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新型「N-WGN」を含むホンダ「Nシリーズ」の安全技術レポート【後編】
N-BOXとインサイトの衝突実験、新型「N-WGN」採用の「Honda SENSING」機能強化など
2019年7月18日 11:30
前編ではホンダNシリーズにおける「N-WGN」の成り立ちを中心にレポートしたが、後編では新型N-WGNを含む現行Nシリーズが採用するGコントロール技術やコンパティビリティ対応ボディの最新情報、そして新型N-WGNで進化したHonda SENSINGについて報告したい。
衝突後の運転席側のドアとスライドドアに注目
今回の取材では、Nシリーズをはじめホンダ各車の衝突安全技術が開発された現場である、栃木県芳賀郡にある実験施設「屋内全天候型全方位衝突実験施設」に入り、N-BOXとミディアムクラスセダン「インサイト」の衝突実験を間近で見学することができた。
実験では、正面衝突形式でのラップ率を50%(ボディの半分ずつが衝突する)に設定。N-BOXとインサイトはそれぞれ50km/hでけん引され、相対速度100km/hで衝突する。車両同士が衝突した際、衝突エネルギーの吸収量は車両重量に逆比例(反比例)する。N-BOXの車両重量を1とするとインサイトの車両重量は1.5となることから、重量比は1:1.5となる。ホンダから発表されたデータでは、今回の衝突実験でN-BOXが吸収する衝突エネルギーは60km/h分で、インサイトのそれは40km/h分になるという。
結果は写真と動画の通りで、両車とも見事にエンジルンルームが潰れて衝突エネルギーを吸収しているのが分かる。注目は吸収量の多いN-BOXの運転席ドアだ。大きく開けられているが、これは工具などを一切使わずいつも通りにドアノブを引っ張っただけで開けることができた。運転席側のスライドドアに至っては、衝突したことを一切感じさせず普段通りにスッと手動で開いた。
人体モデルを使った被害軽減技術の開発
ホンダでは車両対車両の衝突実験だけでなく、人体モデル(歩行者ダミー)を用いた歩行者に対する被害軽減技術の開発も進めている。ホンダは1988年、歩行者保護研究をスタートさせ、「ないものは自分たちで造る」の精神で開発着手から10年後の1998年に歩行者ダミー「POLAR I」を世界で初めて開発した。国連では現在でも頭部や脚部など単体での加害性テストが行なわれているが、20年以上前からホンダは人体モデルでのテストを重要視していたわけだ。
2000年には傷害値の計測が可能な「POLAR II」、2008年には広範囲にわたって詳細な解析が可能な「POLAR III」へと歩行者ダミーを進化させ衝突実験を行なっている。POLAR IIIでは、SUVやミニバンなど販売台数の多い車両で損傷を受けやすい腰部や大腿部の傷害低減を目指し、人体忠実度を向上させた。
2017年からは、2020年以降に日本においても義務化となる「衝突被害軽減ブレーキ」に際し、その先を見据えて自転車を運転している衝突実験にも対応させるためPOLAR IIIの脚部を改良し、精度を高めている。また、同時にSAE(アメリカ自動車技術協会)などでの基準化を先取りする方向でも開発が継続して進められている。
ホンダによると、POLARの開発を進めるにあたって、歩行者との衝突では脳への障害値が無視できないレベルにあるという。これは、歩行者と正面衝突した場合に、ボディに触れた腰や大腿部の勢いが首を伝って増幅され、脳へ加速度として加わることが原因とのことだ。こうした事象は「揺さぶられっ子症候群」とも呼ばれ、抱き上げた新生児を勢いよく揺すってしまうことで脳へ障害を与えてしまうことに由来する。
そこでホンダは2019年6月、オランダで開催された国際自動車安全技術学会「ESV2019」において、「交通弱者保護エアバッグ」を将来実現させたい技術の1つとして発表した。ホンダの社内計測データでは交通弱者保護エアバッグにより、歩行者と正面衝突した場合に歩行者の脳が受ける障害指標を半分以下へと低減させることができるという。
