インプレッション
ダイハツ「タント」「タント カスタム」
Text by 飯田裕子(2013/10/23 14:09)
ご紹介したいことが「た~んと」あるダイハツ「タント」。3代目となった今回も代々の進化の利点を受け継ぎ、さらにダイハツの最新の環境や安全技術を盛り込んだ最新モデルとしての魅力が“タント”詰め込まれていた。
軽自動車規格によりボディーサイズに明確なリミットがあるため、タントのボディーサイズは先代から変更はない。その中でいかにデザインや実用面を進化・熟成・改良できるかに注目が集まる。
確実な進化を遂げた室内の使い勝手
まず室内スペースは、ドライバーの頭部とフロントウインドーの(ヘッダ)距離を120mm延ばして870mm。ヘッドクリアランスも20mm広がって230mmに。またカップルディスタンスと呼ばれる前後乗員距離の1120mmは先代と同じものの、これら3ポイントは現在の軽自動車の中でナンバー1の空間の広さを保っているという。
運転席に座ると、タントは以前から展望席のある列車の最前列のようなムードが印象的だったが、今回はヘッダ距離の距離感もさることながらAピラーが先代の49度から56度とさらに立ったデザインを採用しているせいか“出窓”感が強い。おかげでフロントシートから見える周辺の視界が新たな視覚的解放感を醸し出しているようだった。それに伴い、サンバイザーは大型化、ルームミラーはガラス面ではなくルーフに取り付けられ使い勝手を配慮している。
運転席周辺の空間の拡大によりダッシュボードの奥行きが増し、運転席からボディー前端までの距離感が掴みにくいクルマもあるが、タントの場合はボンネットの短さも有利に働き、車両感覚の掴みやすさを妨げるデザインでは決してなかった。
後席のドアには、2代目から採用されたセンターピラーレスのスライドドア「ミラクルオープンドア」が今回も助手席側に健在。スライド量が100mm増え、開口部が拡大している。さらに新型タントでは運転席側のリアドアにもスライドドアが採用されていて、狭い駐車場での開閉も安心。もっと言えば、狭い駐車場で隣に駐車したいクルマの1台とも言えるかも? ピラーレスのスライドドアは、フロントドアも開け放せばスクエアな解放感が見た目にも軽自動車であることを忘れさせるほど有意義に見える。頭上空間もたっぷりで、足下のステップが地上と近いのはやはり万人の乗降に優しい。シートアレンジは、前後シートのスライド機能や畳んで格納するというシンプルで操作性のよさが女性にも優しいはずだ。
そしてビックリ感動したことが2つあった。
1つは助手席を最前までスライドした際に、センターコンソールの角にピタッとハマる設計が採用されていた点。「こういうところが日本車の細やかな配慮」と、その納まり具合をウットリと見つめてしまうほどだった。
2つ目はママチャリをタントの中にあっという間にしまうことができたことだ。しかも「これまでのようなラゲッジ側から入れる場合、後半は乗り込んで載せないといけないのが不便だった」(開発者)ということで、新型タントはなんとミラクルドア側からスコーンッとママチャリが収納できてしまう。間口の広さを乗降のみならず荷物の収納の利便性にも生かしていると分かると、タントはますます小さなお子さんを持つママの味方だけではないと思えてくるではないか。
燃費は自然吸気エンジンで28.0km/L、ターボエンジンで26.0km/L
新型のタントは自然吸気エンジンのみを搭載する一方で、タント カスタムは自然吸気エンジンとターボエンジンをラインアップする。タントとタント カスタムはエンジンラインアップのほか、エクステリアやインテリアに採用する素材を変え「親しみやすい」系と「イカツい」系と差別化を図っているが、サスペンションなどに違いはない。
走行フィールをご紹介する前に技術的な特徴を少し紹介しておきたい。ボディーやエンジン、トランスミッションの見直しにより燃費向上を実現した第3のエコカーとして注目を集めた「e:S(イース)テクノロジ―」をタント向けにさらに手を加え、採用している。
新型タントは骨格に高張力鋼板の最適採用や構造そのものの合理化を図り、ボディー外板には樹脂を採用するなどして軽量化。例えばこれまで前後バンパーに採用していた樹脂材を、ボンネットやフェンダー、リアスポイラー一体型のバックドアにも採用することで約10kgの軽量化が行われている。
実際のボディー重量の930㎏(2WD/Xグレード比較)は先代と変わらないが、両側スライドドアや燃費向上技術、防錆や品質向上のための装備や技術を約70㎏分も追加していながら重量増をしていない点は、目に見えないタントの進化の1つ。樹脂パーツはバッグドアを閉めてみるとその音や感触の違いで確かめることができるだろう。
軽量化のみならず空気抵抗を下げることにも手が加えられており、リアスポイラーや風の乱流を抑えるAピラーの形状に加え、数々の空力部品に樹脂パーツが採用され、あんなにフロントウインドーが立っているにもかかわらず、先代に比べ空気抵抗は10%低減しているそうだ。
エンジンはマイナーチェンジを行った「ミラ イース」と同じ自然吸気エンジンと、圧縮比の見直しとともに可変バルブタイミングを新採用するターボエンジンの2種類。トランスミッションはCVTを採用する。
ボディーの軽量化や空力のマネージメント、最新の低燃費エンジンなどの採用により、タントの燃費は自然吸気エンジンで28.0km/L、タント カスタムはターボエンジンで26.0km/L。数値はともに向上している。
自然吸気エンジン、ターボエンジンどちらを選ぶ?
