試乗レポート

新型「クラウン クロスオーバー」 2.5リッターハイブリッド

新型「クラウン クロスオーバー」の2.5リッターハイブリッド車に試乗した

クロスオーバーから登場した新型クラウン

 トヨタのトップブランドとして頂点に立つクラウン。常に王道を歩んできた感があるが、そのモデルチェンジはいつの時代も変革と保守のせめぎあいの歴史でもあった。

 セダンの凋落が言われる中、クラウンはさらに大きな飛躍を求められた。トヨタブランドを引っ張る舵取りを任されたことになる。

 新型クラウン開発にあたって、クラウンらしさを再定義し、新しい技術はクラウンからの原点に立ち戻って開発が進められた。そのトップバッターとなったの伝統のセダンではなくクロスオーバーだったことからもクラウンの目指す変革が分かる。

大径タイヤが印象的なクラウン クロスオーバー

 デザインはファーストバックスタイルに大径タイヤを履き、最低地上高を稼いだクロスオーバーの定石を行ったものだが、保守的セダンの代表と考えられていたクラウンだけにインパクトは大きい。

 4930×1840×1540mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース2850mmというボディサイズは映像よりもはるかに迫力があり、道行く人が振り返るほどだった。ルーフとボンネット、トランクリッドを黒とした試乗車のボディカラーも斬新だ。

 インテリアはエクステリアに比べると驚くような新しさは薄い。こちらはドライバーとのインターフェースだけに奇をてらった試みは避けている。おかげでマニュアルを見ないでも大抵の操作は自然にできる。液晶ディスプレイの見慣れたもので視認性は高く、トヨタユーザーならすぐに走り出せるだろう。

 クラウンらしい質感と革新を調和させるのは難しいが第1弾としてはよい落としどころではないだろうか。

4930×1840×1540mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース2850mm。斬新なボディカラーも用意される
新型クラウン クロスオーバーの印象的なリアまわり。誰もがクラウンと認識するスタイルとなる
新型クラウン クロスオーバーのサイドビュー。リアの乗降性はとてもよい

2.5リッター4気筒+第4世代THS IIに後輪モーターで4WDを構成

 試乗車はクラウン クロスオーバーの中で第4世代THS IIの2.5リッター4気筒+後輪モーターを持つ4WD。クラウン クロスオーバーの基本となるモデルだ。クロスオーバーにはもう一つ、パワー重視の2.4リッターターボの1モーターハイブリッド+後輪モーターもあり、こちらの試乗は後になるが気になる1台でもある。

 プラットフォームはカムリのGA-Kをベースにしているが、後半部はモーターで後輪を駆動し、クラウンの味を出すためのマルチリンクサスペンションを採用しているためセダン用のプラットフォームを活用している。つまりクラウン専用設計である。

 エンジンは2.5リッター4気筒、出力は137kW(186PS)/221Nmでおとなしい。これに88kW(119.6PS)/202Nmのモーターを組み合わせ、システム最高出力は172kW(234PS)。後輪モーターは40kW(54.4PS)/121Nmで、前輪駆動力の大きな4WDシステムを構築し、バッテリにはアクアで発表され話題となった大きな電力の出し入れのしやすいバイポーラ型ニッケル水素を採用する。

2.5リッターハイブリッドのエンジンルーム。第4世代THS IIで構成されている
アドヴィックスのハイドロブースタ
同じくアドヴィックスのESCモジュレータ

 タイヤはミシュランのイー プライマシー、サイズは225/45 R21という大径だ。これまでなかった組み合わせでデザインスケッチから抜け出してきたようなイメージどおりのレイアウトだ。

タイヤはミシュランのイー プライマシー。サイズは225/45 R21と大径

 クロスオーバーだけに着座位置はこれまでのクラウン セダンよりも高く、前席も後席も無理なく乗り込める。特に後席はデザイン上絞り込まれた印象があるだけにヘッドクリアランスが低そうで乗りにくそうな印象があったがその正反対だった。乗り込むと室内も明るく意外なほど居心地はよく、前後にも広く快適だ。

