試乗インプレッション

小さくてもラグジュアリーなSUV「DS 3 クロスバック」、乗れば乗るほど心をつかまれる優しい紳士のような1台

直列3気筒 1.2リッターターボ+8速AT、その乗り味は?

 大都会・東京の中でもとくに感度の高い人たちが集まる街、代官山。これまで、この街で新型車の試乗会が開催された記憶はないのだが、会場に入った瞬間に「なるほど」と納得してしまった。これ以上のマッチングはないくらいに、周辺の世界観と「DS 3 クロスバック」は溶け合っていたのだった。

 先に登場した「DS 7 クロスバック」の独創的なデザイン、イノベーションで私たちを完全に「一目置くべきブランド」として釘付けにした新生DSだが、その第2弾モデルというだけでも、期待は胸いっぱいに膨らんでいた。ただ、ボディサイズが全長4mほどのBセグメントSUVだということで、第1弾の時ほどのインパクトはないかもしれない、とも思っていた。でも、街ゆくオシャレな人々、ビルがひしめき合う凝縮した都会感、DS 3 クロスバック。このインパクトはすごかった。

ドアを開ければそこは豪華なミュージアム!?

 まず、彫刻的なデザインの妙によって、その佇まいにはまったくBセグメント感がない。フロントマスクは左右水平方向に翼が広がる「DSウィング」や、大小のクロームを散りばめた立体的なグリル、緻密に仕立てられたフルLEDのヘッドライトが堂々と未来を見据えた顔つきで惹きつける。ヘッドライトには、前走車や対向車の動きを解析して自動調光を行なう「DS マトリクスLEDビジョン」が搭載されているほか、デイタイムライトのドットはインテリアにあしらわれる「オペラ」と関連した「パールトップステッチ」模様となるなど、先進性だけでもデザインだけでもないところがDSらしい。

 サイドビューには、逆シャークフィンのBピラーにフラッシュサーフェイス処理されたリトラクタブルドアハンドルや、ブラックのホイールアーチが足下に逞しさを添えている。360度どこから眺めても、オリジナリティある美しさ。Bセグメントではまだ誰も成し遂げることができないままだった、真の「スモールラグジュアリー」が目の前にあった。

「DS 3 クロスバック」(ブルー プレミアム)。試乗車は「Grand Chic(グラン シック)」で、価格は404万円。ボディサイズは4120×1790×1550mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2560mm
立体的なフロントグリルの装飾やフルLEDヘッドライトなど、印象的なフロントデザイン
Grand Chicは18インチアロイホイールに215/55R18サイズのミシュラン「プライマシー4」を組み合わせる
サイドに深い彫りが入る
ディフューザーをイメージしたリアバンパー

 リモートキーを持ってクルマに近づくだけで“シャッ”と出てくるドアハンドルで室内へ入ると、やはりそこはミュージアムのような空間。フランス革命発端の地・バスチーユからインスピレーションを得たというインテリアは、ブロンズのファブリックがインパネを覆い、エアアウトレットがドアトリムと一体化しているのがユニーク。ダッシュボード中央にはルーブル美術館のガラスエントランスからインスパイアされたダイアモンドたちが輝き、腕時計の文字盤で有名な“クルー・ド・パリ”がシフトまわりにあしらわれ、少しでもそちら方面に興味がある人なら一瞬で心奪われるはず。もしそうでなくても、無意識のうちに心地いい刺激をくれそうだ。

DS 3 クロスバック Grand Chicのインテリア
ルーブル美術館のガラスエントランスからインスパイアされたダイヤモンドをイメージしたデザインが多様されるだけでなく、シフトまわりやステアリングのスイッチ、エンジンのプッシュボタンなど、至る所に“クルー・ド・パリ”のデザインがあしらわれる
メーターのデザインは、走行モードや好みによって変更可能
エアコンルーバーはドアトリム一体型となり、室内をよりいっそう広く見せている
ACCなどのスイッチはコラムタイプ

 ちなみにもう1タイプのインテリアには、「モンマルトル」という名が付いている。18世紀以降、マチスやルノアール、ゴッホ、ピカソという名だたる芸術家を虜にしたアーティストの街にインスパイアされた空間もまた、他のクルマには決して真似できないものである。

 今回はバスチーユに身を委ねると、なんとも言えず絶妙なフィット感のシートで無駄な力がスッと抜けてリラックスできる。2種類の異なる密度のフォームを部位ごとに使い分けて、独自の心地よさとサポート性を両立しているという。そして、インパネのデザインモチーフは斬新でも、どれがどのスイッチなのか、どこを触るべきなのかは直感的に分かるところが素晴らしい。タッチスクリーンやスイッチ類は、指先で軽く触れるだけで操作できるのでほとんど「押した感」がなく、最初はそれが逆に「あれっ?」と不安になることもあったが、これは単純に慣れの問題だろう。独特な感触のシフトレバーを動かし、いよいよDS 3 クロスバックで街へと走り出す。

