インプレッション

ランドローバー「レンジローバー・スポーツ」

 際立ったオフロード性能や、周辺ライバル車を圧倒する気品溢れる佇まいなどから、1970年の初代モデル発売以来、ランドローバーのフラグシップ・モデルという立ち位置を確固たるものとしてきた「レンジローバー」。一方で、そんなモデルによって40年余りを費やして育まれたブランド力を活かしつつも、他に類を見ない大胆かつスタイリッシュなスタイリングを最大の売り物に、世界でヒットを飛ばすことに成功しているのが、ブランニュー・モデルの「イヴォーク」だ。

 ここに紹介するのは、ブランドとしての“レンジローバー”のイメージをより強固なものとするべく、そんな前出の両車間に開いた狭間を狙って投入された最新モデル。その名が示す通り、よりスポーティでカジュアルなキャラクターを狙った「レンジローバー・スポーツ」としては、2005年の初代モデル誕生以来、初のフルモデルチェンジを行った2代目となる。

7シーター・モデルとしてのキャビン・パッケージングを実現

 初代モデルに対して全長で約60mm、全幅では約55mmと、わずかながらもサイズを増した新型レンジローバー・スポーツのボディー。一方、そのホイールベースが一挙に175mmほども延長されたのには、もちろん訳がある。実は今度のモデルには、自らが“シークレット・シート”と呼ぶ電動格納式の3列目シートをオプション設定。それによって、新型は7シーター・モデルとしてのキャビン・パッケージングを実現させたことになる。

 もはや2mに迫る1985mmという全幅は、実は先に登場したフラグシップ・モデルとまったくの同一値。それでも、より流麗かつどこかコンパクトに見えるのは、比べれば65mm低く、従来型に対しても10mmダウンとなる全高の影響が大きそうだ。

 いずれにしても、そのルックスからはよもやそこに「3列シート版も用意されている」とはとても想像できないのは、これこそが“デザインの妙”というもの。それは、フラグシップ・モデルの弟分でありながら、同時にイヴォークの兄貴分という立ち位置もなかなか巧みに演じる結果となっている。

 一方で、メタルやレザー素材が適材適所にあしらわれたインテリアの仕上がりは、いかにもこのブランドの作品らしく高質にして独特の雰囲気溢れている。英国で開催された国際試乗会の場には、残念ながら前述のシークレット・シートを備えたモデルは用意されていなかった。もちろん、フロントと2列目のシートでは、そのスペースはゆとりが十分。

 実は、今回のテストドライブでは、そのオフロード・セッション中にサイドウォール・カットによるパンクというハプニングに遭遇! が、さすがは本格オフローダーらしく、昨今普及が著しいリペアキットなどでは修復のきかないそうした事態にも対処すべく、フロアボード下に標準サイズのスペアタイヤ/ホイールを収納したラゲッジスペースは、後席使用状態での784Lからアレンジ状態の1761Lまでと、まさに「広大」と表現するしかないボリュームを確保しているのも特徴だ。

 ところで、レンジローバー車と言えば、いずれのモデルも多彩なボディーやトリムカラー、シートやインテリアのトリムカラーなどの組み合わせで、“自分だけの1台”を仕立てることが可能なのも、新車で手に入れようという人には嬉しいポイント。新型レンジローバー・スポーツも、例えば本国イギリス市場向けには合計17ものボディーカラーをチョイスすることが可能。日本仕様の詳細はまだ未発表だが、当然そんな部分も大いに期待が持てそうだ。

 そうした新型レンジローバー・スポーツへの搭載が発表されたエンジンは、2種のガソリンと3種のディーゼルという合計5つのユニット。実はさらに、2014年内のディーゼルハイブリッド・モデルのデリバリー開始と、将来の4気筒ガソリン・モデルの追加も示唆されている。が、日本に向けてはまず定評あるスーパーチャージャー付きV型8気筒5.0リッターと、やはりスーパーチャージャーがアドオンされた新しいV型6気筒3.0リッターという、前述2種のガソリンエンジン搭載モデルが導入されると考えるのが自然であるだろう。

 試乗会でも、当然2モデルをしっかりチェック。いずれにしてもまず言えるのは、「V8モデルはもちろん、V6モデルであっても基本的な動力性能に不足はまったく感じない」という事柄だ。

