インプレッション

BMW「3シリーズ グランツーリスモ」

 ビー・エム・ダブリューの3シリーズに新たなモデルが登場した。

 この「3シリーズ グランツーリスモ」の特徴は一番に実用性の高さ、そして個性的なスタイル、さらにバランスよく楽しめるドライブフィールであると思う。これだけスタイリッシュなグランツーリスモゆえ、やはりデザインが一番ではないかと思われるかもしれないけれど、パッケージングとデザインは表裏一体。より魅力的な外装を纏うことで存在が引き立つ、そんな1台だ。

後席スペースは至って快適

 ボディーサイズは3シリーズ ツーリングから全長200mm、ホイールベース110mm、全高50mmほど拡大している。その恩恵をランダムに紹介すると、約60mm高くなったシートポジションがドライバーのみならず同乗者の視界を高め、広げ、ドライビングとともに快適さをも向上させている。また、ホイールベースの延長により特に後席のレッグスペースが70mm拡大している点は特筆もの。

 5シリーズよりもむしろ7シリーズに近いというその広さは、私のような女性がドライビングポジションを取ったその後方に、ケース買いしたペットボトルのお水をそのまま置いてもまだ余るほど(運転中に動かなくて便利)。快適さは日常の実用にも繋がっている。さらにラゲッジルームは520L-1600Lまで拡大可能。ラゲッジの床下にも収納スペースがあり、2分割式のリア・シェルフも完備。隠す収納技もしっかりと心得ている。

 ちなみにこのラゲッジスペース容量は、3シリーズ ツーリングより25Lほど広いというからこのモデルの活躍の場はさらに広がっていると考えても間違いない。また、後席のバックレストが15段階でリクライニングできるという国産車のような細かな気配りも、ラゲッジの“荷物”と後席に座る“人”との共存のしやすさに繋がるはず。が、わざわざ一言補足すると、ヘッドクリアランスはそれほど広くはない。それはエクステリアデザインを見れば納得もできるのではないか。そしてこのボディーは車幅には変更はなく、1510㎜の全高は立体駐車場に収まるというのもポイントだ。

撮影車両は320iモダン。ボディーサイズは3シリーズ ツーリングから全長200mm、ホイールベース110mm、全高50mmほど拡大し、4825×1830×1510mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース2920mmというサイズ。搭載する直列4気筒DOHC 2.0リッターツインスクロール・ターボエンジンは最高出力135kW(184PS)/5000rpm、最大トルク270Nm(27.5kgm)/1250-4500rpmを発生

 前述した実用性を踏まえ、BMWではこの3シリーズ グランツーリスモは家族のための実用性を持つも、ファミリーカーに見えないエモーショナルなデザインが魅力だと言っていた。セダンやツーリングに比べて生活臭は極めて少なく、顔つきは他の3シリーズに比べてワイド化したキドニーグリルやその周辺のデザイン変更により、若干のボディーサイズアップに伴う均整のとれた印象とアグレッシブさが強まっている。サイドから見たルーフラインはフロントからリアに向かって緩やかに下降。その一方でボディーサイドのジッカー(ドイツ語で溝の意味)ラインはテールランプに向かって切れ上がり、テールエンドで合流。立体的ながら“溜め”を作るような造形が、このモデルのFRらしさと踏ん張り感をスポーティに演出しているように見える。

 ただ、運転席から後方を眺めた際のリアウインドーまでの距離感は、ホイールベース延長分の数値よりも視覚的に少々驚かされるかもしれない。後方確認にはリアビュー・カメラが標準装備されているから心強いけれど……。

 モデルラインアップは直列4気筒DOHC 2.0リッターツインスクロール・ターボエンジンを搭載する(184PS/270Nm)の「320i」と、チューニングによって245PS/350Nmを発生する「328i」、そして直列6気筒DOHC 3.0リッターツインスクロール・ターボエンジンを搭載する「335i」の3タイプ。それらすべてにベースモデルに加え、スポーツ/モダン/ラグジュアリーのデザインラインの用意があり、トランスミッションは8速ATを組み合わせる。

明るく開放的なインテリア。ホイールベースの延長により後席のレッグスペースが70mm拡大するなど、広々とした室内空間を実現するとともに、3シリーズ ツーリングより25Lほど広いラゲッジスペースなどを備える

相棒的な親近感と頼もしさが感じられる乗り味

 この日、メインの試乗車となった320iモダンは「もうこれで十分満足」と言えるモデルだった。乗り心地がよく、その印象はシットリ、シッカリ、ドッシリ。エンジンの加速に飛び出すようなシャープさはないものの力強さは十分であり、そのトルクを確実にタイヤに伝え路面を捉える感覚には相棒的な親近感と頼もしさが感じられる。

 ステアリングフィールもクルマの重厚感にピッタリのやや軽めの重さが、走るシーンやハンドルをまわす速さ、量に応じ、しっかりと走りの味と軽快さをドライバーに伝えてくれる。また一定スピードでの滑らかさもエレガントなグランツーリスモらしい。そして8速ATのスムーズなシフトアップは走行中のリニアさはもちろん、燃費への配慮が伝わるようだった。

 環境性能に対するグランツーリスモの補足は、まずフロントタイヤ後方の「エア・ブリーザー」と呼ばれるエアダクトを初採用したこと。3シリーズですでに採用されている、タイヤの表面をきれいに空気が流れる「エアカーテン」に加え、このエア・ブリーザーがホイールハウス内に流入する空気をスムーズに排出し、ホイール周辺で発生する乱気流を抑え、ホイールまわりでのさらなる空気抵抗を低減する役割を果たす。

 もう1つBMWで初採用されたのが「アクティブ・リヤ・スポイラー」。基本的には車速に応じて自動でアップ/ダウンするが、これには車両後方の空気の流れを調整し、最適なダウンフォースを確保する役割がある。一般的に、クルマは速度が上がるほどボディーを通過する空気の流れが空気抵抗とそれによる燃費を左右するが、さまざまな技術によりこのモデルはセダンに対し車高が70mm高いにもかかわらずCd値は0.29と同等。320iのカタログ燃費は15.0km/Lとなっている。

フロントタイヤ後方の「エア・ブリーザー」と呼ばれるエアダクトを初採用
車両後方の空気の流れを調整し、最適なダウンフォースを確保する「アクティブ・リヤ・スポイラー」

 320iに続き試乗した328iは排気量やトルクの違いもあり、初めの一歩からして走りの軽さがとても印象的だった。軽いといっても出足のことで、ドライブフィールのシットリ、シッカリ、ドッシリ感はよりエクスクルーシブな方向へとシフトしている。加速の際のエンジンの盛り上がり感は、8速ATの巧妙なやり繰りにも助けられて気持ちがよい。さらにドライビング・パフォーマンス・コントロールで“スポーツ”を選ぶと、俊足さが際立つのが楽しい。

 BMWの“3シリーズ”というブランド力に対する安心感や信頼感、そして日本でも使いやすいサイズ(グランツーリスモは少々大き目だけど)を支持する方、もしくはこのサイズのモデルで少し人と違ったモデルを選びたいという方には、一見一乗の価値あるモデルと言えそうだ。走りや実用、そして個性のバランスが高く保たれ、その満足度の高さは3シリーズ中で最強と言えるかもしれない。

飯田裕子

Photo:安田 剛