飯田裕子のCar Life Diary
モロッコで新型レンジローバーに乗る
(2013/1/17 00:00)
南アフリカ大陸はマラケシュ(モロッコ)に人生初上陸。もう少し暖かい国を想像していたけれど、11月のモロッコはその頃の東京とあまり変わらないか、少し暖かく湿度が感じられるくらい。タジン鍋の並ぶ定食屋さんに陶器や絨毯を売る店、そして郊外で素朴な生活を送るベルベル人とその住居を横目に見ながら、アトラス山脈の麓の自然の中で新型「レンジローバー」をドライブしてきました。
レンジローバーにとってモロッコは初代レンジローバーのテスト走行を行った場所でもあり、試乗会もこの地で行うべく準備が進められていた場所なのだとか。しかし実際にはここでは開催されず、40年以上を経てやっと、この地で数週間に渡る4代目のレンジローバーの国際試乗会が行われました。モロッコはレンジローバーにとって“再会の地”とも言えるでしょう。
4代目レンジローバーは、歴代のレンジローバーの要素を継承しながらも、大幅な軽量化による走りの進化と環境性能の向上、内外装の洗練度などが大きなトピック。
アルミニウム構造となったボディーはサイズこそ先代とほとんど変わらない。が、ボディー骨格だけで180kgの減量。エンジンや足まわりのほか、細かなパーツをアルミや樹脂に変更したり、パーツを減らしたりなどにより、トータルでは最大で(搭載エンジンにより異なる)420㎏もの軽量化を実現しています。
ボディーの軽さは、走りや環境性能に大きな貢献を果たしました。ホイールベースが40㎜伸ばされた室内は、特に後席のレッグルームが120㎜、膝まわりが50㎜広くなり、乗り降りの際に車高を下げる「アクセスモード」が現行モデルに対して100㎜も低くなるため、乗降性も向上しています。
相変わらず上品で上質さの漂うインテリアでは、スイッチ類をこれまでの半分に減らしたと言うインパネまわりの洗練度が印象的。ウッドやレザーの質感や作り込みには職人の技を感じ、上等なものに包まれる幸福感も十分。
相変わらずと言う意味ではドライビング姿勢もこれまでと変わらず、そもそも視界良好なレンジローバーですが、より効果的なポジションをとることでそれがさらに活かされる。ボンネット形状は、両サイドが盛り上がるクラムシェル・ボンネットを今回も採用し、ボディー前端の感覚も掴みやすい。
左ハンドルモデルに乗り、試乗スタート。欧米スタイルの右側通行で走る街中には、深紅の色で預言者モハメットを象徴し、緑の五芒星「スレイマンの印章」が表されているモロッコの国旗があちこちに上がっていました。
走り出して数mで感じたのが、走りの軽さです。実は私、試乗会に向かう直前に従来モデルを試乗していたので、その違いは明らかでよく分かったのでした。今回の試乗車はV8 5リッタースーパーチャージドエンジンに新たに8速ATが組み合わされたモデルでしたが、ボディーの減量が軽くスムーズな走りを生んでいるのでしょう。そしてワインディングロードでもこれまで以上にさらにロールが少ないというか、ほとんどない。連続するカーブでもSUVのエキスパートであることを忘れるほどの安心感とともに感心しながら走らせることができました。
その上、アプローチ&ディパーチャー・アングルが増え、オフロードの走破性も向上。走行条件に応じてモードが切り替わる新開発の「テレインレスポンス2」には、オートモードが追加になっています。オン/オフともに進化した走りは特筆すべきレベル。
郊外に点在する町ではボロボロのクルマやトラックに混じって、ロバの“駐車”ならぬ“駐ロバ”が多く、のんびりムードの人々が集まる町にも活気がある。そんな雑然とした界隈の中を通過する間でも、レンジローバーの車内は静寂そのもの。乗り心地は柔らかいのにフラットで、直進安定性もドイツ車のセダン並みと、言う事なし。おかげで快適なまま正に異国の別世界を傍観しているような気分にもなれる時間が国際試乗会に用意されていたのです。
町を抜けると、遠くに見えるうっすらと雪化粧をしたアトラス山脈に向かうように走り、それはこの数日雨が多いことで水量も豊富な川を渡るというミッションに挑戦。ジャブジャブと川を横断する様子に、これまでと変わらず頼もしさを実感し、興奮にも似たワクワク感に変わります。
しかしここにも、実は進化あり。これまでの渡可水深が700㎜だったのに対し900㎜と限界水深を上げています。先代までAピラー下にあった空気を取り入れるためのサイドベントが、新型ではレンジローバーを表すデザインのアクセントに変わり、サイドベントはエンジンルームサイドに移動。最新の設計技術を用いてボンネットの下でその役割を果たしているのです。
ランチの後には、ヒョウまで降るようなストームに遭い、未舗装の道路は雨水が川のように流れ、ヌルヌルとした感触に変わった路面での走行が“幸運にも”できました。ステアリングは重すぎずしかししっかりとした手応えがあり、M+Sのタイヤの接地感を前述のような曖昧な路面状況下で私に伝えてくれます。
この日、何度かオフロード走行を体験した私は、非日常のドライビング体験に冒険者気分を楽しみ、オンロードの軽くスムーズで静かな走りには、東京から箱根あたりをドライブするときの上品な身のこなしに想像をめぐらせました。
実はこのとき、クラシック・レンジローバー(1963年式)のハンドルを握るチャンスもいただき、40年以上4代に継承されている伝統の走りから繋がる最新の走りやデザイン、快適さの洗練ぶりをより明確に知ることができたような気がしています。まさに最新が最良。あっ、でも古いレンジローバーも年の取り方とその具合もわるくない。あの雰囲気も捨てがたい……という方の気持ちも分かります……。