インプレッション

GM「コルベット(C7)」

動力性能、運動性能、快適性を高次元で両立

 この日が訪れることを、どのくらい心待ちにしていたことか。8年ぶりにモデルチェンジした、第7世代となる新型「コルベット(C7)」にようやく乗れる。

 今回の試乗会では、クーペの標準車(6速AT)と高性能なZ51の7速MTと6速ATが用意されていた。試乗を希望したのは走りの本命であるZ51の7速MTだ。

 歴代のどのモデルもそれぞれ印象に残るコルベットだが、C7のスタイリングはこれまでにも増して特徴的だ。美しいシルエットやエッジを効かせたボディーパネルの造形はもとより、4本ものテールパイプが並ぶマフラーやランプ類なども、よりそれを引き立てるアクセントとなっている。フードベントやリアインレットなど各部に開けられた穴は、レースから得たノウハウを活かしたものだ。

 すべてがドライバーを中心にレイアウトされたコクピットに収まると、先代のC6ではやや不満のあったインテリアの質感が大幅に高められたことをまず感じる。カーボン、アルミニウム、レザーを巧みに組み合わせた素材感は、これまでにはない感覚。フロントスクリーン越しに前方を見ると、かつてほど極端ではないものの、長いノーズとダッシュ上面よりもフロントフェンダーの上端が高く見えるコルベット独特の景色も健在だ。

今回試乗したのはZ51 クーペの7速MTで、ボディーサイズは4510×1880×1230mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース2710mm。7速MT車の車重は1570kg。Z51 クーペ(7速MT)の価格は1088万2000円、Z51 クーペの6速ATは1099万円となっている。ボディーカラーはトーチレッド。クーペ/Z51 クーペは4月12日、コンバーチブル/Z51 コンバーチブルは5月24日に発売を開始する予定
C7コルベットは先代と比べ45kg軽く、57%剛性を高めた「新アルミニウムフレーム」を採用するとともに、カーボンファイバーボンネットの採用など軽量化を積極的に推し進めている。Z51はブラックペイントのアルミホイール(フロント19インチ、リア20インチ)を標準装備し、ミシュラン「パイロットスーパースポーツ」(フロントP245/35 ZR19、リアP285/30 ZR20)を組み合わせる
標準車、Z51ともにV型8気筒OHV 6.2リッター「LT1型」エンジンを搭載するが、Z51ではパフォーマンスエキゾーストシステムの採用により、標準車よりも若干スペックアップして最高出力343kW(466PS)/6000rpm、最大トルク630Nm(64.2kgm)/4600rpmを発生。その一方で「気筒休止システム」を備え、必要に応じてV型4気筒エンジンとして動作することでクルージング時の燃費性能を高めている

 エンジンを始動するときに発する豪快なサウンドが、まず高揚感を掻き立てる。同時にメーターパネルの表示による演出も楽しめる。先進技術を採り入れたV型8気筒OHV 6.2リッター「LT1型」エンジンは、Z51では標準車よりも4kW(6PS)/6Nm(0.6kgm)高い343kW(466PS)/630Nm(64.2kgm)を発生する。0-60マイル加速は実に3.8秒というから相当な速さだ。これだけの排気量があるのだからトルクは十分。それでいて、回すと高回転型のスポーツユニットのように、勢いを最後まで衰えさせることなく6500rpmまで一気に吹け上がる。音質は往年のアメリカンV8っぽい感じではなく現代的なものだ。

 一方で、条件が整うと4気筒となり、低燃費で走行できるようになったのもC7の特徴だ。大人しく流していると、どこで4気筒になっているのか感覚としては分からないほど巧みに制御が行われることにも感心した。

 7速MTのシフトフィールは小気味よい節度感があり、とても扱いやすい。シフトチェンジ時にエンジン回転数を自動で合わせる「アクティブレブマッチング」機能が搭載されたのも特徴だ。

 そして乗り心地が洗練されている。先代C6のハンドリング性能はなかなかのものがあったが、後年のモデルでは多少は改善されたとはいえ、乗り心地はあまりよろしくなかった。せっかくの極太タイヤも、少しでも路面が荒れているとバタついて接地性が損なわれがちとなっていた。ステアリングの剛性感も乏しく、操舵フィールは正確性に欠けた。ところが、それら気になった部分がC7ではほぼ払拭されている。