シートは2種類の異なる密度のフォームを部位ごとに使い分け、包み込まれるような心地よさとリアルワールドでの走行におけるホールド性を両立。リアシートは分割可倒式で、折り畳むことによりラゲッジスペースは350L~1050Lまで拡大可能

18インチタイヤでも驚くほど優雅な乗り心地

 出足の軽快さから抑揚のつけやすい加速フィールのおかげで、街中のストップ&ゴーが単なる移動ではない特別な時間に変わる。最低地上高を185mmも確保しているとは思えないほど、低重心な落ち着きのある足さばきで安定感が抜群だ。これはやはり、このDS 3 クロスバックから採用されたPSAグループの基盤となる完全新設計プラットフォーム、CMP(コモン・モジュラー・プラットフォーム)の恩恵が大きいと感じる。軽量化はもちろん、エアロダイナミクス向上や低転がり性能、静粛性や低振動など大幅な性能アップを実現しており、将来的にPHEV(プラグインハイブリッド)など電動化パワートレーンのモデルもカバーするプラットフォームだ。

 そして、パワートレーンには直列3気筒 1.2リッターターボ+8速ATが搭載され、ベースグレードは17インチ、中間および上級グレードは18インチタイヤを履く。今回の試乗モデルは上級グレードだが、当たりは決して硬くなく、剛性感の方が勝る乗り味だ。3名乗車で出かけたが、強めの加速をした時などに3気筒ならではのブルブルとした振動が感じられるシーンはあるものの、それを補って余りあるのが、まるで感情を持つかのように応えてくれる、思い通りの挙動。これには新設計の8速ATがいい仕事をしているようで、とくに3つ選べる走行モードのうち「SPORT」を選択すると、ヒュンヒュンと爽快なレスポンスでどんどんこちらをその気にさせるのがうまい。かわりに「ECO」モードを選ぶと、まるでアクセルペダルに見えない壁ができたかのように、青信号で発進してもあっという間に前走車においていかれるくらい容赦なかった。でもこうしたメリハリがしっかりとしているクルマは、得てして飽きがこないものだ。

最高出力96kW(130PS)/5500rpm、最大トルク230Nm/1750rpmを発生する直列3気筒 1.2リッターガソリンターボ“PureTech”エンジンを搭載。組み合わせるトランスミッションはPSAのBセグメント初の8速ATを採用。WLTCモード燃費は15.9km/L

 1つだけ注意したいのは、街中でのUターンやバックでの車庫入れを試したところ、後方や斜め後ろの視界があまり確保できず、運転が苦手な人にはちょっと不安要素になりそうだというところ。ボディサイズは小さいし、最小回転半径も5.3mとそれほど大きいわけではないので、慣れれば問題にするほどではないかもしれないが、頭の片隅に置いておいてほしい。

 とはいえ、運転中の疲労やヒヤ汗、恐怖感をなくしてくれる先進技術はバッチリ揃っている。全車速追従機能付きACCと連動し、任意のレーンポジションをキープする「DS ドライブアシスト」や、歩行者もサイクリストも夜間検知もOKの衝突被害軽減ブレーキ「アクティブセーフティブレーキ」は、安全も1つのラグジュアリーだと考えるDSだからこそ、Bセグメントでも削ることなく装備されているものだ。

 デザインにひと目惚れして勢いで購入すると、毎日乗るうちに後悔することもあるものだが、DS 3 クロスバックは中身も驚くほど良心的な紳士。乗れば乗るほど信頼関係が育まれ、心を満たしてくれる優しさに気づき、これぞスモールラグジュアリーだと惚れ直すに違いない。そんな意外性も、DS 3 クロスバックの大きな魅力かもしれない。

まるも亜希子

まるも亜希子/カーライフ・ジャーナリスト。 映画声優、自動車雑誌編集者を経て、2003年に独立。雑誌、ラジオ、TV、トークショーなどメディア出演のほか、モータースポーツ参戦や安全運転インストラクターなども務める。海外モーターショー、ドライブ取材も多数。2004年、2005年にはサハラ砂漠ラリーに参戦、完走。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。17~18年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。女性のパワーでクルマ社会を元気にする「ピンク・ホイール・プロジェクト(PWP)」代表。ジャーナリストで結成したレーシングチーム「TOKYO NEXT SPEED」代表として、耐久レースにも参戦している。過去に乗り継いだ愛車はVWビートル、フィアット・124スパイダー、三菱自動車ギャランVR4、フォード・マスタング、ポルシェ・968など。ブログ「運転席deナマトーク!」やFacebookでもカーライフ情報を発信中。

Photo:安田 剛