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社内計測燃費36.4km/Lをマークする新型「フィット ハイブリッド」のメカニズム
1.5リッターハイブリッドでシステム出力101kW(137PS)を発生
(2013/7/19 11:50)
本田技研工業のテストコースで開催された新型「フィット」の試乗会。本記事では主に新型「フィット ハイブリッド」に搭載された1モーターのハイブリッドシステムを紹介していく。
ホンダは2011年11月30日、4輪の次世代革新技術「EARTH DREAMS TECHNOLOGY(アース・ドリームス・テクノロジー)」の概要を発表。その翌年の2012年11月13日には、小型車に最適な1モーターの軽量コンパクトなハイブリッドシステム「SPORT HYBRID Intelligent Dual Clutch Drive(スポーツ・ハイブリッド・インテリジェント・デュアル・クラッチ・ドライブ)」を開発したと発表している。
新型フィット ハイブリッドに搭載されるハイブリッドシステムは、まさにこのスポーツ ハイブリッド i-DCD(Intelligent Dual Clutch Drive)で、その目指すところは高効率な1モーターシステムがもたらす“圧倒的な燃費”と、高出力なモーターによる軽快な加速とレスポンスから生まれる“楽しさ”だという。
具体的なシステムは、最高出力81kW(110PS)/6000rpm、最大トルク134Nm(13.7kgm)/5000rpmの直列4気筒 DOHC 1.5リッター i-VTECアトキンソンサイクルエンジンと、22kW/160Nmのモーターを内蔵した7速DCT(デュアルクラッチトランスミッション)を組み合わせる。システム出力は、101kW(137PS)/170Nm(17.3kgm)となり、新型フィットシリーズで最高のパワースペックを達成。搭載するバッテリーは、5.0Ahのリチウムイオンバッテリーで172.8Vの電圧を発生する。
容量表記では、現行フィット ハイブリッドで用いられているニッケル水素バッテリーの5.75Ahから減少しているが、出力電圧が100.8Vから172.8Vに高電圧化されており、出力密度、エネルギー密度とも約2倍を実現しているとする。
これだけのパワースペックを持ちながら、社内計測燃費値ながらJC08モード相当で36.4km/Lを達成。これは、トヨタ「アクア」の35.4km/Lを超える値だ。ただし、この燃費値については社内計測値のため、正式な燃費が発表されるまでのお楽しみの数値だ。
現行のフィットには、1.3リッターハイブリッドと1.5リッターハイブリッドのハイブリッドRSがラインアップされているが、新型フィットでは1.5リッターハイブリッドでも優れた燃費値を達成することから、1.3リッターのハイブリッドはラインアップされていないのだろう。
モデル | 現行フィット ハイブリッド | 現行フィット ハイブリッドRS | 新型フィット ハイブリッド |
---|---|---|---|
エンジン排気量 | 1.3リッター | 1.5リッター | 1.5リッター |
弁機構 | SOHC | SOHC | DOHC |
エンジン最高出力(kW[PS]/rpm) | 65[88]/5,800 | 84[114]/6,000 | 81[110]/6,000 |
エンジン最大トルク(Nm[kgm]/rpm) | 121[12.3]/4,500 | 144[14.7]/4,800 | 134[13.7]/5,000 |
モーター(kW、Nm) | 10、78 | 22、160 | |
変速機 | CVT | CVT、6速MT | 7速DCT |
燃費(km/L) | 26.4 | 20.0、22.2 | 36.4(社内計測値) |
新型フィット ハイブリッドに搭載されるi-DCDの大きな特徴は高効率モーターを内蔵した7速DCTにある。DCTに用いられるクラッチは乾式単板のパラレル配置。それぞれ奇数段ギヤ、偶数段ギヤに接続され、1速ギヤを担当するプラネタリーギヤを内蔵したモーターは、3速、5速、7速の奇数段ギヤ軸に接続されている。
