試乗インプレッション

待望の三菱自動車「ekクロススペース」「ekスペース」試乗。推しはターボ? 自然吸気?

 こちらを待っていた人も少なくないであろう、待望の「ekクロス」「ekワゴン」のスーパーハイトワゴン版がついに現れた。大きなポイントの1つは見てのとおりデザイン。姉妹関係になる日産「ルークス」と比べてもより個性が強く、「ekクロススペース」だけでなく「eKスペース」の鉄仮面のようなフロントフェイスもなかなか印象深い。ヘッドライトがeKクロスや「デリカ:D5」と違い下寄りの縦長タイプでなく、新たに設定されたアダプティブLEDヘッドライトはボンネット寄りの(一般的な)位置に変更されたのも大きな特徴の1つだ。

2月6日に正式発表された、三菱自動車工業の新型「eKクロス スペース(左)」「eKスペース(右)」は、3月18日までに約5000台の受注があり好調なスタートを切っている。左は「ekクロススペース T」(185万9000円)、右は「ekスペース G」(154万2200円)
新型「ekクロススペース」。フロントまわりの造形はekクロスを継承しているが、ヘッドライトは上の部分
「ekクロス」は下の縦の部分がヘッドライトで、上の部分はポジションランプ
新型「ekスペース」は、旧型ekスペースではなく現行ekワゴンのスーパーハイト版となる
「ekワゴン」はフロントグリルにメッキを採用

広さと質感に驚く

 とにかく広く開放的な車内は、あまりの広さと合成皮革やソフトパッドを用いた「プレミアムインテリアパッケージ」の質感の高さにあらためて驚く。視界もすごく良好だ。前席はセパレートシートとベンチシートが選べ、収納スペースも驚くほど充実している。ベースのekクロスとeKワゴンでは助手席のドア内張りの中に車検証や取扱説明書一式が収納できるようにされていたのに対し、こちらは助手席下の引き出しの二重底の下部に収められるようになったのも新しい。従来型でいちはやく採用したデジタルルームミラーの表示機能も充実しているし、薄く凹凸を設けたタッチパネル式のフルオートエアコンも使いやすくてよい。

ワイドな視界が広がる
ベンチシートタイプ
セパレートシートタイプ
助手席の下にある引き出しは2重底になっている
デジタルルームミラー
凹凸の少ないタッチパネル式エアコン操作部(グレードMは除く)

リアシート関連も進化

 両側スライドドアが欲しくてこちらを待っていた人も少なくないことだろうが、そのあたりもいろいろ進化している。まず、スライドドア開口幅が広くなったことは開けてみると明らか。助手席側のハンズフリーオートスライドドアはグレードGとTには標準装備され、さらにメーカーオプションで運転席側にもハンズフリーオートスライドドアが設定されたのも新しい。

大人でも体を横に向けることなく入れる開口部。子供をチャイルドシートに乗せるときにも重宝するポイント
320mmのスライド長がある後部席。一番前にすると運転席からでもチャイルドシートに座った子供のケアも可能
ほぼフラットな状態にすることもできる
最前部にすれば、大型スーツケース、中型スーツケース、ベビーカーまで搭載することが可能。最後部にしてもベビーカーは搭載可能。さらに後部席を倒せば自転車なども積むことができる広大なスペースとなる

 リアシートのスライド量がクラストップになるほど伸びて、最後端にすると足を組んでも余裕があるほど膝前が広々とするのも圧巻。逆に一番前にしてもなんとか座れるので、4人乗車でも大きな荷物を積めるようにするためかと思ったらそうではなく、スライドドアを開けた際にシートが真横にきて小さな子どもを乗せ降ろししやすいかららしい。さらには前席に座ったまま後席の子どものケアをしやすくなるというメリットもある。なるほど。

 後席用のサーキュレーターは従来よりも出っ張りが小さくなり、ナノイーからプラズマクラスターになった。また、eKクロススペースは荷室まわりがアウトドア用品を積んで汚れでも掃除しやすいようになっている。

プラズマクラスター内蔵ヤサーキュレーターはグレードGとTのメーカーオプションとなる
シートバックテーブルは助手席側はグレードGとTは標準装備。運転席側はメーカーオプションとなる

 装備については試乗した2台はともに、オプションの「先進安全パッケージ」と「先進快適パッケージ」が装着されていたほか、eKクロススペースには「後席パッケージ」が、eKスペースには「安心パッケージ」が付いていたのだが、eKクロススペースとeKスペースの装備やオプション設定は共通ではなく、それぞれのコンセプトに合わせて一部が差別化されており、必ずしもeKクロススペースがeKスペースよりも上位グレードとは位置付けられていない。購入検討の際は詳しく確認したほうがよい。

