試乗インプレッション

レクサス「ES」はスポーティにも走れる高級セダンだった

世界初採用の「デジタルアウターミラー」も実際に試してみた

 日本市場に初投入となるレクサス(トヨタ自動車)「ES」は、実はアメリカでは1989年のレクサスブランド創設時から販売を続けているモデルで、今回の新型で7世代目となる。

 けれども、一時期は日本にも存在したことがある。「レクサス ES300、日本名ウィンダム……」というTV-CMを覚えているだろうか? ちょっと懐かしすぎるのでついてこれない人もいるかもしれないが、2~4代目のESは、トヨタブランドの「ウィンダム」として日本に導入されていた1台。そう聞けば「あぁ、あのクルマの後継モデルね」と思い出す人も多いのではないだろうか。5代目~6代目は日本での販売がなかったが、FFレイアウトでありながら2.5リッターエンジンをフロントノーズに押し込み、力強く、けれども静けさに溢れたあの世界が、いよいよ戻ってくる。

レクサス ES300h“version L”(698万円)。ボディサイズは全車共通で4975×1865×1445mm(全長×全幅×全高)。ホイールベースも全車共通の2870mm
全車でLEDヘッドライトを採用するが、“version L”と“F SPORT”では「上下2段式アダプティブハイビームシステム」にも対応する「3眼フルLEDヘッドライト」(右)を標準装備

 新生レクサス ESはES300hというネーミングで登場した。バッヂの後ろに“h”の文字を掲げれば、すなわちコレ、ハイブリッドシステムを搭載することを意味するのだが、排気量が2.5リッターになったとはいえ、システム最高出力が160kW(218PS)となれば、十分すぎるパフォーマンスを発揮することは間違いないだろう。

 これをセットするのはレクサスとして初採用となる「GA-Kプラットフォーム」である。この組み合わせは「カムリ」と同様ではあるが、ボディサイズはカムリで最も大きいWSが4910×1840×1445mm(全長×全幅×全高)に対し、ESは4975×1865×1445mm(全長×全幅×全高)と若干大きく、ホイールベースを比べても2825mm対2870mmと拡大していることが分かる。室内長を比べれば一目瞭然なのだが、2030mm対2170mmと一気に広さが増している。その大半は後席の足下で、リアシートに収まればゆったりした感覚があることは明らかだ。単純にカムリの豪華版がESというわけではないことがご理解いただけることだろう。

最高出力131kW(178PS)/5700rpm、最大トルク221Nm(22.5kgfm)/3600-5200rpmを発生する直列4気筒 2.5リッター直噴自然吸気エンジン「A25A-FXS」型と、最高出力88kW(120PS)、最大トルク202Nm(20.6kgfm)を発生する「3NM」型モーターを組み合わせるハイブリッドシステムを全車で採用

 ただし、すべてが拡大したわけではない。拡大路線での重量増が災いしたのか、はたまた搭載されるバッテリーがカムリのリチウムイオンに対し、ESはニッケル水素となったせいかもしれないが、JC08モード燃費はカムリの28.4~33.4km/hに対してESは23.4km/hとダウンしている。広大なリアスペースが生まれたのであれば、もっと大きいリチウムイオンバッテリーを搭載して燃費でもカムリに勝てるとなれば話はスッキリしたような気もするのだが……。

ES300hのインテリア。インパネ中央に12.3インチワイドディスプレイを装着
パドルシフト付きの本革巻ステアリングを全車標準装備。“version L”(写真)と標準グレードでは本木目加飾が設定される
“デジタルの要素”と“アナログの風合い”を融合させたというTFT液晶式メーターを採用
足を組んでも余裕たっぷりのリアシート。さらに写真の“version L”ではシートバックが最大8度まで電動リクライニングし、ヘッドレストにサイドサポートも設置されてロングドライブでも快適に過ごせる空間となっている

