試乗レポート
トヨタ、新型「クラウンスポーツ PHEV/HEV プロトタイプ」 ショートホイールベースの異次元コーナリング
2023年5月1日 07:00
クロスオーバーに続いてスポーツの登場する新型クラウン
4月12日、トヨタ自動車は新型「クラウン クロスオーバー」に続く、新たなクラウンとして「スポーツ」のHEVを2023年秋ごろ、PHEVを2023年冬ごろ、「セダン」を2023年秋ごろ、「エステート」を2024年に発売予定であると発表した。
今回、今後発売されるクラウン スポーツHEVのプロトタイプ撮影と、クラウン スポーツPHEVの簡単な試乗を行なう機会があったので、ここにお届けする。
クラウン スポーツの開発を担当した主査の本間氏は、クラウン スポーツはクラウン クロスオーバーと比較してよりエモーショナルなモデルであるという。開発テーマは「俊敏でスポーツな走りが楽しめる新しい形のSUV」であるとし、クラウン クロスオーバーに比べてショートホイールベースに仕上げるとともに、ワイドトレッド化。ボディディメンションを、より俊敏で、よりコーナリング時の安定が出るものとしている。
クラウン スポーツのボディサイズは4710×1880×1560mm(全長×全幅×全高、参考値)となり、クラウン クロスオーバーの4930×1840×1540mmと比べて、全長で220mm短く、全幅で80mm広く、全高で20mm高い。全長が短くなったことで塊感のあるボティとなり、全幅がワイドになったことで力強さが出ている。全高についても、後席から後方に伸びるラインが持ち上げられており、後席空間の広がり感の改善が図られている。
スポーツのホイールベースは2770mmへとクロスオーバーから80mm減少し、トレッドは20mm程度広がっているという。
パワートレーンは今回非公開だったが、PHEVとHEVが用意されており、PHEVのみに試乗することができた。新型クラウンは2023年秋に出るセダンではFRプラットフォームを採用することを発表しているが、この新型クラウン スポーツではTNGA GA-Kプラットフォームを採用している。
HEVではクロスオーバーG同様の2.5リッター ハイブリッド(THSの第4世代)+E-Fourシステムが採用され、PHEVでは2.5リッター ハイブリッド(THSの第4世代)+E-Fourシステム+プラグインハイブリッド用電池が採用されているものと思われる。2.5リッターのPHEVシステムとなると、RAV4 PHVが近いところにあり、パワートレーンの基本は同じものになるのではないだろうか。
ただ、ボディ設計を考えてもRAV4はGA-KのSUVプラットフォームを採用しているのに対して、クラウン スポーツはクラウン クロスオーバーと同様に、前半がGA-KのSUV ミドル、後半がGA-Kのセダンという組み合わせになるらしい。また、ホイールベースもRAV4やハリアーが2690mmに対して、クラウン スポーツは2770mmとワンサイズ上。さらに、クラウン クロスオーバー同様にリアステアシステムの「DRS(Dynamic Rear Steering)」も組み込まれているので、走りのポテンシャルは別物に仕上がっているのは間違いない。
外観はハンマーヘッドデザイン、内装はパーソナル感を重視したデザイン
新型クラウン スポーツでは、外観デザインもフロントはハンマーヘッド、アンダープライオリティで構成。2022年の新型クラウン クロスオーバー登場時には、ものすごくアバンギャルドに感じたデザインだが、2023年にさらに進化した新型プリウスのデザインの登場によって、クラウン クロスオーバーはコンサバに見えてきた部分がある。ある意味、新型プリウスを街中で見かけるようになった2023年では、クラウン スポーツのデザインは新型プリウスと同様の先進性を感じ、現代のSUVとして好ましく感じる。
世界的に絶賛されるデザインである新型プリウスの上位にあり、新型プリウスと同様にグローバルで戦っていくクルマであるためか、同じデザインテーマが外観に用いられている。
チーフデザイナーの宮崎氏は、「作りたかったのは、『かっこよくて美しいデザイン』」であったとし、「凝縮感と伸びやかさ、それぞれの断面が1つとして同じものがない。トヨタでいうと、昔のスープラとかセリカとか、スポーティな感じ」を表現しているという。前から後ろに断面変化を持たせつつ、SUVらしく「どれだけリアフレアを張り出させるか」をデザインとして表現した。
このリアまわりで気がつくのが、トヨタのTマークのエンブレムが小さいこと。クラウンというトヨタのフラグシップだけに、もう少し大きくてもよいのではと感じたのだが、これに関して宮崎氏は、「CROWN」というロゴを印象づけたかったと語る。
また、内装においてはパーソナル感を重視。インストルメントパネルまわりは、新型クラウンや新型プリウスに用いられたアイランドアーキテクチャを採用。水平基調のアイランド(島)に各種のデバイスが、ロバスト性を持って配置されているという。
インパネやドアまわり、センターコンソール、ステアリングホイールに組み入れられた赤の差し色は、このクラウン スポーツが特別なモデルであると主張していた。
試乗は、新型クラウン スポーツPHEV
試乗については、新型クラウン スポーツPHEVが用意されていた。ボディカラーはブラックとホワイトの2車があり、記者はブラックの個体に試乗。試乗コースは富士のショートサーキットで、最高速度はプロトタイプ車のため80km/hに制限されていた。
