試乗インプレッション

スタイルを一新したボルボ唯一のセダン、新型「S60」の実力

「Cクラス」「3シリーズ」「A4」にとってこれまでにない強敵登場

 ボルボがこんなカッコいいセダンを発表したの!? と、もしそんな声が聞こえてきたら、思わず「全く同感!」と返したくなりそうなのが、日本ではこの11月5日に発表・発売された新しい「S60」。

 2000年に発表された初代から数えると3代目となるこのモデルは、従来型に比べると125mm長く、45mm低く、15mm幅が狭いというディメンションの持ち主。そんなサイズの違いに加え、これまでとは大きく変わったデザインのテイストもあって、まずはまさに「名前以外は別モノ」と思えるスタイリングが、何よりも印象的だ。

 現行「XC90」を皮切りに採用が始まった“SPA”(スケーラブル・ プロダクト・アーキテクチャー)と名付けられたモジュラー式の骨格を用い、ホイールベースも従来型より100mm延長されたこのモデルのルックスに、もはや従来型と重なる雰囲気は微塵もない。実際にはパワーパック横置きのFFレイアウト、もしくはそれをベースとした4WDシステムを採用しながらも、そのプロポーションはまるでFRレイアウトの持ち主であるかのように伸びやかなのだ。

 生産拠点が中国工場へと移管されたことによるイメージ戦略上からの事情もあって、発売当初の一瞬のみデリバリーをされたものの、早々に導入が中止をされてしまったのが新しい「S90」。その結果、現在のボルボのラインアップ中では“唯一のセダン”ということになるのが、この新しいS60でもある。

 新しいS60は世界で唯一の生産拠点が、2018年6月に開設されたばかりのボルボにとっては初となる米国工場というのもトピックの1つ。と同時に、現在のモデルラインアップ中では唯一、ディーゼル・モデルが設定されていないのも特徴。

 そこではもちろん、「このモデルの主たるマーケットと想定されるアメリカには、ディーゼル乗用車のマーケットがほとんど存在しない」という事情も強く関係していると考えられる。

 かくして、色々と鳴り物入りでの日本上陸となったのが、この最新ボルボ発のセダンということになる。

撮影車はボルボ「S60 T5 Inscription」(ペブルグレーメタリック)。価格は614万円。ボディサイズは4760×1850×1435mm(全長×全幅×全高)で、ホイールベースは2870mm。従来型のS60に対して全長は+125mm、全幅は-15mm、全高は-45mm、ホイールベースは+100mmとなり、ロングノーズ&ショートオーバーハングのプロポーションとなった。最小回転半径は5.7m。車両重量は1660kgで、サンルーフ付きの場合は+20kg

 前述のように、全長もホイールベースも成長をした新型。一方で、かくも大型化をしたとはいえ、メルセデス・ベンツ「Eクラス」やBMW「5シリーズ」と同格サイズのS90に対しては、全長が約200mm、全幅も40mmのマイナスという関係を持つS60は、「日本でもまだ“何とかなる”サイズ」と思えたのも事実だ。

 特に、従来型比で-15mmの1850mmに抑えられた全幅は、V60の場合と同様に「日本市場からの声が反映された結果に決定された寸法」であるという。パレット式の立体駐車場では1850mmというポイントに全幅制限の1つのハードルがある。このサイズを超えると車庫証明の取得ができなくなる場合も少なくない日本では、特に「朗報」というべき事柄であるのは確実だ。

 昨今、セダンながらもルーフラインがワンモーションで描かれる、4ドア・クーペ風のスタイリングの持ち主が少なくない中で、このモデルのサイドビューはリアウィンドウとトランク部分の間に比較的明瞭な折れ線が存在する、いわゆる3ボックス風味であることがデザイン上の特徴の1つ。

3ボックスセダンのたたずまい

 それでも、比較的前方から落ち込みが始まるルーフラインは、後席乗降時の頭の運びにやや影響を及ぼしている印象は否めない。大人4人が長時間を過ごすのに無理のないキャビンスペースは確保されているものの、それでもそのパッケージングが“前席優先”であるのは明白。高くて幅広のセンタートンネルが存在することから、カタログ上は「定員5名」であっても後席3人乗りは現実的ではない。

 トランクには十分広い空間が確保されているが、このクラスになると「リッドの開閉をパワー化してほしい」という声も挙がるかもしれない。

エクステリアは重心の低いワイド&ローのフォルムのほか、他モデルと同様の「トールハンマー」デザインなどを踏襲。リアはCシェイプのコンビネーションランプで角張ったイメージを演出する。装着するコンチネンタル「PremiumContact 6」のタイヤサイズは235/40R19

 日本仕様のS60に搭載されるのは、チューニングの異なる2種の2.0リッター4気筒ガソリン・エンジンもしくは、やはり2.0リッターの4気筒ガソリン・エンジンを組み合わせたプラグイン・ハイブリッドシステム。そして後者の場合、リアアクスルも最高65kW(≒88PS)を発する専用のモーターによって駆動される。すなわち、純エンジン・モデルはFWDでハイブリッドは4WDというのが新型S60の駆動方式であるわけだ。

 さらに、ボルボ流儀で“ツインエンジン”を名乗るプラグイン・ハイブリッドモデルには、専用のソフトウェアによってハイパワー化されたエンジンやブレンボ製フロントブレーキ、専用チューニングが施されたサスペンションなどに加え、やはり専用の内外装が採用された特別限定のホッテスト・モデル「ポールスターエンジニアード」が30台導入されることも決定済み。

