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「ファントゥドライブの真髄をご堪能いただきたい」。トヨタ新型「スープラ」発表会
70&80スープラ向け「GR ヘリテージパーツ」の発売も公表
2019年5月18日 00:00
- 2019年5月17日 開催
トヨタ自動車は5月17日、同日に発売した新型スポーツクーペ「スープラ(Supra)」の記者発表会を東京・お台場の「メガウェブ」で開催した。
5代目となる新型スープラは、BMWとの包括提携によって生み出された初めてのモデルとなっており、オーストリアにあるマグナ・シュタイヤーのグラーツ工場で生産を実施。直列4気筒 2.0リッター直噴ターボエンジンを採用する「SZ」(490万円)と「SZ-R」(590万円)、直列6気筒 3.0リッター直噴ターボエンジンを採用する「RZ」(690万円)の3グレード展開となっている。このほか、新型スープラの詳細については関連記事「トヨタ、BMWとの提携で生まれた新型『スープラ』発売。490万円から」を参照していただきたい。
新しいスープラの登場を待ちわびてきたファンに向けたイベント「Supra is back to Japan Fes」(5月17日~19日開催)に先駆けて行なわれたこの発表会では、前半にトヨタ自動車 副社長 兼 GAZOO Racing Company プレジデントの友山茂樹氏によるプレゼンテーションが実施され、後半には友山副社長に加え、新型スープラのチーフエンジニアを務めた多田哲哉氏、TOYOTA GAZOO Racing アンバサダーの脇阪寿一氏などのゲストによるトークセッションが行なわれた。
なお、この発表会はTOYOTA GAZOO Racingの公式YouTubeチャンネルでライブ配信が行なわれ、その模様はアーカイブ動画として公開されている。
スープラ用パーツ復刻活動「GR ヘリテージパーツ」プロジェクトがスタート
友山副社長によるプレゼンテーションでは、冒頭のあいさつに続いて壇上に飾られた新型スープラを紹介し、「あらためてご覧いただいていかがでしょうか。かっこわるい、と思う方は正直に手を上げてください」と呼びかけ、来場者の手が上がらないことを確認してにこやかに「皆さん、正直にありがとうございます」とコメントしてスピーチがスタートした。
新型スープラについては3月から開始した事前受注が予想を上まわる好調さとなり、とくに3.0リッターエンジンを搭載するRZについては生産計画を大きく超える状態で3月中に受注をストップする状況となっていた。これについて友山副社長は、「スープラを少しでも早く手に入れたい、というお客さまの声に応えるため、この2か月間、生産調整に走りまわってきました。その結果、本日より受注を再開できることになりました。いずれにしましても、受注生産で納車までお持ちいただくこともありますが、1人でも多くのお客さまにGR Supraを持つ喜び、そしてファントゥドライブの真髄をご堪能いただきたいと思います」と説明。
このほか、壇上に置かれたスープラが、トヨタブランドで初めてとなるマット塗装「マットストームグレーメタリック」を採用したモデルであることを紹介。6月22日~23日に決勝レースが行なわれる「ニュルブルクリンク24時間耐久レース」に新型スープラをベースとしたマシンで参戦することを記念して、このマットストームグレーメタリックをボディに施した24台のスープラ 2019年度生産分を、同日から6月14日までの約1か月間に専用Webサイト限定で販売することを発表した。商談申し込みの当選者については、TOYOTA GAZOO RacingのWebサイトで行なわれるニュル24時間レースのレース期間中に決定されるとのこと。
先代モデルが2002年に生産を終了して以来、17年ぶりにスープラが復活したことについて、友山副社長は「歴代スープラオーナーの皆さまをはじめ、世界中のスープラファンの熱い思いが17年間、脈々と生き続けてきたから」として感謝を述べるとともに、これに加えてトヨタ自動車の社長であり、マスタードライバー“モリゾウ”としても活動している豊田章男氏と、かつてトヨタのマスタードライバーとして数々のトヨタ車の味付けに携わった故・成瀬弘氏のエピソードを紹介した。
豊田社長はマスタードライバーを目指すトレーニングで成瀬氏に師事し、先代スープラを使ってニュルブルクリンク オールドコースを走っていたが、同じくコースを走るドイツメーカーでは数年後の市場投入に向けて開発中の新型車を使っており、自分たちだけが中古車であることを成瀬氏は嘆いていたという。2010年にテスト走行中の事故で成瀬氏がこの世を去った後も豊田社長の中に成瀬氏の言葉が残り、これがスープラ復活の大きな原動力になったことを紹介した。
また、成瀬氏とともに社内の有志が集まって参戦を開始したニュル24時間レースでは、会社側の反対もあってチーム名にトヨタの名称が使えず、豊田社長が携わったGAZOOをチーム名に採用。これが現在のTOYOTA GAZOO Racingの出発点となり、新しいスープラでもニュル24時間レースに参戦するほか、米国で開催されている「ナスカー(National Association for Stock Car Auto Racing)」ではすでにシーズンの第2戦、第3戦で優勝を飾り、2020年からはSUPER GTにも参戦を開始。さらに新しい時代のモータースポーツであるeスポーツの分野でも、PS4用ソフト「グランツーリスモSPORT」を舞台としたグローバルワンメイクレース「GR Supra GT Cup」が開幕しており、さまざまなモータースポーツシーンでの活躍も楽しみにしてほしいと友山副社長は語っている。
