試乗レポート
新型「クラウン クロスオーバー」 2.5リッターハイブリッド
2022年10月24日 06:38
クロスオーバーから登場した新型クラウン
トヨタのトップブランドとして頂点に立つクラウン。常に王道を歩んできた感があるが、そのモデルチェンジはいつの時代も変革と保守のせめぎあいの歴史でもあった。
セダンの凋落が言われる中、クラウンはさらに大きな飛躍を求められた。トヨタブランドを引っ張る舵取りを任されたことになる。
新型クラウン開発にあたって、クラウンらしさを再定義し、新しい技術はクラウンからの原点に立ち戻って開発が進められた。そのトップバッターとなったの伝統のセダンではなくクロスオーバーだったことからもクラウンの目指す変革が分かる。
デザインはファーストバックスタイルに大径タイヤを履き、最低地上高を稼いだクロスオーバーの定石を行ったものだが、保守的セダンの代表と考えられていたクラウンだけにインパクトは大きい。
4930×1840×1540mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース2850mmというボディサイズは映像よりもはるかに迫力があり、道行く人が振り返るほどだった。ルーフとボンネット、トランクリッドを黒とした試乗車のボディカラーも斬新だ。
インテリアはエクステリアに比べると驚くような新しさは薄い。こちらはドライバーとのインターフェースだけに奇をてらった試みは避けている。おかげでマニュアルを見ないでも大抵の操作は自然にできる。液晶ディスプレイの見慣れたもので視認性は高く、トヨタユーザーならすぐに走り出せるだろう。
クラウンらしい質感と革新を調和させるのは難しいが第1弾としてはよい落としどころではないだろうか。
2.5リッター4気筒+第4世代THS IIに後輪モーターで4WDを構成
試乗車はクラウン クロスオーバーの中で第4世代THS IIの2.5リッター4気筒+後輪モーターを持つ4WD。クラウン クロスオーバーの基本となるモデルだ。クロスオーバーにはもう一つ、パワー重視の2.4リッターターボの1モーターハイブリッド+後輪モーターもあり、こちらの試乗は後になるが気になる1台でもある。
プラットフォームはカムリのGA-Kをベースにしているが、後半部はモーターで後輪を駆動し、クラウンの味を出すためのマルチリンクサスペンションを採用しているためセダン用のプラットフォームを活用している。つまりクラウン専用設計である。
エンジンは2.5リッター4気筒、出力は137kW(186PS)/221Nmでおとなしい。これに88kW(119.6PS)/202Nmのモーターを組み合わせ、システム最高出力は172kW(234PS)。後輪モーターは40kW(54.4PS)/121Nmで、前輪駆動力の大きな4WDシステムを構築し、バッテリにはアクアで発表され話題となった大きな電力の出し入れのしやすいバイポーラ型ニッケル水素を採用する。
タイヤはミシュランのイー プライマシー、サイズは225/45 R21という大径だ。これまでなかった組み合わせでデザインスケッチから抜け出してきたようなイメージどおりのレイアウトだ。
クロスオーバーだけに着座位置はこれまでのクラウン セダンよりも高く、前席も後席も無理なく乗り込める。特に後席はデザイン上絞り込まれた印象があるだけにヘッドクリアランスが低そうで乗りにくそうな印象があったがその正反対だった。乗り込むと室内も明るく意外なほど居心地はよく、前後にも広く快適だ。
ドライバー席からは寝かされたAピラーが視界を遮るかと思ったが、断面形状を工夫しており、斜め前方も視界の妨げにはならないのはうれしい。
「まず静粛性をみてほしい」というエンジニアの言葉には強い自信がうかがえた。使い慣れたシリーズパラレル型ハイブリッドは電気モーターで音もなく粛々と動き出すが、ただ静かなだけではなく、新生クラウンに込められた走りの一端がうかがえた。
モーターでのスタートは自然体。クルマの動きが軽くなりすぎないようにコントロールされており、トヨタのトップブランドらしい滑らかさを出している。クラウンらしい遮音対策もしっかりしており、タイヤからのロードノイズも気にならない。
アクセルを強く踏めば鋭い加速を見せるが、それもクラウンらしい速さで、第1弾として的を射たチューニングだ。THS IIにより滑らかに速度が乗ってゆく。高速道路の合流でもエンジン回転が先行しすぎるようなノイジーな加速ではなく、流れるような連続した加速が運転のじゃまをしない。ストレスを感じさせない動力性能と言えばよいだろうか。
これ以上の加速を望むなら後に続くRS仕様、2.4リッターターボのハイブリッドが構えている。
市街地で意外だったのはホイールベース2850mm、全長4930mmの車体にもかかわらず取り回しがよいことだ。クロスオーバー全モデルにはDRS(後輪操舵システム)が標準装備となっており、最小回転半径は5.4mで、一回り小さいカムリよりも小回りが利き、ほぼプリウスなみだ。
しかも後輪操舵にありがちな違和感がまったくなく、言われなければその存在にも気づかない。いうまでもなくDRSは低速では逆相に、高速では同相に切れて安定性を担保するが違和感のないシステムに仕上げたことに驚いた。
ランプウェイのような中速で回り込むようなコーナーでもライントレースは正確で狙ったとおりに走り抜ける。後輪への駆動力が巧みに配分されているようで、4輪でグリップしている感触が好ましい。
高速直進性も高くクルージングも安心できる。ただハンドルの切り始めが重めの設定で、操作しようとすると微舵角でも反応するので、もう少し鈍い方がクラウンらしいと感じた。また操舵感もどっしりとした味を追求してほしいが、これは個人的な欲求だ。
乗り心地は基本的に良好。大きな段差でも収束は早く、バネ上の動きは最小に抑えられている。ただフロアからの細かい振動は残ってしまい、数少ないクラウンらしくないところだ。
ADAS系ではレーンキープがさらに進化して並行して走るクルマがいても車線維持が上手で怖いと感じたことはない。また車間維持も自然な加減速で信頼性は高い。
新しいクラウン クロスオーバー、斬新なデザインに驚かされたが走りや快適性など肝心なところは手堅くまとめている印象だ。
時代の一歩先を行くのがクラウンと言われていた。これまでクラウンを作り上げてきたエンジニアの思いを受け継ぎながら、世界に打って出るグローバルカーとして自由な発想で作られた。これから次々と時代の扉を開けて登場する新クラウンが、変化を続けるユーザーの価値観にどのように同期するのか楽しみな第1章だ。