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新型「N-WGN」を含むホンダ「Nシリーズ」の安全技術レポート【前編】
ホンダ軽自動車と安全の歩み
2019年7月18日 11:30
本田技研工業の軽ハイトワゴン「N-WGN」が2代目となった。すでに各方面でホンダが公開しているティザーサイトをベースにした記事がアップされているが、その新型N-WGNに短時間ながら触れることができた。もっとも“触れた”とはいえ、屋内における内外装の確認に留まり、開発陣へのインタビューはおろか試乗も行なえていない。作り手の想いや乗り味を含めた詳細は後日のレポートに譲るとして、ここでは新型N-WGNの第一印象とともに、ホンダが世に送り出してきた軽自動車はどんな歩みを経て安全性能を高めてきたのかを前編と後編に分けて紹介したい。
ホンダと軽自動車の歩み
N-ONE、N-BOX、N-BOX SLASH、N-VAN、そしてN-WGNと、今や5兄弟の大家族となったNシリーズ。なかでもN-WGNの成り立ちは2013年の発売当初から異色の存在だった。N-WGNの立ち位置は、軽スーパーハイトワゴンに分類されるN-BOXよりも135mmほど全高が低く、乗り味は少しだけやんちゃだったN-ONEに上質さを加えたことで、登録車からの乗り換え組であるダウンサイザーの心も捉えたのだ。その傾向は、初代が誕生した翌年の2014年の販売実績に早くも現れていて、当時N-VANを除いたNシリーズ5兄弟のなかで、N-WGNは2012年から安定した人気を誇っていたN-BOXとほぼ横並びのセールスを記録している。
ホンダのみならず、軽自動車が軒並み躍進を続けた2015年、軽自動車にとって逆風が吹き荒れた。軽自動車税がそれまでの7200円から1万800円(自家用の場合。営業用は5500円から6900円)と1.5倍に引き上げられたからだ。Nシリーズもその影響をまともに受けたが、同時にシリーズ間での販売構成に変化が現れた。容積型とも称されるスーパーハイトワゴンであるN-BOXの人気がさらに高まったのだ。増税を受け、1台で何でもこなせるマルチな一面が改めて注目された結果だろう。と同時に、N-WGNは年々販売台数が減少(≒N-BOXにユーザーが移行)し、2018年は2014年の半分以下となる6万台弱(概算値)と、シリーズ全体の17%程度に落ち着いている。
そうした背景のもと誕生した2代目となる新型N-WGNは、初代で培った考え方の上に新しい商品コンセプトである“「良いクルマ」ではなく「良い生活」”を組み合わせた。つまり、新型N-WGNと共に暮らすことこそが“良い生活”であるとしたのだ。
2018年の自動車の国内総需要(バス・トラック含む)は526万台。そのうち28.6%(約150万台)が軽自動車の乗用自動車(軽乗用)であり、同期間における登録車の普通乗用車は54.9%(約290万台)だという。ちなみに1990年の総需要は800万台弱で、軽乗用比率は13.9%(約111万台)となり、普通乗用は56.6%(約452万台)を数える。ということは28年間で総需要は減少したものの、軽乗用に対する需要は大きな伸びを示したわけだ(数値はホンダの統計データより)。
ちなみに軽乗用に対する需要は、現行の軽自動車の規格となった1998年にグンと高まった。従来の規格から全長が100mm、全幅が80mmそれぞれ拡大されたことで(全高は変わらず)、キャビンやラゲッジルームが広くなり、併せて1989年の排気量拡大(550cc以下→660cc以下)による走行性能の向上などから軽自動車はファーストカーとして安定した地位を手に入れた。
そして何より、ボディサイズの拡大は車両の安全性能も大きく進化させている。衝撃吸収スペースの拡大や、高張力鋼板の採用によって衝突時のキャビンスペースを確保することが可能になったのだ。そうしたなかでホンダは2003年9月、クルマ同士の衝突時に衝突エネルギーをエンジンルームで効率よく分散・吸収することにより、自車の安全性を大幅に向上させつつ、相手車両への攻撃性を低減する世界初の「コンパティビリティ対応ボディ」を開発。同年9月に発売した軽自動車「ライフ」から採用を開始した。
コンパティビリティ対応ボディとは、衝突エネルギーを広範囲で分散して吸収し、同時に相手車両のフレームと横および上下方向のすれ違いが起きにくいボディ前面の骨格構造を用いたボディのこと。当時のライフでは、乗用車(2tクラスまで)と正面衝突したときの衝突エネルギー吸収量を、従来型ライフに比べてエンジンルームで約50%増加させつつ、キャビンでの吸収量は約30%低減させることに成功。これにより、衝突時のキャビンの変形量が低減するため乗員の保護性能を向上させながら、相手車両への攻撃性の低減が図れるようになった。
コンパティビリティ対応ボディの開発から遡ること5年、ホンダは1998年に独自の衝撃(G/衝撃値)をコントロールする技術(後の「Gコントロール技術」)を応用し、①乗員の傷害値低減、②生存空間の確保の2点を両立させる衝突安全ボディを発表。そして2000年4月には、クルマ相互の衝突安全に関する独自の研究や衝突実験が行なえる施設「屋内全天候型全方位衝突実験施設」(栃木県芳賀郡)の稼働を開始した。
同施設は、総投資額約68億円、延べ床面積4万1000m 2 で、合計8本のコース(各130mで260mまで延長可能)が放射状に設けられており、これらを組み合わせることにより、正面衝突や側面衝突、追突に至るまで15度刻み(0度、15度、30度、45度、60度、75度、90度、180度)で全方位からの衝突形態を再現することが可能。最大けん引速度(≒衝突速度)は80km/h。また、乗用車同士の衝突だけでなく、2輪車や大型車との衝突テストにも対応するほか、歩行者との衝突実験も行なえる。
ホンダでは「法規制を基準としないリアルワールド事故の研究」を掲げ、実際の交通環境における事故実態を調査研究すると共に、さまざまな条件での衝突実験を同施設で行ない、車両重量や構造が異なる車両同士の衝突に対応するGコントロール技術の開発を行なってきた。
新型N-WGNを含む現行Nシリーズには、同施設で研究開発が行なわれてきたGコントロール技術や最新のコンパティビリティ対応ボディが採用されている。今回、その実験施設に入り、実際にN-BOXとミディアムクラスセダン「インサイト」の衝突実験を間近で見学する貴重な機会を得ることができた。後編では、実験の様子から新型N-WGNの安全性能に迫ってみたい。