試乗レポート

新型「レヴォーグ」に搭載される新世代「アイサイトX」、進化した運転支援機能を試した

新型「レヴォーグ」に搭載される新世代「アイサイトX」に試乗

 スバルの誇るADAS(先進運転支援システム)「アイサイト」が次世代型へと進化、新型レヴォーグに搭載された。「アイサイトX」を名乗る新しいADASは、従来型アイサイト(アイサイトセーフティプラス)時代から活躍しているステレオカメラ(複眼光学式カメラ)/車両後部の超音波ソナー/車両後部左右のミリ波レーダーに加えて、新たに車両前部の左右にミリ波レーダー(マルチモード対応の77GHzか?)を搭載、後述するセンサーやデバイスとともにドライバーへと提供するアシスト技術を増やした。加えて、これまで数回にわたり広角化されたステレオカメラだが、アイサイトXではさらに広角化、より幅広く認識できるようになった。

 一般的にこうしたADASでは、センサーが対象物を認識する「見る(See)」、システムが状況を捉える「考える(Think)」、クルマが制御を行なう「行動する(Act)」の3点が重要であり、ADASの先に位置する高度な自動運転技術であってもそれは同じだ。

広角化などにより進化した「アイサイトX」

 アイサイトXでは「見る(See)」領域を拡げるため、ステレオカメラの広角化のほかに、「3D高精度地図ユニット」を新規採用。三菱電機と共同で開発した高精度地図ユニットだが、三菱電機としてはA/2018年度に4機体制となって高精度での測位ができるようになった準天頂衛星(内閣府宇宙戦略室のもとで開発中)、B/センチメータ級高精度測位端末、C/高精度3次元地図、このA~Cで構成されるシステムを独自に開発。この先、自動運転技術への適応のほか、鉄道、IT農業、情報化施工(ICTを活用した高効率な施工)分野への応用も行なっていくという。

「考える(Think)」領域も大きく進化した。ステレオカメラ/前後4個のミリ波レーダー/車体後部の超音波ソナーなどからの情報を、瞬時に、そしてあらゆる角度から演算する能力を大幅に高めている。

「新型レヴォーグでは、センサーの数を増やしつつ、得られる情報の質を高めたことで、これまで以上に複雑な運転支援が可能になりました」(スバル 先進安全設計部担当部長 兼 自動運転プロダクトゼネラルマネージャー 柴田英司氏)。

 こうなると、増えた情報の取捨選択が精度の高い支援技術の鍵となるわけで、システムの処理能力向上は不可欠に。よって、その高い能力をもつシステムを開発するにあたって活躍したのはAI(人工知能)によるディープラーニングなのか? 「確かにAIも重要です。しかし実際の運転環境は複合的で、さまざまな要因や突発的な事象の組み合わせです。いわゆる混合交通下でアイサイトXを正しく機能させるには、われわれがこれまで蓄積してきたデータに加えて、地道な手作業による情報入力が必要でした。じつはこれが膨大な労力でして、大変でした」と、屈託のない笑顔で語る柴田氏。

 筆者が柴田氏に初めて取材を行なったのは2008年5月。マイナーチェンジを行なった「レガシィ/レガシィ・ツーリングワゴン/アウトバック」に初めて搭載された初代「アイサイト」の体験取材会の時まで遡る。

 柴田氏率いる開発チームは世界で初めてステレオカメラだけで、「完全停止型ではない減速のみの衝突被害軽減ブレーキ」や「全車速ACC」「車線逸脱警報」「ふらつき警報」などを機能させるアイサイトを作り上げた。これだけのADASを実装するとなれば当時7桁が当たり前の世界において、レガシィへ実装する際の販売価格は21万円(税込)と破格の安さ。2010年には、完全停止型の衝突被害軽減ブレーキへと機能強化を果たした上で10万円(税込)と大幅プライスダウン、世界を驚かせた。

 当時、柴田氏に行なった筆者のインタビューレポートにはこう記録が残っている。「よい技術でも普及させなければ意味は半減です。ですから価格にはこだわりました。アイサイト(初代)に求められる性能を確保するには、30万画素のステレオカメラがあれば必要十分です。課題は得られた情報をいかに処理して、実際の制御に活かすのか。ここには人海戦術的なところがありました」。

「安全は人とクルマでつくるもの」とは、とある自動車メーカーが1970年代後半に謳っていた企業スローガンだが、アイサイトの開発現場ではまさしく人とクルマが一緒になって、安全な運転環境の実現を今に至るまで具現化し続けている。

