インプレッション

ランドローバー「イヴォーク」「レンジローバー スポーツ」(雪上試乗会)

悪路走破性をきちんと宿しているランドローバー車

 日本でのランドローバーのイメージは、プレミアムSUVの元祖であり、高級路線を突き進むクルマといったところではないだろうか。レンジローバーが牽引してきたその高級路線は、他を圧倒するものであることは誰もが認めるところ。近年の「レンジローバー イヴォーグ」もまた、コンパクトSUVながらも高級感漂う雰囲気を醸し出していることはご存じの通りだ。

 だが、ランドローバーの真髄はそこだけじゃない。SUVとして本来あるべき悪路走破性をきちんと宿していることもまた注目すべきポイントである。1948年、戦後の荒れ果てた道路を走るために開発した4WDへの思いは、現在でもランドローバーの各車に受け継がれ、どのような路面でも最高の走行性能を与えようと技術を盛り込んでいるという。単なるプレミアムSUVではなく、きちんとした走りが約束されていることこそが、ランドローバーの誇りらしい。

今回の試乗車はイヴォーク「PRESTIGE」(フジ・ホワイト)。ボディーサイズは4355×1900×1635mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース2660mm。直列4気筒2.0リッター直噴ターボ「Si4」エンジンに9速ATを組み合わせたフルタイム4WD仕様。最大渡河水深500mm、アプローチアングル25°、ランプブレイクオーバーアングル22°、デパーチャーアングル33°というスペック。価格は605万円
17インチアルミホイールにピレリのSUV向けオールシーズンタイヤ「スコーピオン」を装着。タイヤサイズは225/65 R17
「Si4」エンジンは最高出力177kW(240PS)/5500rpm、最大トルク340Nm(34.7kgm)/1750rpmを発生。0-100km/h加速は7.6秒、最高速は217km/h。JC08モード燃費は10.6km/L
オックスフォード・レザーシート(カラーはエスプレッソ)を標準装備するイヴォーク「PRESTIGE」のインテリア。イヴォークではエンジンやトランスミッション、電気系などを統合制御する「テレイン・レスポンス」を搭載し、「オンロード」「草/砂利/雪」「泥/轍」「砂地」という計4種類の走行モードを用意。これに加え、オプション設定の「アダプティブ・ダイナミクス」により「ダイナミックモード」(写真右)の選択が可能になり、よりスポーティな走行が楽しめる

 その片鱗がボンネットの形状に表れている。ランドローバー各車に採用されているクラムシェル・ボンネットと呼ばれる貝殻の蓋のようなそれは、オフロード走行時に水を被った際、エンジンルームにできるだけ水が入らないように考えられたもの。まさに機能美といったボンネットが、ランドローバーのどのクルマにも採用されているところはさすがだ。

 また、ドライバーをアイポイントが高くなるような位置に座らせると同時に、見切りのよいボディースタイルとすることで、大柄なボディーであったとしても小さく感じさせるような扱いやすさを持たせること。さらには長いサスペンションストロークを持たせ、悪路走破性を高めるという一貫した思想をどのクルマにも展開していることも特徴的。クラスやサイズが違っていたとしても同様のテイストを持たせているところが興味深い。

こちらはレンジローバー スポーツ「SE」(チリ)。ボディーサイズは4855×1985×1800mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース2920mm。V型6気筒3.0リッタースーパーチャージドエンジンに8速ATを組み合わせ、4輪を駆動(フルタイム4WD)する。最大渡河水深は850mm、アプローチアングルはオフロード24.3°/標準33°、ランプブレイクオーバーアングルはオフロード19.4°/標準27.2°、デパーチャーアングルはオフロード24.9°/標準31°となっている。価格は846万円
20インチアルミホイールとピレリ「スコーピオン」(タイヤサイズ:255/55 R20)の組み合わせ。雪道など滑りやすい路面で車速を自動的にコントロールする「ヒル・ディセント・コントロール(HDC)」をはじめ、「電子制御トラクション・コントロール(ETC)」「コーナー・ブレーキ・コントロール(CBC)」「エマージェンシー・ブレーキ・アシスト(EBA)」など安全装備を標準搭載
エンジンの最高出力は250kW(340PS)/6500rpm、最大トルクは450Nm(45.9kgm)/3500rpm。最高速は210km/h、0-100km/h加速は7.2秒、JC08モード燃費は8.4km/Lをそれぞれマークする
インテリアカラーはエボニー/ルナ(シートカラーはエボニー)。MERIDIANサラウンドサウンド・オーディオシステム(825W 19スピーカー)、オフロードパック(テレイン・レスポンス、2副変速機、アダプティブ・ダイナミクス)、パドルシフトなどのオプションを装備している

目を見張る安心感

 今回はイヴォークと「レンジローバー スポーツ」に乗り、その悪路走破性を実際に試した。いずれにも感じたことは悪路での走破性がかなり高いことだった。スキー場の駐車場に作られた特設コースは、スラロームあり、こぶ斜面ありというかなりイジワルなレイアウトだったが、そこをいとも簡単に駆け抜けてしまう。

 イヴォークはエアサスペンションではないこともあり、オンロード志向なこともあって、スラロームではスイスイとクルマの向きを変え、スポーツ4WDかのようにそこを走ってしまう。こぶが連続する場面ではそれほどの走破性を期待していなかったのだが、ズリズリとクルマがこぶから滑り落ちながらも前へと突き進んでくれるから面白い。シャシーだけでなく、電子制御の介入が絶妙だからこそ走破性も高いのだ。

 レンジローバー スポーツもまた、同様の感覚がある。一見すると“シティ派SUV”といった感覚を強く感じるところだが、いざ悪路となれば轍にはまることもなく、危うい思いをすることがないのだ。長いサスペンションストロークでシッカリと路面を捉えながら、きちんと悪路を脱出してくれるあたりはホンモノ感満載。これならどこへ行ったって安心だ。

 さらに感心したのは、一般道を走った際に感じられる一体感がすこぶる高いことだった。巨体を感じることもなく、すべてが手の内に収められるその感覚は、もはや本格SUVに乗っている感覚はない。軽量アルミボディーを持つことで軽快さも備えたからこそ、そんな感覚が得られるのだろう。見晴らしがよいドライビングポジションと相まって、かなり操りやすかったことが印象的だ。

 そして何より、そこに安心感が備わっていたことが特筆すべき点だ。ランドローバーが初めて採用したというヒルディセントコントロールは、他社のヒルディセントコントロールは極低速でしか作動しないものがほとんとだか、このクルマは35km/hまで介入してくれる。この手のSUVは登り勾配では安心感が高いが、下り勾配となると恐怖感が高まるもの。だが、レンジローバー スポーツはヒルディセントコントロールが上手く介入し、常に安心感に包まれている。エンジンブレーキをさらに強力にしたかのようなそれにより、恐る恐る坂を下るような感覚がなくなっている。これが一番の関心事だった。

 このように、単なるプレミアムSUVではなく、あらゆるシーンで本格的な走破性を見せつけてくれたランドローバーの2台は、まだまだ見習う点が多かった。決して見かけ倒しのSUVではなく、中身も本格的のSUVだったからこそ、これらのクルマには魅力が溢れているのだろう。

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。走りのクルマからエコカー、そしてチューニングカーやタイヤまでを幅広くインプレッションしている。レースは速さを争うものからエコラン大会まで好成績を収める。また、ドライビングレッスンのインストラクターなども行っている。現在の愛車は18年落ちの日産R32スカイラインGT-R Vスペックとトヨタ86 Racing。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。