試乗インプレッション

史上最大級の衝撃作。ミッドシップ化された新型「コルベット」(C8)の実力やいかに?

FRでは実現できないコーナリング性能とトラクション性能

史上最大級の衝撃作“C8”

 間違いなく史上最大級の衝撃作のステアリングを早くも握ることができた。そう、新型「シボレー コルベット」の試乗がいよいよ実現したのである。

 これまで貫いてきたフロントエンジン・リアドライブのレイアウトを、ミッドエンジン・リアドライブへと転換した通算8世代目の“C8”。なぜ今、このタイミングでミッドシップなのかと言えば、それは純粋にパフォーマンス面の要求だという。開発陣によれば、先代C7の開発でFRの限界に到達したという認識があり、それを凌ぐ性能、そして感動のためには次のステップに進むしかないと考えたのだそうだ。

 トラクションの確保が最大の目的ならフロントエンジンの4WDでもよかっただろうが、それは重量の面で却下されたという。次はミッドシップでいくということはC7がデビューするころには決定しており、実際に最初のテストカーはその登場翌年の2014年には走り始めていたそうである。

 ミッドシップならではのキャビンフォワードとなったボディは、鋭角的なデザイン処理や水平面を持ったリアデッキ、4連テールランプといった固有のデザイン要素を採り入れることで、ひと目見ただけですぐに「新しいコルベットかな?」と認識させるものになっている。C7に比べると若干派手というか、おもちゃっぽい感じはなきにしもあらずだが、東京オートサロン2020に展示されていた車両の塗色「ゼウスブロンズメタリック」のようなボディカラーを選べば、大人っぽくも乗れそうだ。

2019年に米国で世界初披露されたシボレーの新型「コルベット」。本稿では米国での試乗レポートをお届けする
新型コルベットのボディサイズは4630×1934×1234mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2722mm。重量は1530kg。C8のミッドシップに搭載されるV型8気筒 6.2リッター直噴エンジンは、最高出力369kW(495HP)/6450rpm、最大トルク637Nm/5150rpmを発生。トランスミッションにはTREMECと共同開発した8速DCTを採用し、専用DCTによる素早いシフトチェンジを生かせるように新型V8エンジンのトルクカーブを最適化したという
東京オートサロン2020で公開された新型コルベット。ボディカラーは「ゼウスブロンズメタリック」。なお、日本では1月10日より予約受付を開始し、販売予定価格は「2LT」が1180万円、「3LT」が1400万円。デリバリー開始は2021年春を予定する

 インテリアも、やはりこれぞコルベットという世界。運転席と助手席は明確に隔てられ、コクピット側には計器用、インフォテイメント用のデジタルパネルが2枚並ぶ。異型のステアリングホイールの上側をカットしたのはヘッドアップディスプレイを含む前方の視認性のため、下側は乗降性のためと説明されている。

 実際、ドライバー前下方の視界が抜群に開けているのも特筆すべきところだ。フロントにエンジンがない分、スカットルは25mm低く、着座位置が600mm前進しているのも相まってのこの視界は、まさにミッドシップカーならではのものと言える。

 すでに明らかにされている通り、日本仕様はコルベット初の右ハンドルでの導入となる。今回、実物を見ることはできなかったが、開発陣、デザイナーによれば妥協のない作り込みによりその完成度には自信を持っているとのこと。早く試してみたいところだ。

コクピット側に計器用、インフォテイメント用のデジタルパネルが2枚並ぶインテリア。ドライバーモードは「Weather」「Tour」「Sport」「Track」「マイモード」に加え、ドライバーがエンジンとトランスミッションの調整を行なうことも可能な「Zモード」も用意される

 当然ながら車体は完全新設計で、軽量・高剛性化を念頭にアルミニウム、マグネシウム、CFRPといったさまざまな素材を組み合わせたスペースフレーム構造をとる。中でもセンタートンネルやロッカー、クラッシュボックスやAピラーなど広範な部分に使われたアルミ押し出し材の貢献度は大きいという。車重はカタログ値で1530kgとなる。

 サスペンションは同じ4輪ダブルウィッシュボーンという型式ながら、スプリングが特徴的だったコンポジット素材製の横置きリーフから遂に一般的なコイルに置き換えられた。フロントはエンジンがない分、余裕が産まれ、リアはエンジンによってリーフを横に渡すスペースがなくなったというのも理由だろうか。

