試乗レポート

新世代「アイサイトX」、渋滞ハンズオフアシストなど新型「レヴォーグ」で体感

動画で新世代「アイサイトX」の動作を解説

新型「レヴォーグ」に搭載される新世代「アイサイトX」。アクティブレーンチェンジアシストを体感

極めて滑らかなアイサイトXのアクティブレーンチェンジアシスト

 新型レヴォーグに搭載される「アイサイトX」の高度運転支援機能のいくつかを、発売に先立ち茨城県のJARI(日本自動車研究所)の城里テストコース外周路で実施されたプロトタイプ試乗会で試すことができた。

 ざっと資料に目を通したところ、既存のアイサイトから進化するポイントは多岐におよび、いくつもの「SUBARU初」の文字が並ぶほどで、かなり大がかりな進化を果たすことになりそうだ。その充実した機能の情報を分かりやすく表示するため、未来感のあるデジタルコクピットが設定されるのも新しい。

 液晶メーターに機能を使える準備が整ったことを示すマークが表示され、ステアリング右下にある同じマークのスイッチを押すと作動し、隣の車線が表示されるとアクティブレーンチェンジアシストが使用可能となる。参考まで、同機能に関してはステアリングの保持が必須であることやドライバーが指示した3~5秒後に車線を通過しなければならないなどといった欧州の法規があり、一部のアメリカ車ではおそらく承知の上でそれを実践していない例もあるが、アイサイトXは同法規を満たすことを大前提にしている。

スバル、新型「レヴォーグ」に搭載される新世代「アイサイトX」

 70~120km/hの車速域で使用可能で、他社ではウインカーレバーを浅押しすれば作動するものもあるが、アイサイトXでは容易に動き出すと危険という考えから、しっかり深押ししなければならないようにされている。作動中は乗り越える車線が点線の表示となり、となりの車線に衝突する可能性のある車両が走っていると警報音が出て車線変更しない。

 他社の同様の機能では、動きが早すぎるものや逆にもたつくものも見受けられたが、何度か試してみたところ、本当になんの違和感もなく、タイミングがちょうどよく一連の動きが極めてなめらかであることに感心した。開発関係者が「よいものができるまでとことんやりました!」と述べていたとおりだ。これにはSGP(SUBARU GLOBAL PLATFORM)の導入をはじめクルマの基本性能の向上も大いに効いているとのことだ。

新型「レヴォーグ」

 ところで、よく実際にはステアリングを握っているのに握るよう警報が出てうっとうしい思いをした経験のある人は少なくないことと思うが、トルクだけでなく静電容量式を採用した新しいステアリングタッチセンサのおかげで、正しい位置を握っていればそのようなことがなくなったのもポイント。動作は非常に的確だ。

 また、従来のアイサイトは、なぜ車線を認識できないのかと感じたり、車線変更した後になかなか復帰してくれないように感じる状況がしばしばあったものだが、アイサイトXはそのあたりも格段に進化しているようで、ずいぶん早くなっている。

 一方、後方から隣の車線を接近する車両に対するエマージェンシーレーンキープアシストは、他社ではもっと強く動作して一気に車線内にもどそうとするものも見受けられるところ、スバルではあくまでドライバーに伝えることを念頭に力のかけ方を必要最小限にとどめ、レーンにあわせて沿わすという考え方をとっているのが特徴だ。

 限度を超えて切ると電子音が鳴って制御が外れ、しばらくすると自動的に復帰する。また、従来だと認識できなかったようなかすれた白線の認識性能も向上しているそうだ。

アクティブレーンチェンジアシストのメーターパネル表示。デジタルコクピットのため極めて分かりやすい

3D高精度地図データと高精度GPS情報が効く

料金所近くになると自動減速。メーターパネル内には「料金所」と表示されている

 料金所前の速度制御については、地図データに設定された料金所に近づくと、表示が出るとともに自動的に車速をETCゲート通過時に推奨される約20km/hまで落とす。このときにアクセルを踏んで車速を維持しようとすると、「料金所接近」という表示と警報音が発せられる。そして通過後にはもとの設定車速に自動的に復帰する。

 カーブ前速度制御では、同じく地図データにより車速を制御する機能を確認。ACCの車速を120km/hにセットして走行すると、進行方向にカーブあることを示す矢印のマークが表示される。そしてカーブに進入する手前でRに合わせて自動的に車速を落とす。今回はRがゆるかったので約110km/hまでしか落ちなかったのだが、この車速域で運転をクルマに任せるというのは、大丈夫とアタマでは分かっていてもちょっとドキドキするものだ。

 さらに進むと、もっときついカーブがあるのだが、そうした状況ではあえて減速させすぎないように設定されており、ブレーキ操作が必要になる。これも技術的にはもっと落とすのも可能なところ、スバルではクルマの流れを考えると車速を落とし過ぎないほうがよいと考えているからだという。

渋滞ハンズオフアシストを実現

渋滞ハンズオフアシスト体感中

 そして、いよいよ渋滞ハンズオフアシストと渋滞時の発進アシストを試す。これにはDMS(ドライバーモニタリングシステム)が重要な役割を果たす。車速が50km/hを下まわると機能が使えることを示す青色の表示になり、むろんしっかり前を向いている必要があるが、文字どおり手放しでOKだ。

 実際の渋滞のように停止と発進を繰り返してみたところ、既存のツーリングアシストでは停止から約3秒経過すると再発進にはスイッチかアクセルを操作する必要があるのに対し、アイサイトXはそれも不要。停車しているときによそ見すると、ピンポンという警報音が発せられ機能が停止し、ちゃんと前を見ると復帰する。よそ見している間は発進しない。なにも操作することなく渋滞はクルマにまかせきりで大丈夫というのは実際の場面でも重宝しそうだ。欲をいうと発進アシストは、もう少し素早いほうがとくに都市部ではありがたい気もしたが、車間距離を最短に設定するといくぶん俊敏になる。

 なお、一部の機能が使えなくなる可能性があり、今回は確実を期すためマスクをはずしたが、紙製マスクなら付けていても概ね大丈夫とのこと。ドライバー監視の研究の成果で、眼鏡はほぼOK、サングラスも最近はわりと大丈夫になってきたそうだ。さらに、多少は横を向いてもドアミラーを見ていると判定されて機能には支障をきたさないようにされるなど、実際の使われ方を想定した改善もなされている。

 ドライバー異常時対応システムについても、どのように作動するのか体験できたのは貴重な機会。手を放したまま、よそ見をすると警報が発せられ、そのまま反応しないとドライバーに疾患など異常があったとシステムが判断し、自動的に車速を30km/hまで落とすと同時にハザードを点灯しホーンを断続的に鳴らして周囲に異常を伝える。そして、カーブの途中で止まらないようにしつつ最終的に直線区間で停止する。こうした機能をどのように動かすかはメーカーにとっても悩みどころだと思うが、スバルは熟考の末、このようにしたわけだ。

 そのほかにも新たに衝突回避をサポートするシチュエーションが大幅に増えるというのも心強い限り。なお、基本的な衝突回避機能は全車標準装備で、今回試した高速道路限定の利便機能がさらに付くアイサイトX搭載グレードは35万円高となり、一見すると高価だがデジタルコクピットやナビが含まれるので、実質的にはそれほど高いわけではない。もちろん開発関係者としても、ぜひ搭載グレードを推奨したいと語気を強める。「より遠くまで、より早く、より快適に、より安全に」を謳いスバルに継承されてきたグランドツーリング思想を、この次世代アイサイトがさらなる高みへと引き上げてくれること請け合いである。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