試乗レポート

マイチェンしたアウディ新型「Q5」、クワトロの血統が滲み出る高い運動能力と安定性

エントリーグレードの「40 TDI quattro advanced」に乗った

マイナーチェンジしたQ5に試乗

 アウディの中堅SUV「Q5」のマイナーチェンジが2月に発表された。かなり大きなマイナーチェンジで、エクステリアを中心にインテリアでは最新のインフォテメントシステムが導入され、「Hey Audi」で音声入力ができる。ナビやエアコンの温度設定も可能になった。また、「45 TSFI quattro」と「40 TDI quattro」には12Vマイルドハイブリットが搭載された。

 試乗車は「40 TDI quattro advanced」で価格は681万円。Q5のエントリーグレードだが装備は充実している。ボディカラーは珍しい濃い緑のディストリクトグリーンメタリック。目立つカラーだ。タイヤはコンチネンタルのSUV用「ContiSportContact 5」で、サイズは235/55R19を履く。夏タイヤに近いオールシーズンのようだ。

今回試乗したのは、3月8日に発売されたプレミアムミッドサイズSUV「Q5」のマイナーチェンジモデル。試乗グレードは「40 TDI quattro advanced」(681万円)で、ボディサイズは4680×1900×1665mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2825mm。外板色は新カラーのディストリクトグリーンメタリック
新型Q5のadvancedグレードでは、Q8が採用しているグリッド形状のグリルにマットアルミルックの力強い垂直ラインを採用。advancedにはS lineの要素を加えるplusパッケージを、また全車にAudi exclusiveによるブラックスタイリングパッケージをオプションとして用意。足下は5ダブルアームデザインの19インチアルミホイールにコンチネンタル「ContiSportContact 5」(235/55R19)をセット

 当日は風もなく暖かい試乗日和だった。2.0リッターのディーゼルターボはロングストローク(ボア81mm×ストローク95.5mm)で150kW(204PS)の出力と400Nmの大トルクを出し、重量1910kgのSUVにとっても余力のあるパワーユニットである。トランスミッションは7速デュアルクラッチ(Sトロニック)と組み合わされる。

40 TDI quattroは最高出力150kW(204PS)/3800-4200rpm、最大トルク400Nm(40.8kgfm)/1750-3250rpmを発生する直列4気筒DOHC 2.0リッター直噴ディーゼルターボエンジンを搭載し、ベルト駆動式オルタネータースターター(BAS)と12Vリチウムイオンバッテリーを用いたマイルドハイブリッドシステム(MHEV)を採用。WLTCモード燃費は14.5km/L

 エンジンをスタートさせると最初にブルブルとした振動があるものの、ガラガラしたディーゼルノイズはよく遮音されており、静粛性にもよく気を配られている。走り出してしまえば同乗者がディーゼルと気付くことはまずないはずだ。レッドゾーンは4750rpmに設定されている。まわす気になると4500rpmまで軽やかに伸びていき、なかなか元気のあるパワーユニットだ。

 室内音はリアから排気音とロードノイズが入り混じった音が入ってくるので、プレミアムクラスのとしてはもう少し抑えたいところだ。

インテリアでは最新のインフォテインメントシステム「MIB3」を初採用。10.1インチにサイズアップしたセンタースクリーンはタッチパネル式となり操作性を向上させるとともに、よりシンプルでクリーンなコクピットデザインを実現。「Hey Audi」と呼びかけるだけで音声入力が開始され、自然言葉によって目的地の入力やエアコンの温度設定などを可能にしている
インテリアカラーはオカピブラウン
後席は40:20:40の分割可倒式で、ラゲッジスペース容量は550L。最大1550Lまで拡大することが可能になっている

 80km/h巡航時のエンジン回転は1500rpmほどでユルユルと回る。高速道路での直進性はセンター付近のフィーリングは手応え感がありつつ少し広めに設定されており、高速直進時の反応は穏やかで緊張感なくハンドルを握っていられる。ちなみにランプウェイで遭遇するようなハンドルを切り込む場面では、しっかりと舵が効いてグーとまわり込んでいく。全てのクワトロに共通するドライバーに優しいステアリングフィールだ。

