インプレッション

雪上でホンダの4WDシステム乗り比べ!(2018年鷹栖コース)

新型「N-BOX」のビスカスカップリング式4WDを体感

本田技研工業の4WDラインアップを乗り比べ

 本田技研工業が国内外の市場でラインアップする4WDシステムは以下のとおり。

①ビスカスカップリング式4WD:軽自動車「N-BOX」から「フィット」クラスに採用。
②リアルタイム式4WD:SUV「ヴェゼル」を中心に中核モデルに採用。
③VTM-4:北米市場向けの大型モデルに採用。
④SH-AWD:「レジェンド」や「NSX」に採用。

 このうち前回のレポートでは②のリアルタイム式4WDとツインモーター式ハイブリッドの「i-MMD」を組み合わせたシステムを新型「CR-V」で、④のSH-AWDを新型「レジェンド」でそれぞれ紹介している。そこで今回は①のビスカスカップリング式4WDを「N-BOX」と「フィット」で、そして②のリアルタイム式4WDをDCT内蔵1モーター方式の「i-DCD」との組み合わせとなるマイナーチェンジ版「ヴェゼル」と、「フリード+」で紹介していく。

ビスカスカップリング式4WDを採用する「N-BOX」「フィット ハイブリッド」

N-BOX カスタム(自然吸気/4WD)

 ①のビスカスカップリング式4WDを採用するN-BOXは2017年にフルモデルチェンジを行なっているが、新しくなった車体設計に合わせてこのビスカスカップリング式4WDの性能も向上させた。具体的な数値としては、雪上による20%勾配路の登坂発進加速性能が従来型から9%向上している。ここでの指標は登坂時における車体の加速度で、体感値としてはアクセル操作に対して車体がグンと前に押し出される量が1割程度大きくなったと考えればいいだろう。新型N-BOXではプラットフォーム(車体の土台)やパワートレーン(エンジンからトランスミッションなど)といった車体の構成部品のうち約90%を新しくしたことで車両重量を約80kg軽量化しているが、登坂発進加速性能の向上はその副次的効果ともいえる。また、車体を安定させるVSA(車両挙動安定化制御システム)との連携やトラクションコントロールの緻密な制御もこれには大きく貢献している。

 ①を搭載するN-BOXはターボモデルのみならず自然吸気モデルでもその走りは実に頼もしかった。試乗コースはアップダウンや路面そのものの起伏が激しい2450mほどの特設コースだ。ここでは、前輪のスリップを検知するとすぐさま後輪へ駆動力が多く分配され、失速を最小限に抑えながらアクセル開度に応じた加速度を生み出せることが体感できた。肝は後輪へ駆動力を伝えるビスカスカップリング式4WDシステムとVSAの協調制御だ。具体的には、滑りやすい路面での走行中に前後輪の回転差、つまり前輪がスリップしたことが検知されると、アクセルを自動的に、そして瞬時にガクンと絞ると同時に、スリップ量が大きければブレーキ制御も加えてそのスリップを抑えにかかる。次に後輪の駆動力を前輪のスリップ回復率を照らし合わせながらリアルタイムで増大させていくようにコントロールし、最適な駆動力を4つのタイヤで生み出していく。このようにメカニズムを解説すると長くなるが、実際はこうした協調/連携制御は瞬時に行なわれているためギクシャク感はまるでない。

 ここでは比較としてFF方式のN-BOXも用意されていたのだが、意外なまでに前輪駆動のFF方式でも不安な場面が少なかった。勾配がきつくなったり、わだちにタイヤが取られたりしてしまうとさすがにFF方式では直進安定性がわるくなるが、それでもVSAやトラクションコントロールがすぐさま介入することで即時に安定性を取り戻す。また、こうした先進安全技術が介入するとその間はブレーキ制御が入ったり、アクセル操作がOFFになったりすることから失速の要因になりやすい。故にFF方式で登坂中にこれらの制御が入ると最悪の場合、失速→停止→発進不可となることもある。その点、N-BOXの先進安全技術は介入時間を最小限にとどめられているため失速の量そのものが少なく抑えられている。もっとも、車体がしっかりしていないといくら先進安全技術とはいえ運転支援の域を出ないことから危険な状態のままであるが、N-BOXはその点においても優秀だった。

比較として用意されていたN-BOX(自然吸気/FF)
フィット ハイブリッド

 ①ではN-BOXに加えフィット ハイブリッドでも走行した。こちらは1.5リッターエンジンに7速DCTにモーターを内蔵したi-DCDの組み合わせだ。後輪の駆動力はフロントデファレンシャルに直結された小型のトランスファーからプロペラシャフトを経由し、ビスカスカップリング式リアデファレンシャルを通じて後輪へと伝えられる。ビスカスカップリング式のリアデフはカップリング内にあるプレートの金属接触による過剰な駆動トルクを発生させない「ハンプレス構造」とすることで、後輪のトルクを最適に制御する。またスペース効率向上の観点から、構成部品そのものも徹底的に小型化した。

