試乗レポート

走りのハイブリッド、システム最高出力349PSの新型「クラウン クロスオーバー」 2.4リッターターボ

走りのハイブリッド、新型クラウン クロスオーバー RS

走りのハイブリッド、新型クラウン クロスオーバー RS。2.4リッターの1モーターハイブリッドとイーアクスル搭載

 クラウン クロスオーバーでは、従来の2モータータイプのシリーズパラレル型ハイブリッドを継承する2.5リッターハイブリッド+イーアクスルの燃費重視モデルに先行して試乗しているが、続いてパワフルな2.4リッターターボに1モーターハイブリッドとイーアクスルを組み合わせるデュアルブーストハイブリッドに試乗することができた。

 試乗したのは最上級のRSグレード。デュアルブーストハイブリッドは、最高出力200kW(272PS)/6000rpm、最大トルク460Nm(46.9kgfm)/2000-3000rpmを発生する2.4リッター直噴ツインスクロールターボ「T24A-FTS型」エンジンに、61kW(82.9PS)、292Nm(29.8kgfm)のフロントモーターと6速の多板クラッチトランスミッションを通して前輪を駆動。加えて、後輪には2.5リッターハイブリッドの40kW/121Nmよりも大きな59kW/169Nmのモーターを搭載するイーアクスルを配置して、システム最高出力349PSというスポーティな性格を前面に出している。

2.5リッターハイブリッドのクラウン クロスオーバーに続き、2.4リッターターボハイブリッドのクラウン クロスオーバーに乗りました

2.4リッターターボハイブリッドの新型クラウンは、これまでのクラウンの常識を越えるクラウン

 まずは燃費志向の2.5リッターハイブリッドの穏やかだがスポーティな性格を再確認した後でデュアルブーストハイブリッドに乗る。

 2.4リッターターボハイブリッドは、アクセルに少し足を乗せるだけで音もなくジワリと動き出す。モーター動力でのスタートだ。さらに少しだけアクセルを開けると思いかけず力強く加速する。「オー、こんなに速いんだ!」と思わず、声が出た。

2.4リッターターボエンジン。フロントはこのエンジンに1モーターハイブリッドシステムが組み合わされている
インバータなどのコントロールユニット
ユニットの静的展示

 箱根のアップダウンのあるツイスティな山道を走ったが、その動力性能はクラウンの常識を逸している。圧倒的なパフォーマンスとも違うが、単にスポーティなクルマという以上に高いパフォーマンスを発揮する。走らせれば走らせれるほど「クラウンの」という固有名詞を打ち破ろうという気概を感じるのだ。それはパンチのあるターボエンジンでもなく、大排気量の大きなトルクというだけでもない。

 4WDの前後駆動力配分も巧みに2.4リッターターボハイブリッドの運動性能に大きな影響を与えており、モーターのビッグトルクとターボパワーの大きな力のウネリが2.4リッターターボハイブリッドのダイナミックな走りを支えている。その途切れない力は後輪を支えるイーアクスルが大きなトルクを緻密に出し入れすることでさらに効率のよい加減速を発揮できる。

 ハイブリッドバッテリは主流になりつつある容量型のリチウムイオンバッテリではなく、アクアで初採用になった大電力の出し入れが容易なバイポーラ型ニッケル水素を採用する。もちろんクルマの大型化に伴い、アクアよりもセルを増やして容量を増加(5Ah/230V)しており、バッテリで走れる領域は意外なほど広い。

 バイポーラ型は大電力の出し入れが得意とされており、トヨタの電動化戦略の中でハイブリッドは安価で使いやすいバイポーラ型の使用範囲を増やしていき、バッテリEVのように電気のみで長距離を走る車両には容量型のリチウムイオンが使われることになるようだ。

