飯田裕子のCar Life Diary

モロッコで新型レンジローバーに乗る

 南アフリカ大陸はマラケシュ(モロッコ)に人生初上陸。もう少し暖かい国を想像していたけれど、11月のモロッコはその頃の東京とあまり変わらないか、少し暖かく湿度が感じられるくらい。タジン鍋の並ぶ定食屋さんに陶器や絨毯を売る店、そして郊外で素朴な生活を送るベルベル人とその住居を横目に見ながら、アトラス山脈の麓の自然の中で新型「レンジローバー」をドライブしてきました。

 レンジローバーにとってモロッコは初代レンジローバーのテスト走行を行った場所でもあり、試乗会もこの地で行うべく準備が進められていた場所なのだとか。しかし実際にはここでは開催されず、40年以上を経てやっと、この地で数週間に渡る4代目のレンジローバーの国際試乗会が行われました。モロッコはレンジローバーにとって“再会の地”とも言えるでしょう。

試作車(左)と第1世代のレンジローバー(右)
先代(左)と新型レンジローバー(右)
試乗日の朝

 4代目レンジローバーは、歴代のレンジローバーの要素を継承しながらも、大幅な軽量化による走りの進化と環境性能の向上、内外装の洗練度などが大きなトピック。

 アルミニウム構造となったボディーはサイズこそ先代とほとんど変わらない。が、ボディー骨格だけで180kgの減量。エンジンや足まわりのほか、細かなパーツをアルミや樹脂に変更したり、パーツを減らしたりなどにより、トータルでは最大で(搭載エンジンにより異なる)420㎏もの軽量化を実現しています。

 ボディーの軽さは、走りや環境性能に大きな貢献を果たしました。ホイールベースが40㎜伸ばされた室内は、特に後席のレッグルームが120㎜、膝まわりが50㎜広くなり、乗り降りの際に車高を下げる「アクセスモード」が現行モデルに対して100㎜も低くなるため、乗降性も向上しています。

 相変わらず上品で上質さの漂うインテリアでは、スイッチ類をこれまでの半分に減らしたと言うインパネまわりの洗練度が印象的。ウッドやレザーの質感や作り込みには職人の技を感じ、上等なものに包まれる幸福感も十分。

 相変わらずと言う意味ではドライビング姿勢もこれまでと変わらず、そもそも視界良好なレンジローバーですが、より効果的なポジションをとることでそれがさらに活かされる。ボンネット形状は、両サイドが盛り上がるクラムシェル・ボンネットを今回も採用し、ボディー前端の感覚も掴みやすい。

レンジローバーのドライビングポジションは、4世代に渡り「コマンド・ポジション」を継承しているけれど、時代とともにその様子は似て非なるものなり?(写真は左から右へ新しくなっていきます)古いモデルの居心地も悪くないんだけど……

 左ハンドルモデルに乗り、試乗スタート。欧米スタイルの右側通行で走る街中には、深紅の色で預言者モハメットを象徴し、緑の五芒星「スレイマンの印章」が表されているモロッコの国旗があちこちに上がっていました。

 走り出して数mで感じたのが、走りの軽さです。実は私、試乗会に向かう直前に従来モデルを試乗していたので、その違いは明らかでよく分かったのでした。今回の試乗車はV8 5リッタースーパーチャージドエンジンに新たに8速ATが組み合わされたモデルでしたが、ボディーの減量が軽くスムーズな走りを生んでいるのでしょう。そしてワインディングロードでもこれまで以上にさらにロールが少ないというか、ほとんどない。連続するカーブでもSUVのエキスパートであることを忘れるほどの安心感とともに感心しながら走らせることができました。

 その上、アプローチ&ディパーチャー・アングルが増え、オフロードの走破性も向上。走行条件に応じてモードが切り替わる新開発の「テレインレスポンス2」には、オートモードが追加になっています。オン/オフともに進化した走りは特筆すべきレベル。

 郊外に点在する町ではボロボロのクルマやトラックに混じって、ロバの“駐車”ならぬ“駐ロバ”が多く、のんびりムードの人々が集まる町にも活気がある。そんな雑然とした界隈の中を通過する間でも、レンジローバーの車内は静寂そのもの。乗り心地は柔らかいのにフラットで、直進安定性もドイツ車のセダン並みと、言う事なし。おかげで快適なまま正に異国の別世界を傍観しているような気分にもなれる時間が国際試乗会に用意されていたのです。

