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日産ZとGT-Rを手掛けた田村宏志CPSトークショー 「フェアレディZはダンスパートナーでGT-Rはモビルスーツ」
2022年3月31日 14:50
新型フェアレディZはイレギュラーな企画スタートだった
A PITオートバックス東雲にて3月19日~20日に開催された「NISSAN 2DAYS」では、イベント終了30分前に新型「フェアレディZ」の統括責任者を務める日産自動車 商品企画部 CPS(チーフ・プロダクト・スペシャリスト)の田村宏志氏が突然登場し、新型フェアレディZのサプライズスペシャルトークショーが行なわれた。
実はこの日(3月20日)田村氏は、別の場所で開催されていたフェアレディZのイベントに参加。ところが、コロナ禍の影響で時短イベントとなり、急きょA PITオートバックス東雲に駆けつけたという。
冒頭で田村氏は、日産自動車 代表執行役社長兼最高経営責任者 内田誠氏と、グローバルデザイン担当専務執行役員アルフォンソ・アルバイサ氏と3人で写った写真をモニターに映し、「私がアルフォンソさんに、新しいZを考えたいんだけど、ちょっと絵を描いてくれない? と頼んだんです」と、新型フェアレディZのプロジェクトに関する秘話を紹介。
また「通常の新型車プロジェクトは、人とお金と物が担保されて、会社のGOサインが出てから絵を描きはじめます。こんなスタートは他のプロジェクトでは絶対にあり得ません。ましてや数百億円もかかるプロジェクトです。でも、最終的には社長が認めてくれたので動かせましたが……」と新型Zのプロジェクトはかなりイレギュラーなスタートだったと回顧した。
続けて田村氏は、自身が最初に買ったフェアレディZの写真を紹介しつつ、「この男がこのあと日産に就職してZやGT-Rを作る訳です。ちなみに一番初めに買ったクルマはケンメリ(スカイライン)です。スカイライン好きというのもありますが、当時Zは高かったんです。そしてウェーバーのキャブやエマルジョンチューブを加工して、どうやったらガソリンの霧化がもっとよくなるかということを、ひたすら考えるのが好きなチューニングフリークだったんです。エンジンも自分で組んでいました」と若いころを振り返った。
また田村氏は、「これまで歴代のフェアレディZは『カッコよくて(STYLING)』『速くて(PERFORMANCE)』『イイ音(SOUND)』の3拍子をそろえて磨き上げてきたが、次のフェアレディZは、さらにどうカッコよくすればいいのか? とても悩みました。なぜならZファンが喜ぶZでなければならないからです」と語った。
そして、田村氏は同じく日産の看板スポーツカーである「GT-R」を引き合いに出し、「例えば600PSのハイパワーをコントロールするとして、GT-Rはモビルスーツとして着こなそうとするのに対して、フェアレディZは吐息が聞こえそうなドライバーとのシンクロを大事にするダンスパートナーのようなもの」と例え、「カッコよさだけでいえばフェアレディZはGT-Rよりもはるかにカッコを優先させています」と言及。そのためGT-Rのデザインは、空力優先でCd値とダウンフォースに関係する線を優先して引いているが、とにかくフェアレディZはCd値が少しくらい悪くなってもカッコよさを優先させているという。
いろんな数字で新型フェアレディZを解説
続いて田村氏は、モニターにさまざまな数字を映し、その数字にまつわる新型フェアレディZに関するトークを行なった。
まず最初は『2017年3月1日』で、この日付について田村氏は、「メモ書きに、Zを考えると書き、新型フェアレディZ開発の起点となった日。今のZ34に400Rのエンジンを積んだらどうなるのか検討させてほしいと、このメモ紙1枚で役員に直談判した」という。続いての『414』は、世界中のデザイナーから集まったフェアレディZのスケッチの総数で、一般的には70~80枚しか集まらないところ約5倍も集まり、みんなフェアレディZをやりたかったんだなと感じたという。
続いての『40/60』は、当時のMT車とAT車の比率。「まだ40%もいるんだからMTを辞める選択肢はない!」と当時の経営者に訴えたという。しかし、実はこの比率はNISMO仕様のみで、全体ではここまで高くないとか……。そして最後の『1410』は、2019年にフェアレディZ誕生50周年を祝うイベントが富士スピードウェイで開催された際に集まったフェアレディZの数。写真には通称“Z使いの柳田”と呼ばれる柳田春人氏の顔も。田村氏は「申請していればギネス記録も狙えたかもしれない」と当時の様子を語った。
エクステリアデザインについて
テールランプに関して田村氏は、「確かにダブルテールだし、Z32のオマージュといっていますが、Z32もS30を見て作っていますからね。しかし、コピーしただけではただのレトロになってしまうので、古くて懐かしく見えるけれど新しい『レトロモダン』に仕上げています。昔はモーターショーなどのショーカーに使うようなシステムで、プリズムを使ってダブルリングを表示させています。昔は高かったけれど、今はだいぶ安価になった」と時代とともに使用する技術も変わっていることを説明した。
また、大きな開口部の開いたフロントデザインについて田村氏は、「ツインターボになったことでインタークーラー、ラジエータ、オイルクーラー、ミッションクーラーと大幅な冷却性能の向上が必要不可欠のため。こればかりは仕方がない」と理由を説明。さらに、隣に展示してあったオレンジ色の「カスタマイズドプロト」のフロントバンパーについて、「この形状では冷却性能が足りないです。水平バーがあると空気は逃げちゃうんですよね、奥にあるコア類に風が全然あたらないんですよ」と、フロントまわりの造形変更の難しさを解説した。「もしノーマルバンパーよりも冷却性能が劣るバンパーを付ける場合は、ラジエータを強化したり、ファンを追加したり、抜けをよくしたりするなど、何かしらの対策が必要になるでしょう」と田村氏。
ヘッドライトは、S30のオプションにあったレンズカバーを装着した際の光の映り込みを現代風に解釈して再現。当初は完全に丸くする案もあったが、照射角的にNGだったという。また、ヘッドライトも内部にプリズム機構を使い、同じ場所を白やオレンジに点灯させられるようにしたという。
メーターはプロドライバーの松田次生選手に「新しいZのメーターを作ってみない?」と声をかけたところ、SUPER GTのマシンに採用されているレブリミット機能などを提案され、実際に松田選手に書いてもらったイラストをベースに開発。スピードメーターとギヤポジションの表示場所なども分かりやすい場所に設定したとしている。
F1カメラマン熱田護氏が撮影する新型フェアレディZのカタログを製作中
最後に田村氏は「ここから先は撮影は禁止です」といい、現在制作中の新型フェアレディZのカタログの初稿をサプライズで公開した。モニターには東京オートサロンの会場(幕張メッセ)や明石海峡大橋で撮影した写真など数点が映し出された。また、撮影したのはF1カメラマンの熱田護氏であることも公表。さらに田村氏は「これも通常では考えられないことですが、クルマのリアビューを表紙に採用しました」と明かした。
このリアビューを表紙に起用した理由について田村氏は「クルマに乗っているときって周囲のクルマのリアビューを見ている時間がほとんどなんですよね。フロントを見るのはほんの一瞬だけ。会社や自宅で嫌なことがあったとき、この丸みを帯びた柔らかいリアビューを見ていると、嫌ことを忘れられるんです。柔らかい形を見ていると、人間って心も柔らかい気持ちになるものなんです」と説明した。
なお、新型フェアレディZのカタログは、4月下旬~5月上旬の配布開始を予定しているという。