最高速度80km/h、さらにS字やヘアピンなど回り込むコーナーの多い富士ショートコースのため、なんとなく首都高を走るイメージで試乗を行なった。
試乗車はメーターパネルの一部が隠されているなど、PHEVながら充電残量の分からない状況になっており、EVモードで走りつつも、エンジンが動作はすることに。プロトタイプであり周回数も限られていたため、このインプレも開発途中のモデルに対するものとなる。
走り始めてすぐに分かるのは、ショートホイールベース、ワイドトレッドからくる俊敏な旋回性。とくに、60km/h以下だとDRSがリアタイヤを逆相に操舵してくれるため、ヨーの立ち上がりが早く、俊敏に向き換えが行なえる。
一般的に高速域ではコーナリング進入時にブレーキなどで荷重変化を使えるが、40km/h~60km/hなどの速度では荷重変化を大きく起こすほどブレーキができず、なかなか向き換えには難しい領域。そこをクラウン スポーツは難なくこなしてくれる。圧倒的に楽で気持ちのよいコーナリングを実現している。
この楽で気持ちのよいコーナリングがある程度の高速域(今回は制限により80km/hまで)においても続く。最初はなぜこんなにも気持ちのよいのか分からなかったが、何回か走った時点で姿勢変化が小さいことに気がついた。
通常、コーナーに入る前はアクセルオフやブレーキで前荷重の状態を作り、フロントサスペンションのトレールを縮めて曲がりやすい状態を作り、フロントのコーナリングフォースを立ち上げ、ボディを使ってリアタイヤの横滑り角を作り出していく。
リアステアはこのリアタイヤの横滑り角を早めに作り出すための機構ではあるが、それ以前にフロントの沈み込みが小さく、コーナリング進入の減速時にフロントタイヤのグリップがしっかり高まってくれる。フロントサスペンションが硬いわけでなく、ブレーキをしたときにとくにしっかりする感じがあり、そのためタイヤのグリップがうまく高まっているように思える。
そのブレーキングの手応えを感じながら、ステアリングを切ることでリアステアも相まってのターンイン。そしてフロントとリアの電動の駆動力での立ち上がりと、これまでのクルマとは異次元の走りを楽しむことができた。
とくにリアステアは複合的なコーナーで威力を発揮しており、クラウン クロスオーバーから80mmショートになったホイールベースは、クラウン スポーツを新感覚のコーナリングマシンに進化させていた。その高いコーナリング性能は、首都高速の新宿コーナーや代々木コーナーなど運転の難しいコーナーでも、楽にこなしていってくれるだろう。
これだけのコーナリング余力があれば、レベル2のADAS機能にも期待できる。ステアリングまわりを見ると、ドライバーモニタリング機構が備わっているため、レベル2のADAS機能、それもレベル2プラスに相当するADAS機能があることが想像される。その能力もリアステアがあることで、高いレーントレース性が期待できる。
また、試乗して感じたのは、姿勢変化の小ささも特筆すべき点だ。PHEVのため、百数十キロは電池で重くなっていると思われるが、それがしっとりとした乗り心地につながっているのかもしれない。その乗り心地が大前提としてあり、その上でブレーキング時のピッチ変化の小ささなどもあるため、揺れるような姿勢変化を小さく感じる。その姿勢変化の小ささが、ドライビング時のスポーツ感覚につながっていた。
新型クラウン クロスオーバー以上に、コーナリングの作り込みがされていたクラウン スポーツ
ただ、試乗をして感じたのは新型クラウン スポーツのショートホイールベース以上にコーナリング性能などのスポーツ性能が高まっているような気がしたこと。この点について、走りのセッティングなどを行なっている匠の人たちに聞いてみると、新型クラウン スポーツは新型クラウン クロスオーバーより、積極的にリアステアをしているという。最大4度という動作角は変わらないが、その最大に行くまでの過渡特性を上げてあるとのこと。このクイック感に慣れてしまうと、ほかのクルマの動きが物足りなくなるかもしれない。
ブレーキ時の硬質な手応えに関しては、この新型クラウン スポーツからAVS(Adaptive Variable Suspension system)との協調制御を入れているとのこと。つまり、ブレーキを踏んだ際にフロントサスペンションを若干硬くして、タイヤのグリップ力を早めに立ち上げていく。
いわばアンチダイブ制御が入っていることになるが、唐突感のないものに現時点で仕上がっており、リアステア、リア電動駆動など新型クラウン スポーツの走りを支えていた。
フルフラットな富士スピードウェイのショートサーキット、80km/hまでの速度域では、非常に効果的に新型クラウン スポーツの走りが作り込まれていたことを実感した。
ただ、市販車になるとフルフラットな道だけでなく、たまたまコーナーの直前に凸凹のある道も普通にある。高度な作り込みと緻密な制御が行なわれたシステムが一般道でも理想どおりに能力を発揮できるかは、プロトタイプから製品版への仕上げにかかっている。今後の実走テストなどを通じて、高いレベルでの製品版の登場に期待したい。今回試乗した新型クラウン スポーツ プロトタイプは、新しい走りの幅を広げる挑戦がいくつも行なわれている、新感覚のクルマだった。