インプレッション
アウディ「A8 L 4.0 TFSI quattro」「A8 3.0 TFSI quattro」
Text by 河村康彦(2014/4/29 01:01)
アウディのフラグシップ・セダンが先進装備を手に入れて大幅リファイン
2013年までに7年連続という新車販売の成長を達成し、「2014年には年間3万台の新記録を目指す」と意気込むアウディ。コンパクト・モデルの「A1」や、「Q3」&「Q5」といったSUVシリーズの拡充などが既存モデルの台数を上乗せし、日本のみならず世界各地で記録的な好成績を挙げ続けている。そんなアウディブランドの頂点に立つフラグシップ・セダンが、初代モデルの誕生から今年で20年となる「A8」だ。
ここで紹介するのは、3代目モデルの登場から約4年というタイミングで大幅なリファインが加えられた最新バージョン。標準とロングという2タイプのボディーに「ハイブリッド」を含めた5種類のパワーユニットで構成され、ターボ付き2.0リッター直列4気筒の“ダウンサイズ・エンジン”に最高40kW≒54PSを発するモーターを組み合わせたハイブリッド仕様を除いては、すべてアウディが得意とする4WD“クワトロ”シャシーを採用するというモデル構成も、ライバルには見られないA8ならではの特徴になる。
外観からでは判断出来ないが、ボディー骨格に「ASF(アウディ スペース フレーム)」と称されるアルミのスペースフレーム構造を採用するのは、もはやA8の伝統と言ってよいポイント。ハイブリッドも含めたすべてのパワーユニットは、いずれもトルコン方式の8速ステップATと組み合わされる。
トップグレードであり、アウディブランド全体のイメージリーダーとしての役割も担うW型12気筒エンジン搭載モデルやV8エンジン搭載モデルには、車載のスピーカーから逆位相の音を発してノイズレベルを低減させる「ANC(アクティブ・ノイズ・キャンセレーション)」を標準採用する。もちろん、そのほかにさまざまな快適装備や安全装備群を用意しており、まさにフラグシップ・セダンに相応しい内容の充実ぶりだ。
そんなモデル構成のなかから、今回おもにテストドライブを行ったのは、標準仕様より全長とホイールベースが130mm長いロングボディーに、従来型比で15PSの最高出力の上乗せを謳う4.0リッターのツインターボ付V型8気筒エンジンを組み合わせた「A8 L 4.0 TFSI quattro」と、3.0リッターのスーパーチャージャー付きV型6気筒エンジンを搭載する「A8 3.0 TFSI quattro」の2タイプ。販売の中心もこのあたりの仕様となりそうだ。
一見しての雰囲気は従来モデルとよく似ていて、凛とした佇まいが不可欠なフラグシップ・セダンではありつつも、ルーフからリアエンドにかけてのラインにクーペ風のカジュアルさも漂うなど、フォーマルさとカジュアルテイストを巧みにブレンドさせた佇まいの持ち主であるA8。そうしたなかで最新モデルの特徴は、まず採用するランプ類にLED技術を惜しげもなく投入した点にある。
走り去る姿を印象付けるリアコンビネーションランプには、左右で94個ずつものLEDを用いた独自のグラフィックを採用。ブロックごとの点灯開始タイミングに150ミリ秒というわずかな差を与えることで、各国の法規をクリアしながら流れるような表示を実現させる「ダイナミック・ターンシグナル」の新採用もトピックだ。
A8 3.0 TFSI quattroグレードではオプション設定に留まるものの、LEDヘッドライトに新たな技術を採り入れたのも注目点。「自動車用ライトの歴史に新たな一章を切り開く」とアウディ自身が紹介する「マトリクスLEDヘッドライト」は、照射方向が緻密に計算された片側25個のハイビーム用LEDを必要に応じて消灯させることで、先行車や対向車の眩惑を回避しながら、ハイビームとしての照射時間を可能な限りキープし続けるという技術。
