インプレッション

ホンダ「フィット」「フィット ハイブリッド」

2代目に比べて質感が大きく向上

 9月に発売された新型「フィット」。発売後1カ月で6万2000台超を受注したとのことで、これは相当な数字だと思う。

 デザインが奇抜すぎることを危惧する声もあったが、ひとまずそれはあまり問題ではなかったようだ。そしてハイブリッドの比率は7割に達したとか。モデルチェンジ前もガソリンと半々ぐらいの割合だったので、発売直後であればこのくらいでも不思議ではない。

 すでに北海道のテストコースでプロトタイプを試乗しているので大まかな感じはつかんでいたところ、ようやく量産車を公道で試乗できる機会が訪れた。と言っても限られた時間で、横浜界隈の市街地や都市高速を走った程度なので、まだ十分に試せたとは言えないのだが、現時点でつかんだフィットの印象をお伝えしたい。

 試乗したのは「13G Sパッケージ」と「15X」および「RS」、そして「ハイブリッド Lパッケージ」。興味の中心となるハイブリッドについて色々と思うところがあり、それについては最後にたっぷりお伝えすることにしよう。

 運転席からの眺めはとても見晴らしがよく、視界は良好だ。ミラーの位置が見直されたことで、右左折時の死角が小さくなったことを実感する。インテリアについても、これまでのプラスチッキーな印象が強かったところ、ずいぶんと質感が上がっており、それに呼応するかのように走りの質感も向上している。

 近所のお買い物向けのセカンドカーとしてだけでなく、ファーストカーとして使われることも多いフィットだが、このくらい質感があればあまり不満に感じることもないだろう。

手頃な価格でスポーティな雰囲気を味わえる13G Sパッケージ

アトキンソンサイクル化された直列4気筒DOHC 1.3リッターエンジンとCVTを組み合わせる13G Sパッケージ。最高出力73kW(100PS)/6000rpm、最大トルク119Nm(12.1kgm)/5000rpmを発生。JC08モード燃費は24.0km/L(2WD)

 それぞれのグレードの走り味について述べると、まずアトキンソンサイクルの直列4気筒DOHC 1.3リッターエンジンを搭載する13Gは、街乗り中心であればこのグレードで十分という印象。

 上り勾配や高速道路では後述する1.5リッターモデルとの差を感じるが、平坦な市街地では大差ない。13G Sパッケージには、RS仕様のエクステリアやパドルシフト、15インチホイール+タイヤなどが与えられる。RSほど本格的でなくてもよくて、手ごろな価格でスポーティな雰囲気を味わいたいというユーザーにもってこいのグレードだ。フルオートエアコンや、なぜか13Gの中で唯一テレスコピックステアリングが標準で付くのも特徴と言える。

 ただし、あくまで13Gの一員なので、後述するRSに比べると動力性能やステアリングレスポンスがマイルドで姿勢変化も大きめ。RSのようなスポーティさは望むべくもないが、それでも歴代フィットがおしなべてそうであったように、ある程度の軽快な走り味は持っている。多くを求めず見た目のスポーティさ重視でいくならば、買い得感の高いモデルと言えそう。また、13G SパッケージはRS仕様の外観を持つグレードの中で唯一、4WDを選べるのも特徴だ。

 15Xは、RSと同じ直噴の直列4気筒DOHC 1.5リッターガソリンエンジンを搭載する。上級仕様の「Lパッケージ」も設定されており、プラス10万円でLEDヘッドライトや上質なコンビシート、本革巻きステアリングホイール、クルーズコントロールなど大幅に装備の充実を図られるので、Lパッケージを選ばない手はないと思う。ブラックだけでなくアイボリーのインテリアが選べるのも特徴だ。

 走ると、1.3リッターエンジンよりもずっと力があって乗りやすく、静粛性が高く、乗り心地も快適だ。ステアリングのセンターの据わりがよく、直進安定性も高いので、高速巡航にも向いている。

 3代目フィットの中でもっとも上質な乗り味を求めるのであれば、15X Lパッケージをおいてほかにない。ガソリンの中での販売比率は、価格の安い13G系の比率が圧倒的に高いようだが、それほど大きくないプラスアルファの出費で、まったくレベルの違う上質感を手に入れられることをお伝えしておきたい。

直噴の直列4気筒DOHC 1.5リッターエンジンを搭載する15X。最高出力は97kW(132PS)/6600rpm、最大トルクは155Nm(15.8kgm)/4600rpmとなる。JC08モード燃費は21.8km/L(2WD)をマーク

エンジンフィールが向上したRS

15Xと同様、直噴の直列4気筒DOHC 1.5リッターエンジンを搭載するRS。こちらはFFのみの設定で、トランスミッションはCVTと6速MTを用意

 スポーティさを際立たせたRSは、フィットで唯一6速MTが選べるモデル。2代目フィットの2010年のマイナーチェンジで、全体的に改良が施された中で、当時のRSも走りが大きく洗練され、とても運転して楽しめるクルマになったように感じた。半面、エンジンフィールが惜しかった。あまり回して楽しめる感じでもなく、シャシーの進化に対してややエンジンが取り残された感もあった。

 ところが今回のRSは、まずエンジンが美味しい。DOHC化された1.5リッターエンジンは、往年のVTECを思い出させる痛快な吹け上がりを持っていて、RSに期待される楽しさを身に着けた。MTであれば、よりそれをダイレクトに味わうことができる。踏み込んだ瞬間にグッと前に出る瞬発力もあるし、最近ではアクセルオフ時のエンジンの回転落ちが鈍いクルマが多いが、このエンジンは比較的早いこともよりMTの醍醐味を楽しませてくれる。

