試乗レポート
GRカローラ、2シーターのモリゾウエディションと標準タイプのRZをダートとサーキットで
2022年11月7日 08:20
衝撃だったGRカローラの発表
トヨタのスポーツ部門を牽引するGR。着々と進化を続けており、本格的なスポーツカーをラインアップし続けている。それも一味違ったモデルばかりだ。GRスープラとGR86は正統派スポーツカー、GRヤリスは4WDのハッチバックだ。GRヤリスはモータースポーツからのフィードバックによってブラシュアップされると同時にKINTOのモリゾウセレクションのような面白い企画を提案している。
さらに今年の初め、衝撃が走ったのはGRカローラの発表だった。GRを引っ張るモリゾウ選手こと豊田章男社長の思いを込めたカローラにスポーツカーの魂を込めたGRカローラは、スーパー耐久の実験的な水素エンジン搭載の水素カローラとつながるものだ。スポーツフィールドにカローラの名前が帰ってきた。
市販車として正式に発表されたGRカローラは、レースフィールドの改良が続くGRヤリスのコンポーネンツをカローラに移植するとともに、水素GRカローラのレース参戦ノウハウを取り入れたものだが、市販GRヤリスのこうだったらいいのにという部分が、GRカローラというディメンションの中で実現されている。
今回、GRカローラのポテンシャルを体験できる場として、袖ケ浦フォレストレースウェイと、その横にある小さなダートコースが選ばれた。
ダートコースにおけるGRカローラ
ダートでは市販のラリー用GRパーツが組み込まれた、GRヤリスとGRカローラ モリゾウエディションの試乗を行ない、サーキットではGRカローラのモリゾウエディションとRZ仕様。それにGRヤリスRZ試乗を行なった。
GR車両の開発にあたっては量産車の開発とは違ったアプローチが取られていた。レースフィールドでつちかった「その場で解決する」というレースファクトリーそのもののスタイルだ。
モータースポーツの現場では、起きたことをすぐに解決しなければならないのが当たり前だ。それを開発に採り入れ、レース、ラリーのプロドライバーのテストによって得られたフィードバックを真摯に受け止めながら、データに裏付けられた結果を開発に活かしている。レースの開発過程は量産車とはフォーカスするポイントが異なり、最初は面を食らったというが、すぐに切り替えて問題解決する習慣がついたそうだ。
この開発手法に関して素晴らしいと思った。一品生産であるスポーツ車両の小回りの効く開発と、量産車の高い品質と間断のない量産性を両立しようとしている。トヨタであってトヨタではないことを目指した試みを大きな規模で行なおうとしていることは、トヨタの長い歴史の中で初めてだと思う。
ダートコースで試乗
さて、前置きが長くなった。先ずダートコースでGRヤリスから肩慣らしをさせてもらう。いつもGRヤリスのハンドルを握るのはワクワクする。特に自分の古巣となるダートコースだとなおさらだ。これまで何度かGRヤリスのハンドルを握らせてもらったが、慣れるにしたがってだんだんと欲も出てくる。
状況によってタイトコーナーでフロントが入らないときがあり、マスタードライバーであるモリゾウさん曰く、「神様に祈る時間」があることだ。特にクルマとじっくり話しこまなければ解決しない部分に遭遇したときはそんな時間が流れる。
ただ、そうは言ってもやはりGRヤリスは楽しい。気温が高くなったせいかいつもよりリアが流れやすく、スライド量が多い。それでもアクセルを踏み込むのが4WDとは分かっていてもまだ疑心暗鬼だ。特に小さな円旋回では、サイドブレーキを引いても思うように向きを変えられないときがあり、進入速度が足りなかったのかラインがわるかったのか頭を悩ます。それでも車重の軽いGRヤリスは「道の上」にいられるから素晴らしい。
次に待望のGRカローラ モリゾウエディションのコクピットに潜り込む。GRヤリスに比べると一回り大きく安定感がある。エンジンは同じG16E-GTSといってもブーストを上げて224kW(304PS)/400Nmもある。GRヤリスが200kW/370Nmなので24kW/30Nmも大きいことになる。ただし重量は160kg重くなっている。ホイールベースで言えば2560mmから2640mmと80mm長く、トレッドでは1535mm/1565mmから1590mm/1620mmとワイドになっている。
GRカローラのボディががっちりしているのはコクピットに入るとなんとなく分かる。それにエンジンが力強く速い。同じエンジン型式でもかなり違いがありそうだ。GRヤリスがすぐにでも前に行きたがっているのに対してGRカローラは力をためている感じである。
