試乗インプレッション

トヨタ新型「スープラ」(A90型)プロトタイプに乗った!(日下部保雄)

 スープラのデビューは1978年まで遡る。日本では「セリカ」の上級ラグジュアリーブランドとして「セリカXX」として発売されていたが、輸出モデルはスープラのネーミングで統一されていた。セリカのノーズを伸ばし、直列6気筒エンジンを搭載したファーストバッククーペだった。この当時からスープラと直6エンジンは切り離せない。その後、3代目のA70型では全日本ツーリングカー選手権やタフなWRCに参戦するなどモータースポーツフィールドでも活躍した。

 A80型はGT500やドリフト選手権でも強力なコンテンダーとして記憶に新しい。GT選手権ではGT500がオリジナルの車体性能を活かせた頃、大活躍し、やがてレクサス「SC」などにバトンタッチする。

 2019年1月のデトロイトオートショーで正式デビューするA90スープラも直6の伝統を引き継ぎ、80スープラのロングノーズ/ショートデッキでドライバーの位置を後方に置いた伝統的なFRスポーツカーのディメンションを踏襲している。しかしホイールベースはA80型スープラよりも80mmも短縮され、2470mmしかない。その代わり、トレッドはぐんと広げられているのでスポーツカーにとって大切なディメンションはスクエアに近い形になっている。ホイールベースとトレッドの比率は1.6を切ると言われる。通常のスポーツモデルは1.6~1.7ぐらいに収まるケースが多い中で、この数値はかなり走りを意識したものだ。

 A90スープラの開発にあたって、すでにご承知のとおりBMWとの交流の成果として得られたものは少なくない。いろいろな素材を並べてチョイスするのではなく、まず走りにとって何が重要かを協議、基本ベースを決めてから、トヨタはトヨタの道を進みスープラを、BMWはBMWの道を進み「Z4」になっていったということだ。その肝にあたるディメンションはBMWと協議されて決められた。

 エクステリアデザインは、前述したようにドライバーを後車軸の前に座らせ、完全な2シーターとしたデザインで、一目でトヨタと分かるイーグルマスクを持つ。高出力の後輪駆動らしく、大きく張り出したリアフェンダーはスープラの強烈なメッセージでもある。装着タイヤは試乗車ではミシュランのF:235/40 R19、R:255/35 R19を履くが、サイドから見てもホイール径が目立つスタイルで、それだけ全高が低い証拠だろう。

試乗車はフロントが235/40 R19、リアは255/35 R19のミシュランタイヤを履く

 インテリアはバブルルーフを採用したことで背の高い乗員でもヘッドクリアランスはたっぷりとれ、コックピットは適度に余裕があり、それでいてスポーツカーらしいタイトな空間を作っている。6500rpmからイエローゾーンの始まるデジタルメーターも見やすく、ドライバーに余分な操作を強いないレイアウトとなっている。シートはマスキングされていたが、体を包み込むようなサポート性がなかなかよい感触だった。

袖ヶ浦フォレストレースウェイで試乗

 ハーフウェットのコースに飛び出してみる。エンジンは約1500rpmで最大トルクを出す直列6気筒3.0リッターターボ。BMWとも共用するエンジンだが、直列6気筒らしく滑らかに軽く回り、タコメーターあっという間に6000rpm付近に到達する。あまりに力強く、そして軽く回るので思わずタコメーターを見直したほどだ。この驚きはこの後もサーキットを走っている最中、ズーッと続いた。

 トルクがあまりにも低回転から出ているので、トルクの盛り上がりを楽しむ自然吸気エンジンのような感触はないが、どこからアクセルを踏んでも正確にレスポンスよく反応する様はA90スープラの大きな魅力だ。6000rpm付近でそれまでの回転の上昇は鈍くなるが、制御しようという気持ちに抗してもっと回してみると、実際は6800rpm付近でリミッターが入る。加速時のエンジンノートは6気筒らしい心地よいもので、ドライバーにストレスがない。音の作り込みもしっかり行なわれているのが嬉しい。

 トランスミッションは8速トルコンATの1機種。MTファンには残念だが、スープラにはMTは設定されていない。しかし、これだけパワフルでレスポンスのよいエンジンには2ペダルの方が相応しいだろう。一部のスポーツカーに使われているデュアルクラッチよりもトルコンを選んだのは、信頼性と重量、そしてロックアップ機構の進化でDCTよりもメリットがあるとしている。

 確かにATのレスポンスもエンジンに負けず劣らずシャープで、特にシフトアップは気持ちよい。パドルによる制御も使いやすく、これまでダウン側のシフトを苦手としていたが、こちらも予想以上に早いタイミングで入る。ただコーナーなどで急いでいる時は、ショックを伴ってもよいので、もう少し早く入ってくれると嬉しい。間延び感を伴う時はあるものの、通常のドライビングでは特に気にならない。

 ハンドリングは、スープラならではのホイールベース/トレッドのディメンションが独特の操縦感覚をもたらしている。ハンドルにキチンと反応し、ノーズの入りが早い。スーと向きを変えるが、そこには直6を使っても「86」の水平対向4気筒エンジンよりも低重心化に成功したこだわりも感じられる。個人的にはもう少しステアリングセンターからの切り出しが鈍く、操舵力も軽い方が扱いやすいが、キビキビした走りを好むドライバーには心地よい緊張感だろう。もしも4気筒版があれば、前後重量配分はさらに向上し、軽いノーズは軽快なフットワークを見せてくれるかもしれないが、スープラの直6の魅力は他に代えがたいものがある。

 振り返ってみると、旧来のA70スープラはヤンチャだったのを思い出した。ドライビングシーンによってはリアが暴れ出した記憶が蘇る。A90スープラではリアグリップがかなり高く、ほぼ前後50:50の重量配分でドライバーを中心に旋回していくが安定している。

 この安定感には電子制御LSDも貢献も大きい。ドライビングのさまざまなファクターに対して後輪のロック率を変え、安定性を高いレベルで保っている。これだけのエンジントルクとショートホイールベースのFRの組み合わせは、電子制御LSDなくしては高い安定性と両立させえなかったと言う。コーナーの立ち上がりだけでなく、高速直進性も効果大だ。機械式LSDとも違った滑らかな運動性能はその成果である。

 ちょっとアクセルを踏むのを躊躇するようなハーフウェットのロングコーナーでも高い安定性を維持していたのは感心した。ブレーキは少しストロークがある半面、コントロール性に優れており、しっかり踏めばしっかり効いてくれる。よくストロークするサスペンション、ブレーキのコントロール性、回答性など、少し荒れたワインディングロードなどでも楽しそうだ。そしてスープラはとてつもなく速く、それと感じさせないので、最初はドライバー自身のスピード感をよくチェックした方がよさそうだ。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/16~17年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:高橋 学