かつて本田宗一郎氏は「われわれは人の命を預かるクルマをつくっている。お客さまの安全を守る活動は、一生懸命やるのが当たりまえ」と言い、さらに「技術は人を豊かにするものである」とも発言している。こうした衝突実験施設や歩行者ダミーによる研究開発は地道だが、万が一の際の重傷度を抑え、加害性を低くする技術につなげるためにはなくてはならないものだ。開発最前線へ足を踏み入れた取材は非常に有意義だった。
新型N-WGNに採用される「Honda SENSING」について
多くの人の手を介し、産みの苦しみを経て誕生したホンダ車たち。とりわけNシリーズのユーザー評価はどうなのか? 2018年度のN-BOX購入者は、「室内の広さ・居住性」が購入理由の1位であるとする一方で、2位に「予防安全性能」、4位に「衝突安全性能」を掲げている。また、N-WGNが属するハイトワゴンユーザーは、購入後の不満点として2位に「荷室サイズ」、3位に「小物入れ」を挙げた(1位は不満なし!)。また、同じくハイトワゴンユーザーは5年後のライフスタイルに合うクルマのデザインとして、「自分の生活空間に調和するクルマ」であり「シンプルに見えるクルマ」を最有力候補にしているという。
新型N-WGNの新しい商品コンセプトはこうしたユーザー評価をもとに、①クラスNo.1のN-BOXが誇示する高い安全性能(予防&衝突)、②ハイトワゴンユーザーの不満点を解消、③5年後まで乗りたいと思わせるクルマ作りやデザイン、この3点を主体に開発されたと言える。
なかでも新型N-WGNでは①の安全性能に対して力を入れた。とりわけ先進安全技術群である「Honda SENSING」の機能強化が図られている。2014年に発売されたホンダのフラグシップセダン「レジェンド」に初めて搭載されたHonda SENSINGは、Nシリーズに広く採用され現在に至る。新型N-WGNでは、これまでの各機能に加えてホンダ初の機能として従来から装備する「オートハイビーム」の仕様を変更し、エンジンを掛けた際には常に機能がONとなる機構を追加した。また、衝突被害軽減ブレーキである「衝突軽減ブレーキ/CMBS」の夜間歩行者性能を最新スペックであったN-VANからさらに進化させた。
新型N-WGNにおけるCMBSの進化ポイントは2つ。1つ目は夜間歩行者の認識性能をさらに向上させたことだ。これは夜間における歩行者との事故率が高いという実情に加え、「予防安全性能アセスメント」において現在行なわれている「前方歩行者との衝突に対する衝突被害軽減ブレーキ(街灯あり)」のテスト条件が厳しくなり、「~(街灯なし)」に変更されることへの前倒し策ともいえる。
2つ目は、横断自転車を認識して衝突被害軽減ブレーキを働かせることができるようになったことだ。日本の自転車死亡事故のうち、対自動車の場合は実に50%が出会い頭衝突であるという実情を受けたもの。今回取材した現場では、自車が30km/hで走行中に自車からみて右側から90度、つまり直角に交わる危険性をはらんで横断してくる自転車(15km/hで走行)を検知して、CMBSの衝突被害軽減ブレーキ機能により衝突せずに停止するプログラムが披露された。
ホンダのエンジニアによると、左側からの横断にも反応し、90度より鋭角でも鈍角でも検出可能だという。ただし、現時点では昼間のみとのこと。このCMBSの進化は、ホンダ初であるだけでなく、全軽自動車を通じて初であるという。さらに新型N-WGNのHonda SENSINGでは、ACC(アダプティブクルーズコントロール)に渋滞追従機能が追加された。これにより0km/hの完全停止を含む対応が可能になった。
取材の最後には短時間であったが、屋内に展示されていた新型N-WGNに触れてみたが、ホンダ軽初の装備となるテレスコピック機構によりドライビングポジションの自由度が高まった。従来型では上下調整のチルト機構のみであったことから、身長の高いドライバーにとってステアリング位置が遠くなることが指摘されていたが、新たな装備である前後調整のテレスコピック機能が追加されたことにより体躯を問わない適正なドライビングポジションがとりやすくなっている。
前述したように、軽自動車に対する需要はこの先も高まっていく。2019年はN-BOXのライバルとなるダイハツ工業のスーパーハイトモデル「タント」がフルモデルチェンジを行なった。そうした中、Nシリーズでの明確な立ち位置が与えられた新型N-WGNはどんな市場評価がなされるのか。この先に予定されている試乗機会を楽しみに待ちたいと思う。