試乗レポート

新型「フェアレディZ」と9速ATのマッチングは? ワインディングでチェック

新型「フェアレディZ」にワインディングで試乗

日産のスポーツ魂を伝える伝道師

 待望の新型「フェアレディZ」にようやく乗ることができた。街で見ることもあり、目立つ存在だ。

 すでにテストコースでの試乗記などがアップされているが、今回は一般道でのテストドライブ。試乗車はあえて6速MTではなく9速ATを選んだ。このエンジンならATも相性がよさそうだと思ったからだ。

 初代Zは多くのドライバーにスポーツカーの楽しさをもたらし、圧倒的な人気を博した。ラリーやレースで大活躍したことが人気に拍車をかけたことも間違いない。新型フェアレディZも初代の志を忘れず、日産のスポーツ魂を伝える伝道師として作り続けられる。

 さて前置きはこのくらいにして、映像で見るよりも実車はかなりよい。全幅が広く、ハイパワースポーツカーにふさわしいデザインになっていた。

 エンジンは「スカイライン 400R」に搭載されているV6 3.0リッターツインターボ。出力は400Rにちなんだ298kW(405PS)/6400rpmを発生する。最大トルクは475Nm/1600-5600rpmで、広い回転域で大きなトルクを出しているスポーツエンジンだ。

 このエンジンが素晴らしくスウィート! スポーツカーは車体も含めての心地よさが大切だが、エンジン単体でも本当に気持ちがいい。滑らかな回転はバランスのとれた素晴らしいエンジンの鼓動を感じることができる。しかも前述のように低速回転から豊かなトルクがあり、どのようなシーンでもドライビングに余裕をもたらしてくれる。また、アクセルのツキのよさも特筆もので、どこからでもアクセル開度に応じて力強く反応する。しかも過剰ではないのが好ましい。

新開発のV型6気筒DOHC 3.0リッターツインターボ「VR30DDTT」エンジンは最高出力298kW(405PS)/6400rpm、最大トルク475Nm(48.4kgfm)/1600-5600rpmを発生。WLTCモード燃費は6速MT仕様が9.5km/L、9速AT仕様が10.2km/L

 ドライブモードをスポーツにするとシャープなレスポンスになるのは定石通り。ノーマルの鷹揚な性格からはガラリと変わってメリハリが利いている。期待通りの反応で思わず心が躍る。トヨタ「スープラ」が搭載する直列6気筒ターボのけれん味のない味わいも素晴らしいが、フェアレディZのV6ターボは塊のようなトルクではないだろうか。

 この素晴らしいエンジンを搭載するフェアレディZのボディサイズは4380×1845×1315mmでホイールベースは2550mm。スープラの2470mmというホイールベースに比べると長く、全幅は逆に20mm狭くなっている。スープラほどスクエアなホイールベース/トレッド比ではないが、従来型で実績を整えたコントロールのしやすさが身上だ。

新型フェアレディZのボディサイズは4380×1845×1315mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2550mm。グレードはVersion STで価格は646万2500円
ヘッドライト、シグネチャーポジションランプ、デイタイムランニングライト、リアコンビネーションランプのいずれもLEDで統一
Version STはレイズ製19インチ鍛造アルミホイールを標準装備し、タイヤはブリヂストン「POTENZA S007」(フロント255/40R19、リア275/35R19)。4輪アルミキャリパー対向ピストンブレーキ(フロント4ピストン、リア2ピストン)や機械式LSDも与えられる
インテリアではセンタークラスターにS30型の3連サブメーターとエアコン吹き出し口、コントロールスイッチ類を積み上げた操作性に優れたデザインを現代的な技法で再構築。また、インストルメントパネル上の3連サブメーター(ブースト計、ターボ回転計、電圧計)は、歴代フェアレディZ同様の電圧計と走行中ターボの状態を把握できる2つのメーターをレイアウトした。シートについてはNISMOの開発で培ったノウハウを活かし、ホールド性とフィット感を向上。シートバックにスエードを採用する。なお、新型ではACCやエマージェンシーブレーキといった先進安全装備も与えられる

期待を上まわるハンドリング性能

 サスペンションは前ダブルウィッシュボーン、後マルチリンクでこちらも従来型を踏襲しており、新型に移行するにあたって細部がリファインされている。装着タイヤはブリヂストン「POTENZA S007」で、フロントは255/40R19、リアは275/35R19を履く。四隅に踏ん張ったワイドタイヤがフェアレディZのスタイルを引き締める。従来型よりもフロントタイヤのサイズアップが行なわれている。

 乗り心地は低速では硬く感じるが、鋭角的なショックではなく角の取れた突起乗り越し性だ。サスペンションがよく動いている印象だが、タイヤもスポーツタイヤとしてはショックをよく吸収している。低速走行では接地面の広いフロントタイヤで路面アンジュレーションによってハンドル取られもある。また、切りはじめに反力を強めに感じるのもワイドタイヤの宿命か。

 ところが少し速度が乗ってくると、それまでドライバーが手なずけながら走っていたのがガラリと変わり、人とクルマが一体となる。ワインディングロードでは知らずにリズムミカルなドライビングをしていることに気づく。

 人馬一体とはマツダ「ロードスター」を表現する時に使うフレーズだが、フェアレディZにも同じフレーズを使いたい。ただし405PSのフェアレディZはヒラリヒラリとコーナーを切り開くというよりも、オン・ザ・レール感覚で狙ったラインをトレースしていく。左右に切り返した時のレスポンスも低速時とは裏腹で正確で、その感覚はまさにスポーツカーの王道。期待を上まわるハンドリングだ。同時に操舵フィールもスポーツカーにふさわしい重さで、切り増していくに従ってジワリと路面感覚をフィードバックするところが心地よい。

 ワイドボディで安定感があり、グリップも高いがピーキーではないところがフェアレディZらしいところ。初代も腰の感覚で走らせるようなところがあってワクワクしたが、最新のフェアレディZは高いレベルを維持しながら同じ面白さを伝えてくれる。

 フロントブレーキは4ピストンのアルミキャリパー。応答性に優れ、かつコントロール性も抜群だ。踏力とストロークのバランスが最適で、少し踏んだところからきっちりと効き出し微妙な踏力に応じた制動力を出す。自在になるブレーキフィールは本当に気持ちがいい。

 一方、9速ATの出来も優れている。低速では次々とシフトアップして低回転でユルユルと回り、1200rpmを超えたあたりでシフトアップとダウンを繰り返す。低速トルクの大きなフェアレディZはこんな走行でもストレスがなく余裕が持てる。さらにアクセルを踏むと素早くシフトダウンし、瞬発力と伸びのある回転でフェアレディZらしさを堪能できる。

 この9速ATは変速ショックの小さい賢いATだが、スポーツカーらしさも併せ持っており、小気味よい変速感もある。特にスポーツモードでは素早い変速が冴えてくる。普段あまり使わないパドルシフトも知らずに指が動いていた。

 新型フェアレディZはこれまで持ち続けてきたスポーツカーの楽しさに磨きをかけ、ワクワクするスポーツカーに成長していた。もし手にすることができたら長く付き合えるクルマになりそうだ。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:高橋 学