 ミッドへと搭載位置こそ変わったが、エンジンはV型8気筒OHVのいわゆるスモールブロックを継承している。排気量は6.2リッターで、最高出力495PS、最大トルク637Nmを発生する。OHVとは言っても決して旧態依然としたエンジンではなく、ガソリン直噴システム、ドライサンプ潤滑系、気筒休止機構などを搭載。ギヤボックスには初採用の8速DCTを組み合わせる。

新型コルベットでは軽量・高剛性化を念頭にアルミニウム、マグネシウム、CFRPといったさまざまな素材を組み合わせたスペースフレーム構造を採用

 今回のメインの試乗車はオプションのZ51パッケージを装着していた。タイヤが同じランフラットながら、標準のオールシーズンからサマーのミシュラン「パイロットスポーツ 4S」になり、サスペンションやブレーキ、電子制御のセッティングが変更され、「eLSD」と呼ばれる電子制御LSDを搭載する。分かりやすい識別点は、専用のフロントスプリッターとリアスポイラーが与えられた外装だ。日本仕様の2グレードは、ともにこれが標準となる。また、こちらも日本向けには標準装備となるマグネティックライドコントロールも装着されていた。

何と言っても快感なのはコーナリング

 試乗の起点はラスベガス市内のホテル。まず街を抜けて郊外の観光道路を走らせた。ボディは非常に剛性感が高く、横置きリーフ特有の突っ張ったような感触がないせいもあってか、サスペンションの動きもスムーズで、乗り心地は上々だ。ちゃんとアメリカンスポーツらしい、リラックスしたクルージングでの気持ちよさを失っていないことが確認できて、まずはホッとした。

 ハードウェアのクオリティ、洗練度にも磨きがかかっている。脱着式のルーフを外しての走行でも、もはや“ミシミシガタガタ”するようなことはない。この外したルーフはラゲッジスペースにすんなり収めることができる。ルーフクローズが前提なら容量はフロントの小さなトランクと合わせて約357Lにもなり、モノは選ぶがゴルフバッグ2セットを積み込むことができる。実用性も期待以上と言っていいだろう。

 エンジンはさすが大排気量でトルク十分。しかもシュワーンと爽快に回ってくれる。8速DCTも、これが初出とは思えないほど動作が滑らかだ。実は開発にあたってはポルシェのPDKを徹底的に研究したといい、2014年に走らせた最初の試作車には、まさにPDKそのものが積まれていたそうだ。

 さらにサーキットでの走行も試すことができた。エンジンは6500rpmまで一気に吹け上がり、その回転上昇にリニアにパワーを発生する。大排気量自然吸気ユニットならではの歓びだ。DCTの切れ味鋭い変速ぶりも、その魅力をフルに引き出している。

 何と言っても快感なのがコーナリングだ。ステアリングは最初、今どきの感覚ではスローにすら感じられるが、実はそのおかげで繊細で正確な操作が可能になっている。もちろん、旋回中はミッドシップらしく自分を中心に向きが変わっていくような感覚を堪能できるが、特筆すべきはその時のリアの落ち着きのよさだ。

 OHVのメリットであるエンジンの重心の低さが生きていて、コーナリング中どこかでグラっと傾いたり挙動が変化することなく、ピターッと安定した接地感がキープされる。しかもトラクション性能も抜群だから、出口が見えたら臆することなくアクセルを踏み込むことができるのである。

 まさに、このFRでは実現できないコーナリング性能とトラクションこそが、ミッドシップ化の一番のメリットであることは間違いない。ますます高まるパワーを、しっかり生かしきれるシャシーを開発陣は求めたのだ。しかも伝統のOHVユニットが、その低重心ぶりでミッドシップの弱点を薄め、旨味をさらに引き出している。このパッケージングには見事と言うほかない。

 現在、予約受付中の新型コルベットだが、発売は来春の予定で、まだしばらく先となる。しかしながら絶対に待つ価値はあると断言できる、まさに会心の1台だと報告しておこう。

島下泰久

1972年神奈川県生まれ。
■2019-2020日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。国際派モータージャーナリストとして自動車雑誌への寄稿、ファッション誌での連載、webやラジオ、テレビ番組への出演など様々な舞台で活動する。2011年版より徳大寺有恒氏との共著として、そして2016年版からは単独でベストセラー「間違いだらけのクルマ選び」を執筆。また、2019年には新たにYouTubeチャンネル「RIDE NOW -Smart Mobility Review-」を立ち上げた。