実はアウディでは、かねてからル・マン用マシンなどでLEDヘッドライトの技術を磨き続けてきた。すなわち、新しいA8で量産モデルへの初採用が実現したこのアイテムは、レースというイベントが現代でもまさに「走る実験室」であることを示す典型的な例と言えるわけだ。
多気筒エンジンらしい緻密なパワーフィールもあと一歩の“サジ加減”が欲しい
まずは、いかにもフラグシップ・セダンらしい雰囲気を放つロングボディーのV8モデルに乗り込んでみる。
アウディ各車が持つインテリアの仕上がりレベルの高さはすでに定評のあるところ。そのなかでもA8はフラグシップ・モデルだけあって、周囲を見渡すと各部の質感の高さはさすが超一級と実感できる。格納時にはその存在を完全に忘れさせるリトラクタブル式の純正ナビディスプレイは、サイズがやや小振りに感じられる点にわずかばかりの“時の流れ”を覚えるものの、この質感の高さはメルセデス・ベンツが新型「Sクラス」というライバルを投入した今になっても、決して引けを取っていないと実感させられる。
早速スタートを切ると、まずは「さすがに静粛性が素晴らしい」というのが走りの第一印象。多気筒エンジンの持ち主らしい緻密なパワーフィールも、もちろん大きな美点と感じられる。
ただし、速度が高まっていくと前輪側からゴロゴロとした感触が伝わりやすく、路面の凹凸を拾ったときのフロア振動もやや収まり難い印象だ。ロング化されたボディーの持ち主は、ベース車に対してどうしてもボディーの剛性感が低下する場合が少なくないが、残念ながらこのモデルの場合にも、そうした感触がやや感じられるのだ。
加えて、テスト車がコンチネンタルの「スポーツコンタクト5」という“スポーティなシューズ”を履いていたことも、そうした傾向を後押ししていたように感じられた。また、アイドリング・ストップから復帰してアイドリングが再開した一瞬あとに、やや尖った波形でクリープ力が立ち上がってしまったり、低速ギヤでは意外にも明確なシフトショックが認められた点などにも、フラグシップ・セダンとしてはあと一歩の“サジ加減”が欲しいところだ。
タフネスな走りと際立ったハイテク・イメージがA8の強み
というわけで、走行性能面でいくつかの注文を感じたV8モデルから、V型6気筒エンジンを積むA8 3.0 TFSI quattroへと乗り換えると、実は遥かに強く好印象が得られたのはこちらだった。
確かに、回転数が高まったときの緻密なエンジンフィールでは8気筒ユニットに敵わない。だが、メカニカル・スーパーチャージャーが加えられたこちらの6気筒ユニットも、低回転域から大いにトルクフル。たとえ高速道路の本線合流といった強い加速力が必要とされるシーンでも、さしたる高回転まで回す必要に迫られない。結果、「静粛性全般はこちらでも十分に高い」と、ハナシはこのように続くのだ。
フラットトルクで軽やか、かつパワフルに回るエンジンのみならず、フットワークの印象もこちらのほうがより強い好印象が得られた。前出の8気筒モデルと同ブランドで同サイズというタイヤを履くにもかかわらず、こちらのほうがより軽やかで滑らかな乗り味が実感できた。これはエンジンとボディーが違うことによる車両重量の差とともに、ボディー剛性そのものの違いの影響もありそうだ。
そんなA8両モデルに共通した美点は、高速クルージング時に見せる圧倒的な安定感の高さ。そして、それがちょっとやそっとの悪天候程度には左右されないというタフネスぶりも、“クワトロ・システム”を採用するアウディ車ならではの強みということになる。
いかにも高度な工業製品らしい各部の精緻な仕上がりを実感しながら、ストレス要らずの高速移動を楽しめるのがA8の魅力。単なる高級車とはひと味違う際立ったハイテク・イメージを堪能させてくれるのが、アウディ発のこのフラグシップ・セダンというわけだ。