インプレッション

ホンダ「フィット プロトタイプ」

見た目の印象はガラリと変わる

 間もなくモデルチェンジを迎える「フィット」のプロトタイプに、北海道上川郡鷹栖町にある本田技研工業のテストコースで試乗することができた。

 試乗の日程が近づいたタイミングで、やや唐突に次期フィットの予想デザイン図が多くの自動車媒体に掲載されたのを見て、これまでの2世代とは見た目の印象がガラリと変わりそうであることはある程度認識していたが、実車もそのとおり。ベーシックモデルについても個性的な表情のフロントマスクが与えられることや、ボディーサイドには一世代前の「ステップワゴン」を思い出させるような彫りの深いラインが刻まれているのが印象深い。ややボディーサイズが大きくなったこともあってか、エクステリアは過去の2世代よりも存在感があるように思えた。

 一方、立体的なデザインとされたインテリアの質感も上々で、ステッチを入れたようなデザインとされたダッシュや各部にあしらったシルバーの使い方も上手い。内外装のパッと見の印象は、これまでよりも上級に移行したように感じられた。

 収納スペースやユーティリティについては細かくチェックすることはできなかったが、後席の足下スペースは、シート前方のフロアが低く掘り下げられるとともに、センタータンクレイアウトにより盛り上がった前席下の部分から、斜めになだらかにフロアがつなげられており、より楽に足を置けるようになっていた点が新しい。

新型フィットは直列4気筒DOHC 1.3リッターアトキンソンサイクルエンジン、直列4気筒DOHC 1.5リッター直噴エンジンに加え、直列4気筒DOHC 1.5リッターアトキンソンサイクルエンジンに1モーター内蔵の7速デュアルクラッチトランスミッションを組み合わせたハイブリッドモデルをラインアップする

一新されたハイブリッドの第一印象は?

 まず、JC08モード燃費でトヨタ自動車「アクア」を凌ぐ、36.4km/Lの低燃費を達成するのではと噂されるハイブリッドモデルについて述べたい。おそらく販売比率はこれまで以上に高くなるだろうし、これまでの「IMA」とはまったく異なる「i-DCD(intelligent Dual-Clutch Drive)」と呼ばれる新しいハイブリッドシステムがどんなものなのか、気になっている人は大勢いることだろう。

 最初にスターターをONにしてもエンジンは始動しない。そして、専用の電子制御シフトを「D」ポジションに入れ、アクセルを軽く踏むとスルスルとモーターのみで動き出し、しばらくEV走行モードが維持されるところからして、すでにIMAの従来モデルと大きな違いがある。

 やや強めに踏み込むとエンジンが始動し、モーターがアシストに回る。60km/h程度まではクルーズ状態になるとエンジンが停止し、モーターのみでの走行となる。モーターの出力は従来よりもだいぶ強力で、現行フィット ハイブリッドのIMAではモーターの存在がやや希薄だったのに対し、こちらはモーターがかなり主張している印象だ。高速走行時にはモーターが停止し、エンジンのみでの走行となる。また、静粛性全般が現行モデルよりも高まっているようだ。

 トランスミッションは、IMAでは湿式多板式+CVTだったところ、i-DCDには乾式単板のデュアルクラッチ式+7速が搭載される。デュアルクラッチ式はダイレクト感のある走りを楽しむことができる半面、トルコンを持たないため微低速でギクシャクした動きが出がちになることが危惧されるのだが、だからこそモーター用いた新しいシステムと組み合わせると上手くいく。モーターとクラッチを最初からつないでしまえば、件のギクシャクする領域を、より緻密にトルクを制御できるモーターに任せられるからだ。これによりスムーズな走りが可能となる。

 プロトタイプを運転した限りでは、まだ少し動き始めに唐突感があるし、走り出してからも微小な前後Gの変化や、エンジンの停止から再始動の音や振動は感じられたりしたものの、まったく新しいシステムにもかかわらず、すでに高い完成度にあることを大いに感じさせる仕上がりだった。

 新たに導入された電動サーボブレーキシステムは、踏み始めにやや突っ張ったたような感覚があるものの、踏み込んでからのコントロール性はわるくない。このあたり、まだ難しいところもあるかもしれないが、市販の際には、さらによいものに仕上がっていることに期待したい。

