試乗インプレッション
アウディ「Q5 40 TDI クワトロ スポーツ」、品のいい走りと質感を楽しむのに最適な1台
657万円の車両価格はディーゼルを訴求したい“戦略的値付け”
2019年8月15日 08:00
アウディ ジャパンが着々と進めているディーゼル導入計画。2019年も後半にいくつものモデルが予定されているというが、まずは第1弾として2月に発売された「Q5 40 TDI クワトロ スポーツ」を長距離試乗に連れ出すことに成功したので、その印象をレポートする。
エントリーモデルのTDI
Q5 TDIに搭載される直列4気筒2.0リッターの電子制御コモンレール式ターボディーゼルエンジンは、最高出力190PS、最大トルク400Nmを発生。JC08モード燃費は15.6km/Lを実現している。酸化触媒コンバーター、尿素SCR(選択触媒還元)コーティングを施したDPF(粒子状物質フィルター)、アンモニア分解触媒コンバーターなどで構成された排気系に加え、高圧コモンレール式インジェクターや高低2系統のEGR(排出ガス再循環)など、エンジンそのものにも最新技術を投入することで、欧州排出ガス規制の「EURO6」や日本のポスト新長期排出ガス規制に適合。同時に、緻密に制御される可変ガイドベーン式ターボはディーゼルならではの大きなトルクを高レスポンスで提供するという。
そして、日本においてこのTDIの位置付けが「Q5のエントリーモデル」という点も興味深い。通常、ディーゼルモデルはガソリンモデルと比較して20万円程度は価格がアップしてしまう。しかし、Q5の場合はこれまでのQ5 45 TFSIクワトロの691万円よりも安い636万円での導入(試乗したクワトロ スポーツは657万円)となったのだ。スペック表を見る限り装備差はほとんどなく、安全運転支援システムに関しては同等と言っていい。つまり、アウディ ジャパンがいかにディーゼルを訴求したいかがうかがえる戦略的値付けであると言えるだろう。
精緻なデザインと広々と感じさせるインテリア
さて、今回テストに連れ出したのはQ5 40 TDI クワトロ スポーツと呼ばれるモデルで、ディーゼルに2つ設定されているグレードのうち上級のクルマであった。従って、バンパーやホイールなどはスポーティな仕上がりとなっている。なお、テスト車には「アダプティブエアサスペンション」(テンポラリースペアタイヤなどとセットで30万円高)が装備されていた。
ゆっくりとクルマに近づき眺めていると、最近のアウディデザインの特徴であるフェンダーを意識させるような造形に気付くだろう。Q5では前後フェンダーあたりでキャラクターラインの曲率を変えることで、そこに目を向けさせているのだが、この理由はアウディの4輪駆動「クワトロシステム」を強調しているのだ。最近はよりその傾向が強くなり、ブリスターフェンダーなどを用いて意識させるようになっている。
そのキャラクターラインをはじめ、デザインの細かい部分まで精緻に作られているので、将来にわたって飽きの来ないデザインだと感じられた。
ドアハンドルを引いて室内に入ると、センターコンソールの低さに目が行く。ここが高いほど高級感があるというイメージがあるようだが、Q5はあえて低くした。その結果、インパネまわりの横基調デザインと相まって、横方向の広々感がよりいっそう感じられるのだ。実際に長距離を走っていると、この横方向の解放感と高いアイポイントは何にも代えがたい魅力に感じた。
シートポジションを合わせ、シートベルトを締めてセンターコンソールにあるスタート/ストップボタンを押す。クリック感のある気持ちのいい触感はアウディならではで、これは他のスイッチ類も同様だ。とくにダイヤル式のものはカチカチと気持ちのいいクリック感が伴い、ついついステアリングのスイッチで操作できるものも手を伸ばして操作したくなった。
さて、エンジンをかけると、カラカラというディーゼル特有のノイズが耳に入る。車外で聞くとそこそこのボリュームはあるようだが、室内ではそれほど気になることはない。もっとも人間は慣れるもので、最初こそ耳についたが、以降は耳障りだと感じたことはなかった。
アイドルストップは難ありだが、それ以外は快適に
さぁ、これから2700kmに成らんとする取材旅行に出発だ。今回は東京を出発して京都、四国をまわり、その後は箱根経由で日光まで行くという強行スケジュールだった。その取材に最適なモデルを連れ出すべく画策した結果、足が長いディーゼルであることや“そこそこ”のボディサイズであることからQ5を選んだ次第である。