 フロントを駆動する1モーターハイブリッドのトランスミッションはトルコンを持たない多板クラッチ6速の自動変速。変速ショックは皆無でまるでCVTのように継ぎ目のない加減速を行なう。モーターアシストによるシンクロ操作がこれを成功させている。注意深くアクセルワーク、ブレーキワークを繰り返すとウイーンという音とともに変速しているのが分かるが段付きは全く感じない。むしろスポーツ+モードでは少しショックがあった方がクロスオーバーには向いているのではないかと思ったほどだ。

 個人的にはパドルシフトはほとんど使わないが、デュアルモーターハイブリッドではあまりの変速の滑らかさに積極的にパドルシフトを使って、ギヤを確認しながらドライブした。これがなかなか楽しい。クロスレシオできめ細かくシフトしていくのが分かる。

 一方ハンドリングは前後駆動力の絶妙な力に出し入れの妙を見ることができる。特に後輪の駆動力を前輪で引っ張ることでニュートラルなステアリング特性を体感でき、ハンドルの操舵量は通常のFFやFRとは異なる素直なライントレース性だ。

 ハンドルの操舵力はドライブモードによって異なるが、操舵力のリズムを乱すことはなく、操舵力変化もない。特にコーナーの後半でさらに曲がりこんでいるような場面で、ハンドルを切り増した場合でも曲がりこんでいくのは新しい。山道をリズムよく走っているシーンでハンドルに素直に反応するのは新鮮な感覚をもたらす。

素晴らしいできばえの後輪ステア、DRS

リアステアを行なうDRSユニット

 もう1つ素晴らしいのは後輪ステア、DRSの動きだ。低速では逆相に高速では同相に切れるのは当然としても、その制御が素晴らしく、同相と逆相の境目が全く分からない。この速度ではどちらに向いているというのは難しく、ハンドルの操舵量や早さによっても変化するが60km/hぐらいに変換点を持ってくることが多いという。まさに絶妙なセッティングで逆相の使い方が上手だ。高い旋回力はDRSに依存していることも多い。

 しかもホイールベース2850mmのクルマとしては最小旋回半径5.4mと意外なほど小回りが効き、市街地でも抜群な取りまわし性を誇る。燃費志向の2.5リッターハイブリッドでもDRSの高い能力に驚いたが、走り志向の2.4リッターターボハイブリッドのRSでもハンドリング面を再確認できた。

 静粛性はクラウンのもう1つの美点だったが、デュアルブーストハイブリッドも通常の走行では極めて静かでロードノイズが多少耳に届く程度だが、加速時には希薄燃焼特有のエンジンノイズが大きくなる。この場面ではスポーツエンジンの本性を発揮し、ドライバーにも力強く感じられるに違いない。

 乗り心地は微妙に個体差があったものの、フロント伸び側減衰力が低いためかドライブモードがコンフォートやノーマルではピッチングを感じることがありしっくりこなかった。スポーツ+モードでは可変ショックアブソーバーの減衰力を上げることができる。試しに使ってみたら姿勢変化が止まり、ピッチングが姿を消し、すっきりしたハンドリングと固いながらバネ上の動きのふらつきを止めることができた。まだ生まれたてのホヤホヤで個体差の方が大きそうだが少し気になるところだった。

 しかし総じて乗り心地は快適で大きな路面からの入力でもサスペンションはショックをよく吸収してくれる。

 クラウン クロスオーバーは燃費志向の2.5リッターハイブリッドと走り志向の2.4リッターターボハイブリッドの、全くキャラクターの異なる2つのハイブリッドを用意する。2.5リッターハイブリッドとは違って2.4リッターターボハイブリッドはパワフルで価格も高い(2.5リッターハイブリッドは435万円から、2.4リッターターボハイブリッドは605万円から)。また燃費も出力の割に優れているとはいえ、2.5リッターハイブリッドの第4世代THSに比べるとそこまでは伸びない。しかしながら、メリハリの効いた走りの楽しさが得られている。新しいトヨタのハイブリッド、気なる存在だ。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:安田 剛