 また使い勝手においても、見たところラゲッジフロアの前端と後端の高さが若干ガソリン車よりも高くなっていることと、フロア下にアンダーボックスがないという違いはあるが、あまり大差はないと言ってよいかと思う。

新型フィット ハイブリッド

よりスポーティになったRS

 新たにツインカム化される1.3リッターと1.5リッターのガソリンエンジン搭載車にも試乗することができた。

 ガソリン車に搭載される新設計のCVTは、軽量化とともにフリクションの低減、レシオレンジの拡大を実現しているとのことで、パワートレーンの印象は全体的に洗練されていた。エンジン自体の進化はもちろんのことだが、変速の制御をより洗練させたというGデザインシフトの恩恵もあってか、1.3リッター車でも走りにあまり不満を覚えることはなかった。

 なかでも印象的だったのは、1.5リッターエンジンを搭載する「RS」だ。現行モデルのRSも、2010年のマイナーチェンジでよりRSらしいドライビングプレジャーを手に入れたように感じていた。しかし、エンジンだけが取り残された印象もあり、性能的にはわるくないものの、やや面白味に欠けたように思えなくもなかった。

 そんなわけで、もう少しエンジンの改善を期待していたところ、プロトタイプのRSは本当にそうなっていた。全体的に洗練度が深まるとともに、エンジンの吹け上がり方やサウンドがずっとスポーティになっていて、踏んで楽しめるフィーリングとなっていたことに驚かされた。これでこそ、本当にRSへの期待に応えたと言えるのではないかと思う。

 MTのほうが、よりダイレクトにクルマと対話できるのはもちろんだが、CVTもなかなかのもの。CVTとしてはかなりダイレクト感がある方だし、マニュアルシフトでの素早い変速レスポンスも好印象だ。加えて、他車のCVTではレブリミットのはるか手前で勝手にシフトアップしてしまうものが多く見受けられるのに対し、このクルマは6800rpmからレッドゾーン近くまで引っぱれるところもよい。これならCVTでも積極的に走りを楽しめる。

 見た目についても、新型フィットのやや派手めなデザインとRSのキャラクターは相性がよいように思える。エコ一辺倒の世の中にあって、新型フィットにもこうしたスポーティなテイストを積極的に楽しめるモデルが用意されるのはうれしい限りだ。ところで、ゆくゆく追加されるであろうハイブリッドのRSも気になるところだが、今回は試乗車が用意されていなかった。

 これまでフィットの走りに見受けられた、よく言えば軽快だが、どちらかというと軽薄だった印象もあまりなくなった。かといって、あまり落ち着いてしまうと走りがつまらなくなるところだが、プロトタイプを試乗した限りでは、その落としどころのバランスがちょうどよいように感じられた。フィットの持ち前である俊敏性に、より心地よい一体感を手に入れていた。

 ただし、乗り心地には少々気になるところがあった。今回はワインディングコースと欧州の郊外路を模したコースを走行したのだが、後者は路面がかなり荒れていた。そこを走ると、前席はまだよいのだが、後席ではすぐにフルボトムして突き上げを感じることが多々あった。このコースは条件が厳しいので強調されている面もあるだろうとは思うものの、ファミリーカーとして使われることも少なくないであろうフィットだけに、もう少しよくなることに期待したいところではある。

 2世代にわたって世の中に高く支持されてきたフィットの3世代目ということで、開発陣のプレッシャーも小さくないと思うが、ひとまずプロトタイプを味見したところでは、全体的に大なり小なり底上げされていることは垣間見ることができた。なかでももっとも気になるのは、やはり一新したハイブリッドだ。一体どのくらいの燃費が出るのか、実際に街中などを走らせたときの印象はどんなものなのか、その実力のほどを早く試してみたいと思った次第である。

【お詫びと訂正】記事初出時、現行フィット ハイブリッドのトランスミッションがトルクコンバータを用いたCVTのような記述となっておりましたが、正しくは湿式多板クラッチを用いたCVTであるホンダマルチマチックSとなります。お詫びして訂正させていただきます。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。