実際に試乗してみると、3気筒エンジンの「ブゥ~ン」という音は他メーカーのライバルたちと変わらない。しかし、静粛性も向上したタントの自然吸気モデルに乗ってみると、出足こそ少々トルクに物足りなさを感じる場面はあるものの、速度がのればとてもスムーズに走る。またアクセルを強く踏み込むと高回転に近づくたびに聞こえるエンジン音が抑えられ、静粛性の向上ぶりもうかがえた。周囲の流れに乗った走行中はタイヤが路面を捉える音のほうが大きいくらいだった。
ボディーはドッシリとして安定感があり、とにかく乗り心地のよさは後席も含め満足度が高い。ステアリングの操舵感は女性には少々重めかもしれないが、しっかりと走る頼もしさや安心感を手元でも受けることができるだろう。
一方、タント カスタムのターボモデルの走りは、軽自動車である意識がなくなるほどだった。とにかくはじめの一歩からスッと走り出すような発進加速のスムーズかつ滑らかな感じがよい。そこからさらにアクセルを踏み込めば力強い(といっても飛び出すような乱暴なものではない)加速をし、求める速度に到達する。
ただ強いて言えば、ターボモデルの乗り心地は少々ゴツゴツとして自然吸気モデルのようなしなやかさやフラット感は欠ける。サスペンションなどの足まわり関係は自然吸気/ターボともに同じセッティングを採用。タイヤサイズだけが自然吸気モデルは14インチ、カスタムのターボモデルは15インチと異なり、タイヤの影響や多少の車重の違いが影響しているようだった。しかし、登坂路の多い自動車生活環境だったり、中速以上での安定した速さや滑らかさをエンジンに求めるなら、ターボエンジンを搭載するカスタムは魅力的だ。
最後に、安全性についてはボディー構造上の衝撃吸収や強固さもしっかり確保。中でもミラクルオープンドアが一見ピラーレス(柱がない)のように見え、強度面で不安を抱く方もいるようだが、タントではスライドドア内に通常の鉄板の3倍以上の強度を持つ鋼材を採用したピラーを内蔵し、しっかりと柱の役目を果たしている。また低速域衝突回避支援ブレーキ機能や誤発進抑制制御機能、先行者発進お知らせ機能、VSC(横滑り防止装置)やTRC(トラクション・コントロール)などの機能を備えた「スマートアシスト」を全グレードに設定。アクティブセーフティについての最新の安全技術の搭載レベルは乗用車と変わらない。
デザインを除いて2モデルの印象を述べれば、後席の乗り心地も含めた快適さを求めるなら自然吸気のタント。少々乗り心地はハード系だが、走りの頼もしさを優先させるならタント カスタムという車種選びになるだろうか。タント カスタムには自然吸気エンジン搭載モデルの用意もあるので、デザイン重視でカスタムを選びたい向きには価格面も含め選択の幅は広がる。
ただ個人的にはエッジを効かせすぎず、ずん胴で水平基調かつ角が丸められたスクエアデザインを採用する自然吸気エンジンを搭載するタントの親しみやすさに好感を抱く。こちらでもターボモデルを選べたら……という残念な思いが残らなくもない。