 OEMタイヤのサイズが一気に細められたのもC7の大きな特徴の1つ。その主な目的は燃費にあるようで、見た目は太いほうがカッコイイことには違いないとは思うが、ドライバビリティにおいても、よい結果をもたらしたように思う。

 最近では、欧州の高価なハイパフォーマンスカーも軒並み運動性能と快適性を高次元で両立させている例が多いのだが、コルベットも彼らと対等に張り合える走りのクオリティを手に入れたといえる。

ジェットブラックカラーのスポーティなインテリア。Z51 クーペのみヘッドライナー、サンバイザー、ウインドーシールド&リアウインドー上部、Aピラートリムなどがスウェードになる「スウェーデッドマイクロファイバーラップドアッパーインテリアトリム」を採用
ステアリングもスウェードに
7速MTは、シフトチェンジ時にエンジン回転数を自動で合わせる「アクティブレブマッチング」機能を搭載
ドライバーモードセレクターを備え、WEATHER/ECO/TOUR/SPORT/TRACKの5つの走行モードから選択できる。モードによってステアリングアシスト量やスロットルレスポンス、トラクションコントロール、ATシフトモード、エキゾーストモードなど最大12の機能を最適にセッティングする
中央にタコメーター、左側に330km/hまで刻まれるスピードメーター、右側に水温&燃料計が備わる
走行モードによってディスプレイの表示を変更でき、WEATHER/ECO/TOURではディスプレイテーマが「Tour」(写真左)に、TRACKではGMのモータースポーツチーム「コルベットレーシング」からアイデアを得たデザイン「Track」(写真右)になる。SPORTモードも専用デザインを表示
Z51 クーペだけが標準装備するスウェーデッドマイクロファイバーインサート付コンペティションスポーツバケットシート
こちらはZ51 クーペ(6速AT)のインテリア

ウェット路面で感じた理想に近い走り味

 今回はセミウェット路面での試乗となったが、おかげでクルマのよさをより実感することができたように思う。

 ドライブしてまず感じるのは軽さだ。加えて動きがとても素直で、かつソリッドな印象を受ける。アルミフレームの採用等による軽さと高いボディー剛性、50:50を実現した前後重量配分など、すべてが走りに効いているようだ。

 先代C6もドライ路面では相当なパフォーマンスを期待できたが、こうした状況ではかなり気を使ったのは否めない。あれほど太いタイヤを履いていても、抑え気味に走らざるを得なかった。

 ところがC7では味がだいぶ違う。接地性が高く、ウェットグリップが確保されているので安心して攻めていける。滑りを抑える電子デバイス類も、ドライビングを妨げない範囲で非常に的確に作動するし、Z51に標準装備される電子制御LSDも効果的に働いていることに違いない。

 マグネティックライドコントロールによる足まわりは、運転操作に対して自然な挙動を実現していて、とても素直に動くところもよい。それらが統合的に効いて、刺激的でありながら非常に快適で安定しているC7の走りは、現代のスポーツカーとして理想に近いものだと思う。

 5つの車両特性モードが設定された「ドライバーモードセレクター」を切り替えると、走り味が大きく変わる。これに合わせてインパネのディスプレイの表示も3タイプの相応しいものに変わるところも面白い。奏でるエキゾーストサウンドも2段階に変わる。

 Z51 クーペだけに装備される「コンペティションスポーツバケットシート」の着座感も良好で、過度にきつくなく、横Gをものともしないホールド感があり、とても気に入った。一方、標準車の「GTバケットシート」のホールド感も予想したより高く、十分にスポーティだ。

 そんなC7が走る姿を外から眺めると、意外と小さく見えるように感じるとともに、まるでハリウッド映画に出てくる何かに変身するクルマのような、周囲の景色から浮いて見えるような感覚を覚えた。そのうち見慣れるのかもしれないが、当面は見るたびに振り向いてしまいそうだ。世界的にも一流のパフォーマンスと、現代的に洗練されたドライバビリティを持ち、それでいて欧州の高性能車に比べて圧倒的に価格が安いところも、歴代モデルともどもコルベットの特筆すべき点だ。

 とにかくC7の実力の高さとGMの底力を大いに感じた、ワクワクしっぱなしのひとときであった。正真正銘アメリカンリアルスポーツの新たな歴史が始まったことを、心より歓迎したい。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:中野英幸