「行動する(Act)」領域も強化した。見て、考えた情報をもとに、アクセル/ブレーキ/ステアリングの操作を部分的にシステムがサポートするわけだが、アイサイトXでは「電動ブレーキブースター」を新規に採用することで、たとえば制動力の立ち上がりを素早くするなど、これまで以上にブレーキ操作をきめ細かく制御する。さらに、ドライブモニターカメラでドライバーがよそ見を長時間続けているとシステムによって判断された場合は、同じく制動力立ち上げの早期化を目的に、ブレーキの油圧を通常時から高め、万が一の事態に備える制御も組み込まれた。

強化された各機能

 このように、強化されたADASの3要素(見る/考える/行動する)によって得られたアイサイトXでの運転支援は次のとおり。まず、「衝突被害軽減」領域から具体的に紹介する。

1.対車両の「対向(自車右折時)」対応機能。自車が1~20km/hで交差点などを右折する際、対向する車両との接触や衝突を避ける。

2.対歩行者の「対向(自車右/左折時)」対応機能。自車が約10~20km/h以下で右左折する際、横断する歩行者との接触や衝突を避ける。

3.対自転車の「横断」対応機能。自車が交差点を約20~60km/h以下で進行する際、自車右方向から直進する自転車との接触や衝突を避ける。

4.「プリクラッシュステアリングアシスト」機能。自車が80km/h以下で走行中、ブレーキ制御だけでは前方車両との衝突が避けられない場合にシステムがステアリング制御を行ない、衝突回避の可能性が高い回避スペースへ操舵支援を行なう。

5.「前側方プリクラッシュブレーキ・前側方警戒アシスト」機能。交差点を自車が通過する際、新たに搭載した車両前部左右のミリ波レーダーで、交わる車線を走行する車両の接近を、自車速度が約60km/h以下の場合は「警報」、自車速度が約20km/h以下では「ブレーキ制御」で危険回避を促す。

6.「エマージェンシーレーンキープアシスト」機能。自車が約60~120km/hで走行中、車線変更時を行なう際や、車線を逸脱してしまった場合に、隣の車線にいる車両の接近を検知して警告とステアリング操舵支援を行なう。ちなみに、上記1~5はスバル初の装備で、6はスバル国内市場向けとして初めてとなる装備。

 次にアイサイトXの「運転支援領域」。ここでは高速域と渋滞時の2つの運転環境で受けられる支援を分けていて、その多くはACCを作動させている際に機能する。

 高速域では、7.「カーブ前制御」機能、8.「料金所前速度制御」機能。9.「アクティブレーンチェンジアシスト」機能。渋滞時は、10.「渋滞時ハンズオフアシスト」機能、11.「渋滞時発進アシスト」機能、12.「ドライバー異常時対応システム」機能。合わせて6つの機能で運転を支援する。

テストコースでアイサイトXの機能を体感

新型レヴォーグのコクピット要素

 このうち、今回は専用のテストコースで7~12を体験した。

 分かりやすいのは7の機能。ACCで走行中に、設定速度(仮に100km/h)ではカーブ走行が不安定になりそうな場合に、あらかじめカーブの曲率に応じた適切な速度(仮に80km/h)まで減速する制御が入る。ここでのカーブ検知は、前述した3D高精度地図ユニットにデータ化されている曲率情報と、ステレオカメラで測距した情報を組み合わせたもので、極めて自然な減速が行なわれた。

 8は7と同じくACC走行中に機能する。料金所に接近した際、イメージとしては200~300m手前からディスプレイ表示と警告ブザーでそれをドライバーに知らせつつ、さらにブースに接近するとブレーキ制御を介入させ、ブース通過直前には約25km/hまで減速する。ブース通過後には、周囲の交通状況に合わせて設定速度まで自動回復させる。

 9はドライバーのウインカー操作をきっかけにした自動車線変更機能。ウインカー操作を行なってから約3秒後にウインカー操作を行なった側への車線変更を行なう。いわゆる道路交通法が定める3秒ルールの間に車体後部左右のミリ波レーダーなどの情報から、A/十分なスペースがあること。B/隣接する車両や接近する車両がいる場合は、それら対象車両に危険が及ばないこと。C/自車が車線変更を行なった際に、対象車両に急ブレーキを掛けさせないこと。これらが満たされるとシステムが判断した場合に限り、自動車線変更が行なわれる。