 そうした中から今回は、いち早く上陸が実現したガソリン・エンジン搭載のトップモデル「T5 Inscription」をドライブした。

2WD(FF)モデルのT5は最高出力187kW(254PS)/5500rpm、最大トルク350Nm(35.7kgfm)/1500-4800rpmを発生する直列4気筒DOHC 2.0リッターターボ「B4204T23」型エンジンを搭載。トランスミッションには8速ATを組み合わせる。JC08モード燃費は12.9km/L。燃料タンク容量は55L

 初めて乗り込んだ人は戸惑うであろうセンターコンソール上のノブをひねってエンジンを始動、と作法は基本デザインが共通のインテリアを採用する「V60」の場合と同様。物理スイッチ類が極端に少ないダッシュボードは、シンプルでクリーンな“スカンジナビアン・デザイン”の雰囲気の演出に大きく貢献している一方で、ナビゲーションシステムの目的地やドライブモードのプリセットなど、各種設定を行なうためには、かえって煩雑な操作を行なう必要に迫られるのもまた事実。必要となるアイコンが表示画面の階層深くに潜んでいたり、音声認識を行なうには決まったコマンドワードを覚えておく必要があったりするためだ。

 いずれにしても、ボルボが最新の各車に用いる“SENSUS(センサス)”と名付けられたこのマルチメディア・システムの操作性は、率直なところまだ「難アリ」。今後の熟成に是非期待をしたいところだ。

縦長で大型の「SENSUS NAVIGATION」やノブ型のイグニッションスイッチが特徴的なインテリア。スカンジナビアデザインを取り入れてシックな印象にまとめられている。オーディオシステムは試乗車に搭載されていた「Bowers&Wilkinsプレミアム・サウンドオーディオシステム」のほか、「harman/kardonプレミアムサウンド・オーディオシステム」も設定される
シート表皮はアンバー色のパーフォレーテッド・ファインナッパレザー
セダンモデルとして初めて「チルトアップ機構付電動パノラマ・ガラス・サンルーフ」が設定された

走りの実力は?

 いかにターボ付きとはいえ、1.7tに迫る重量の持ち主を2.0リッター4気筒のエンジンで余裕をもってスムーズに走らせることができるのか?

 その答えは「場面によってはYESであり、そして場面によってはNOでもある」というのが率直な印象だった。

 街乗りで多用される程度の緩い加速のシーンでは、不満を感じさせられることはもちろん皆無。こうしたシチュエーションでは、使用するエンジン回転数もせいぜい2000~2500rpm止まりだから、そのノイズもほとんど耳に届かず、「4気筒だから」というマイナス面を実感させられることまずない。

 一方でこのモデルの場合、それなりに強力な加速力が得られるのは2500rpmから上の領域で、それゆえ前出のエンジン回転数の範囲程度では、さして強力な加速が得られないのも事実。

 となると、まず惜しいなと思えたのはパドルシフトの不採用。S60には、オプションとしてもその設定がなされていないのだ。

 このモデルの場合、もうちょっと加速力が欲しいな、と感じてアクセルペダルを踏み加えても思い通りにキックダウンが行なわれず、エンジン回転数が上昇しないために「加速が物足りないナ」という印象に繋がる場面があった。それゆえ、「こんな時に任意で即座にダウンシフトが行なえるパドルシフトがあれば、きっと印象はグンと好転するはずなのに……」と、ちょっと口惜しく思えるシーンもあったもの。

 一方、こうして積極的なダウンシフトを行なった場合、優れた加速力が得られる半面で、エンジン回転数の上昇とともに耳に付きはじめるのが“4気筒ならでは”と言える少々雑味感の強いノイズ。

 S60の上質な見た目によりふさわしく、ライバル車が設定する6気筒エンジンモデルにも太刀打ちが出来る仕上がりを狙うのであれば、この先にはオーディオシステムの助けを借りて、より心地よい音質のエンジン音を演じるといったギミックの採用を考えてもよいのではないだろうか。

 ところで、今回の試乗では、ボルボが“4C”と呼ぶオプションの電子制御式可変減衰力ダンパーを装着したモデルと、それを装着しないベーシックな仕様の双方に乗ることができた。そして興味深いことに、少なくとも今回のメインフィールドとなった箱根のワインディングロードでより好ましいフットワークのテイストを味わわせてくれたのは、実は後者の方であった。

 FWDながら、タイトなターンからの立ち上がり加速などでも不足を感じないトラクションの能力や、そうした場面でのアクセル操作に大きく左右をされない安定したステアリングフィールなどは、いずれの仕様にも共通するS60の美点と言えるポイントだ。

 一方で、サスペンションストロークの豊かさや、よりフラットな乗り味の演出といった点では、“4Cなし”の仕様の方がより上をいく感触が得られたのだ。

 もちろん、走りのシーンによっては印象が逆転する可能性も考えられるし、乗車人数が大きく変わった場合などには、可変減衰力ダンパーを備えている方が有利な場面も考えられる。

 が、「個人的にはどちらを選択するか?」と問われれば、現時点では今回の試乗の結果を踏まえて、「“4Cなし”の仕様で一択」というのがその回答になる。

 いずれにしても、そんな走りのポテンシャルはもちろんのこと、価格や装備、そしてボルボの“社是”でもある安全に対する真摯な取り組みの姿勢などを考えると、メルセデス・ベンツの「Cクラス」やBMW「3シリーズ」、アウディ「A4」などに、これまでにない強敵が現れたことは間違いナシ――これが、日本に上陸したての新型S60を試乗しての結論ということになりそうだ。

河村康彦

自動車専門誌編集部員を“中退”後、1985年からフリーランス活動をスタート。面白そうな自動車ネタを追っ掛けて東奔西走の日々は、ブログにて(気が向いたときに)随時公開中。現在の愛車は2013年8月末納車の981型ケイマンSに、2002年式のオリジナル型が“旧車増税”に至ったのを機に入れ替えを決断した、2009年式中古スマート……。

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Photo:中野英幸