パフォーマンスダンパーは走りの上質さにも寄与

 ただし、走りに対する取り組みはカムリの上をいく。それは世界初搭載となる「スウィングバルブショックアブソーバー」をF SPORT以外の全車に盛り込んだことだ。ピストンバルブ、メインバルブを備えることは従来のショックアブソーバーと同じなのだが、その間に非着座式のバルブを備えていることがポイント。このバルブはオイル流路にふたをする形になり、それには10ミクロンの細い隙間があり、ピストンスピードが極微低速の時に減衰力を発生するという。綺麗な路面でゆらゆらとした動きが出る状況、またザラザラビリビリした路面の荒れも吸収してくれるらしい。上質な走りへの追求が詰まっている。

 それを知るために、まずは最もベーシックなES300hをチョイス。タイヤ&ホイールも17インチというクルマだ。走り出すとたしかに走りはとにかくフラットであり、ボディが無駄に動くようなことがない。路面からの入力を見事に吸収し、普通ならわずかにユラつくはずのシーンを何事もなくクリアしていく。ユラっとする前に抑え込み、大きな入力を受け止める体勢をきちんと備えることに成功したこの足まわりは、街乗りからして上質だと即座に感じさせてくれて、レクサスの世界観に実にマッチしているように思える。

標準グレードとなるES300h(580万円)
タイヤサイズは215/55 R17。試乗車ではミシュランの「プライマシー 3」が装着されていた
標準グレードと“version L”で採用する「スウィングバルブショックアブソーバー」のカットモデル。非着座式バルブの製造に高い精度が求められるという

 それは高速道路に乗っても同様だ。路面の継ぎ目も気にならず、このベーシックモデルで十分とさえ感じる仕上がりがあったのだ。ただし、高速道路で最も常用しそうな速度域で、腹まわりに伝わってくるような微振動を常に感じてしまった。他の領域があまりにも静かでフラットだったたけに、そこが妙に引っかかったのだ。後に上級グレードであるversion Lに乗り換えると、こうした振動を感じることは一切なくなった。どの領域でも微振動は感じることがなく、そしてフラットに走る。果たしてこの違いは何だろうか? ひょっとしてタイヤの違いか?

 試乗後に開発者に伺って判明したのだが、「それは前後に備えられたパフォーマンスダンパーの有無です」とのこと。走行中に生じるボディのねじれや微振動を吸収し、ハンドリング特性にも効くというその存在が、走りの上質さにも明らかに寄与していたのだ。また、version Lのホイールには中空構造を採用し、それをレゾネーターとすることでタイヤが発する高周波ノイズを打ち消していたこともポイントだ。静粛性の面でもversion Lは上をいく。

“version L”の専用装備「ノイズリダクションアルミホイール」でタイヤノイズを打ち消すための専用経路。製造工程の途中で折り曲げ加工と溶接を行なって中空部分を形成。手間がかかるが、タイヤ側に吸音素材などを付与する場合と比べ、使い続けても性能変化を起こさないことがメリットになるという

 ワインディングでの走りはカムリよりも延長されたホイールベースが効いているのか、ゆったりとした走り味。高級セダンのイメージそのままだ。けれども扱いにくさがあるわけではない。レクサス初の装備となる「アクティブコーナーリングアシスト」の採用により、コーナーの内輪に制動力を与えてアンダーステアを消すことで、思い通りのラインをトレースできるのだ。よりキビキビとした走りが楽しみたいのであれば、可変ダンパーの「NAVI・AI-AVS」を備えるF SPORTを選択するといいだろう。減衰力の連続可変制御(650段階)を実現するだけでなく、ドライブモードの選択次第ではスポーティにも走ってくれるのだ。

 動力性能についてもラバーバンドフィールなく、アクセル操作に対して即座に反応してくれるハイブリッドシステムの動きは心地いい。決してドカンと来るような力強さではないが、ドライバビリティに優れたその動きは、公道を走るうえでは十分すぎる。バッテリーをリアシート下に押し込み、低重心な感覚も生み出しているそのバランスは、自然な走りに活きている。