 7速Sトロニックはメリットとデメリットがある。メリットは加速時に限らずダイレクト感のある変速フィール。しかもエンジンの低速トルクが大きく、低回転で変速を繰り返しても変速ショックを感じない。

 デメリットは車庫入れなどの時にクリープが使えないので、微妙な速度調整にはちょっと神経を使う。また、登坂とコーナーの組み合わせのある山道などで変速を迷うタイミングもあり、アクセルの反応が遅くなることもあった。それでも滑らかな変速はDCTの制御の進化を感じさせた。

 いろいろ気付いたところも少しQ5と付き合っていると、ドライバーが自然にそれに合わせて反応しており、ディーゼルエンジンのトルクの立ち上がりの早さばかりを楽しんでいた。ディーゼルの分厚い低中速トルクは魅力で、市街地から山道まで実用性は高い。

 気になるのはアクセルとブレーキペダルの段差が大きいこと。最初にドライビングポジションを合わせる時に右足の位置に注意した。

 アウディドライブセレクトは出力特性やステアリング操舵力など全てを制御し、ドライブモードは「エフィシエンシー」「コンフォート」「オート」「ダイナミック」に加え、各モードから自分に合わせた操舵力やアクセル開度が選べる「インディビジュアル」がある。

「ダイナミック」はアクセルのツキがよくなり、早開き傾向になる。また、変速タイミングも変わってくるのでシャープなレスポンスが好みのドライバーには向いている。試乗は市街地、高速道路が中心だったのでメリハリには乏しいがお任せの「オート」を選択した。概ね快適に過ごすことができたのは、「オート」のオールマイティな性格付けのおかげだ。パンチはないが、のんびりと運転したい時に適しているモードだ。

 乗り心地はドイツ車らしく路面の凹凸を伝えるが、鋭いショックではなく、マイルドにいなしてくれる。硬めの設定は高速時の安定性を重視していることが分かる。ウネリ路面を高速で通過した時も4輪はしっかりと路面を掴んでおり、安定感は抜群だ。

 ハンドリングは素直なもので、カチリとしたスポーツ感はないが、4輪のグリップ力が高いだけでなく、ハンドルの追従性が高くて腰高なSUVのイメージはない。そこそこの速度でも気楽にコーナーをクリアできる。

取りまわしは苦にならない

 普段は顔を出さないが、ペースを上げるとたちまちクワトロの血統が滲み出て、高い運動性能力と安定性を現す。クワトロの血が底流に流れているのを感じる時だ。

 アウディは4WD乗用車への取り組みが早く、その威力をWRCで遺憾なく発揮した。クワトロ伝説の始まりである。その後、多くのメーカーが4WDをラインアップし、さまざまなシステムが開発され4WD技術は急速に進化速度が高まった。

 FFベースが主流の現在の4WDではオンデマンドタイプがスタンダードになっており、各システムとも必要に応じて後輪にもトルクを分配する。アウディもそれに則ったシステムを採用しているが、クワトロの矜持は単にオンデマンドにとどまらない。4WDの安定性を活かしつつ、後輪へのトルク分配をきめ細かく行なうことで運動性能を高めてクワトロの血統を守っている。

 また、システムが後輪へのトルク配分を必要しないと判定した時はプロペラシャフトの動力伝達をクラッチによって切り、さらにリアデフ内のデカップリングクラッチでドライブシャフトの伝達をも切り離すので、走行抵抗をさらに小さくしている。

 このような惰性走行中は、エンジンを停止して燃費も稼ぐ凝ったシステムを導入している。これには12Vのマイルドハイブリットシステムがエンジンの滑らかな再始動に活かされている。

 帰り道はステアリングコラム左に生えたレバーでACCを活用してのんびりとクルージングしたが、大きく重量感のあるQ5はこのような走りにも合っている。着座位置が高く視界が開けている点もリラックスできた要因だ。

 ちなみに40 TDI quattro advancedのボディサイズは4680×1900×1665mm(全長×全幅×全高)と幅広だが、狭い路の多い都内でも開けた視界で幅は掴みやすかったのと、意外と小まわりが効くので取りまわしは苦にならなかった。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:安田 剛