試乗インプレッション

ボルボ「S60」で展開するT4とT5、同じエンジンでも異なるキャラクター

優しい乗り味のT4、スポーティなT5

注目はS60 T4のレザーパッケージ

 ボルボ・カー・ジャパンはニューモデルの登場時に限らず、ときおり何らかのテーマのもとで試乗会を開催している。今回はひと通り出そろった「S60」と「V60」のT4、T5、T6、T8を揃え、もし乗っていないモデルがあればこの機会に乗って欲しいというのが主旨だ。そこでCar Watchでは、まだレポートしていないT4をメインに、購入検討の際に迷うであろうT5と乗り比べることにした。

 2020年4月時点におけるS60とV60のT4とT5の日本導入モデルのトリムレベルについて、S60はT4がMomentum、T5がInscriptionで、V60はMomentumとInscriptionがともにT5となっている。すなわち、T4の設定があるのはS60のみ。ちなみに人気のR-DESIGNはT6以上も含めまだ日本には導入されておらず、検討中のようだ。

 販売比率は概ねT5が50%、T6とT8が25%、T4が25%程度となっている。価格差はトリムレベルの違いもあってそれぞれざっくり100万円程度。Momentumは標準ではテキスタイルのシートのところ、今回の試乗車にも装着されていたレザーパッケージを選ぶと、Inscriptionのパーフォレーテッド ナッパレザーほど上等ではないにせよ、十分に質感の高い本革シートが与えられる。ご参考まで、これまでレザーパッケージでないとキーレスエントリーの設定がなかったのだが、2021年モデルからはテキスタイルにも付くようになった。

 販売戦略においては、特に価格的にも国産ラージセダンと大差ないところに収まるS60 T4は、セダンを乗り継ぐ傾向の高いセダンユーザー層に向けて、このところ次の選択肢が減って行き場のなくなった国産ラージセダンの代替えとして訴求していくとのことで、今後はT4の販売比率が伸びるものと見込んでいるという。

写真手前のS60は、2018年に稼動を開始したアメリカ サウスカロライナ州のチャールストン工場で最初に生産されたボルボ車。電動化を見据えた取り組みの一環として、ディーゼルエンジンのラインアップを持たない最初のモデルとなる
8年ぶりのフルモデルチェンジで日本には2019年11月に導入されたS60は、ダイナミックな走りと流麗なスタイリングを両立したモデル。ワゴンモデルの「V60」同様に全幅を先代比-15mmの1850mmに抑えることで、日本市場に配慮されたジャストサイズを実現。今回の試乗会では「S60 T4 Momentum」(489万円)と「V60 T5 Inscription」(614万円)に試乗。S60、V60のボディサイズは共通の4760×1850×1435mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2870mm
S60 T4 Momentum レザーパッケージ装着車のインテリア。上級モデルの90シリーズと同機能を有するフロントシートを採用し、マッサージ機能やベンチレーション機能(Inscription グレードに標準装備)など、快適装備を充実させている

扱いやすく性能的も不満なし

 念のためお伝えすると、前世代のT4は1.6リッター直列4気筒直噴ターボに6速DCTを組み合わせていたが、現行型は別物で、T5と同じ2.0リッター直列4気筒直噴ターボに8速ATが組み合わされ、ECUにより性能が差別化されている。

 スペックはT4が最高出力190PS/5000rpm、最大トルク300Nm/1400-4000rpmであるのに対し、T5は同254PS/5500rpm、350Nm/1500-4800rpmとやはりだいぶ上まわり、ピークパワーおよびトルクの発生回転数も少し異なる。JC08モード燃費値はT4が12.8km/L、T5が12.9km/LとなぜかT4が微妙に下まわるのだが、実走燃費はそんなことはないはずだ。

 標準のタイヤサイズはT4が225/50R17、T5が235/45R18のところ、試乗したS60 T4 Momentumには標準サイズのミシュラン「プライマシー4」が、V60 T5 Inscriptionにはオプションの235/40R19サイズのコンチネンタル「プレミアムコンタクト6」が装着されていた。なお、T4にも18インチや19インチの大径ホイールがアクセサリーで用意されている。

「T4」は最高出力140kW(190PS)/5000rpm、最大トルク300Nm(30.6kgfm)/1400-4000rpmを発生する直列4気筒DOHC 2.0リッター直噴ターボ「B420」型エンジンを搭載
「T5」は「T4」と同じエンジン型式ながらECUの変更を受けており、高回転域の優れたレスポンスと伸びやかなドライビングフィールが特徴。最高出力は187kW(254PS)/5500rpm、最大トルクは350Nm(35.7kgfm)/1500-4800rpmを発生

 2台を乗り比べた第一印象としては、むろんT5の方がパワフルには違いないが、T4でも十分だと感じた。T5と比べると数値的にはだいぶ低いとはいえ、190PSも出ているのだから考えてみると当然だ。性能的にも不満はなく、乗り心地も快適で乗りやすい。パワー感はだいぶ違って、T5の方が力強く立ち上がり、吹け上がりもシャープで気持ちがよいことには違いないものの、T4は低~中回転域の出力特性が適度に穏やかで、心なしか走りがなめらか。動力性能的にも上り勾配の連なる箱根路でもストレスを感じさせることもなく、非力な印象はまったくない。

 扱いやすいエンジンに加えて8速ATのシフトスケジュールの制御も秀逸で、上り坂で車速を維持させたり微妙に加速させたりしたいときなど、シーンに応じてドライバーの意図を先読みするかのように非常に的確にシフトを選択してくれる。アクセルをOFFにして再び踏み込んだときの反応もリニアで扱いやすい。

T4はT4らしく、T5はT5らしく

 今回はセダンとワゴンという違いもあるわけだが、17インチのT4と19インチのT5では、やはりフットワークの印象も少なからず異なる。ハンドリングが俊敏で走りにダイレクト感があるT5は、スポーティな走りを好む人向け。快適性も概ね十分に確保されているが、小突起や段差を通過したときにタイヤが発する音はやや強め。対するT4はしなやかさが際立つ。ステアリングも軽く走り味が軽快で、アンジュレーションのある路面でも巧くいなして狙ったラインをよりトレースしやすいのも好印象だった。

 走りの楽しさではT5に軍配が上げられるが、かといってT4が物足りないわけでは全然ない。もともとの素性がよいので走りは十分に楽しめる。加えて、今回の2台について19インチのT5の方が俊敏性では勝るも、走りの一体感では17インチを履いても車体剛性面で有利なセダンボディのS60の方が心なしか上まわるように感じられた。かつてよりセダンとワゴンの走りの差が小さくなったとは言え、なくはないように思えた。

 どちらも気持ちよく走れる中でも、乗り比べると、やはりスポーティな運動性能を持つT5にはT5のパワフルなエンジンフィールが似合い、優しい乗り味のT4には扱いやすいT4のエンジンフィールが似合うように思えた。それぞれ全体としての調和がとれていて、T4はよりT4らしく、T5はよりT5らしく躾けられているというニュアンスだ。

 そう遠くないうちに、ボルボはマイルドハイブリッドの「B」が主体のラインアップなる予定であることはすでに報じられているとおりだが、現時点においてバリューと価格と性能のバランスを考え合わせると、S60のT4はなかなか魅力的な選択肢であることには違いない。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