イベントレポート

【デトロイトショー 2019】新型「スープラ」のチーフエンジニア 多田哲哉氏に聞く

プレスデー:2019年1月14日~15日(現地時間)

一般公開:2019年1月19日~27日(現地時間)

 トヨタ自動車は1月14日(現地時間)、2002年の生産終了から17年ぶりの復活を遂げた新型「スープラ」をデトロイトモーターショーで世界初披露した。

 米国での発表に合わせて日本仕様の主要諸元も公開され、グレードは直列6気筒 3.0リッターターボエンジンを搭載する「RZ」、直列4気筒 2.0リッターターボエンジンを搭載する「SZ-R」「SZ」の3グレード展開。

 米国に導入される直列6気筒 3.0リッターモデルの価格は4万9990ドル(日本円で約540万円、1ドル=約108円)から。日本では2019年春頃発売予定。

 世界初公開の場となったデトロイトショーの会場で、開発を担当したチーフエンジニアの多田哲哉氏に話を聞くことができたので、ここにお伝えする。

伝統の直列6気筒とチューニングの異なる直列4気筒、エンジンラインアップは3つ

 今回発表されたエンジンラインアップは3つ。歴代スープラに採用されてきた直6エンジンの伝統を継承した、直列6気筒 3.0リッターターボエンジンのスペックは、最高出力250kW(340PS)/5000-6500rpm、最大トルク500Nm(51.0kgfm)/1600-4500rpm。

 一方、直列4気筒 2.0リッターターボエンジンは、最高出力190kW(258PS)/5000-6500rpm、最大トルク400Nm(40.8kgfm)/1550-4400rpmと、最高出力145kW(197PS)/4500-6500rpm、最大トルク320Nm(32.6kgfm)/1450-4200rpmというチューニングの異なる2つのタイプを設定している。

 スープラのエンジンは3種類の設定となっているが、トランスミッションについては、すべてのモデルで8速スポーツATのみの設定となっている。欧州のハイパフォーマンスカーにはDCT(デュアルクラッチトランスミッション)を採用する例があるが、新型スープラにはATが採用された。

──日本市場ではエンジンを3種類用意されましたが、どのようなキャラクターに仕上がっている?

多田氏:スープラのヘリテージは6気筒エンジンにあると何度も言ってきてメインで開発を進めてきました。一方で4気筒エンジンは4気筒ならではのよさがあって、まずはエンジンが軽いんですね。前後重量配分50:50って言っていますが、完全に50:50なのは4気筒の方なんです。6気筒については若干フロントが重くドライバーが乗ることでちょうど50:50になる配分となっています。

 4気筒については乗った感じもフロントがさらに軽快に動いて、例えばワインディングに行ったときに下りとかを走ると4気筒の方が楽しいんです。アルプスの山越えといったテストを何度も行なっていて、うちの開発ドライバーもそういったテストに参加してこのクルマを気に入っていて今度購入するそうですが、彼は4気筒を買うって言ってます(笑)。普段の道を走るんだったら、クルマの軽さ、軽快感があって面白いって言っていますね。ただ、音とか絶対的なパワーみたいなところのスープラらしさは6気筒のほうにあって、そういったキャラクターがうまく分かれているので、そこはお客さまに選んでいただきたいと思います。

 そういった走りを楽しむクルマなので足まわりとかタイヤとかブレーキとか主要なコンポーネントはグレードで差別(エンジンスペックに合わせたチューニングの最適化はしている)していなく、どのエンジンを選んでいただいても同じパフォーマンスが手に入るようなクルマの設定をしています。

直列6気筒3.0リッターエンジン搭載モデルの米国価格は4万9990ドル(約540万円)から

──今回、北米での価格発表がありましたが、4気筒モデルはそれよりは安くなると考えてよいですか?

多田氏:4気筒の方が安いのは当然で、そうでなければ作る意味がない(笑)。4気筒を導入するのは、なるべくたくさんの方に楽しんでいただけるようにしたいからです。“欲しいけど買えないんでしょ”とか“すごく高いんじゃない”とかと皆さんからずっと言われていて、やはり、86から階段がつながっている感じがするくらいの価格設定にしたいなという思いはあります。実は86もクルマを買った後に(カスタマイズなどで)皆さんいっぱいお金を使っていただいていることもあるので、そういったことも含めて十分手が届く範囲内にできればいいなと思っています。

──(コストや値付けなど)トヨタブランドのスポーツカーに仕上げるうえで苦労を感じたことはありますか?

