試乗インプレッション

2代目に進化した「レンジローバー イヴォーク」、ブランド初のマイルドハイブリッドモデルをチェック

レンジローバーファミリーを名乗るにふさわしい見た目と走りの上質さ

“まるでコンセプトカー”のイヴォークが2代目に

 今を遡ること間もなく丸9年。2010年秋に開催されたパリモーターショーで公の場に姿を現した、初代「イヴォーク」を目の当たりにした時の衝撃は今も忘れられない。

 歴史を踏まえれば、SUVと言うよりは“4WDオフローダー専業メーカー”と紹介する方がピタリときそうなランドローバー。その作品群の中にあって、このモデルの1.6mそこそこという全高は「異例の低さ」とも言えた。そんな低全高とは逆に1.9mと広い全幅の組み合わせがもたらしたワイド&ローのプロポーションは、それまでの4WDオフローダーの世界では見ることのできなかった大胆なスタンスだった。

 後方へと向かうにつれて高さを増すベルトラインと逆に後傾したルーフラインの対比や、天地幅の小さなサイドのウィンドウ・グラフィックがもたらすちょっと“チョップドルーフ”風なシルエット。さらには大きく張り出した前後のフレアフェンダー形状なども、斬新なイメージに拍車をかけている。そんなこんなで、「まるでコンセプトカーがそのまま市販されたかのよう」にも思えたのが、初代イヴォークのエクステリア・デザインでもあったのだ。

 ランドローバーの作品でありながら2WD仕様が設定され、日本への導入こそ行なわれなかったものの、前述の低全高が実現させた空気抵抗の小ささ、2輪駆動ゆえの軽量さ、MTを用いることによる伝達効率の高さを掛け合わせることで、CO2排出量の少なさを謳ったことも特徴の1つだった。

 ヘビーデューティな作りによって比類なきオフロード性能の高さを実現させたかつてのランドローバー車が、それと引き換えに“極悪ネンピ”の持ち主でもあったことは、今では知る人ぞ知る逸話(?)にもなっている。ところが、そんな自身のやり方にあえて終止符を打ち、「これは自らのブランドで初めて持続可能性を意識して開発した」と言わしめたエコ・コンシャスな作品が、初代イヴォークというモデルだったのだ。

 ところが、そんな初代イヴォークが初のフルモデルチェンジを敢行し、2020年代が目前に迫った今という時代は、もはや空気抵抗や重量の低減程度では達成が不可能な、極端なまでに高い燃費性能≒CO2の低排出量が求められる時でもある。

 かくして、「12か月以内にはPHEV(プラグイン・ハイブリッドモデル)の追加を行なう」とのコメントを発表する一方で、ガソリンもしくはディーゼル・エンジン搭載の純エンジン仕様と同様のタイミングで日本に導入されたのが、「ランドローバーの作品としては初」と紹介される、今回テストドライブを行なったマイルド・ハイブリッドバージョンだ。

2代目となった新型「イヴォーク」に乗った

「17km/h以下まで減速するとエンジンを停止して回生力で蓄電。そのエネルギーを発進時に動力として活用することで、静かで効率的な走行を行ない燃費も向上する」と謳われるパワーユニットのシステム構成は、300PSの最高出力と400Nmの最大トルクを発生するターボ付き2.0リッター4気筒ガソリンエンジンに、48V方式のベルト駆動スタータージェネレーターを組み合わせたもの。

 スタータージェネレーターの出力はわずかに11kW(≒15PS)で、そもそも大出力の伝達には不向きのベルト駆動式ということもあり、加速時のエンジン負荷を減らす効果はあっても、EV走行を行なうまでには至らない。

 一方で、同じ簡易式ハイブリッドながらもよりオーソドックスな12V、もしくは24V方式に比べれば、より高効率で大きな燃費改善効果が期待できるのがこちらの48V方式。すなわち、「ちょっと気合いの入ったマイルドハイブリッド」とも言えそうなのが、2代目イヴォークが採用するシステムの概要なのだ。

