試乗レポート

重く湿った雪の斜面もガンガン走れる「ディフェンダー」は高機動4WDの筆頭

スキー場での試乗会が催された

 ランドローバーはタフな4WDとして世界に認知されている。そのルーツはディフェンダーにある。以前、毎年英国に行っていた時期があったが、羊ばかりの田園地帯で泥だらけになって働くランドローバーをよく見かけた。グチャグチャな農場をノロノロと低速で走りまわるランドローバーは英国という風土に溶け込んでまさにワークホースだった。

 そんな情景を思い出しながら今回の雪上試乗会に臨んだ。最新のディフェンダーは雪の中でどんな走りを披露するのだろう。試乗コースは白馬スキー場のゲレンデ。数日来の暖かさで、スキー場までの道には一切雪を見ることはできなかった。ゲレンデも相当緩んでいるに違いない。

 今回試乗したデフィンダーは、雪を走る上での装備としてタイヤだけが標準装備と異なる。スタッドレスタイヤはフィンランドのノキアン・ハッカペリッタR3 SUV。タイヤサイズは275/55R20という大径である。ハッカペリッタ、懐かしい名前だ。かつてのWRCスウェディッシュラリーでは「ハッカペリッタでなければ勝負権がない」として他タイヤメーカーと契約していたワークスチームもハッカペリッタを履いていた時代があった。ノキアはそれほど雪に対するノウハウが豊富だったのだ。

 当時は世界的に有名な携帯電話会社ノキアの一部門だったが、現在は独立したタイヤメーカーで、北欧やロシアを中心に販売されている。OEMへの供給はしておらず冬タイヤに特化した稀有な企業である。ちなみに北欧やロシアではスパイクが認められているが、ハッカペリッタはスパイクでもノウハウを蓄積しており、現在もユニークな技術を駆使してスノータイヤのトップランナーとして君臨する。

新型ディフェンダー 110のボディサイズは4945×1995×1970mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは3020mm。車両重量は5シートが2240kg、7シートが2280kg
ヘッドライトは半円のようなスタイル
テールランプも独特な形状を採用
背面にスペアタイヤを付ける昔ながらのSUVスタイル
装着するスタッドレスタイヤはノキアンのハッカペリッタR3 SUV。サイズは275/55R20

圧倒的な走破力の新型ディフェンダー

 さて、緩んだ雪はなかなかタチがわるい。スキーやスノボをやる人はご存知だと思うが、水を含んだ雪はザクザクで踏んばりが効かずに滑りにくい。ここをクルマで走るとなるとすぐにホイールスピンして雪の中に埋まってしまう。4WDと言えども手ごわいのだ。ディフェンダーはこの難関を乗り越えられるか?

 エアサスで車高を自在に変えられるので、車高が高くなる「Hiモード」を選択して最低地上高を稼ぎ、スタックのリスクを少しでも防ぐ。こんなことができるのもオフロードの走りを知っているランドローバーならではだ。

車高の調整はセンターコンソールにあるスイッチで行なう。エアサスペンションにより車高は218mm(標準モード)から291mm(オフロードモード)へと変更できる

 それでも油断すると埋まってしまいそうになる。テレインレスポンスは轍/砂地/岩場モードを選択して、強引にゲレンデを駆け上ることにした。こんな滑りやすく埋まりやすい路面ではジワジワとユックリ上ることはできない。油断しているとすぐにスタックしてしまうし、一旦スタックすると抜け出すのは容易ではない。ESCはOFFにしてホイールスピンやリアの流れ出そうとするのは許容して、とにかく前に進むことにした。

最高出力221kW(300PS)/5500rpm、最大トルク400Nm/1500-4000rpmを発生する直列4気筒2.0リッター“INGENIUM”ガソリンエンジン。0-100km/h加速は8.1秒、最高速は191km/h