多田氏:クルマ作りは値段の制約があるからこそ開発が面白いところ。ワンオフの1台を作るのであれば自分の好きなものをいくらでも作れるわけですが、限られた開発期間と限られたコストの中で、いかにお客様に驚きを与えて楽しんでもらえるかというところに知恵がいろいろ出て、チームのみんなも頑張れるところだと思っています。

新型「スープラ」はBMW「Z4」と共同開発された。インテリアで共通なのは車内に設置されたモニターくらいと、外から見える部分はほぼすべて差別化を図ったという

──BMW「Z4」との共同開発はどのようなものであったか?

多田氏:86&BRZの開発の時は、なるべく同じ部品を使いましょうとそれで全体のコストを下げてたくさんのお客様にスポーツカーを楽しんでもらおうと考えました。今回はポジションが違うので、そういうことではこのクラスのスポーツカーのお客さまには満足していただけない。(BMWとは)そういったことでお互いに作りたいものを先に決めて、そのうえで使えるものは使いましょうという順番になりました。結果的にエクステリアやインテリアとかはほぼ違います、シフトノブといった細かいところまで変えています。エンジンとかプラットフォームの骨格、足まわりの形式とか、そういうものは同じで、ただしそのチューニングや乗数みたいなところは変えています。

トランスミッションは8速スポーツATのみ

──トランスミッションに8速ATを選んだ理由は?

多田氏:皆さんが持っているATのイメージは、シフトも遅くてダラッとしているんじゃないかと、私も思っていました。しかし、そんなことはないと思うぐらいのところに来ています。7年前に開発が始まった時には、“マニュアルがいるに決まっているじゃない”“DCTのほうがいいよね”とか思っていましたが、いろんな可能性を探っていくときにATのいいところに気が付きました。DCTでなくATを選んだ理由はATのほうが絶対的に軽いんです、これは構造的な問題でDCTが超えることはできない。で、軽いならいかに変速スピードを速くしていこうかと開発を続けていくと、どんどん追いついていくんです。今ではATの可能性に皆が気が付いてトランスミッションメーカーが必死になって開発しているので、ソフトウェアのアップデートだけでもさらによくなると思っています。

──MTのテストも行なっていたそうですが、MTを出すことは考えていますか?

多田氏:スポーツATの開発にあたっては、根本的な制御ロジックなどは我々にもいろいろな技術を持っているので、基本的な開発は日本の開発チームも集めた特別なワーキンググループを作って検討をしてきました。そういったわけでATはかなりいい出来上がりになったと思うので、とりあえずマニュアルはなしで、まずはATに乗ってみて(笑)。

新型スープラが目指した理想の走り

豊田章男社長も試作車両の評価テストなどに参加、一般の道を走る時を想定しながら、サーキットを走ることも多いことを考慮して、その両方のバランスを考えたオーダーが出されたという

──新型スープラの開発で目指した、多田チーフエンジニアの考える理想の走りとは?

多田氏:86を開発したときはドリフト世界一のクルマにしようと言ってきましたが、ドリフトというのはクルマを楽しむうえでステップアップするための糧であると思います。86を作った時はトヨタはスポーツカーが一切なくなっていてそういったときに出すクルマとしてどのようなクルマが最適なのかを考えて、クルマの滑り出す限界を下げて滑り出してからの挙動が安定してクルマをコントロールすることが楽しいといって開発してきたのが86です。

 86でトヨタのお客さまは運転が上手くなって、クルマのカスタマイズも勉強されて、次のステップに行きたい人がいるんですね。飛行機で例えると86を練習機として練習されて皆さんのレベルが上ったので、今度は練習機を卒業してジェット戦闘機に乗ってみたいといった、そういった感覚が味わえるクルマにしようと考えました。

 F1とかのレーシングカーはタイヤが滑り出す限界をうまく探りながら、オンザレールで走る。ターンインから、コーナーの途中、立ち上がりまで、いかにニュートラルで走れるのかといった部分を1番のクルマの楽しみにして、そういった特性を目指しています。

 世の中にはいろいろなクルマがあって、ターンインは気持ちがいいけど、タイミングがちょっとずれると立ち上がりでアンダーになるといった特性のクルマもありますが、新型スープラはアクティブディファレンシャルの効果もありますし、ホイールベースをすごく詰めたこともあって、全てのアスペクトでものすごくニュートラルで走れます。なので、無理にオシリを振り出して走るというより、オンザレールで気持ちよく、すいすい走れるそういうクルマになっていると思います。

編集部:椿山和雄