今回試乗したマイルドハイブリッドモデルの「レンジローバー イヴォーク R-DYNAMIC HSE P300 MHEV」(801万円)が搭載する直列4気筒DOHC 2.0リッターターボエンジンは、最高出力221kW(300PS)/5500-6000rpm、最大トルク400Nm/2000-4500rpmを発生。これに48Vバッテリー、BISG(ベルト・インテグレーテッド・スターター・ジェネレーター)、コンバーターを搭載し、17km/h以下に減速するとエンジンを停止させて減速エネルギーを蓄電し、溜めたエネルギーを発進時に動力として活用。全グレードともトランスミッションに9速ATを採用し、4輪駆動モデルになる

 そんなパワーユニットに関する話題はひとまず脇に置くとして、この2代目イヴォークで「最大の特徴」と報告することができるのは、そのエクステリアのデザインであることは間違いない。

 前述の初代モデルでの特徴的な要素、すなわちフェンダーフレアが強調されたワイド&ローのプロポーションや、お互いが逆の傾斜を備えたベルトラインとルーフライン、そして天地方向に短いサイドウィンドウなどが今回も反復して採用されているのは、従来型の成功を振り返れば当然とも受け取れる。

 それでいながら、「ヴェラール」を筆頭とした他の最新モデルとの関連性がより強調されて感じられるのは、ドアハンドルが格納式へと改められたことなどでフラッシュ化が進んだボディサーフェスや、デイランニングランプのグラフィックを含めたライト類のデザインなどの近似性などがもたらす、新型ならではのディテールによる効果であるはずだ。

イヴォーク R-DYNAMIC HSE P300 MHEVのボディサイズは4380×1905×1650mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2680mm。車両重量は1950kg
エクステリアでは独特の傾斜したルーフラインとリアに向かって上昇するウエストラインを備え、ドアパネルに格納される「デプロイアブル・ドアハンドル」やシャープな印象を与える超薄型マトリックスLEDヘッドライトでボディを際立たせた。「R-DYNAMIC」には専用のディテールとコッパーのアクセントを追加している。足下は20インチホイールにピレリのオールシーズンタイヤ「Scorpion Zero」(235/50R20)の組み合わせ

 一方、そうしたエクステリア以上にフルモデルチェンジの効果が大きく感じられたのはインテリアの仕上がり質感。ワイドさが強調された一方、天地方向には短いダッシュボードに埋め込まれたディスプレイは、カーナビをヘディングアップ表示で用いると進行方向の情報量が減ってしまったり、タッチパネル式ゆえに画面上での操作を重ねていくと皮脂の痕跡が目立ってしまったりと、見た目優先に伴うウィークポイントも皆無とは言えない印象。

 それでも、吟味された素材感が上手に生かされた各部の仕上がりレベルが、従来型のそれを大きく上まわるのは誰の目にも明らか。そう、これまでのモデルではランドローバー内での上級ブランドである「レンジローバー」を名乗るにはちょっとどうかな……と思わせる部分も散見されたが、今度のモデルでは文句ナシの仕上がりなのだ。

新型イヴォークでは電動化に対応する99%新設計の「PTA(Premium Transverse Architecture)」を採用して、ホイールベースを20mm延長。これによりリアシートのレッグルームやトランクルームを拡張するとともに、タブレットやバッグ、ペットボトルなどの収納スペースを確保。10インチの2つの高解像度のタッチスクリーンで構成される最新のインフォテインメント・システム「Touch Pro Duo」なども装備する

 そうした中にあって、VICSやETCといった日本仕様に固有のアイテム用のアンテナが、ダッシュボード上に無造作に置かれてしまっていたことは残念。それでもなお、従来型のユーザーが「ここはよくなったナ」と感じるに違いない最たる部分は、インテリアの質感にこそあると思う。

見た目に加えて走りも上質化

 そんな2代目イヴォークのドライバーズ・シートに乗り込んでの率直な第一印象は、実は「死角が多めだナ……」というものだった。まずフロントカウル位置が高めなために、前方の直近死角が大きめ。加えて、リアウィンドウの小ささゆえに、ルームミラーを通しての後方視界もあまり優れているとは言えないものだ。

