試乗レポート
「D3 S」「D5 S」「XD4」とアルピナモデルをイッキ乗り ディーゼルの最新モデルもすべてが“意のまま”
新たなラインアップにもアルピナの世界観が凝縮されていた
2021年3月16日 00:00
ディーゼルもすべてが“意のまま”
2020年秋に猪苗代湖畔で「B3」をドライブして感銘を受けた思いも冷めやらぬうちに、矢継ぎ早に開催された「ALPINA Diesel Lineup Experience 2021」というイベントで、新しい「D3 S」「D5 S」「XD4」の3台をドライブした。
いまでは日本法人のビー・エム・ダブリューもディーゼルのラインアップが充実しているが、アルピナは早くからディーゼルにも注力し日本に導入してきた。ベース車が4気筒の設定のみの車種に6気筒を搭載して付加価値を高めるなどしたアルピナのディーゼルは販売比率も意外なほど高く、その完成度にも定評があり独自の存在感を発揮している。
アルピナのカタログ等に記されている「巡行最高速度」とは、「最高速度」のように一発の速さではなく、文字どおりその車速で延々と巡航できることを保証するという意味だ。いずれも200km/h台後半の数字が目に入るが、実際に彼の地ではそうした使い方もされている。その際に経済性ではもちろん、ドライバビリティ面でもディーゼルを動力源とするメリットは多々あり、それはアルピナにおいてもディーゼルが選ばれる大きな要因にもなっているという。
山中湖畔が今回の会場に選ばれたのは、周辺のアップダウンに富んだワインディングでディーゼルならではのトルクを味わってほしいという主催者の思いもあってのことだ。D3 SとD5 Sのリムジンの2台は、エンジン自体は同じながら最高出力がD3 Sの方が微妙に高いのはクーリングパーツの違いによるもの。ボディサイズは全長が200mmほど違うが、車両重量の差は90kgと思ったよりも小さい。アンダーステイトメント(=控えめ)であることを是としながらも、風光明媚な景色の中にたたずむアルピナの姿は、やはりただならぬオーラに包まれていた。
どちらも走らせてみて感心するのは、走る、曲がる、止まるのすべてがまさしく“意のまま”であることだ。よく使われる言葉だが、それを本当に実現できているクルマはそう多くない。音や振動にディーゼルであることをあまり意識させることもないあたりもさすがというほかない。
少し前にB3でも味わったよい印象はディーゼルでも変わらず。アクセルは爪先を1mm動かすとそのとおり1mm分だけトルクがじわっと出て車速が上乗せされ、アクセルオフにしたときのエンジンブレーキが生み出す同じくリニアな減速Gも絶妙な按配なので、とても車速をコントロールしやすい。出足からクルマが軽く感じられるのは、アルピナ初のマイルドハイブリッドも効いてのことに違いない。
D5 SとD3 Sの巧みな棲み分け
いざワインディングへ。スムーズな吹け上がりはガソリンに通じるもので、踏み込むとレッドゾーンのはじまる5000rpmまで軽々とまわり、ディーゼルながらまわして楽しめる面も併せ持っている。それでいて多少の上り勾配でも平坦地と同じような感覚で走れる力強さはディーゼルならでは。ディーゼルの強みを直感させながらもネガを感じさせない仕上がりに再び感銘を受ける。ただし、スポーツプラスモードを選択すると瞬発力が高まるが、ディーゼルなのでアクセルオフ時にB3のようなパンパンという音はしない。
強いて比べると、D5 SがD3 Sに対して少し控えめな感もあるのは、前述の車両重量と出力の差もあってのことだろうが、十分すぎるほどの動力性能を身につけているのはいうまでもない。0-100km/h加速タイムの公表値が4.8秒/4.6秒と、差はコンマ2秒にすぎないとおりだ。
シャシーの仕上がりも素晴らしい。どちらもスポーティで快適でかつ上質な走り味である点では共通するも、走りの“味”は少なからず異なる。乗り比べると、D5 Sは輪をかけて滑らかで、高級車として資質が高まる。かたやD3 Sはスポーツセダンらしい趣きが色濃く感じられる。
たとえばステアリングを切ったときの反応も、いずれも回頭性は俊敏ながら、ヨーと横Gをともに感じるD3 Sに対し、D5 Sはヨーが出ても横Gはあまり感じない。レーンチェンジでの動きもD5 Sの方が落ち着いていて揺り返しも小さい。D3 Sではアジリティの高さを伝えるべく、あえてある程度は横Gをダイレクトに感じさせているように思われる。後席の居住性と併せて、D3 SとD5 Sではそれぞれに相応しく、あえてそのあたりを巧みに棲み分けているのだろう。
乗り心地もいずれも快適な中でもニュアンスが異なり、D3 Sはしなやかな中でも路面の状況を乗り手に伝えようとしている感覚がある。それは20インチを履いても恐るべきヒタヒタ感を覚えたB3と比べても微妙に異なる部分で、足まわりが若干硬くされたことが挙動にも現れていたようだ。かたやD5 Sは、まさしく路面の凹凸をなめるようにいなす、往年のアルピナらしい味わい。走行モードについても、D3 SとD5 Sともにアルピナ独自のコンフォートプラスモードを設定しつつ、D5 Sにはエコプロも残すなど、それぞれに相応しく微妙に差別化しているあたりにも作り手のコダワリを感じる。
ワインディングで走りを楽しんだあとは、どちらも湖畔をごく普通に流すのがまた気持ちよい。すべてが巧みに調和されていて、何も気になることもなく、本当に思ったとおりにクルマが動いてくれるというのは、それだけで気持ちがよい。これなら長時間走っても疲れることもなさそうだ。
目線だけ少し高いスポーティカー
最近ではアルピナもSAVやSACの販売比率が高まっている。中でも「XD4」は前回の東京モーターショーで日本初公開され注目を集めているモデルだ。日本仕様のBMW車には設定のないクワッドターボ仕様のエンジンを搭載しており、4基のターボチャージャーはシーケンシャルではなく、低速用と高速用の2ステージが並列して作動する可変タービンジオメトリーが各2基ずつという構成となっている。
その全域トルクバンドのような加速フィールには驚かずにいられない。どの回転域からでも、アクセルを踏んだとおりに極めてスムーズかつ力強く加速していく。ビ・ターボにマイルドハイブリッドを組み合わせたD3 SとD5 Sも俊敏なアクセルレスポンスは、踏み込むとターボらしい盛り上がりを感じさせたのに対し、XD4は大排気量の自然吸気ユニットを極めたような、リニアな特性とされているのが印象的だ。なお、4.6秒という0-100km/h加速タイムはD3 Sと同値となる。
試乗車には22インチで30偏平という大径でペッタンコなタイヤが装着されていたにもかかわらず、とてもそうとは思えないほどの乗り心地のよさと、ステアリングを切ったとおりにピタッと正確に動く身のこなしにも感心する。
セダン系に比べると重心がいくぶん高いこともあって、フラットな姿勢を保つ中でも加減速や操舵により前後左右に荷重が移り変わり、それによりクルマがどのように動こうとしているかが手に取るように分かることにも感心した。
印象的なルックスはもとより、エンジンがスムーズならハンドリングもまたスムーズであることこの上なく、圧倒的に高性能ながら極めて乗りやすい、そんな稀有な存在である。
特別なディーゼルを積んだ特別なクルマたち。そこに期待する人がいて、それに応えようとするアルピナ。ディーゼルの新たなラインアップにもまたアルピナの世界観が凝縮されていた。