これにより、発進時はエンジンを停止し、奇数段ギヤのクラッチを接続。モーターでゼロ発進することで半クラッチ制御(クラッチの滑り制御)を行わなくてよくなる。もちろんバッテリー容量が少なくなっている場合はエンジンを始動し、半クラッチ制御を行うが、モーターによるゼロ発進を実現したことでクラッチの負荷が圧倒的に減ったとのことだ。
また、リチウムイオンバッテリーと高効率モーターによりEV走行域も拡大。モーター回生時は基本的に3速ギヤを用い、状況によってはそのほかのギヤを使った回生を行う。
実際、新型フィット ハイブリッドに試乗してみたが、エンジンが停止している中モーターの力のみで“スーッ”と静かな発進が行える。アクセルを踏んでいくとさすがにエンジンが始動し、エンジン+モーターの走行となるが、7速DCTの変速によるトルク変動は感じるものの、クラッチの接続など変速ショックを感じることはできなかった。
また、運転していて気がついたのは、一定速での走行時にエンジンがかかっている中、回生充電が行われている時間があったこと。ホンダのスタッフに確認すると、これはエンジンの高効率な回転数を維持するために、回生充電によってエンジンに負荷をかけている場合があるとのことだった。これは、現行フィット ハイブリッドのIMAシステムでも行われていたが、その領域も明確に拡大されているようだった。もちろん満充電時はロスとなるため、このような動作は行われない。
新型フィット ハイブリッドでは、新型アコード ハイブリッド同様、エネルギー回生の効率向上と、エネルギーロス低減のため電動サーボブレーキシステムも採用。コンプレッサーやウォーターポンプも電動化しており、これらによるロスの低減のほか、エンジン停止時、EV走行時もエアコンが動作するようになり快適性が向上した。
1.5リッターアトキンソンサイクルエンジンは、圧縮比13.5を実現。VTEC機構とVTC機構により、バルブを早閉じする狭開角カムとバルブを遅閉じする広開角カムを切り替え、オットーサイクルとアトキンソンサイクルの切り替えを実現している。これも、アコード ハイブリッドで用いられている技術だ。
新型フィット ハイブリッドのメカニズムを知れば知るほど、そこに投入された膨大なテクノロジーの量に驚く。1モーター内蔵の7速DCTにしろ、さまざまなモード制御の検証の負荷が高いことは容易に想像できる。開発工数はコストに跳ね返ってくることが予想できるが、その点についても新型フィット ハイブリッドは工夫されている。
ホンダは、新型フィット ハイブリッドで1モーターハイブリッドのi-DCDを、新型アコード ハイブリッドの2モーターハイブリッドでi-MMD(Intelligent Multi Mode Drive/Plug-in)を、アキュラ「RLX」の3モーターハイブリッドでSH-AWD(Super Handling - All Wheel Drive)を構築。実はフィット ハイブリッドのi-DCDは、RLXのSH-AWDのフロント部分と同時開発ができたのだという。
RLXは3モーターハイブリッドだが、後2輪の独立モーターを除けば、1モータ-内蔵7速DCTと、V型6気筒3.5リッター直噴エンジンの組み合わせによって前2輪を駆動している。出力やトルクは異なるものの、制御論理などの開発は確かに共通化できる部分があるのだろう。次期NSXに関しても、フロント:2モーター リア:1モーター+1エンジンの構成を採ることが発表されており、アコード ハイブリッドで先行発表されたアトキンソンサイクルエンジンシステムなどを考えると、ホンダのハイブリッドシステム構築は非常にロジカルに組み立てられているのが想像できる。ホンダの掲げるアース・ドリームス・テクノロジーは、ハイブリッドなど環境技術を真に再構築するものだったということだろう。
新型フィットの発売は9月と予告されており、技術に裏打ちされた優れた燃費性能がどのような価格競争力を持って登場するのか今から楽しみだ。