試乗インプレッション

トヨタ新型「スープラ」(A90型)プロトタイプ、ウェット路面でのファーストインプレッション(岡本幸一郎)

直6ならではのエンジンサウンド

 筆者にとって忘れられない最初の愛車が、2代目「セリカXX」(A60型)だった。そして、その後もA70スープラを2台乗り継いだ。直6でFR、リトラでハッチバックと、当時の筆者にとってとにかくド・ストライクゾーンのクルマだったものだ。そのスープラが復活すると聞いてからずっと他人事とは思えない気持ちでいたのだが、ついにドライブできるときがやってきた。

 いよいよ実車と対面。プロトタイプは擬装されていたが、その絞り込まれたシルエットからは歴代モデルとは異質の雰囲気を感じる。乗り込んでシートに収まると、グッと低いポジションが印象的。タイトなコクピットもピュアスポーツぶりをうかがわせる。

袖ヶ浦フォレストレースウェイで開催されたA90スープラ プロトタイプ試乗会。詳細はまだ明かされていないが、ホイールベースはA80スープラよりも80mmも短縮され、2470mmとした。試乗車はミシュラン「パイロット スーパー スポーツ」を装着

 筆者が試乗したときの空模様は、あいにくの雨。ウェットの袖ヶ浦フォレストレースウェイは滑りやすいことで有名だが、ウェットではよりクルマの素性が浮き彫りになるというものだ。

 さっそくコースイン。アイドリングから低く響いていたエンジンサウンドは、まさしく期待どおり。スムーズで雑味のない音色は直6なればこそ。これを味わえるだけでも筆者にとってはかなりポイント高い。吸音材や遮音材をほとんど使っていないそうだが、けっして騒々しいこともなく、音質がよいので積極的に聞きたくなるほどだ。

 組み合わされるトルコンATも、巧みなチューニングによりスムーズでかつダイレクト感もあり、第一印象は上々だ。とても扱いやすく、マニュアルシフトを試みても俊敏に応答してくれるのでストレスを感じることはない。

ウェット路面だからこそ分かったこと

 感性性能を重視するとともに、運動性能を突き詰めるため「86」よりも100mm短いホイールベースを実現するとともに、トレッドを最適化したというが、実際にも回頭性はかなり鋭く、コーナリング姿勢も安定している。ウェットだったせいもあってか、ちょっとインに入りすぎる気もしたほどだが、ピュアスポーツぶりをよりアピールすべく、おそらくあえてそうしたのだろう。

 雨足の強い状況下では、このコースはやはり本当に滑りやすい。そのせいもあってか、強めにブレーキングするとリアの落ち着きがなくなってしまうのが少々気になり、リア荷重が軽くなったときのスタビリティがもう少しほしいようにも思えた。その症状はセーフティシステムをONにしても見受けられ、何らかの原因でそうなるのだろうが、そんなときこそせっかくのアクティブデフにもう少し活躍してほしいところだ。

 反対に立ち上がりでは、お伝えしたとおりの滑りやすい路面であるにもかかわらずトラクションが十分に確保されて、予想したよりもしっかり前に進んでいくことに驚かされた。縦方向のグリップはかなり高そうだ。この感覚はこれまでのトヨタ車にはなかったもので、同じような状況では簡単に横に逃げがちだったA80スープラとは、やはり隔世の感がある。

 袖ヶ浦フォレストレースウェイはドリフト禁止のところ、このコンディションではどうしてもリアが出るシチュエーションがたびたびあったのだが、動きがピーキーではなくコントロール性が高いので立て直しやすいことも印象的だった。さすがにVSC OFFでは滑りすぎて手こずったが、こうした状況で威力を発揮するのが介入を遅めてドライバーのコントロール領域を拡げながらも、最後には守ってくれる「トラクションモード」だ。おかげで浅めのスリップアングルを維持しながら前へと進ませることができる。

 ボディ剛性は「86」の2.5倍で、カーボンボディの「LFA」をも上回るというだけに、たしかに剛性感は高く、挙動も掴みやすい。ただし、ステアリングレスポンスには優れるものの、ステアリングの切りはじめや戻しはじめ領域で少々ひっかかり感というか、素直についてこない感覚もあったので、そのあたりもう少し一体感が出せるとなおよいかと思う。

出来のよい直6に感謝

 一方で、絶品のエンジンにはホレボレさせられっぱなしだった。アクセル操作に対するレスポンスがターボラグをまったく感じさせないほど俊敏で、わずか1600rpmで最大トルクを発生するだけあって踏みはじめからとても力強い。2500rpmから5000rpmあたりにかけてのトルクの盛り上がり感を強調するかのような加速フィールが美味しく、さらにはトップエンドにかけてのスムーズな吹け上がりもさすがのものがある。

 また、時間をかけて開発したというサウンドの仕上がりも素晴らしい。やはり出来のよい直6というのは本当によいものだと改めて実感した次第。直6派への期待に大いに応えてくれたことをうれしく思う。

 まだプロトタイプゆえ粗削りな面もいくつか見受けられたものの、ピュアスポーツとして復活するスープラが目指したものはヒシヒシと伝わってきた。やはり日本にも次期スープラのような正統派スポーツカーがぜひあるべき。正式な発売が楽しみでならない。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