 “兄貴分”と同様に、このモデルのボディーは最新のジャガー・ランドローバーが採用する、オールアルミニウムによるモノコック構造。それは、基本的な構造部材をアルミとするのみならず、ボディーシェル各部の接合に溶接ではなくリベットとボントを活用していることも大きな見どころだ。

 航空宇宙工学の応用とされるそうしたボディーは、単に軽量なだけではなく生産時に必要なエネルギーの削減にも大きな効果を発揮するという。「ボディー/シャシー重量は従来型との比較で300kgも軽く、剛性は25%以上高い」というのも注目すべき謳い文句だ。

 フラグシップ・モデルに対して部品総点数の75%が独自のアイテムというこのモデルは、そんな“兄貴分”に対して幾分コンパクトなこともあって45kgほど軽量との説明。そこに加え、搭載ATが従来型の6速から8速へと多段化されたことも、動力性能の向上に拍車を掛けているのは間違いない。

軽快感が漂うV6 3リッタースーパーチャージャーエンジン

 テストドライブはまず6気筒モデルからスタートをしたが、その時点での素直な印象は「こちらでも十分によく走る」というものだった。

 エンジン回転力を直接用いて過給器を駆動するスーパーチャージャー付きではあるものの、それでも動き始めの一瞬にはやや重さが付きまとう。軽量化が推進されたとは言え、そこは2tを大幅に超える車重の持ち主。それを3リッター・エンジンで動かすのだから、それはある面“想定内”でもある事柄だ。

 一方、わずかにでも動き始めれば、即座に立ち上がるブースト圧で持ち上げられた太いトルクとワイドレンジの8速ATのコンビネーションも効いて、もはやその加速には思いがけずの軽快感が漂う。速度が高まっても「空気の壁を切り裂く」といった抵抗感が希薄なのは、前述のように兄貴分より65mmも全高が低いという先入観も手伝ってのことだろうか。

 体感上の動力性能の好印象ぶりは、意外なまでにスポーティな排気サウンドが耳に届く点にも起因をしていそう。さすがにそれは、同エンジンを搭載するジャガー「Fタイプ」ほどに派手で華やかではない。けれども、基本的には優れた静粛性の中にあって、ココは敢えて「聞かせるチューニング」が意識されているのは間違いない。

“一級スポーツカー”の風格漂うV8 5リッタースーパーチャージャーエンジン

 ところが、6気筒モデルから8気筒モデルへと乗り換えたところ、今度はあらゆる面で余裕と上質さが増すこちらこそが「レンジローバーというブランドにはより相応しい心臓」と、そう感じられてしまうのだから人間とはやはり現金なものだ。

 そもそも排気量が2リッター(!)も大きいこともあり、スタート時の蹴り出し感はやはりこちらがグッと力強い。加えて、アクセルペダルの踏み込みに対するトルクの盛り上がりのリニアさや、回転フィール/サウンドの緻密さという点でも、「単独で乗れば文句ナシ」だった前述6気筒ユニットに対して、少なからずの差を見せるのだ。

 さらに、低回転域のトルクに余裕が大きいことで、日常シーンでもトランスミションがシフト動作を行う頻度が6気筒モデルよりも少ない。そんなさまざまなポイントが少しずつ、しかし着実に「こちらの方がプレミアム」と感じさせる、明確な差を演じることになっている。

 しかし、そんな新しいレンジローバー・スポーツの走りでさらに感心させられたのは、「洗練」という言葉がまさにピタリとくるそのフットワークの仕上がりぶりだった。

 実は新型に与えられたキャッチフレーズは、「ランドローバー史上最速、最も俊敏、最もレスポンスに優れたモデル」というもの。そしてそれは、このモデルがそのオンロードでのダイナミクス性を、従来型に対して大きく高めたことを示唆してもいる。そして実際、今回のテストドライブでは搭載エンジンにかかわらず、まさにそれがもっとも印象的なポイントでもあった。今度のレンジローバー・スポーツは、「オンロードが凄い!」のだ。

 基本的なその走り味は、ヒタヒタとしなやかに路面を捉える上質さが印象的。静粛性の高さも特筆に値するもので、特に「並み居るライバルを大きく凌ぐ」と自ら称するロードノイズの小ささは、なるほどちょっと感動モノだ。同時に、飛び切りストローク感に富んだその脚の動きの滑らかさも、今度のモデルの特徴。ちなみに、実際のサスペンション・ストローク量も「各ライバルを確実に凌ぐ」と開発陣は自信タップリだ。

