試乗レポート

新型「ノート」で初の雪上ドライブ 進化したe-POWERの恩恵はいかに

シリーズ・ハイブリッドのみとなった新型ノート

 すべてを一新した新型ノートはシリーズ・ハイブリッドのe-POWERのみとなった。エンジンが直接駆動することはないためドライブフィールはBEV(Battery Electric Vehicle)に近い。e-POWERデビュー時はシリーズ・ハイブリッドを市場がどう評価するか興味深かったが、e-POWERがもたらす走りの新しさが歓迎され、ノートは瞬く間にこのカテゴリーで存在感を大きくすることに成功した。

 新型ノートのプラットフォームはルノーとの共同開発であるCMF-Bに代わった。Bセグメントは基本的にはルノーがイニシアチブをとって開発される中で、協業のメリットが最大に出せる着地点を見つけだしている。実際にこのプラットフォームでも日産の意見は強く反映されているという。

試乗したノートのグレードは「X」で、ボディカラーは「バーガンディー」。ボディサイズは4045×1695×1520mm(全長×全幅×全高。X以外は全高1505mm)、ホイールベースは2580mm

 フルモデルチェンジに際してシリーズ・ハイブリッド1本に絞ったことで価格帯が上になったが、それによってクラス上のデザイン、インテリアとすることができたという。確かにこれまでのノートよりも大幅に質感が上がっており、Cセグメントから乗り換えても満足感が高そうだ。

 知っての通りEVは立ち上がりトルクが大きいので、シャシーもそれに見合ったものにする必要があるが、新型ノートはe-POWER専用としたことでこの面でも最初から余力のあるシャシーに絞ることができ、結果的にコスト低減に効果があったという。また、エンジンはHR12型で型式は同じだが、燃焼方法の変更や燃焼室まわりの水流を変えることで、燃費の向上が図られている。つまりすべてがe-POWERに向けて改良されていることになる。

きめ細かく配慮されている第2世代のe-POWER

 実際に走らせると従来のノートe-POWERから大きく進化しているのが実感できた。ボディ剛性が大幅に上がり、タイヤが路面と接地している感じが高い。路面からのコンタクトは少し強めだが、ピッチングは小さく、しっかりとサスペンションが路面に追従している。また、凹凸路通過時の車体の収束もよくクルマ全体でカチリといているところが好ましい。

 ちなみに今回試乗した新型ノートは、ブリヂストンのスタッドレスタイヤ「ブリザック VRX2」の、純正サイズと同じ185/60R16を履いている。

装着タイヤはブリヂストンのスタッドレスタイヤ「ブリザック VRX2」

 新型ノートではできるだけモーターで走れる距離を長くして、先代のノートのようなエンジンをすぐに始動してノイジーにならないように設定されている。これまでのバッテリーの使われ方の経験からEV走行の領域をもっと攻めているのだ。さらにエンジンが発電しても始動時のショックが小さく、エンジン振動そのものも小さい。マウントも含めた新しいプラットフォームとのマッチングが素晴らしい。

 エンジンが回っている時の音もよく抑えられているのでEVのよさを感じることができる。きめ細かい日本らしい配慮はエンジンを始動するタイミングについてだ。低速でエンジン始動するとノイズの大きさが目立つが、それを回避するべくロードノイズが大きくなった時点で始動するようになっている。これにはABSセンサーを使いタイヤノイズなどが大きくなったところでエンジン始動のタイミングを図る。

 また、先代のe-POWERで話題になったワンペダルドライブは、NORMALモード以外ではアクセルOFFで強めの減速Gが発生してそのまま停止することができた。しかし新型ではどのモードでもクリープができるようになった反面、停止までは行なわない。実用性の点では使いやすくなったと思う。

 そのドライブモードは「ECO」「NORMAL」「SPORT」の3種類あるが、ECOではアクセルOFFでの減速Gが強めでブレーキ回生を積極的に使える。一方のNORMALではアクセルOFFでも減速Gはほとんど感じないのでその感覚は慣れたクルマのものだ。一方、SPORTはアクセルOFFでの減速Gは強くなり、さらに反応が早くなる。

 ECOモードは慣れてしまえば市街地などで大抵の場面ではアクセルON/OFFで減速できるが、郊外路などではアクセルOFFにしてコースティング(惰性走行)を使う時など積極的に回生ブレーキが入るので逆に神経を使った。これもモードドライブを使い分ければよいのだが、無精者にはちょっと面倒だった。

インパネは水平でワイドなロングコンソールを採用。2つのディスプレイが並べられ、ドライバー用のアドバンスドドライブアシストディスプレイは7インチ、ナビゲーション用は9インチが用いられて視認性もよい
左側はオーディオやメーター表示の変更が行なえるスイッチ。右側にはプロパイロット、オートクルーズ、電話などのスイッチが配置される
ドライブモードセレクターはシフトスイッチの隣に配置される
電動パーキングは便利だけれど、いざという時に引けないのが個人的には残念
ステアリングヒーターとシートヒーターはEVならずとも冬にはありがたい装備

雪道でのドライブはどうか?