強風の中でも安定して走れた

 今回は2台連なって東京からアクアラインをわたり、房総をまる1日巡って内陸側から東京に戻ったのだが、総じて走りの印象は上々だった。いずれも2WDのためサスペンションセッティングは共通となり、タイヤのみ銘柄は共通ながら14インチと15インチという違いがあるのだが、いずれも印象がよかった中でも、ざっくり14インチのほうがロール感はやや大きめながら乗り心地がよく静かで、15インチは操舵応答性がよく走りに一体感があるなど、セオリーどおりの違いはあるにせよ、どちらも予想以上に操縦安定性に優れた点では共通していて、高速巡行も快適にこなしてくれた。

ekクロススペースはグレードMのみ14インチ、グレードGとTは15インチ
ekクロスは全グレード14インチ

 実は取材日はアクアラインが通行止めになるほど千葉県下は強風に見舞われていたにも関わらず、その頃はわれわれは別の高速道路を走っていたのだが、見た目のイメージとは裏腹に、思ったよりも安定して走れたことにはちょっと感心した。さらに「マイパイロット」をONにすると、車線を維持するよう制御するので、強い横風にあおられても修正舵を適宜あててくれるのでラクに走れることも確認できた。マイパイロットが強風時にも非常に役に立つスグレモノであることが分かったのも今回の収穫だった。

マイパイロットのボタンは、ステアリングの右側に配置される

 また、前走車との車間距離を保つ機能についても、ベース車であるekクロス、ekワゴンが少々もたつきを感じたのに比べると心なしか改善しているようで、発進こそやや鈍いものの、走り出してしまえばあまりストレスを感じることもない。気になった点としては、減速がやや急なことや、相変わらずいきなりフェイルしてなかなか復帰しないことや、ステアリングホイールを持っていても警告が頻繁に出ることなどが挙げられ、改善に期待したいところだ。

 そういえばベースであるekクロスの4WDに乗った際、乗り心地の硬さが気になったことを思い出した。今回ドライブした2WDの乗り心地は十分に快適だったのだが、4WDの乗り心地がどうなのかも、メカニズム的には共通性が高いので気になるところ。また、eKクロススペースには2WDも含めグリップコントロールほかアウトドアユースで頼りになるデバイスが設定されている。これらについても改めて別の機会ぜひ試してみたい。

乗りやすさでは自然吸気

 ターボエンジンと自然吸気エンジンをとっかえひっかえドライブした印象としては、むろんターボのほうが圧倒的にパワフルではあるが、乗りやすいのは自然吸気のほうだ。どちらもダイレクト感を出してドライバーが操る楽しさを感じられるようにしていることが見て取れるが、ターボはアクセル開度の小さい領域で踏んだ以上に加速する傾向があるのに加えて、アクセルOFFにしても過給が残り、そこから一気にエンブレが効くので、加減速時にややカクカクする印象もある。その点、自然吸気はおおむねリニアで、60km/h程度までの加速であればあまり非力な印象もない。

パワートレーンは直列3気筒DOHC 660ccの自然吸気エンジン。トランスミッションはCVTのみとなり、どちらもモーターを組み合わせたハイブリッドシステムとなる。自然吸気ユニットが最高出力52PS/6400rpm、最大トルク60Nm/3600rpm
同ターボユニットのスペックは最高出力64PS/5600rpm、最大トルク100Nm/2400-4000rpm。ハイブリッドのスペックは共通で、モーターは最高出力2.7PS/1200rpm、最大トルク40Nm/100rpm。駆動方式は2WD(FF)と4WDを設定

 とはいえ、どちらが好きかと聞かれたら迷わずターボだ。ひとクセあっても、やはり加速の力強さは魅力で、操る楽しさもある。レスポンスのよいパドルシフトも付く。高速道路でもあまりストレスを感じることはない。逆に市街地が主体で、ドライビングプレジャー的なものにそれほどこだわらず、乗りやすいほうがよいという人は自然吸気のほうが適する。ekクロスやekスペースではエンジンを回すとけっこう気になったパワートレーン系の音もいくぶん抑えられていて、静粛性もまずまずだ。

ターボ車のみ装着されるパドルシフトはレスポンスがよく運転が楽しくなる

 なお、ベース車のekクロスやekスペースではターボが選べるのはeKクロスのみで、従来型のekスペースもカスタムのみターボが設定されていたが、競合する多くのスーパーハイトワゴンと同様、eKクロススペースだけでなくekスペースでもターボが選べ、またekクロスやekスペースの一部に設定のなかったマイルドハイブリッドが全車に搭載されたことも念を押しておこう。

 全体としては印象は上々だった。ライバルも強力だが、eKスペースシリーズの強みはとにかくデザイン。そして走りのよさと、ほかをリードする先進運転支援技術だ。もちろん広くて使い勝手のよい室内空間は言うまでもなし。軽スーパーハイトワゴンの中でも異彩を放つ存在に違いない。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