インプレッション

メルセデスのオープンスポーツ「AMG GT C ロードスター」(車両型式:ABA-190480)、その魅力に酔いしれる

オープンカーの楽しさとスポーツカーとしての高性能を体感

オープンになった姿に惚れ直す

 メルセデスの数あるスポーツカーの中でも、2014年にセンセーショナルなデビューを果たした「メルセデスAMG GT(以下AMG GT)」は、ひときわ異彩を放っている。AMGのレーシングスピリットと持てるテクノロジーを注ぎ込んだ本格的スポーツカーとして存在自体が他モデルと一線を画するところ、2017年6月にはさらに特化した、自らをオンロードレーシングカーと称する「AMG GT R」を放ち、次いで8月にはオープントップモデルの「AMG GT ロードスター」を送り出した。今回拝借したのは、その高性能版の「AMG GT C ロードスター」だ。

 独特のスタイリングは、登場から4年が経過しようかという今でも新鮮味が薄れた気がしないどころか、それがオープンになって現れた姿を見るにつけ、あまりのスタイリッシュさに惚れ直さずにいられないほどだ。また、世のオープンカーにはソフトトップを閉じると幻滅するクルマも少なくないところ、このクルマはそんなこともなく、開けても閉じても絵になるところもよい。GT CにはGT Rと同じ57mmワイドなリアフェンダーが与えられるおかげで、後ろから眺めた姿も迫力がある。

 AMG GTの登場当初にはなかった「AMGパナメリカーナグリル」は、1952年に開催された「カレラ・パナメリカーナ・メヒコ」という伝説のレース優勝を飾った往年の「300 SL」のレーシングカーに由来するもので、見た目にも印象的であるだけでなく、下部に配した14枚のエアパネルの開閉によって空力性能とエンジンの冷却性能を適宜コントロールするという機能も備えている。

2017年8月に発売された「メルセデス AMG GT C ロードスター」(受注生産モデル)は、スポーツカー「メルセデスAMG GT」をベースに完全自動開閉のアコースティックソフトトップを備えたオープントップモデルのスポーツカー。4550×1995×1260mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース2630mmという体躯を備え、価格は2298万円
エクステリアでのハイライトは、クロームメッキを施した15本の垂直フィンが備わる「AMGパナメリカーナグリル」と、アルミニウム製サイドウォールによってAMG GTから57mm拡大されたワイドなリアフェンダー
足まわりは電子制御ダンピングシステムを搭載した「AMG RIDE CONTROL スポーツサスペンション」を標準装備し、「C(Comfort)」「S(Sport)」「S+(Sport Plus)」と3種類のサスペンションモードを設定。ホイールはフロント19インチ(265/35 ZR19)、リア20インチ(305/30 ZR20)で、タイヤはコンチネンタル「スポーツコンタクト 6」を組み合わせる。その奥にはレッドキャリパーやベンチレーテッド式ドリルドディスク(フロント390mm、リア360mm)を備える強化コンポジットブレーキシステムが覗く
メルセデス AMG GT C ロードスターでは、マフラー内のエキゾーストフラップによりエグゾーストノートを切り替える「AMGパフォーマンスエグゾーストシステム」を標準装備。トランスミッションがC(Comfort)、S(Sport)モードのときはエグゾーストフラップを閉じ、S+(Sport Plus)とRACEモードではエグゾーストフラップが開く仕様。電動開閉式のリアスポイラーも装備
パワートレーンはV型8気筒DOHC 4.0リッター直噴ツインターボエンジンと7速DCT「AMG スピードシフトDCT」の組み合わせ。最高出力410kW(557PS)/5750-6750rpm、680Nm(69.3kgm)/1900-5500rpmを発生。0-100km/h加速は3.7秒とアナウンスされている

50km/hまで11秒で開閉可能

 遮音性にも優れる「アコースティックソフトトップ」は、約50km/hまでなら走行中でもわずか約11秒という短い所要時間でフルに電動開閉できるというのもありがたい。Aピラーが比較的立っているのに加えて、後方もロールバー以外に障害物がないので、オープンにするとコクピットは極めて開放的になる。これは競合する他のスーパースポーツのオープンモデルに対する優位点でもある。

 シートヒーターだけでなくエアスカーフがあるのもメルセデスならでは。絶大な開放感を味わえながらも、風の巻き込みや寒さなどオープンカーに付き物のデメリットをあまり感じることなくオープンエアドライブを満喫できる、メルセデスのオープントップモデルに共通する美点でもある。こうなると欲が出て、ステアリングヒーターもあるとなおよいかなと思ってしまった……(笑)。