 ビスカスカップリング式4WDのシステムそのものはN-BOXと基本的には同じだが、i-DCDは有段ギヤのDCTであるためN-BOXのCVTと比較するとアクセル操作量に対するダイレクトな加速力が得られる点が大きく違う。またVSAとの協調制御もi-DCD向けにセッティングされているため、滑りやすい路面に差し掛かった際に後輪からの力強い駆動力を体感するまでの時間も短い。ちなみに①の方式における後輪への最大駆動力配分量は、N-BOXやフィットともに前輪が完全にスリップ、つまりグリップ力を失った段階では最大50%程度まで高められる。

リアルタイム式4WDを採用する「ヴェゼル ハイブリッド」「フリード+」

ヴェゼル ハイブリッド

 次に②リアルタイム式4WDをマイナーチェンジを行なったヴェゼル ハイブリッド(トランスミッションはフィットと同型式のi-DCD)で試乗した。リアルタイム式4WDのメカニズムについては前回のレポートに詳しいが、今回のマイナーチェンジではi-DCDをはじめハイブリッドシステム全般にも手が加えられている。まず、エンジンそのものを軽量化しながら、対ノッキング性能や燃焼効率を改善し、さらに各部の見直しによってフリクションも低減。次にDCTの変更として2速、3速ギヤをローギヤード化(ということは2速のリダクションギヤ化で疑似的につくり出している1速ギヤもローギヤード化)し、高速域での伸びがさらに感じられるような加速力となるよう電子制御スロットルを調整しつつ、トランスミッション内蔵モーターの損失を低減して高効率化を図った。また、ハイブリッドシステムの要であるIPU(インテリジェント・パワー・ユニット)も最適化を図りVDA規格化されたバッテリーセルを用いつつ、さらなる小型軽量化を施した。

フリード+

 この新型ヴェゼル+リアルタイム4WDが持つ走行性能だが、従来型ヴェゼルや今回同じコースで試乗したフリード+が搭載しているリアルタイム式4WDとは走行性能において大きく違っていた。決定的な違いは、コーナリング時の後輪駆動力の維持と旋回性能の高い次元でのバランスだ。これまでもシステムに組み込まれたフィードフォワード制御(前もっての制御)によってドライバーの意思を読み取り、それに応じた前後の駆動力配分を行なっていた。確かに、カーブの曲率が一定していて、かつ路面の滑りやすさも変わらない圧雪路のようなシーンでは従来型の制御でもドライバーの感覚に近かった。細かくみれば後輪の駆動力制御がやや荒く、路面の状況やアクセルの踏み込み具合によって後輪が前輪を押し出すプッシュアンダー気味になることもあった。

 対して新型は従来のフィードフォワード制御に加えてフィードバック制御(後からの制御)が加わっている。これにより、ドライバーの意図通りに車体の挙動が出ているかといった「検証→再制御」が行なえるようになったのだ。仮にフィードフォワード制御では追いつかない、カーブの曲率変化や路面μの乱高下があった場合に、このフィードバック制御があることでそうしたシーンに出くわした瞬間から、最適な制御の演算が行なわれるようになった。ここは車体のヨーレートセンサーやステアリングの操舵具合で判断される部分で、車速や前後の加減速度をシステムがアルゴリズムとして持っているモデルケースと照らし合わせることで最適な制御が期待できる。

 実際、その走りは劇変していて、従来型で後輪の駆動力遅れが発生していた場所でも新型は何事もなかったかのようにしっかりとした駆動力コントロールによってプッシュアンダー傾向にもならず、遭遇したカーブを狙ったライン通りにすんなりとこなしていく。また、ドライバーが少し速く走らせたいとアクセルを深く踏み込んでいった際も、増加するステアリング操舵角や操舵速度などさまざまなパラメーターを読み取っているため、リアルタイムでの制御が最初から最後まで継続することが分かった。

 ホンダはこの先も各国各地に応じた4WDシステムを昇華させながら効率のよい走りを目指していくというが、今回の試乗では日常生活4WDともいえるビスカスカップリング式4WDの性能が際立っていたことが印象的だった。

西村直人:NAC

1972年東京生まれ。交通コメンテーター。得意分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつためWRカーやF1、さらには2輪界のF1であるMotoGPマシンの試乗をこなしつつ、4&2輪の草レースにも参戦。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も行うほか、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。国土交通省「スマートウェイ検討委員会」、警察庁「UTMS懇談会」に出席。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)理事、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。(財)全日本交通安全協会 東京二輪車安全運転推進委員会 指導員。著書に「2020年、人工知能は車を運転するのか 〜自動運転の現在・過去・未来〜」(インプレス)などがある。