走り始めての第1印象は、若干ばね下が重いものの落ち着いて快適な乗り心地だった。タイヤサイズが標準装着の235/60R18から235/55R19(テスト車はコンチネンタルコンチスポーツコンタクト5を装着)と変更されていたことが要因で、もし標準タイヤであればさらに快適性は高まったことだろう。このあたりは微妙な選択で、確かに19インチのほうが見た目はスポーティになるので、迷いたくなるものだ。個人的にはより乗り心地のよさを求めて18インチを選択するだろう。
京都市内は比較的細い路地や一時停止がとても多い。そこでのQ5の印象は、若干全幅が気になるものの、取りまわしにおいてそれほど苦労はしなかった。しかし、アイドルストップに関しては少々難ありと言わざるを得ない。一時停止などで徐行しながら停止線に接近してブレーキを踏むと、停止直前にアイドルストップが介入してエンジンストップ。安全を確認して発進しようとするとワンテンポ遅れてエンジンがスタート。これが頻繁に繰り返されると、さすがに煩わしくなる。最近では両方向一時停止という交差点もあり、相手に譲られて早く走り出したいのに、とっさにスタートできなかったというシーンも多発。かつ、再始動時にはそこそこの振動も伴う。
そこで、こういった場合にはアイドルストップを解除して走行するようにした。短時間のアイドルストップの繰り返しは環境に対して効果的ではない場合もあるので、思い切ってOFFにしてしまった方がストレスもなく、スムーズな走行が可能になるだろう。できるならばそのON/OFFがステアリングスイッチあたりでできればなおいいと感じた。
実は街中で気になったのはそれくらいで、信号が青に変わってからのスタートダッシュはディーゼルのトルクにものをいわせて、京都のタクシーの前に出るのは容易だし、四国の山の中ではくねくねとしたワインディングも楽しめる。そういったシーンで「ドライブセレクト」を「ダイナミック」に設定すると、ステアリングと7速Sトロニックトランスミッションの設定が変わり、かなりきびきびとした印象に一変する。しかもエアサスペンションもより引き締まり、まるでアイポイントの高いスポーティカーをドライブしているような印象だった。
ちなみにエアサスペンションではリア側のみだが車高を下げることができるので、重い荷物の積み下ろし時は便利であった。
上品で快適な高速移動
高速道路でのQ5 TDIのマナーは上品で、快適のひと言に尽きる。決してハイパフォーマンスではないものの、必要にして十分なトルクとパワーを備え、クワトロシステムにより直進安定性も良好だ。シートも快適でロングクルーズをたびたびこなしても、体のどこかが痛くなったりだるくなったりすることもなく、翌日も淡々とドライブすることができた。
乗り心地に関しても足まわりはダンピングの効いたもので、冒頭にも書いたとおり、若干ばね下の重さは感じるものの、よくできたシートと高いボディ剛性によってロングドライブを何事もなくこなせるだろう。
一方、安全運転支援システムに関しては1世代前のものなので、最新のシステムを知っていると若干古さを感じざるを得ない。しかし、そうと知らずに乗れば「アクティブクルーズコントロール(ACC)」や「レーンキープアシスト(LKA)」は大きな誤作動なく使用できる。
ただ、唯一他車では見られない例として、片側1車線での右折時に、対向車も右折してきた場合に正面衝突しそうだと認識してブレーキが作動してしまうことがあり、後続車や対向車を驚かせることがあったので、このあたりはより日本の道路事情に応じたセッティングを期待したい。
もう少し伸びてほしい燃費
最後に燃費について触れておこう。およそ2600km走った結果としては、
・市街地:11.5km/L
・郊外路:13.9km/L
・高速道路:17.5km/L
であった。
本音ではもう少し伸びてもいいかなという気もする。その理由は、首都圏以外の流れのいい一般道や高速道路が走行の大半を占めたからだ。しかし、どんなに混んだ渋滞でも10km/Lを割らないのは優秀と言っていいだろう。そこで高速道路や郊外路での燃費を伸ばすために、トランスミッションにはぜひ8速Sトロニックあたりを望んでおきたい。
競合あふれるSUVセグメントの中で、Q5 TDIは少し上質でプレミアムなポジションを獲得していると言える。装備はもとより、実際に走らせてもその印象は変わらない。確かにエンジンや安全運転支援システムは若干古めの印象はぬぐえないが、それを補って余りある品質感の高さがあるからだ。長距離走行を頻繁にこなし、その移動時間でゆったりと品のいい走りと質感を楽しみたいならば、このQ5 TDIは最適な1台と言えよう。