 ショートストロークでカチッとしたシフトフィールも好印象だ。CVTはレッドゾーンの6800rpmの少し手前でリミッターがかかるが、RSは7000rpm近くまで回せる。サウンドも、同じエンジンを積む15Xよりも“聴かせる演出”をしているように感じられた。シートについては後に何か追加されるかもしれないが、2代目の後期型のような奇抜な設定はない。

 足まわりは、より俊敏なハンドリングを楽しめる味付け。コーナリング時のロールが抑えられ、ブレーキング時のノーズの沈み込み、アクセルオン時のリアの沈み込みといったピッチ方向の姿勢変化も小さい。かといって乗り心地が硬すぎるわけでもない。この味付けは絶妙だ。

ハイブリッドは気になる点多し

直列4気筒DOHC 1.5リッターアトキンソンサイクルエンジンとモーター内蔵の7速DCT、リチウムイオンバッテリーを組み合わせたハイブリッド。システム合計のスペックは最高出力101kW(137PS)、最大トルク170Nm(17.3kgm)で、JC08モード燃費は36.4km/L(写真のハイブリッド Lパッケージは33.6km/L)

 そしてハイブリッドについて。

 今回はLパッケージに乗ることができた。先代となる2代目フィットの最後にはハイブリッドのRSがラインアップされたが、3代目のモーター内蔵を前提としたDCT(デュアル クラッチ トランスミッション)を持つi-DCDのHパターンMT化はおそらく困難であり、とは言えRSを名乗るからにはMTも欲しいところで、3代目フィットにハイブリッドのRSが設定されるかどうかは、執筆時点では明らかにされていない。

 今回は、RSと比べてどうかというよりも、ハイブリッドがどういう印象であるかを述べたいのだが、独自の発想から生まれたi-DCDは、効率に優れるDCTを組み合わせることでハイブリッドのメリットを最大限に引き出すとともに、トルコンのないDCTの弱点をモーターによって補うという点で、よくぞこうした仕組みを考えついたと感心せずにいられない。

 従来のIMA(インテグレーテッド・モーター・アシスト)に比べると、モーターのみで走行できる時間が圧倒的に長く、いかにもハイブリッドらしい感覚があるし、踏み込んだときの力強い加速感(とくに「S」モード)はなかなかインパクトがある。よくもわるくもハイブリッドらしさをそれほど強く感じさせなかったIMAとは対照的だ。ところが、色々なところに違和感が存在するのが気になる。

 問題はDCTを含むシステムの制御にありそう。ノーマルモード、ECONモードとも概ね同じ傾向なのだが、発進時にはモーターだけで走り出し、その後も燃費を稼ぐためにできるだけエンジンに仕事をさせないようにしている印象で、加速感はリニアさに欠ける。踏み込めば前で述べたとおり力強く加速するものの、パーシャルでのトルク感は1.3リッターガソリンよりも控えめに感じられる。これではかえって踏みすぎて実燃費を落としてしまいそうだ。また、アクセルオフ時にはカラカラ音がするときがあるし、大人しく流している間も色々とシステムが制御を行っているようで、不規則に前後Gが変化するときがある点も気になる。ただし、「S」モードを選ぶと初期のピックアップが別物のようによくなる。しかし、ずっと低めのギアを維持するので、あまり一般走行には向かない。

 駐車するときのような細かい動きでは、モーターが付くことで一般的なDCTにありがちなギクシャク感が解消されるのかと期待したのだが、あまり大差なく、思ったように動いてくれない。また、前進と後退と停止を切り替えた際には動き出すまでタイムラグがある(編集部注:10月24日にDCT搭載車のリコールがホンダから発表されました)。

 ブレーキフィールもなじめない。同じ電動サーボブレーキシステムを持つ先発の「アコード ハイブリッド」がけっこうよくできていたので、あまり心配していなかったのだが、フィットのそれは踏み始めに壁のような感触があり、抜く際の応答遅れもあってコントロールしにくい。慣れれば大丈夫という感じでもない。基本的にアコードと同じシステムなのだが、印象に違いがあるのは車両重量の差が影響しているのかもしれない。

 あらためて述べるが、このシステムの発想や技術には筆者も大いに賛同している。まったく新しいシステムなので、最初は多少の不具合は出るのもやむを得ないことと思う。しかし、6万2000台を超える受注のうち7割もの人々が選んだハイブリッドに、そうした部分もあることを理解した上で買った人が何人いるだろうか。

 おそらく大半の人は「ハイブリッド」であることそのものに惹かれて選んだはず。ところが、上で述べたような症状を目の当たりにして、「こんなつもりではなかった」という人が頻出すると、かえって評判を落としかねない。そこを筆者は危惧しているのだ。さらには、走行中に突然システムがダウンするという症例もいくつか報告されているらしく、それも心配だ。

 率直に申し上げて、ハイブリッドはまだ煮詰めが足りないように思う。おそらく1年後や2年後、最初の一部改良が実施されるころには、ハイブリッドは現状よりもずっとよいものに改善されていることだろう。そんなわけで、ごく普通にフィットを使いたいユーザーには、現状ではガソリンのほうを薦めたい。それも13Gよりも15Xである。

試乗会会場にはフィットRSの無限パーツ装着車が展示されていた

【お詫びと訂正】記事初出時、ハイブリッドの試乗グレードに間違いがありました。お詫びして訂正させていただきます。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