 走り始めは雪の上に乗るようにして発進し、ちょこっと勢いがついたらグイグイとアクセルを踏んで登っていく。横滑りしたがるのをねじ伏せながら、できるだけハンドルは直進状態を保つようにして、アクセルを踏んで次々と現れるゲートをすり抜ける。

 前輪からも跳ね上げた雪が飛んで行く。ハッカペリッタの深い溝は水分を含んだ雪を掴んでは勢いよく吐き出す。しかも非力かと思えた4気筒2.0リッターターボエンジンはトルクがあり、自然吸気エンジンのようにアクセルのオンオフに対しての反応がよく、これだけ滑りやすい路面でも姿勢コントロールがしやすい。400Nmのトルクは伊達じゃない。条件がわるくなるほど軽快に走るのはディフェンダーらしい。とても2.25tもある巨体だとは思えず、条件がわるくなるほど軽快に走るのはディフェンダーらしい。

ノキアン・ハッカペリッタR3 SUVの雪上性能は高く、重く湿った雪でもしっかりと捉えて吐き出して進む

 サスペンションはすぐに轍ができるような積雪路面でも追従性がよく、頑丈なモノコックボディと一体になって正確なハンドリングが可能だ。グチャグチャな雪道でも自在にコントロールできるのは頼もしい。関門を潜り抜けていくうちに瞬く間にゴールに到達してしまった。ディフェンダーとの雪遊びはあっけなく終わってしまったが、こんな条件で走れるのはなかなか得難い体験だった。

 振り返ってみると、ゲレンデの斜面は初心者用ほどの勾配だが、水を含んだ雪では大抵の4WDはホイールスピンからスタックしてしまう。ディフェンダー用にアレンジされたテレインレスポンス2の駆動力は素晴らしく、また最低地上高を自在に上げられるのも心強い。

 ランドローバー一族は品格のあるデザインで、都市部でも威風堂々としている。それと同時に悪路での高い走破力は驚くほどだ。その一族の中でもディフェンダーの悪路走性はピカイチだった。事実、今回の特設コースのスタートラインに辿り着いたのはディフェンダーだけだった。類まれな走破力の証だろう。

大きなボディだけど街乗りは扱いやすい

 全幅1995mmというサイズは広いゲレンデではそれほど気にならなかったし、意のままになるガッチリとしたボディとサスペンションのコンビネーションは悪条件の中でも遺憾なく発揮された。そして雪上の試乗が終わってから、今度は乾いた路面を約1時間のドライブが待っていた。

 ワイドサイズのボディは狭い路ではさすがにすれ違いで道を譲るようにするが、四角いデザインとコマンドポジションのドライビングスタイルで1995mmの幅を正確につかめる。オフロードでの取りまわしのよさは、街道や市街地でも有効で、ハンドルの切れ角と共に予想以上に扱いやすかった。

エボニーグレインレザーシート(ロバストウィーブテキスタイルアクセント)
後部席も左右独立したエアコンを完備。快適性も高い
内装の随所にオフロードらしい頑丈さを感じるデザインがあしらわれている
乗降性を高めるだけでなく、ルーフ上の収納ボックスなどにアクセスしやすくするフィックスドサイドステップ(オプション)
砂塵などを吸い込んでエアクリーナーフィルターが目詰まりしないようにするレイズドエアインテーク(オプション)
盗難防止用のキーロックも備える樹脂製のエクステリアサイドマウントギアキャリア(オプション)。装着する場所も個性的

 オンロードでの直進性はハンドルセンター付近が適度に広くされており、かつ手応え感があり安心感が高い。さらにスタッドレスタイヤはコーナーではヘビー級のディフェンダーを支えるのに十分な剛性があり、ハンドルに合わせてスーっと曲がっていく。応答性とリニアリティは十分な性能だと感じた。ただしトレッド剛性の高さからか、荒れた舗装路ではリアからの突き上げが強かった。

 シンプルだが品性を感じさせるキャビン。デザイン性の高いエクステリアも好感度が高い。返却する段になってももう到着してしまったのかと名残惜しい高機動4WDだった。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:高橋 学