自動開閉のアコースティックソフトトップの開閉にかかる所要時間は約11秒で、走行中でも50km/hまで操作を可能にした。開放時に後方から室内への風の巻き込みを低減するドラフトストップを備え、ソフトトップの色は「ブラック」「レッド」「ベージュ」の3色から選択可能

 ヒップポイントの低いシートに収まると、曲面を多用した立体的な形状のインパネや、ドライバーを囲むように配された高く太いセンターコンソールなど、インテリアデザインもまた印象深い。各部に配されたカーボンパネルもスポーティムードを引き立てている。むろんクーペとの共通性も高いわけだが、あらかじめオープンにして周囲に見られることを大いに意識してデザインされたかのようにインテリアもスタイリッシュだ。

 ウインドシールドの先に目をやると、これほど長いクルマなどめったにお目にかかれないほど長く見えるフロントノーズが。その下には標準のGTに対して最高出力を81PS増の557PS、最大トルクを50Nm増の680Nmに引き上げたAMG謹製のM178型4.0リッターV8ツインターボエンジンが収まる。そんな見た目のよさやオープンカーとしての楽しさと、超高性能なスポーツカーとしての顔を併せ持っているところが、このクルマの真骨頂だ。

 オープン化により避けて通れないボディ剛性の確保もぬかりはなく、3層構造のソフトトップには、マグネシウムやアルミニウムを積極的に用いて重量増を避け、クーペ比で約45kg増にとどめたというから大したものだ。ご参考まで、車検証によると車両重量は1740kgで、前軸重が820kg、後軸重が920kgと、ほぼ47:53の配分となっている。

ブラックを基調にカーボンパーツなどが与えられるインテリア
インテリアでは水平基調のダッシュボードで幅を強調するとともに、高いベルトライン、ドアパネル、ダイナミックにせり上がるセンターコンソール、低いシートポジションなどを特徴とした。GT C ロードスターでは、バックレストとシートクッションのサイドボルスターの張り出しを大きくすることでラテラルサポートを強化したAMG パフォーマンスシートを標準装備する
走行モードは「RACE」「Sport +」「Sport」「Comfort」「Individual」から選択可能

リアステアならではのハンドリング

 走りに関する機能が充実しているのも魅力だ。GT C専用に与えられるものとして、「RACE」モードの追加、「AMG RIDE CONTROL スポーツサスペンション」による足まわりの強化、フロントブレーキの強化、ダイナミックエンジントランスミッションマウントの搭載や、「AMGリア・アクスルステアリング」と呼ぶ4WS機構などが挙げられる。

 このところ高性能スポーツカーに4WSを採用した例がいくつか見受けられる中、AMG GTもGT Rから導入したばかりで、次いでこのクルマにも標準装備されたのだが、その仕上がりが本当に素晴らしい。低速で逆位相、高速で同位相となる境界線が100km/hゆえ、日本では法令を遵守していると逆位相にしかならないわけだが、タイトターンではホイールベースを短くしたかのような鋭い回頭性を示し、ビタッとフラットな姿勢を維持したまま、リアステアならではの俊敏な操縦性を味わわせてくれる。あたかもコーナーをコーナーだと感じさせないほど、挙動を乱すこともなく、行きたい方向に瞬間移動で行けてしまうイメージだ。なんら違和感なく、とてもエキサイティングで、とにかくドライブしていて楽しい。

 また、出た当初のAMG GTは乗り心地が硬く、段差を乗り越えたときに地響きするかのような衝撃を感じたのと比べると、このクルマはよく引き締まっていながらも、あまり不快に感じさせないところもよい。

 もちろんエンジンも刺激的だ。踏めばまさしくどこからでもついてくるレスポンスに圧倒的なパワー感と、それを聴覚的にも強調する派手なエキゾーストサウンドなど、このクルマがタダモノではないことを全身で伝えてくる。オープンにするとそれをよりダイレクトに味わうことができる。一方で、ソフトトップを閉じると外界と隔離された感覚となり、音の楽しみは残しつつも、一気に静粛性が高まることにも驚かされた。

 また、こういうクルマとしては珍しく、ブレーキホールドや自動ブレーキをはじめ、ACCや車線維持機能など、メルセデスの他の車種もそうであるように、先進安全運転支援装備が非常に充実していることも特筆できる。取材車両で2396万円の仕様。さすがに購入できる人は限られるだろうが、もしも筆者がAMG GTのどれかを買える状況になったとしたら、ぜひAMG GT C ロードスターが欲しいと思わずにいられなかった。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:中野英幸