出力特性でとても扱いやすい。アクセルOFF時にスッと素直に回転が落ちるのも自然吸気の強み。操作が軽く、節度感のあるシフトフィールのMTとの相性はわるくない。

 対するSKYACTIV-Dは、ディーゼルらしい力強いトルク感が持ち味だ。しかもレッドゾーンが5500rpm~と回して楽しめる側面を持ち合わせていることや、ノイズや振動がディーゼルとしては抑えられているのも美点だ。ただし現状、アクセルをわずかに踏む領域の応答が薄く、踏み増すと唐突にトルクが立ち上がり、車速をコントロールしにくい面も見受けられたので、そのあたりがもう少しリニアになるとなおよい。

 気になったのがACCの制御だ。先行車との車間距離を保つことに忠実すぎる印象で、急激に加減速するシーンがたびたび。アクセルをオーバーライドしたあとの減速も強すぎる。後続車を戸惑わせることになりかねず、もう少し寛容でもよいかと思う。

 一方で、静粛性はこのクラスとしては申し分なく、前後席間での会話もしやすい。前述の十分な居住性と併せて、4人の乗員が快適に過ごせる空間が確保されている。

トーションビーム化のもたらしたもの

 全車リアサスペンションがトーションビームになった新世代プラットフォームによる乗り味がどうなのか興味深く思っていたが、現状、気になる面が見受けられたのは否めない。

 乗り心地については、ベースであるMAZDA3に対するタイヤの厚みやサスペンションストローク量の増加もあってか、やや緩和されているように感じたものの、路面の凹凸に対する感度が高い。低速ではそれほど不快ではないが、車速が上がるにつれてコツコツとした硬さを感じ、段差を通過すると強めの突き上げがあり、それは後席でより顕著。もう少しバネ上の動きが抑えられている方がよいかと思う。

 ハンドリングは、GVC(Gベクタリング・コントロール)の効果で切り始めは俊敏ながら、切り増していくと反応は穏やかになる味付け。新しいクルマとしては珍しく、世の中の流れとは逆にステアリングレシオは緩やかに設定されているようだが、これがなかなかあんばいがよい。ステアリングを切ったなりにスッと曲がり、クルマが無駄な動きを出すことなくドライバーの思いどおりに動かせるので修正舵をあまり要しない。

 当初は過敏に感じていたGVCも、最新版の「Plus」は違和感がずいぶん薄れ、ブレーキの制御が加わりニュートラルステアを維持して狙ったラインを忠実にトレースしていけるようなっている。さらにはトーションビームのメリットである、動きが線形でアライメント変化が小さいことも効いているに違いない。マルチリンクでは、一般的に横力が加わるとトーインとなり安定するが、それが大なり小なりライントレース性にも影響する。トーションビームならそれがない。これらにより、狙いの1つである自在感のあるドライブフィールを実現している。フロントの軽いガソリンの方が、やはり操縦感覚は軽快だ。

 ところでブレーキが重いという声もあるようだが、筆者としてはこれぐらいが踏力の加減により繊細にコントロールできるし、踏み過ぎを避けらることができてよいと感じた。開発関係者もこれがベストと信じてこうしたセッティングになったとのことで、実際にも自然なフィーリングで扱いやすかったと思う。また、CX-30で新たに採用された「オフロード・トラクション・アシスト」という機能についても、いずれ然るべき場であらためて試してみたい。

 新しいシートについては、前端にチルト機構が備わったのがポイントだ。これによりブレーキング時の体の保持性を高めることもできるし、より適切なポジションを取れるようになった。一方で、骨盤を立てることを念頭に置いて開発したという同シートは、たしかにそれは感じられたものの、ちょうどその骨盤のあたりに路面からの入力がダイレクトに伝わり、乗り心地の硬さを増長させている感もあった。そのあたりもう少し緩和されるとなおよいかと思う。

 多少は気になる点があったものの、全体としてはポテンシャルの高さを十分に感じ取ることができた。そしてなによりスタイリングがよい。世界中のメーカーがしのぎを削るこのカテゴリーの中でも、ひときわ異彩を放つ存在になりうる。SKYACTIV-Xも控えていることだし、今後の動向に大いに期待したい。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