ES300h“F SPORT”(629万円)
タイヤサイズは“version L”と同じ235/40 R19。試乗車ではダンロップの「SP SPORT MAXX 050」を装着。ダークプレミアムメタリック塗装の専用アルミホイールとの組み合わせとなる
メーターフード左側のダイヤルスイッチでドライブモードの切り替えが可能。左の“version L”と標準グレードでは「Normal」「Eco」「Sport」の3種類、右の“F SPORT”では「Normal」「Eco」「Sport S」「Sport S+」「Custom」の5種類を用意する

世界初採用の「デジタルアウターミラー」には今後の改良を求めたい

 これで締めくくりとしたいところだが、ESにはもう1つのトピックが残っている。それは世界で初採用となる技術「デジタルアウターミラー」のオプション設定があることを忘れてはならない。鏡を使わず、カメラによって左右の後方を視認させてくれるこの装備はどうなのかと気になっていたのだが、実際に扱ってみるとなかなか面白い。

 まず、ミラー部の薄型化を達成したことで、交差点における歩行者の認識がはるかにしやすくなったことを確認できた。これに乗ると、従来のドアミラーはかなり視界を狭めていたことに改めて気付かされる。いかにも後付け感が満載のディスプレイは、もう少しインテリアとの協調が必要だと感じたが、そこをクリアしたらいいかもしれない。あとは人間がどこまでついていけるかだ。

ESで世界初採用された「デジタルアウターミラー」(左、中央)は“version L”だけで選択可能なオプション(21万6000円高)
全車標準装備のドアミラー。鏡面に「ブラインドスポットモニター(BSM)」の警告用インジケーターを備える

 ウインカー作動時にはモニターが表示範囲を拡大するように切り替わるのだが、それがまだなじめなかった。通常のドアミラーでは見えないエリアを見せようという狙いがあるのだが、個人的にはいずれかの位置で固定してほしいと思えた。そして、車両感覚が得にくいことも気になった。ドアミラーは左右の触覚のような感覚で普段はクルマを操っており、リアタイヤの軌跡を常に監視しながら走っているのだが、それがしにくい面があるのだ。いずれもモニターの表示の仕方でクリアできそうな点なので、今後の改良を求めたいところだ。

ウインカーを作動させると、車内のディスプレイ表示が通常モード(左)から拡大モード(中央、右)に切り替わり、車両側面をワイドに表示。2輪車や歩行者を巻き込まないようチェックできる。拡大モード内のグリーンの枠が通常モードの表示エリアで、視認できるエリアが2倍以上に広がっていることが分かる
ギヤセレクターで「R」を選択したときも通常モード(左)と拡大モード(右)を切り替えてワイドに表示。さらに安全なエリア(ブルー)と衝突の可能性があるエリア(レッド)をラインで示す
トンネル内などの暗がりでも、カメラセンサーの感度を高め、画像補正も行なって見やすく表示する
“version L”と“F SPORT”にオプション設定(10万8000円高)する「デジタルインナーミラー」。後席乗員や全車標準装備の「電動リアウィンドウサンシェード」に遮られることなく後方確認できる

 また、老眼が始まり、遠くを見ていて急にモニターを見るとピントが合わないようなこともあった。それはこちらの問題なのかもしれないが、いずれにしても年配の方々が好んで乗るようなクルマなだけに、まだまださまざまな検討が必要ではないか? それが正直な印象だ。

 このように、世界初の技術が数多く盛り込まれたこのESは、明らかに今までにはない世界観を突き進んでいる。単純にカムリの高級版では終わらなかったその造りは注目に値する1台だった。

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。走りのクルマからエコカー、そしてチューニングカーやタイヤまでを幅広くインプレッションしている。レースは速さを争うものからエコラン大会まで好成績を収める。また、ドライビングレッスンのインストラクターなども行っている。現在の愛車はトヨタ86 RacingとNAロードスター、メルセデス・ベンツ Vクラス。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