川の中を走り、渡り、岩場を抜けるオフロード走行は非日常の貴重な体験であり、冒険気分でもあり……
モニターの映像は鮮明
スイッチ類が半分に減ったことで、素材の上質さがより引き立つ洗練ぶりが感じられる
オフロード走行中の電子制御式エアサスのモニタリング画面
デザイン・ディレクター、ジェリー・マクガバン氏の下でレンジローバーのデザインを手がけたリチャード・ウズレイ氏に内外装のデザインについて色々とお話しを伺いました。例えば「新型は1つの部位も先代と同じデザインではないのに、集合体で見ればレンジローバーのカタチをしている。現代の言語にインタープリターしているんです」と言うリチャードさんの言葉に納得
4人乗りのエクスクルーシブ仕様。後席用のリモコンがカッコよい
オフロード走行終了後にはタイヤやブレーキ、足回りなどをチェックし、再びオンロードに……

 町を抜けると、遠くに見えるうっすらと雪化粧をしたアトラス山脈に向かうように走り、それはこの数日雨が多いことで水量も豊富な川を渡るというミッションに挑戦。ジャブジャブと川を横断する様子に、これまでと変わらず頼もしさを実感し、興奮にも似たワクワク感に変わります。

 しかしここにも、実は進化あり。これまでの渡可水深が700㎜だったのに対し900㎜と限界水深を上げています。先代までAピラー下にあった空気を取り入れるためのサイドベントが、新型ではレンジローバーを表すデザインのアクセントに変わり、サイドベントはエンジンルームサイドに移動。最新の設計技術を用いてボンネットの下でその役割を果たしているのです。

 ランチの後には、ヒョウまで降るようなストームに遭い、未舗装の道路は雨水が川のように流れ、ヌルヌルとした感触に変わった路面での走行が“幸運にも”できました。ステアリングは重すぎずしかししっかりとした手応えがあり、M+Sのタイヤの接地感を前述のような曖昧な路面状況下で私に伝えてくれます。

黒い雲がやって来たと思ったら、あっという間にストームに……。しかしこれも貴重な走行体験。室内は相変わらず静かでした
素焼きの陶器を売るお店を横目に見ながらスルー。本場のタジン鍋を手にしてみたかったな……
やはりいました、ラクダさん。観光用みたいでしたけれど、何度か見かけることができたのはさすがモロッコと言うべき?
ランチはオープンスペースでピクニック。その場で窯焼きするナンのようなパンをはじめ、エスニックとヨーロピアンの混じった食事メニューは、初モロッコの私にとっては見るだけでも新鮮であり、楽しい
“駐ロバ”中。行きは人が乗り、帰りは荷物を積んで帰る
街中はクルマやバイクが多いけれど、古いモデルばかりという印象が残っています。
中心地を離れればご覧のとおり、空も大地も広く、モロッコの国旗がたなびいていました
街から山に向かって、ドンドンと走ります
遠くに雪化粧をうっすらとしたアトラス山脈が見えた。モロッコは暖かいと思っていたのに、11月の東京と同じような気候でした
宮崎駿監督の映画に出てきてもよさそうな原住民 ベルベル人の集落。山の斜面を利用して家も畑も作られていました。服装は現代的でした
市街地周辺の広大な大地では空に最も近いのがソテツ。ポツンポツンと建物や、小さな民家が点在し、果樹園もあり、ヤギもクルマに驚くことなくマイペースに道路を渡っていた
レンジローバーが川の中を走る様子を道路から見ていた女子とロバ

 この日、何度かオフロード走行を体験した私は、非日常のドライビング体験に冒険者気分を楽しみ、オンロードの軽くスムーズで静かな走りには、東京から箱根あたりをドライブするときの上品な身のこなしに想像をめぐらせました。

 実はこのとき、クラシック・レンジローバー(1963年式)のハンドルを握るチャンスもいただき、40年以上4代に継承されている伝統の走りから繋がる最新の走りやデザイン、快適さの洗練ぶりをより明確に知ることができたような気がしています。まさに最新が最良。あっ、でも古いレンジローバーも年の取り方とその具合もわるくない。あの雰囲気も捨てがたい……という方の気持ちも分かります……。

現代のモデルに乗り慣れている者にとって、クラシック・レンジローバーははじめは足元のワナワナ感が気になったものの、今でもタフな走りができます。装備のシンプルな身軽さが走りにも感じられました

飯田裕子