GRヤリス同様に前後デフはGRパーツによって機械式LSDが入り、こちらももGRパーツの強化クラッチが入っているので少し踏力が大きい。前後トルク配分は50:50のトラックモードに設定されている。この設定は前回のGRヤリスの試乗で最も乗りやすかったモードだ。
最初のS字でGRカローラに早くも安定性を感じた。ダートにおいてフロントが突然入るのではなくてリアが安定して流れる。続く大きなターンでもスライド量はGRヤリスよりも小さく運転しやすい。その気になってGRヤリスでは大きくリアが流れようとしたコーナー後半でもスライド量が小さいのに気をよくした。いよいよいつもドライビングに迷う小さな円旋回だ。回り込んでいるためになかなかリアを振り出せないところだ。特にGRヤリスは相対的にリアのグリップが高くなり、フロントが入らなくなった。それでも軽いGRヤリスは速度を落として回り込む。そのためにブレーキレスポンスのよい減速はありがたい。
GRカローラではアンダーでもオーバーでも動きが一定しているのでドライバーの心の準備ができる。動きは確かにGRヤリスほど軽快ではないが扱いやすいのがGRカローラだ。GRヤリスと比べるとホイールベースが長く、前後のトレッドが広いのも自分にとって有利に働いているのかもしれない。
続く左コーナーでは円旋回からの立ち上がり速度が高かったこともあり、大きくリアが流れてしまった。それでも「道の上」にいられる自信があったのでアクセルを踏んでいわゆるAWDのドライビングに徹することができた。そして最後のブレーキポイント。軽いGRヤリスに制動では歩がありそうだ。ブレーキ容量は十分だが、質量に負けた感じだろうか。
GRカローラ モリゾウエディションは、出力アップ、そしてギヤ比が低くなっていることで高い駆動力を得ているのは魅力で、さらにホイールベースの長いため挙動が穏やかなのは好ましい。最後に全日本ラリー選手権で何度もチャンピオンを獲得した勝田選手が運転するGRカローラのサイドシートに乗せてもらったが、チャンピオンラリードライバーらしい迷いのないドライビングはさわやかで気持ちがよかった。
サーキットコースにおけるGRカローラ
続いてサーキットに舞台を移す。こちらはGRカローラRZ、GRカローラモリゾウエディション、GRヤリスをそれぞれドライブした。
GRカローラのメーターパネルは液晶でタコメーターは横バー式、イエローゾーンでは黄色に、レッドに入りそうになると赤に表示が変わるがこれが非常に見やすい。慣れた回転式も分かりやすいが、今のエンジンは低速トルクもあり、横バー式の面積把握が確認しやすい。聞けば石浦選手のアドバイスで実現したメーターであるという。レースフィールドから市販車へのフィードバックされており、説得力のあるメーターデザインだ。
GRカローラRZの224kWのパワーはモリゾウエディションと変わらないが、トルクは370NmとGRヤリスと同じスペックのエンジンになる。またファイナルドライブもモリゾウエディションの4.250という低いものから4.058という、GRヤリスの3.941との中間的なものが選ばれている。GRヤリスとの160kg分の重量差をカバーする意図が込められている。
6速のギヤレシオはGRヤリスと同じだが、モリゾウエディションはファイナルに合わせてクロスレシオになっている。
さてGRカローラRZでのサーキットランも楽しいものだった。モータースポーツに特化していないRZ仕様は、市街地からロングドライブまで乗り心地も含めた汎用性にフォーカスしている、装着タイヤは北米でも人気の高いADVAN APEX V601を履く。タイヤの性格はしなやかでグリップとのバランスの高いものだ。
サーキットでのGRカローラはやはり安定して速い。ここではドライブモードをいろいろと試してみた。駆動力配分は前後60:40。50:50、30:70の3種類だ。50:50をベースにするとトラクションもかかり、安定した駆動力配分で扱いやすい。
もう少し前で引っ張るモードに引かれるものがあり60:40を選んだ。ちょっとFFぽい走りになるがドライビングスタイルを変えるだけで安定感は増しトラクションもかけやすい。ハンドルの操舵量もわずかに減ったように感じる。
最後の30:70にしてみた。GRカローラでは後ろから少し押すような感じになったが、こちらはコーナーでの車体角度をつけないとアクセルを踏み込むのが遅れてしまいがちになる。うまく姿勢のバランスが決まると快感だがそう簡単にはいかない。その後はお試しだけしか使わなくなってしまった。
タイヤはサーキットで走るとフロントに負担がかかり、少しかわいそうだったが汎用性を考えるとよい選択ではないかと思う。何よりもアドバンカローラを連想し、さわやかに真夏の筑波に思いをはせたのは自分だけの思い出だ。
一方のモリゾウエディションはクロスレシオのファイナルを落として駆動力を得ており、RZよりもさらにボディのねじれが少ないようで走りに一体感がある。