 志賀高原に入り、丸池に向かった登坂路に入る。北斜面の道路では雪が出てきて、場所によってはシャーベット状になっている。道路脇でチェーンを巻いているクルマがチラホラ散見するようになる。

 スタッドレスタイヤを履く我がFFのノートは、時折轍の雪に足を取られてわずかにノーズを左右に振ることはあるが、トラクションコントロールの大きな介入もなくグイグイと登坂する。丸池へのコースは急速に高度を上げて、路面状況がわるくて立ち往生するクルマも出てきた。このような路面ではトラクションコントロールが作動することもあったが、穏やかな制御で滑らかに登っていく。

志賀高原付近の路面はザクザクの雪で、轍もあったりと、よく見かける走りにくい路面だった。凍結するとさらに面倒な路面になるので注意が必要

「ホイールスピンするかな?」と思うような登坂のきつい圧雪タイトコーナーでも問題なくクリアできた。アクセルコントロールの正確さはe-POWERの強みだ。高度がさらに上がり外気温も-7~8℃になってツイスティなコースが続く。微妙なアクセルワークに対する反応が早く、気づかないうちにコーナーをクリアしている。急勾配や極度に滑りやすい路面での登坂性能は4WDにかなわないが、日常的に遭遇する比較的平坦な雪道ならe-POWERで行なう素直な制御に慣れてしまい、雪道は簡単だと錯覚しそうだ。

エンジンは最高出力60kW(82PS)/6000rpm、最大トルク103Nm(10.5kgfm)/4800rpm、モーター(EM47型)は最高出力85kW(116PS)/2900-10341rpm、モーター最大トルク280Nm(28.6kgfm)/0-2900rpmを発生。WLTCモード燃費は28.4km/L

 最終的にはタイヤが大きなファクターになるが、EVはエネルギーの出し入れが早いので雪道も走りやすい。開発の狙いをどこに置くかだが、ノートはドライバーがやさしく運転できるところに的を絞っている。新型ノートではハンドル操舵量が従来モデルよりも20%ほど少なくなっており、これも運転を楽にしている1つの要因で、細かい修正も容易だ。

ワンペダルはアクセルOFFの減速Gが大きく、圧雪路も楽しく運転できた

 VDCのコントロールもきめ細かい。滑りやすいカーブなどで時折パッパッと作動マークが点灯するがクルマの挙動は大きく乱れないので気付かないかもしれない。また、ドライブモードはECOモードを選ぶとアクセルOFFである程度の減速Gが出るので、ブレーキペダルに足が行く前に安定した姿勢のまま、減速させることができる。コーナーの手間などでは前荷重になってハンドルが効きやすくなる利点もあるので、ある意味では雪道向きだ。

 雪道に慣れているドライバーならノーマルモードがなじみやすいと思うが、たまにしか雪道を走らないドライバーならこのモードはよい選択だと思う。SPORTモードはアクセルのピックアップがよくなり、山道でも力強く走れる。積極的に発電してバッテリーの充電量を確保するモードでもある。アクセルOFFでの減速Gも大きく、スポーティで圧雪路でも楽しく運転できた。

雪の山道でも意外と燃費はわるくなかった

 さて燃費だが、長野市から志賀高原往復では17.92km/Lと予想以上によい燃費を記録した。雪山の上り下りの燃費は参考にならないかもしれないが意外とわるくない。また長野~東京の高速道路メインの燃費は21.03km/Lだった。いずれも特に燃費運転することなく出た結果だったので実力に近いと思う。

 よくまとまっているエクステリアデザインとシンプルに質感にこだわったインテリア。ノートは大人4人が程よく乗れるサイズ感もピッタリの骨太のコンパクトカーに仕上がっていた。

今シーズンの雪道はこれが最後かなと、後ろ髪をひかれつつ志賀高原を後にした
日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:高橋 学