 テストコースであったので、意図的に迫り来る車両の前に割り込もうとウインカー操作を行なったが、危険な状態が続く限り、自動車線変更は行なわれなかった。

 10は従来のツーリングアシストに準拠した前走車と車線を認識することで機能する車線中央維持と同類の運転支援技術。アイサイトXでは、ドライバーが前を向いているなどいくつかのパラメータでドライバー主体の正しい運転操作が継続されていると判断された場合に限り、約50km/h以下であればステアリングから手を放すことが(法的にも)許される。

 高い精度で車線の中央を直線、カーブを問わず維持されるが、進路上の小さな障害物を避けるなどの回避動作はドライバーの責任。ここは試乗車に同乗いただいた前出の柴田氏も、「渋滞時ハンズオフアシストはあくまでも運転支援です」と力説する。

 12は国土交通省によって2016年3月に示された「ドライバー異常時対応システム」ガイドラインに端を発する技術。アイサイトXでは、ドライバーモニタカメラによる「自動検知方式」で、走行中の車線を維持しながら停止する「車線内停止方式」を採用する。

 こちらもテストコースということで、意図的に脇見を続けていると、ほどなくしてディスプレイ表示と警報ブザーによって、「前を向き、運転操作を継続すること」が促される。それらの警告を無視し脇見を続けると、今度はブレーキ制御やハザードランプの点滅とともに、ホーンを周期的に鳴らし続け停止、その後、電子制御パーキングブレーキ(EPB)で停止を保持する。なお、新型レヴォーグはバイワイヤーシフト方式ではないため、停止状態であってもシフトレンジはD(ドライブ)のままだが、システムによる減速制御の中盤、ホーンの鳴動以降は、アクセルペダルが無効化されている。

 ここまで新型レヴォーグに搭載されたアイサイトXの機能概要を説明してきた。筆者は国内外の車両(乗用車や大型トラック&バス)に実装されたADASの多くを取材・試乗してきたが、アイサイトXの制御はそれらと比較しても実に滑らかだ。

 これは柴田氏率いる開発チームの功績であるとともに、前述した電動ブレーキブースターがADASへもたらす効能と同じく、新型レヴォーグの高められた運動性能がアイサイトXの制御精度を劇的に向上させていることに他ならない。

 たとえば新型レヴォーグでは、ステアリングのギヤ比が従来の14.5:1から13.5:1へと高められた。これによりドライバーによるステアリング操作に対する車体の反応が早くなるとともに、アイサイトXによるステアリング操舵支援の介入反応も比例して早くなる。結果的に、日頃の運転支援の精度が向上し、また万が一の際にも、実質的な介入速度が早まることから、高い被害軽減効果が望める。

アイサイトアシストモニター

 加えてアイサイトXでも、ドライバーとの協調運転が重要視されている。その代表が継続採用の「アイサイトアシストモニター」だ。フロントウィンドウ下部、他車ではちょうどヘッドアップディスプレイにあたる場所に、青/緑/赤/黄と状況によって可変する9つのLEDランプによる光を照射し、アイサイトXが今、なにを見て、どんな判断をしていて、ドライバーにどんな運転操作を促しているのかを伝えてくれる。従来型からLEDランプを2個増やしている点も、地味だがアイサイトXとの協調運転には大いに役立つ。

 このほか、縦型の11.6インチタッチパネル式センターディスプレイや、12.3インチの液晶モニタとの連動もアイサイトXとの意思疎通を図るアイテムとして機能する。

縦型の11.6インチタッチパネル式センターディスプレイと12.3インチの液晶モニタ展示
12.3インチの液晶モニタで構成されるデジタルメーターパネル

「国内市場へ縦型センターディスプレイを採用するにあたっては社内でも賛否が分かれました。また、現状では未採用のヘッドアップディスプレイについても同じく議論を深めています。今回、アイサイトXの機能の1つ、プリクラッシュブレーキのOFFスイッチは物理的なスイッチではなく、センターディスプレイのディレクトリから選ぶように設計しています」(スバル 電子部品設計部 酒井健一郎氏)。

 今回は限られた運転環境での試乗だったが、年内には公道での試乗も行なえそうだ。そこでは、スバルの力作アイサイトXの実力を実際の運転環境で味わってみたい。

西村直人:NAC

1972年東京生まれ。交通コメンテーター。得意分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつためWRカーやF1、さらには2輪界のF1であるMotoGPマシンの試乗をこなしつつ、4&2輪の草レースにも参戦。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も行うほか、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。国土交通省「スマートウェイ検討委員会」、警察庁「UTMS懇談会」に出席。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)理事、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。(財)全日本交通安全協会 東京二輪車安全運転推進委員会 指導員。著書に「2020年、人工知能は車を運転するのか 〜自動運転の現在・過去・未来〜」(インプレス)などがある。