また、装着タイヤはミシュランのパイロットスポーツ カップ2で、より浅溝でラージブロックのSタイヤに近いものだ。剛性も高くサーキットによく似合う。袖ケ浦のコースではギヤ比もよくあっており、短いストレートでも4速を使えることでコーナリング速度が上がっている。RZよりもさらにドンピシャリだった。
総合性能としてコーナーでフロントが滑る前に引っ張っていける力を持っていた。これこそ60:40の駆動力配分が向いているかもしれない。上りの最終コーナーは少しアンダー気味に駆け上がるがクリッピングポイントさえ間違わなければ不安を感じることはない。ここではロールコントロールを倒立ショックアブソーバーが横力に対してた剛性を確保しておりシャキっとした走りを示した。
最後に乗ったGRヤリスはヒラリ感覚でドライブを楽しめたが、ギヤ比が袖ケ浦とは微妙にずれて本来の実力を出せなかったように思う。ただし軽さが強味を発揮したのは最終コーナーの姿勢。クリッピングポイントに持っていくためアクセルを合わせて姿勢をヒョイと変えても軽いGRヤリスは簡単に向きを変えてインにつけた。ヒラリと飛び込むようなイメージだが、グリップを維持したままなので不安感はあまりない。それだけ奥の深いクルマということだと思うが、自分にはまだその入り口にも立っていないような気がする。タイヤはミシュランのパイロットスポーツ 4Sだった。
GRカローラが登場したことで一気にラインアップに幅が出てきた、すでにGRはランクルにもダイハツコペンにもあり、それぞれがGRならではの作られ方をしている。メーカーでなければ手を入れられない部分も多くあり、GRシリーズは今後も拡張していく予定だ。GRの存在意義は次第に明確になってきており、生産性や耐久性だけではないトヨタブランドを引っ張るけん引役ともなりそうだ。
主要諸元
グレード | GR カローラ RZ(日本仕様) | GR カローラ モリゾウエディション |
---|---|---|
全長(mm) | 4,410 | ← |
全幅(mm) | 1,850 | ← |
全高(mm) | 1,480(アンテナ含む、ルーフ高1,455) | 1,475(アンテナ含む、ルーフ高1,450) |
ホイールベース(mm) | 2,640 | ← |
トレッド前(mm) | 1,590 | ← |
トレッド後(mm) | 1,620 | ← |
乗車定員(人) | 5 | 2 |
車両重量(kg) | 1,470 | 1,440 |
エンジン | 直列3気筒1.6リッターインタークーラーターボ | ← |
型式 | G16E-GTS | ← |
内径×行程(mm) | 87.5×89.7 | ← |
総排気量(L) | 1.618 | ← |
圧縮比 | 10.5 | ← |
最高出力 kW(PS)/rpm | 224(304)/6,500 | ← |
最大トルク Nm(kgf・m)/rpm | 370(37.7)/3,000~5,550 | 400(40.8)/3,250~4,600 |
トランスミッション | iMT(6速マニュアルトランスミッション) | ← |
駆動方式 | スポーツ4WDシステム“GR-FOUR”電子制御多板クラッチ式4WD(3モード選択式) | ← |
変速比 1/2/3/4/5/6/後退 | 3.538/2.238/1.535/1.162/1.081/0.902/3.831 | 3.214/2.238/1.592/1.162/1.081/0.902/3.557 |
減速比 1~4/5,6,後退 | 4.058/3.45 | 4.250/3.578 |
差動装置フロント | トルセンLSD | ← |
差動装置リア | トルセンLSD | ← |
サスペンション フロント | マクファーソンストラット式 | マクファーソンストラット式(倒立式モノチューブアブソーバー採用) |
サスペンション リア | ダブルウィッシュボーン式 | ダブルウィッシュボーン式(モノチューブアブソーバー採用) |
ブレーキ フロント | ベンチレーテッドディスク(18インチアルミ対向4ピストンキャリパー) | ← |
ブレーキ リア | ベンチレーテッドディスク(16インチアルミ対向2ピストンキャリパー) | ← |
ホイール | BBS製鍛造アルミホイール(センターオーナメント付) | BBS製鍛造アルミホイール(センターオーナメント付)TOYOTA GAZOO Racing ロゴ入り" |
タイヤ(フロント・リア) | 235/40 R18 YOKOHAMA ADVAN APEX V601 | 245/40 R18 Michelin PILOT SPORT CUP 2 |
燃料タンク容量(L) | 50 | ← |