 かくして、日常的にはいかにも“高級車”らしいそうした振る舞いをアピールしながら、ひとたびムチを当てれば19から22インチという設定の大径タイヤ/ホイールが、決して“伊達”ではないと知らされる運動性能の高さを余すことなく見せ付けるところが、今度のレンジローバー・スポーツの真の凄さでもある。

 電子制御されたエア・サスペンションやLSD、トルクベクタリング・システム、電動式のパワーステアリングなどといった最新メカニズムと、基本性能の高さのハーモニーによって、高速高Gコーナリングを大したロールも示さずに駆け抜けてしまうあたりは、まさにポルシェ「カイエン」顔負けという印象。ついにパワーアシストが電動化されたステアリングは正確かつそれなりにレスポンスもシャープで、ここでは「オフローダー」というテイストはまったく顔を覗かせない。

 そう、レンジローバー・スポーツの“スポーツ”とは、もはや単なるイメージや比喩などの表現には留まっていないのだ。中でも、0-100km/h加速をわずかに5.3秒でこなしてしまうという8気筒モデルの実力は、完全に「こうしたカタチの一級スポーツカー」とすら思わせてしまうものなのである。

かつてない本格的なオフロード・セッションを走る

 ところが、そんなこのモデルが、もはや歩いても踏破が困難というほどの“ガレ場”を坦々とクリアするオフロード性能の持ち主でもあるのだから、これは再び驚かずにはいられない。そもそも、ランドローバーと言えば生粋の4WDオフローダーのメーカーとして世に知られてきたもの。そんな本来の“道なき道を行く”というポテンシャルは、前述の如くオンロード・ダイナミクスが大幅にアップされても、それと引き換えにわずか一歩たりとも後退しなかったということだ。

 指定された今回の試乗ルート上には、オフロード・セッションが用意されていた。もちろん、ランドローバーの国際試乗会ではそれは当然の事柄。ところが、今回用意をされたコースのタフネスぶりは、これまでの経験を踏まえても「かつてない本格さ」だった。

 余りの急傾斜ぶりに時に路面がまったく視認できなくなるため、外に立つインストラクターの指示を仰ぐしかなくなるガレ場での登坂や、水深数十cmの濁流の中を、数十mに渡って強いられる恐怖の“河渡り”。さらには、人間が自身の脚で駆け下りることさえ躊躇するような泥濘地での降坂や、果てはわざわざ内部に障害物が置かれた退役ジャンボの機内走行(!)に至るまで、今回も信じられないシーンが連続するオフロード走行を体験できた。

 もちろん、それらが予めこのモデルが踏破できるようにと計算されたコースであることは頭では理解をできても、いざそれを実体験すれば、もはやそこでは自身の乗るクルマに対しての“畏敬の念”すらが涌き上がってくる。増してやそれは、つい先ほどまでオンロード上でカイエン顔負けの走りを披露していたモデルなのだ。こうなれば、もはや誰もが「これこそ究極のオールテレイン性能を秘めた1台」と、そう認めざるを得なくなるに違いない。

 新しいレンジローバー・スポーツは、オンロードではまさにそれがこうしたデザインの“スポーツカー”であることを示した上で、オフロードではあくまでも歴史と伝統あるランドローバーの作品であることもたっぷりとアピールした。

 現実の世界では、そのいずれもが「宝の持ち腐れ」となる可能性は少なくない。いや、実際にオーナーの元へと渡ったレンジローバー・スポーツの大半は、その一生をそうした使われ方をすることなく終えてしまうだろう。しかし、「そんな凄まじい才能を備えている」というその部分に、人は憧れることになるはずだ。オンでもオフでも第一級のこのモデルは、だからこそ「究極のプレミアムカー」たる資質を備えているわけなのだ。

河村康彦

自動車専門誌編集部員を“中退”後、1985年からフリーランス活動をスタート。面白そうな自動車ネタを追っ掛けて東奔西走の日々は、ブログにて(気が向いたときに)随時公開中。現在の愛車は、2013年8月末納車の981型ケイマンSに、2002年式にしてようやく1万kmを突破したばかりの“オリジナル型”スマート、2001年式にしてこちらは2013年に10万kmを突破したルポGTI。「きっと“ピエヒの夢”に違いないこんな採算度外視? の拘りのスモールカーは、もう永遠に生まれ得ないだろう……」と手放せなくなった“ルポ蔵”ことルポGTIは、ドイツ・フランクフルト空港近くの地下パーキングに置き去り中。

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