このほか、友山副社長は自身が先代スープラ(1997年型)のオーナーであり、「もちろん新型スープラも魅力的ですが、この(先代)スープラも一生手放すわけにはいかない。これは私に限らず、オーナーさんたちの本音なんじゃないかと思います」とコメント。自分と同じく歴代スープラを愛し続けているオーナーに向け、TOYOTA GAZOO Racingから「GR ヘリテージパーツ」プロジェクトをスタートさせ、先々代となる「70型」、先代となる「80型」のスープラ用パーツの復刻活動を行なうと宣言した。
現時点ではリリースする具体的なパーツ名までは言及されなかったが「少しでもオーナーさまの期待に応えられるよう努力させていただきます」としている。
最後に友山副社長は、先日行なわれたトヨタの入社式で、集まった新入社員たちを前に、壇上に置かれた新型スープラのエンジンをかけてアクセルを友山副社長が全開にして、豊田社長が「この音と匂いを覚えておいて」と語りかけたというエピソードを紹介。これについて友山副社長は、「『クルマは五感で感じるもの』というDNAを、われわれは次の世代に継承していかなければなりません」とコメント。「次の100年もクルマを徹底的に面白くする。TOYOTA GAZOO Racingの挑戦はまだまだ道半ばですが、お客さまの笑顔のために、自動車産業の未来のために、心ときめくクルマ作りに努めてまいりたいと思います」と語ってプレゼンテーションを締めくくった。
「スープラの名前は重たい」と多田チーフエンジニア
後半に実施されたトークセッションでは、友山副社長と多田チーフエンジニア、脇阪氏のほか、GAZOO Racing Company エグゼクティブバイスプレジデントの大塚友美氏、トヨタ「タンドラ」をベースとしたマシンで2018年のナスカー トラックシリーズのチャンピオンになった「ハットリ・レーシング・エンタープライズ」のチーム代表を務める服部茂章氏、「FIA GTチャンピオンシップ マニュファクチャラーシリーズ2018」のチャンピオンを獲得した川上奏氏の計6名がゲストとして参加。
新型スープラの復活に対して強い思いを持っていた豊田社長とのエピソードについて、多田チーフエンジニアは「86を開発している時から(豊田社長に)『スープラはいつなんだ』みたいな話をされました。やっと『お待たせしました』って感じですね。スープラの開発も平たんではなくて、(豊田社長の)ダメ出しも何回もありました。ドイツのミュンヘンまで自らテストに来てくれて、『これにスープラなんて名前をどう付けるんだ』と。本当に、スープラの名前を継いでいいとなったのはかなり最近なんです。みんなスープラだと思って開発していたんですが、形も性能も『本当にスープラになるのか』とみんな思ってた。それぐらい(スープラの名前は)重たいものなんですね」と語った。
また、新しいスープラがBMWとの共同開発によって生み出されたことについては、「基本的なディメンションやプラットフォームの諸元を決めたあとは、チームを『スープラチーム』と『Z4チーム』に分けて、デザインのスタジオも全部分けています。スープラではヘルフィ・ダーネンス(テストドライバー)が、サスペンションからエンジン、トランスミッション、ボディの剛性配分といったところまで、スープラのテイストをすべて決めています。彼は、日本人以外での成瀬さんの最後の弟子で、彼がすべてのテイストを決めているところが、このクルマがDNAを受け継いでいるポイントだと思います」と多田チーフエンジニアは解説した。
新型スープラではすでに多数のレース参戦が発表され、TOYOTA GAZOO Racingとして積極的にモータースポーツに関わっていく姿勢が示されているが、これについて友山副社長と脇阪氏がコメント。脇阪氏は、自身が若いころはレースに勝つこと、戦績を残していくことにこだわっていたが、チーム監督などの立場になった昨今では、レースに参戦するときでも「クルマを安全に目的地まで届けていく技術を高めていきたいと考えるようになった」とコメント。「自分の運転技術を上げることで、アクシデントが起きる可能性を引き下げていきたいと思いながらレースに携わるようになってきた」とした。
これを受けて友山副社長は、「例えばクルマを曲げる時でも、単純にステアリングを切っているだけじゃなくて、ブレーキとアクセルを積極的にコントロールして、レーシングドライバーもクルマを曲げているわけです。そうやって、あらゆる路面で、あるスピードの条件で安全に曲がっていける。こういったレーシングドライバーやラリードライバーの運転操作を、そのときの挙動と合わせてデータを取って解析する。例えばタイヤのグリップが失われる極限状態ですが、これは決して速いからだけではなく、突然凍結路が出てきたときでもグリップが失われるわけですね。でも、そんなときでもきちんと安全に止まれる、安全に障害物を回避できる。そんなクルマを開発していく上で、モータースポーツやスポーツカーの開発といったものが、コネクティッドが大きく貢献できるんです」と語った。