 ドライバー席からは寝かされたAピラーが視界を遮るかと思ったが、断面形状を工夫しており、斜め前方も視界の妨げにはならないのはうれしい。

新型クラウン クロスオーバーのコクピット。液晶のメーターパネルや中央音大画面ナビが目を引く。水平基調の落ち着いたデザイン
ステアリングホイール。スイッチ類もトヨタスタンダードなものが並んでおり、操作しやすいもの
手になじみやすいシフトノブ。動作はエレクトロシフトマチック
1眼、2眼、3眼に変更可能なメーターパネル。新要素の操作を従来のステアリングスイッチ類で実現しようとしているためか、切り替えや変更はなかなか難しい

「まず静粛性をみてほしい」というエンジニアの言葉には強い自信がうかがえた。使い慣れたシリーズパラレル型ハイブリッドは電気モーターで音もなく粛々と動き出すが、ただ静かなだけではなく、新生クラウンに込められた走りの一端がうかがえた。

静粛性の高い新型クラウン クロスオーバー。ストレスを感じさせない動力性能を持つ

 モーターでのスタートは自然体。クルマの動きが軽くなりすぎないようにコントロールされており、トヨタのトップブランドらしい滑らかさを出している。クラウンらしい遮音対策もしっかりしており、タイヤからのロードノイズも気にならない。

 アクセルを強く踏めば鋭い加速を見せるが、それもクラウンらしい速さで、第1弾として的を射たチューニングだ。THS IIにより滑らかに速度が乗ってゆく。高速道路の合流でもエンジン回転が先行しすぎるようなノイジーな加速ではなく、流れるような連続した加速が運転のじゃまをしない。ストレスを感じさせない動力性能と言えばよいだろうか。

 これ以上の加速を望むなら後に続くRS仕様、2.4リッターターボのハイブリッドが構えている。

 市街地で意外だったのはホイールベース2850mm、全長4930mmの車体にもかかわらず取り回しがよいことだ。クロスオーバー全モデルにはDRS(後輪操舵システム)が標準装備となっており、最小回転半径は5.4mで、一回り小さいカムリよりも小回りが利き、ほぼプリウスなみだ。

 しかも後輪操舵にありがちな違和感がまったくなく、言われなければその存在にも気づかない。いうまでもなくDRSは低速では逆相に、高速では同相に切れて安定性を担保するが違和感のないシステムに仕上げたことに驚いた。

新型クラウン クロスオーバー全車に搭載されるDRS。自然な動きを実現していた

 ランプウェイのような中速で回り込むようなコーナーでもライントレースは正確で狙ったとおりに走り抜ける。後輪への駆動力が巧みに配分されているようで、4輪でグリップしている感触が好ましい。

 高速直進性も高くクルージングも安心できる。ただハンドルの切り始めが重めの設定で、操作しようとすると微舵角でも反応するので、もう少し鈍い方がクラウンらしいと感じた。また操舵感もどっしりとした味を追求してほしいが、これは個人的な欲求だ。

 乗り心地は基本的に良好。大きな段差でも収束は早く、バネ上の動きは最小に抑えられている。ただフロアからの細かい振動は残ってしまい、数少ないクラウンらしくないところだ。

乗り心地は基本的に良好。フロアからの細かい振動がちょっと気になった

 ADAS系ではレーンキープがさらに進化して並行して走るクルマがいても車線維持が上手で怖いと感じたことはない。また車間維持も自然な加減速で信頼性は高い。

 新しいクラウン クロスオーバー、斬新なデザインに驚かされたが走りや快適性など肝心なところは手堅くまとめている印象だ。

 時代の一歩先を行くのがクラウンと言われていた。これまでクラウンを作り上げてきたエンジニアの思いを受け継ぎながら、世界に打って出るグローバルカーとして自由な発想で作られた。これから次々と時代の扉を開けて登場する新クラウンが、変化を続けるユーザーの価値観にどのように同期するのか楽しみな第1章だ。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:安田 剛