 そうした視界面のハンディキャップをカバーする意味もあってか、実は今度のイヴォークではカメラを用いて視界を確保するアイテムが新たに複数用意されている。直前のタイミングで撮影したカメラ映像に処理を加えることで、フロントフードをシースルーしたかのような画面をディスプレイに表示させる「クリアサイト・グラウンドビュー」や、ルーフのシャークフィン・アンテナ後端に内蔵されたカメラで捉えた画像をルームミラーと兼用のディスプレイに映し出す「クリアサイト・インテリアリアビューミラー」がそれに相当するもの。

フロント下180度の視角を確保する世界初の技術「クリアサイト・グラウンドビュー」
視野角50度の高解像度映像をルームミラーに映し出して視認性を高める「クリアサイト・インテリアリアビューミラー」はジャガー・ランドローバー初採用

 それらを試してみると、なるほどいずれも単なるエンタメ装備などには留まらず、場面によっては運転補助のための有用なアイテムとなってくれそうなことを確認。だが、それらも万能というわけにはいかないから、「視界はいまひとつ」という根本的なウィークポイントを頭の片隅に置いたドライビングを心掛けるべきでありそうだ。

 市街地基点の限られた時間でのテストドライブだったため、秘めた動力性能をフルに引き出すようなチャンスは得られなかった。と同時に、2tに迫る車両重量の持ち主ながら、加速時に特に重さを意識させられるようなシーンはなかった。

 一方で、こちらはやはり予想通りと言うべきか、モーターによる力強いアシストを実感できるような場面も皆無だった。そんなモーターアシストや減速回生の複雑な介入も関係してか、アクセル操作に対する加減速Gの発生が、ややリニアさに欠ける印象を受けることがあったのはちょっと気になるポイントだ。

 従来型に比べると、断然優れていたのはその静粛性だ。スタートの瞬間から高速クルージングに至るまで、こちらも「今度こそはレンジローバーを名乗るにふさわしい仕上がり」と思えたのが、新型の静粛性全般に関する印象だった。

 また、2代目となったイヴォークでは見た目に加えて走りも大いに上質化していた。今回のテスト車は、スポーティさを強調する専用デザインのボディキットなどが与えられた「R-DYNAMIC」バージョンに、電子制御式の可変減衰力ダンパー“アダプティブダイナミクス”や任意のドライブモード選択を可能とする“コンフィギュラブルダイナミクス”、メリディアン製サウンドシステムやヘッドアップディスプレイ等々と、総額200万円分を超えるオプション・アイテムを加えたゴージャスな仕様。20インチホイールに組み合わされていたのは、ピレリ製オールシーズンタイヤである「Scorpion Zero」の235/50サイズだった。

 そんなモデルのフットワーク・テイストは、こちらもレンジローバーの名にふさわしい上質さが基本になっていた。路面によってはやや粗っぽい振動感が伝わってくる場面もあったものの、それは瞬時に抑え込まれ、さしたる不快感には繋がらない。このあたりの印象には、この先のさらなる電動化までを見据えて刷新されたという新たなボディ骨格「PTA(Premium Transverse Architecture)」の採用も大きく貢献をしているに違いない。

 こうして、初のフルチェンジを受けて2代目となったイヴォークは、最新のコネクティビティやADAS(アドバンスド・ドライバー・アシスタンス・システム)の採用など、さまざまな装備面で時代の要請に応えた進化を果たすと同時に、レンジローバーのファミリーであることを名乗るにさらにふさわしい見た目と走りの上質さを身に付けた、“正常進化型”のモデルという印象が強かった。

 従来型がスマッシュヒットを放ち、それゆえ世界に多くの新型を待つユーザーが存在しているとなれば、またたちまちにして長いウェイティングリストができ上がりそうな新型なのである。

河村康彦

自動車専門誌編集部員を“中退”後、1985年からフリーランス活動をスタート。面白そうな自動車ネタを追っ掛けて東奔西走の日々は、ブログにて(気が向いたときに)随時公開中。現在の愛車は2013年8月末納車の981型ケイマンSに、2002年式のオリジナル型が“旧車増税”に至ったのを機に入れ替えを決断した、2009年式中古スマート……。

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Photo:中野英幸